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1.地球温暖化プログラム
(4) 脱温暖化社会の実現に向けたビジョンの構築と対策の統合評価

外部研究評価委員会事前配付資料

平成21年度の研究成果目標

全体:

①低炭素社会の実現に向けたビジョンの構築と対策の統合評価。

サブテーマ(1):脱温暖化(低炭素社会)ビジョン・シナリオ作成研究

① 脱温暖化社会へ至るための実現可能な発展経路を同定し、必要となる対策オプションを提示し、政策措置に必要となる情報を提供する。また、アジア諸国における脱温暖化シナリオを描くとともに、主要国との連携を図り、世界全体の脱温暖化社会について検討する。

サブテーマ(2):気候変動に関する国際政策分析

① 2013年以降の国際枠組みのあり方に関して、衡平性に基づく中期目標設定を分析する。また、主要国における気候変動に関する意思決定について分析する。

サブテーマ(3):気候変動政策の定量的評価

① 我が国を対象とした2020年の温室効果ガス削減目標とその費用・効果を分析する。また、IPCC第五次評価報告書にむけて代表濃度経路シナリオの試算を行う。さらに、トレーニング・ワークショップを開催し、アジア各国のモデル開発・政策分析のための人材育成を行う。

平成21年度の研究成果

全体:

① アジア主要国の低炭素社会シナリオ作りを重点的に行った。インドの国シナリオ、吉林(中国)、アーメダバード(インド)イスカンダール(マレーシア)などの国および都市のシナリオを開発し、低炭素社会へのロードマップを実現するための政策オプションを提案した。日本の大幅削減に向けたシナリオを更新するとともに、2020年に25%削減を行うための方策について検討した。また、モデルの国際比較を行った。さらに、米国、欧州、新興国、ロシアの4大プレーヤーを取り上げ、それらの国の交渉におけるポジションや政策決定の分析を実施するとともに、排出量削減に関する中期目標設定における衡平性について検討した。

サブテーマ(1)

① ア 日本低炭素社会に向けた道筋の定量検討:日本低炭素社会の実現に向けて、実施に要する総費用最小化の観点からその道筋を定量的に検討し、2009年8月に報告書「低炭素社会に向けた道筋検討」として発表した。その結果では、低炭素社会に向けた各種対策の実施は早期の対策が望ましいことが示されている一方で、早期対策の実施には、初期段階での大規模投資が必要で、特に民生部門(家庭部門)へは2010年から2025年にかけて毎年2.5兆円、運輸部門へは2010年から2015年にかけて毎年2.5兆円の投資が必要であることを示した。

① イ アジアにおける低炭素社会シナリオの構築:中国、インド、タイ、マレーシアの大学・政府系研究機関の研究者と共同して、日本低炭素社会研究を通じて開発してきた各種定量評価モデルを用いて、各国あるいは地域レベルでの低炭素社会シナリオを検討し、アジアにおける低炭素社会シナリオを開発した。その一環として2009年8月から9月にかけて国立環境研究所にて中国、インド、タイ、韓国、マレーシア、インドネシアから研究者を招へいし、低炭素社会研究の手法を伝えるトレーニング・ワークショップを開催した。

① ウ 世界における低炭素社会研究の推進:日本低炭素社会研究やトレーニング・ワークショップの成果も合わせて、2009年11月にはAWG(バルセロナ、スペイン)で、12月にCOP15/CMP5(コペンハーゲン、デンマーク)で低炭素社会をテーマとしたサイドイベントを開催し、日本、インド、中国の長期シナリオが短期の国際交渉にどのような影響を与えるかを中心に議論した。

① エ 研究成果の普及:研究成果を直接にステークホールダーに伝えるために、一般の講演を多数行うとともに、雑誌、新聞、テレビなどのメディアにおいても広く紹介された。また、政策立案についても有用な情報を提供した。

サブテーマ(2)

① ア 気候変動に関する主要国の意思決定に関する分析:米国、欧州、新興国、ロシアの4大プレーヤーを取り上げ、それらの国の交渉におけるポジションや政策決定の分析を実施した。その結果、それぞれの国内政治経済情勢が、国のポジションに大きく影響を及ぼしていることが明らかとなった。例えば、米国では、2009年1月から発足したオバマ大統領が気候変動政策の推進に努めたが、年内の可決が期待されていた気候変動法案が上院にて一部議員の強い反対にあい、膠着していることが、COP15における米国の態度を決定づけた。主要国の2009年度注の主な出来事を年表としてまとめ、国のポジションを説明する際に活用した。また、2010年1月には主要国から関係者を招へいし、国際シンポジウムを上智大学と共催した。

① イ 排出量削減に関する中期目標設定における衡平性の検討:2020年目標を決定するにあたり、衡平性の観点から分析した。次期枠組みに関する国際的な議論の中で主張されていたさまざまな衡平性指標を整理した結果、大きく次の3種類に分けられることが分かった。(a)責任:排出量が多い国ほど、大気を汚し気候変動に貢献したと判断されることから、排出量の大きさによって削減努力の負担を配分すべきだという観点からの指標、(b) 支払い能力:同じ負担量であったとしても、経済的にゆたかな国ほど楽に感じられるという観点から、支払い能力の大きさにもとづいて負担を配分すべきだという観点からの指標、(c) 実効性:エネルギー利用に無駄が多い国ほど比較的低コストで排出削減できるのだから、効率が悪い国ほど多くの排出削減を実施すべきという観点からの指標。また、我が国の中期目標として適切と判断される水準が、採用する指標やその用い方により、30%以上増減しうることを示した。

サブテーマ(3)

① ア 日本の2020年の削減目標の対策評価:日本を対象としたAIM/Enduse(技術選択モデル)を用いた削減ポテンシャルの分析により、想定されたマクロフレーム(経済成長率や活動量)を前提にすると、2020年に温室効果ガス排出量を1990年比20%削減することは技術的に可能であること、また、20%を超える削減の場合、活動量を対象とした対策が必要であることを示した。温室効果ガスを25%削減するためには、追加費用として年間7.4兆円が必要となるが、これらは単なる費用ではなく、国内で供給できる技術があれば内需拡大のための支出となる。こうした産業を育成することは、該当分野における雇用を創出しさらなる技術発展が見込まれる。さらに、温暖化対策は世界の潮流であり、こうした産業の育成は国際的な競争力の強化にもつながる。 但し、追加費用をどのように調達するかについては配慮が必要である。全てを事業者に負担させると、本来の生産投資が目減りし、経済発展にも影響が出る可能性があり、追加費用の負担を支援できるような仕組みの必要性が示唆された。

① イ 日本の2020年の削減目標の経済評価:日本経済モデルでは、限界削減費用に相当する額を炭素税として課し、その税収を一括して家計に戻す既存のシナリオ(いわゆる定額給付金に準じた方式)に加えて、税収を温暖化対策の支援に充てるシナリオ(低炭素投資促進シナリオ)に基づく分析を行った。その結果、低炭素投資促進シナリオでは、必要となる税率が低く、国民負担をできる限り少なく抑えつつ日本が2020年に1990年比で25%削減という目標を達成しうることが示した。また、海外のクレジットを活用することでも2020年に1990年比で25%削減という目標を達成しうることを示した。

① ウ IPCC第五次評価報告書に向けた代表的な濃度経路シナリオ(RCPシナリオ)の作成:IPCC第五次評価報告書にむけたシナリオ開発のために、AIM/Impact[Policy]、 AIM/CGE[Global]、AIM/Enduse [Global]などの改良を行った。IPCC第四次評価報告書の成果をもとに、AIM/Impact[Policy]に組み込まれている簡易気候モデル(AIM/Climate)のパラメータの調整、新たなモジュール(炭素循環フィードバック)の付加、AIM/CGEについては分析対象年時の延長(IPCC新シナリオの想定に基づいて2300年まで)等の改良を作業をおこなった。IPCCの新シナリオ専門家会合で4つの代表的濃度パス(産業革命以前からの放射強制力と比較した放射強制力の増加が2.6/2.9W/m2、4.5W/m2、6W/m2、8.5W/m2 )が採択されたが、そのうち、6W/m2シナリオにおける温室効果ガスの排出経路を提供するとともに、2.6W/m2のシナリオのロバストネスについても検討した。

① エ 世界への情報発信および人材育成:国際モデル比較を行い、気候変動枠組条約に関するアドホック・ワーキンググループ会合(AWG-KP/ AWG-LCA)の国際会合やサイドイベントにて、成果を発信した。また、IPCC第5次評価報告書に向けた新シナリオにおいて、アジア途上国の視点から世界シナリオを提供することを目的として、AIM/CGE[Global]に関するトレーニング・ワークショップを開催、世界の温暖化対策シナリオを作成するための人材育成を行った。

外部研究評価委員会による終了時の評価

平均評点    4.5点(五段階評価;5点満点)

外部研究評価委員会の見解

[現状評価]

本プロジェクトは当初の計画通り進められており、期待通りの研究成果が得られている。日本の低炭素社会に向けた道筋の定量化の検討は、社会への情報発信として必要であり、国環研として是非ともしなければならない研究であろう。この意味から高く評価できる研究である。

[今後への期待・要望]

アジアを中心とした途上国との共同研究を通した人材育成は大きな効果が期待できるため、今後もさらに重点的に進めてほしい。

一方、日本の現実を見た場合、京都議定書の目標達成もおぼつかない状況であり、研究成果を社会にわかりやすく知らせるために一般向けのアウトリーチをさらに強化して、脱温暖化に対する将来ビジョンをさらに周知徹底させることを期待したい。そのために具体的なPolicy makerへの働きかけ、市民への働きかけについてより具体的な検討が必要である。

対処方針

今後とも、日本の低炭素社会に向けた道筋の定量化の検討を行い、定量化手法をアジアを中心とした途上国に適用し、アジア地域での低炭素社会実現に向けた研究を推進していきたいと考えている。

平成21年度からアジアを対象とした低炭素社会実現に関する研究に取り組んでおり、トレーニングワークショップやJICAなどの外部資金を通じた研究協力を通じて人材育成を図っている。

また、国や地方自治体における政策立案に資する具体的な方策の提案や、市民への分かり易い情報の提供を引き続き行う予定である。