Ⅳ 平成20年度終了特別研究の事後評価
2.湿地生態系の時空間的不均一性と生物多様性の保全に関する研究
1)研究の概要
デジタル航空写真を撮影し、渡良瀬遊水地の植生のタイプ分け・植生の高さの推定、3月の火入れ時の植物の燃え残りの空間分布などを推定した。
航空写真撮影地において植生調査を行い、航空写真から求めたデータを説明変数として、絶滅危惧植物の分布予測モデルの開発を行った。また、地盤高、植生高、植生タイプなどの情報から湿地性の鳥類の分布密度を推定するモデルを開発した。
航空写真から得た河川の屈曲様式データからの瀬淵分布の推定および水生生物相の推定を試みた。
2)研究期間
平成18〜20年度(3年間)
3)外部研究評価委員会による年度評価 (評価実施要領へ)
平均評点 3.9 (五段階評価;5点満点)
4)外部研究評価委員会の見解
[現状評価]
リモートセンシングにより植生分布を把握する有効な手法の開発や、鳥類の生息条件に関する類型化は評価できる。観察範囲の拡張や観察手法の効率化、アジアや地球規模の観測データ共有は地球環境政策にとって重要であり、本課題の達成度、貢献度はおおむね良好と判断できる。
ただ、予算規模の割に論文数や新規性のある成果が乏しい。また、試行的な面が多く、一般的な応用には若干不安が残るため今後の検証が必要である。河川の瀬淵構造の推定に対しては、河川工学の成果などを取り入れる必要がある。
[今後への期待、要望]
論文による成果の速やかな公表に期待する。また、衛星データの応用や河川工学との結びつけが望まれる。季節、気象、流水量など条件の異なる流域にも適用できるモデル作りに展開するよう期待する。
5)対処方針
論文の公表に関しては、データの集積を待って解析を進めてきたため、すでに投稿したものは少ないが、数件の論文を投稿準備中であり、これらの公表に向けて鋭意努力する。
衛星データの利用に関しては、広域化の点では有効だが、解像度の点では航空写真に利があり、それぞれの特徴を生かしてリンクする方向を検討したい。
河川工学の成果の活用や、他流域への適用という点に関しては、河床変動モデルなどを利用した砂礫堆の分布様式と計算結果とリモートセンシングからの推定を照らし合わせる、河道特性の異なる他河川を対象に解析を試みるなど、積極的に行っていく。
本研究の新規性に関しては、デジタル航空撮影により草本群落が高い精度で推定できる可能性を示したこと、それが希少植物種や鳥類の生息確率の推定に有効な要因であることを示した点が第一に挙げられると考えている。手法の一般化については一層の努力を行う。