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1. 地球温暖化プログラム
(1) 温室効果ガスの長期的濃度変動メカニズムとその地域特性の解明

外部研究評価委員会事前配付資料

平成21年度の研究成果目標

全体:

① 大気観測として、JALや定期船舶のプラットフォームの継続性に考慮して検討を行う。また、東南アジアなど他の可能な観測サイトへのアプローチを行う。

② 陸域のフラックス観測について、特に土壌の温暖化影響についての全国的なまとめを進める。海洋は、吸収マップの作成手法を検討する。

③ 同時にこれまで開発してきた循環型モデルを各データに適用し、大気データの解釈などを行う。

サブテーマ(1):アジア-太平洋域での広域大気観測による温室効果ガスの収支や地域的特性解析

① JALや船舶、地上ステーションを用いて高頻度測定により、濃度分布や時系列濃度変動パターンを抽出する。その結果から、大気の混合を含めたグローバルな変動の解析のための情報を整理することに加え、急激に変化する最近5年程度のアジア特有の地域別のフラックス変動の特徴を検出する。

サブテーマ(2):太平洋域のCO2海洋吸収、アジアの陸域生態系のCO2吸収フラックス変動評価に関する研究

① 新ラインである西太平洋でのpCO2データの継続的採取を行うとともに、北太平洋で得られた二酸化炭素分圧データを用いて、北太平洋での海洋からの二酸化炭素長期フラックスを変動の地域特性を求める。また、その変動気候について検討する。

② CGER事業でデータが採取されている国内の森林フラックスサイトのデータを解析し、気象変動との直接影響を調べると同時に、アジアのフラックスサイトでのフラックス変動要因について解析する。また、土壌呼吸の温暖化影響についての実験や実測を行う。

サブテーマ(3):温室効果ガスの動態のモデル的評価に関する研究

① フォワードモデルを改良し本プロジェクトで得られた大気データと組み合わせることによって、大気濃度変動要因について評価する。特に、二酸化炭素や、メタン、COについての検討を行う。

平成21年度の研究成果

全体:

① ア 新たな大気観測の試みが行われた。特に東南アジア定期船舶航路でのメタンやブラックカーボンの連続観測の試みが行われ初期的な解析により、同じ緯度であっても何らかの発生源を持っている東南アジア地域の特徴と太平洋の中央部と比較することができた。地上点としては、高い富士山頂での二酸化炭素測定の試みや、マレーシアなどの観測点の展開などを試みた。これらは、今ある航空機、定期船舶、地上の観測ステーションに加えて有効なデータを取ることが期待できた。現在の大気の観測ネットワークにおいて、中国などの影響を強く観測できるフロン類や酸素、二酸化炭素の比などに加え、COなども地域的指標性があることが示された。モデルを用いて、これらの中国での発生量の推定も行われた。

① イ グローバルには、二酸化炭素の吸収がここ最近強くなっているように見えるが、酸素や同位体からの観測によると陸域の吸収量が増加していることなどがわかった。ここでの酸素の観測をAPOを用いて調べると、モデルからの予想と整合的であり、これまでの観測の正当性が示された。

② ア 陸域の二酸化炭素吸収量のパターンが日本のフラックスサイトで詳しく検討された。湿潤、温暖なカラマツでは二酸化炭素吸収量が相対的に大きく、気象条件に左右されるもののその吸収量は湿潤なまま温暖化だけが起こると、吸収量の増加に働くであろうと予測された。アジア全体に広げると、南部では温暖化時に乾燥する地域もあり、吸収量の変動は地域性が大きく働くことが示唆された。一方、温暖化に対して、負のフィードバックを起こす土壌呼吸の温暖化影響に関する実験が行われ、各種土壌に差はあるものの、日本の土壌の呼吸のQ10の指標は、これまでの報告値より50%大きいことがわかった。これをそのまま適用すると、温暖化によるフィードバックはかなり多きことになるが、長期的な応答に対しては場所ごとに異なっていることが分かった。このような土壌呼吸のプロセスに関して、放射性炭素を用いた実験を行って初期的な結果を得た。

② イ 海洋の吸収量をニューラルネットを用いて解析予測しCO2吸収マップを作製する方法について検討を開始し、これまでの気候値再現できるような結果を得た。また、海洋トレーサー輸送モデル(OTTM: Ocean Tracer Transport Model)と生態系モデルを使用して、1980年から2008年までの大気−海洋間の月平均二酸化炭素フラックスを作成した。

③ 大気の結合型循環モデルを用いて、インバース計算を行えるようにチューニングした。これを用いて、波照間や落石の細かいデータをモデルに導入できることになり、それによるインバース計算結果に与える精度向上性を評価したところ、アジア域の精度が格段に向上することがわかった。

サブテーマ(1)

① ア 二酸化炭素同位体比のグローバルな観測を継続し、二酸化炭素の陸域吸収量の近年の見かけの増加がラニーニャの時期に合わせて見られたことや森林火災などの寄与が年々変動などに大きく影響していることなどが推定できた。これらは、気候変動に対して、陸域の吸収量が今のところ吸収量を減らすことになっていないことなどを示した。

① イ 並行して観測されている大気中CO2濃度を用いて計算される大気O2濃度の海洋成分(APO≈O2+CO2)の年平均緯度分布にははっきりと赤道付近でのピークが見られた。APOの緯度分布は海洋の物質循環モデルから予想されるにおける酸素循環と整合的であった。

① ウ 東南アジア(マレーシア)やインド洋での大気観測に関しての下調査を行い、マレーシア気象局との共同観測の可能性を含め、東南アジアでの船舶観測に加えた連続観測可能な場所が検討できた。富士山での大気の観測に関して機器開発を含め、冬季のデータを採取し、航空機データとの比較より、3,000mの高度の中緯度の濃度として代表性などを確認できた。

① エ 東アジア、南アジア、東南アジア、オセアニア、ヨーロッパ、北米、中米上空の対流圏におけるCO2濃度の高度別のCO2濃度の季節変動について詳細な違いを明らかにした。特にこれまでデータが少なかった南半球での観測数が増えたことにより、シドニー上空の季節変動が明瞭になった。CO2濃度の自由対流圏における季節振幅は南半球では約1ppmと非常に小さいが、赤道域から北半球中緯度にかけて徐々に大きくなり、北半球中高緯度では6-10ppmになっていた。

① オ 観測されたエアマス起源ごとのΔO2/ΔCO2比およびΔCO/ΔCO2比は国別の化石燃料使用統計やCOの国別発生量から予想される値と整合的であった。

① カ 大気輸送モデルを用いて、メタンと放射性炭素同位体比(14C)のシミュレーションを行った。メタン濃度は、1997年のエルニーニョ時の全球的な増加を再現したものの、2000年以降の増加ゼロは再現されず、モデル内の放出量と消失量のバランスに問題があることが考えられた。また2007-08年の再増加は再現されず、この再増加には何らかの放出の増加が必要であることが示唆された。モデルの精緻化に向けて、計算に用いるメタン放出量とOHデータを再検討している。また、14Cのシミュレーションは、季節変動の再現性は良いものの、年々変動において観測と差があることがわかった。

① キ 波照間観測ステーションで得られた大気サンプルの14C測定を開始した。一部のデータを分析し、定期船舶で得られたほぼ同緯度における14C観測値と比較した結果、波照間での14Cデータは定期船舶の観測値の検証にも利用できることが確認できた。これまでに行ってきた定期サンプリングに加え、東アジアからの汚染空気塊をとらえるために、任意の時間にサンプリングを行うイベントサンプリングシステムを新設した。得られた大気サンプルの二酸化炭素濃度を分析し、システムが正常に稼働していることが確認できた。

① ク フッ素系温室効果気体の観測と解析について、波照間・落石におけるハロカーボン連続観測から、PFC類(PFC-116、PFC-218、PFC-318)のベースライン濃度が、年1-3%程度で増加していることを明らかにした。観測値を基に、粒子拡散モデルに基づく逆問題手法と大気輸送モデルを用いて、東アジア(中国、日本、北朝鮮、韓国、台湾)におけるPFCsの排出量を推定した。その結果、中国は東アジアにおけるPFCs排出量の半分以上を占める最大の放出国であり、日本がそれに続くことが示された。東アジア域におけるPFCs排出量は、PFC-116: 0.859 Gg/yr, PFC-218: 0.310Gg/yr, PFC-318: 0.562 Gg/yrと推定された。また、国際共同研究の枠組みの下、波照間、落石のほか、最近観測の始まった中国のShangdianziおよび韓国のGosanにおける観測データを使って東アジアの5カ国(中国、台湾、北朝鮮、韓国、日本)からのHCFCとHFCの排出量推定を実施した(Stohl et al., ACPD, 2010)。その結果、中国からのHCFC・HFC排出が、東アジア全体において、さらに世界的に見ても大きな割合を占めていることが分かった。中国からのHCFC-22排出量推定値は65.3 Gg/yrで、東アジアからの推定排出量の78%、世界全体の推定排出量の17 %を占め、以下、HCFC-141b(12.1 Gg/y)はそれぞれ75%と22 %, HCFC-142b(7.3 kt/y)は81%と17%, HFC-23(6.2 Gg/y)は92%と52%、HFC-134a(12.9 Gg/y)は 67%と 9 %、HFC-152a(3.4 Gg/y)は73%と7%を占めた。ハロカーボン類測定法の精緻化については、化合物の分離に用いるキャピラリーカラムの検討を行い、アルミナプロットカラムによってPFC類の測定精度を向上できることがわかった。

① ケ 日本−東南アジア航路において、反射型光散乱検出方式によるブラックカーボンの連続測定を開始した。数航海にわたる観測を行った結果、船舶観測特有の問題である海塩粒子による干渉があることが見出された。このため、検出方式を後方散乱光検出型から角度を変えた散乱光検出型に切り替えたところ、海塩粒子の影響を改善することに成功した。ブラックカーボンを光学的に計測する装置を船舶に搭載して観測するのは本観測が初の試みであり、得られたデータ量は十分ではないが、今後データを蓄積することで東南アジア域におけるブラックカーボンのクライマトロジーが明らかになることが期待される。

① コ 船上でメタンの連続測定を行う手法して、長光路の赤外光吸収を計測するキャビティリングダウン方式の測定装置の性能を評価し、試験観測を行った。現在まで概ね良好なデータが得られており、今後、二酸化炭素、一酸化炭素、ブラックカーボン等の連続観測データと併せて、東南アジアの人為起源・森林火災起源による排出状況の把握が可能になると思われる。

サブテーマ(2)

① ア 観測によって得られたCO2データセットを用い、Neural Networkと呼ばれる新しいCO2 Mappingの手法を用いてより高解像度な北太平洋全域のCO2分圧推定に取り組んだ。この手法は、人工衛星やモデルで得られる海洋パラメータ(表面水温(SST)や混合層深度、クロロフィル濃度)とCO2分圧データを非線形かつ不連続な関係でマッチングさせ、その関係を用いてCO2分圧の時空間分布を再現するものである。現在、より正確な再現を行えるように計算を行っている段階であるが、SSTデータのみを用いてCO2分圧の時空間分布推定を試みたところ、Takahashi et al.(2009)が示したCO2分圧気候値に近い分布が得られただけでなく、海流や渦などの物理構造を反映したCO2分圧分布が再現された。

① イ 酸素の海洋からの発生特性を調べるために、観測協力船Trans Future 5に開発した同位体比質量分析計システムを設置し、Voyage No. 27の航海にて、ニュージーランドから大阪まで観測を行った。また表層海水をボトルに採取し、同位体比質量分析計を用いてO2/Ar比およびN2/Ar比を測定し、EIMSの結果と比較した 。O2/Ar比は良く一致し、N2/Ar比は1%以内の範囲で一致した。

② ア AsiaFlux ネットワーク活動を通してアジア各地の森林生態系における二酸化炭素フラックスのデータを収集し、二酸化炭素収支各項(光合成総量、呼吸総量、正味炭素吸収量)を求め、それぞれの時系列を比較した。特に、欧州で記録的な熱波が観測された2003年において、欧州のみならずシベリアから東アジアに至るユーラシア大陸北部の広い地域において、光合成有効放射量と気温に顕著な時空間偏差が観測されたことを明らかにした。同時に、放射量の偏差が東アジア各地の総光合成量の空間分布に与えた影響を定量的に求めた。その結果、夏季に東アジア中緯度に停滞する梅雨前線の北側では、放射量と総光合成は正の相関を示し、南側では負の相関を示すことがわかった。東アジア南部で光合成量と放射量が負の相関を持つ原因として、暖温帯から亜熱帯にかけての森林では、夏の高い日射量が高温・乾燥を引き起こし、その地域の森林に強い乾燥ストレスを与えることが関係していることを示した。

② イ 富士北麓アジアフラックスネットワークに登録されたカラマツ林生態系としては最も年平均気温が高いサイトであり、他のサイトと比較すると呼吸・光合成ともに大きいことが分かった。これは、気温が高いことにより。展葉期が早く落葉期がおそいため、光合成活動期間が長いことが大きな要因であると推測された。落葉針葉樹林であるカラマツ林においては、展葉期の急激なCO2吸収量の増加と落葉期の吸収量の低下が特徴的な季節パターンを作り出しているが、年間の吸収量の積算値は、展葉・落葉のタイミングと、活動期の気象条件により年により異なることが観察により明らかとなった。この落葉・展葉のタイミングは温度環境に強く依存していると推測され、光合成生産量については温暖化により増加する可能性が示唆される。

② ウ 日本の各地の森林土壌を採取しインキュベーションにより温度特性や、土壌呼吸の長期変化を測定した。これによると日本の土壌のQ10は2.9程度と考えられ、従来のモデルの値よりも50%も大きいことがわかった。日本の土壌は高温域にも乾燥化がそれほど進まないことで土壌呼吸量は増加することがわかった。

② エ 陸域生態系炭素循環研究への放射性炭素利用の可能性を評価するため、冷温帯林において土壌呼吸14CO2並びに土壌内14CO2の通年観測を開始した。これにより、土壌呼吸の発生源(根・微生物分解)の相対的寄与の試算する方法の可能性を示すことが可能となった。このことは、従来の方法では、土壌を破壊することにより試料採取を行う必要があることに比べると、非破壊による観測であることから、新たな中長期的な観測形態となることが期待される。

② オ アラスカで縦断観測をおこない、土壌炭素動態に関する研究を行うために必要な基礎データの取得が出来、今後温暖化による永久凍土中の有機物分解や自然火災による炭素動態変化を評価することが可能な場所が検討できた。

サブテーマ(3)

① ア 観測データとモデル計算値から二酸化炭素のフラックスを推定する新規のインバースモデルを開発し、同モデルを使用して亜大陸スケールで(全球を64地域に分割して)月平均フラックスの季節変動を計算した。インバースモデルにオイラー型大気輸送モデルとラグランジアン型大気輸送モデルを組み合わせた大気輸送モデル(結合モデル)を導入することで、観測地周辺からの影響による汚染イベントもフラックスの推定に考慮することが可能となった。観測データは、米国海洋大気庁(NOAA:National Oceanic and Atmospheric Administration)の地球システム研究所(ESRL:Earth System Research Laboratory)が提供しているフラスコデータのほか、東アジアのフラックス解析の精度を高めるため、本プロジェクトで実施されている波照間及び落石岬の連続観測データを併せて使用した。こうした、大量のデータを使用し、限られた計算資源でフラックスの推定を行うために、“fixed-lag Kalman smoother technique”のアルゴリズムをインバース計算に適用した。その結果、波照間・落石岬の連続観測データを使用した場合すると、使用しない場合と比べて、特にアジア地域のフラックス推定の不確定性が大幅に減少する結果が得られた。

① イ 海洋トレーサー輸送モデル(OTTM: Ocean Tracer Transport Model)と生態系モデルを使用して、1980年から2008年までの大気−海洋間の月平均二酸化炭素フラックスを作成した。海洋の二酸化炭素分圧(pCO2)の観測値を4次元変数法にモデル値と同化させ、より信頼性の高いフラックスを1996年から2009年の期間に関して算出した。

外部研究評価委員会による終了時の評価

平均評点    4.2点(五段階評価;5点満点)

外部研究評価委員会の見解

[現状評価]

アジア‐太平洋地域で、大気・海洋・陸域における温室効果気体の動態に関する観測研究を展開して貴重なデータの収集を継続していることが評価される。特に航空機や船舶などの機動力を用いたり、地上基地を活用して、CO2の時空間的分布や過去のCO2吸収量推移などを含むその他温室効果気体の変動に関するさまざまな研究を積極的に進めており、世界に誇りうる成果が出つつある。

陸域観測では吸収量の分布や温度応答が複雑であることがわかったことは評価に値するが、全球規模あるいは大陸規模の収支の見積にどのようにつながるのかわかりにくい。

[今後への期待・要望]

他の中核プロジェクトとの連携を強化し、国環研の温暖化研究の成果としての本プロジェクトの位置づけをさらに明確にすることを期待する。

一方、このような大きな観測プロジェクトが大部分外部資金で賄われていることに危惧を感じる。地球観測は本来基本的なものであり、過去の経緯だけでなく新たな選択と集中も考慮しながら、温暖化が顕在化しつつある現在、より長期的な視野に立った予算措置を考えるべきではないか。

対処方針

陸域の吸収量の環境要因による変動は地域性があり、現在アジアでの挙動を調査している段階である。しかし地域的な正味の陸域吸収量を精度よく求めるのは、フラックス観測だけでは難しく、モデルや大気観測、衛星観測など各種の手法を組み合わせる必要性がある。グローバルには、吸収量はまだ上昇していると大気観測から推定されたが、地域的な応答に関しては、インバースモデルからの解析を行いたいと考えている。

これらの観測は、地球環境研究センターのモニタリング事業の基盤に加えて、プロジェクト資金、外部資金を投入することで展開している。モニタリング事業の基盤は長期的に支えられてはいるが、プロジェクトとしては外部資金部分による観測展開部分が大きく、これらのうち将来の重要度も考慮しながら、今後長期的な観測計画のもとに予算措置や運用を考える必要があると思われる。

最終的には、他の中核プロジェクト、まずは中核プロジェクト2の衛星観測データとの比較・活用など連携を図りながら、地域的な発生源に関する情報からアジア太平洋地域の発生量抑制策の検討につなげて行きたい。