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1.地球温暖化プログラム
(2) 衛星利用による二酸化炭素等の観測と全球炭素収支分布の推定

研究の目的

世界初の二酸化炭素及びメタンといった温室効果ガスの衛星観測を目的とした温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)プロジェクトは、環境省・国立環境研究所(NIES)・宇宙航空研究開発機構(JAXA)の三者共同プロジェクトである。「いぶき」は2008年度の打ち上げを目標にプロジェクトが進められ、2009年1月23日に打ち上げに成功した。GOSATプロジェクトでは、京都議定書の第一約束期間(2008年〜2012年)に、衛星で太陽光の地表面反射光を分光測定してSN比300以上を達成し(JAXA目標)、二酸化炭素とメタンのカラム量(地上から鉛直上方に大気上端まで延ばした大気柱内に存在する気体分子の総量)を雲・エアロゾルのない条件下で1000 km四方の空間平均と3ヵ月の時間平均で二酸化炭素については相対誤差1%、メタンについては相対誤差2%の精度で観測する(手法開発はNIES目標)。さらに、これら全球の観測結果と地上での直接観測データを用いることにより、インバースモデル解析に基づく全球の炭素収支分布の算出誤差を地上データのみを用いた場合と比較して半減すること(NIES目標)を目標にしている。インバースモデル解析とは、大気輸送モデルの逆計算によって、観測された全球の二酸化炭素の濃度分布とその時間変動(季節変化等)を説明するように地域別の二酸化炭素のネット吸収・排出量を推定する解析方法である。

本プロジェクトではこの目標達成に向けて、様々な観測条件下において取得されたデータに対して、雲・エアロゾル・地表面高度などの誤差要因を補正し、高精度で二酸化炭素・メタンのカラム量を導出することを目的に、衛星観測データの定常処理アルゴリズムを開発する。そのアルゴリズムの妥当性の評価を目的として、衛星打ち上げ前には、数値シミュレーションに基づいてデータ処理アルゴリズムを開発し、航空機や地上で取得する擬似データや直接観測データによりアルゴリズムの精度を評価し改良する。また、衛星打ち上げ後は、データ処理の結果を直接測定・遠隔計測データにより検証し、データ処理アルゴリズムの更なる改良を行う。また、この衛星観測データと地上での各種の直接測定データとを利用して、全球の炭素収支推定分布の時空間分解能と推定精度を向上することを目的にインバースモデルを開発し、データ解析を行う。

平成21年度の実施概要

GOSATは平成20年度の第4四半期に打ち上げが成功した。そのため、衛星とセンサの初期チェックアウトが完了した平成21年度には、実観測データに対して本プロジェクトで研究開発してきた二酸化炭素とメタンの濃度導出手法を適用し、データの定常処理を試みた。また、検証解析を行い処理結果の評価を行った。さらにGOSATデータを利用して炭素収支推定を行うためのモデルの整備を進めた。各サブテーマにおける実施内容は以下の通りである。

サブテーマ(1) 衛星観測データの処理アルゴリズム開発・改良研究

GOSATの短波長赤外波長域での実観測データを用いて、二酸化炭素・メタンのカラム量導出手法の確認と改良を行うとともに、導出値の誤差評価を行う。さらにカラム平均濃度の全球分布データ作成のための研究を進める。測定データにおける偏光情報の利用法について、実観測データに基づいて研究を進める。

サブテーマ(2) 地上観測・航空機等観測実験による温室効果ガス導出手法の実証的研究

GOSAT観測データから導出される二酸化炭素とメタンのカラム量に関するプロダクト、及びその導出誤差に直接関連する巻雲・エアロゾル情報についての検証・比較のため、地上設置の高分解能フーリエ変換分光器や航空機による検証観測を行い、それらのデータ解析により検証データを作成する。得られた検証データを用いてGOSATデータプロダクトのデータ質の評価研究を行う。

サブテーマ(3)全球炭素収支推定モデルの開発・利用研究

GOSAT観測データから二酸化炭素とメタンのカラム量を導出する際に必要な先験情報を求めるための大気輸送モデル(NIES08モデル)の改良と、GOSATからの二酸化炭素カラム量と地上観測データとを利用して全球の炭素収支分布を推定するインバースモデルシステムの高精度化を行う。

研究予算

(実績額、単位:百万円)
中核プロジェクト(2)衛星利用による二酸化炭素等の観測と全球炭素収支分布の推定
  平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 累計
運営交付金 35 26 20 20    
受託費(推進費) 71          
科学研究費            
寄付金            
助成金            
総額 106 26 20 20    

今後の研究展望

GOSATの観測データを処理して二酸化炭素とメタンの濃度を高精度で求めるための導出手法を研究開発し、実観測データに適用してその有効性と問題点を明らかにした。予定していた導出手法では、GOSATの短波長赤外の3つの観測バンドを用いて雲やエアロゾルへの対応を行う予定であったが、バンド1の放射伝達計算に吸収線の複合寄与(ラインミキシング)の影響を考慮しなければならないことが判明したため、これまでは簡便手法を用いて処理を行っている。平成22年度には、この問題を解決して処理の改善を試み、検証解析を継続して処理の改善を確認すると共に、検証データを蓄積して地域別・季節別のGOSATプロダクトのデータ質の評価を進める。また、導出されたプロダクトから全球の炭素収支(吸収・排出量)の予備的な推定作業を実施する。さらに将来は、導出手法の高精度化の研究を進め、地域に特有の雲やエアロゾルの影響が除き切れていないデータへの対処研究を進める。また、検証作業によってより精密なデータ質の評価に繋げる必要がある。さらに、GOSATによる処理プロダクトから、二酸化炭素とメタンの全球濃度分布とその変動に関して科学的に有意な情報の把握研究を進め、GOSATの観測データを有効に活用することが重要である。