はじめに セミナーの開催趣旨と目的

  • 現在、複雑な問題が世の中に多く、専門外から見ていると何が正しいのかよく分からない。複数の専門家が違うことを言っていて、聞いていて分からなくなることがよくある。例えば低線量被ばくや原発の安全性、消費税増税を今やるべきかどうか、TPPへは入るべきかどうかなどがあげられる。
  • 温暖化は本当かうそかという論争があるが、討論をさせた際の印象や、主張のおもしろさなどで、論争の勝ち負けを判断してはいけない。そのような複雑な問題を、論拠とロジックに基づき、専門家ではない人がフォローできることが大切だろう。
  • 世の中で論争となっている幾つかの問題のうち、食料の問題、特に国際的な食料の需要供給とその将来的な見通しに関わる問題を、最初に取り組むトピックとした。これまで、この問題に関連するトピックについて専門的に研究を行っている研究者を講師として招き、勉強会を行ってきた。そして今回は、いわゆる「楽観派」と「悲観派」の主要な論客の方である川島博之さんと柴田明夫さんをお招きして、セミナーを開催した。
  • 講演で使われたスライドと、解説していただいた内容を以下にまとめる。また、講演に対する質疑応答と総合討論で明らかになった、食料問題に関する主要な論点に関して、講師のお二人の解説と参加者からの意見をまとめた。そして最後に、セミナーを通して得られた共通理解と、見解の分かれる点(不確実要素)およびコミュニケーション上の注意点について、まとめた。

世界の食料生産とバイオマスエネルギー 東京大学大学院農学生命科学研究科 川島博之

  • 食料問題とは:いわゆる「文理融合」の問題。旧来のひとつの学問領域の中にいては、本質は見えてこない。その垣根を乗り越える必要がある。
  • 1950年以降、空中の窒素を固定する技術(ハーバーボッシュ法)の開発により、窒素肥料を大量に生産できるようになった。これにより単収増加。
  • 食料危機はほとんどすべて戦争の問題。食料危機は平和の時には起きない。対策をとることが可能。
  • この50年で単収は5倍くらいに増えた。人類は、ずっと悩んできた食料不足の問題を、1950年頃には解決した、と言っていい。

  • ヨーロッパを中心とした国、1990年代以降は伸びていない。これ以上伸びないかもしれない。
  • 大半の途上国は下のグループにあり、上昇の速度はゆるい。世界人口70億人中の60億人は途上国にあり、単収はまだまだ伸びる余地がある。ヨーロッパなどの寒い国では環境制約が大きいが、それ以外の場所では環境制約は少ないはず。過去50年続いてきた単収の上昇傾向は今後も継続するはず。
  • インドでも着実に単収が上がっている。インドでは農地面積を増やすことなく食料をまかなっている。

  • コメに関しても同様の傾向。日本の単収増加が一番早かったが、韓国と中国が追いついてきた。
  • インドネシア、ベトナムでも食料政策によって単収の増加が達成されている。ほぼ食料自給は達成されたため、それ以上投資をしても伸びないとの判断により単収の増加が止まった。
  • 東南アジアではまだ単収が低い状態にも関わらず、十分なものを食べられている状況。東南アジアの人口はもう伸びる時期は終わっており、食料危機が起きるとすれば、もっと以前に起きたはず。今後、大きな食料危機が起こるとは考えにくい。

  • 世界の農地の分布。農地は旧大陸を中心に分布している。アメリカでは、人が住んでいないところに農地がある。ブラジルでも、人が住んでいないところに農地がある。ブラジルでは、農地を伸ばす余力がおおいにある(アメリカ以上)。アメリカは穀物市場でアドバンテージを持っているが、将来的にはブラジルがライバルになるとみている。
  • アフリカには農地があまりない。ソマリア、チャド、スーダンでは人々が飢えている(300万人程度)。が、それは内戦の問題が大きい。欧米で「フードクライシス」というと、内戦による食料難の問題、を指すことが多い。

  • 窒素肥料の使用量が増えている。が、1980年代、地下水の硝酸汚染が問題となったため、使用量が減り始めた。(low input sustainable agriculture)。ヨーロッパでは降水が少ない(500mm、日本の1/3程度)ため、肥料を使いすぎると地下水が汚染される。
  • 近年、アジアで肥料の利用が増えている。中国の単収が増加したのも肥料を入れた効果が大きい。
  • 肥料の製造は比較的簡単なので、途上国でも生産が可能。かつては日本でも作っていたが、今は中国の肥料を輸入している。肥料は安く製造することができる。

  • リンの増え方は抑制的。1990年頃に一度減って、その後、横ばい。
  • リンは窒素のように脱窒しないため、一回まくと何年も持つ。土壌の中に残っているため、リン成分の高い状態が続き、リン肥料をまかなくても植物が育つ。窒素は脱窒されて抜けてしまうため、毎年まかなくてはいけない。
  • 「標準施肥」を決めてしまうと、なかなか変えにくい。本当はリン肥料を毎年5%ずつ減らしていっても、何の問題もない。「下水汚泥からのリンの回収」は、水処理の高度化やリサイクルという観点でのみ意味がある。

  • 世界には耕作できる土地がたくさん残っている。地球上の60億ヘクタールのうち、15億ヘクタールくらいを耕作地として使っている。
  • 穀物の部分はほぼ横ばい。三大穀物は変化なし、大豆が最近増えている。「その他」で増えているのは、油用作物の耕作地面積(後述)。
  • 耕作地面積は増加してはいるが、陸地面積全体に対する割合はわずか。休耕地が2億ヘクタールほど残っている。ロシア、アメリカ、アルゼンチン、カナダ、ブラジルでは、遊休地として土地が余っている。食料生産のための土地はたくあんある。

  • 人口が爆発したのは20世紀。これからは少子化(年金のパンクと老人医療費)のほうが大きな問題。実際の将来の人口は、「中位推計(World_M)」と「低位推計(World_L)」のあいだくらいになるのでは、と予想する。
  • アフリカ以外は人口が減るだろう(左下スライド)。インドや中国も同じ。BRICsでは、経済成長によって少子化が進む。農村では子だくさんだが、都会では子供が少ない(経済発展→都会へ人口流出)。中国の「アリ族」(地方から都会に出てきて、大学を出ても良い職に就けず、アパートを借りられないため、郊外の部屋を友人5〜6人でシェアして住んでいる人々)など、経済発展によって子供をつくることも難しい状況が発生する。
  • アフリカでは人口が増えるだろう。南北アフリカで10億人程度、今後50年で2倍程度になる見込みだが、世界全体の人口の伸びに与える影響は大きくない。

  • 食肉の需要は増えている。豚が増えたのは中国の影響が大きい。最近は鶏の生産が増えている。

  • 一人あたりの食肉消費量。欧米型は年間100kg程度。アジアでは日本型(40–60kg)、タイ型(20–30kg)、インド型(10kg以下)。貧しくて食べられないのではなく、食文化が違う。

  • 食肉摂取量と経済発展。アジアでは50–60kgになると、経済発展にかかわらず食肉摂取量の増加が止まってしまう。
  • 食肉摂取量は増えているが、食肉のための穀物飼料消費量は増えていない(左下スライド)。大豆搾りかす利用の貢献が大きい(右下スライド)。世界中で遺伝子組み換え大豆が利用されている。

  • 経済発展をすると油の消費量が増える。日本でも1960年以降、肉の摂取量はカロリーベースでは増えていないが、油は増えている。気づかない間に油を食べている。インドなど食肉消費量の少ない国でも油の消費が伸びている(インドではオイルパームを利用)。
  • 世界平均で、1960年代には5kg程度であったものが現在は20kg程度になっている。人口が爆発的に増加した時期においても、人類の食生活はこれだけ豊かになった。

  • 油用作物面積は増えているが耕作地全体に対する影響は小さい(前述)。

  • 2008年以降、穀物の価格は上がっている。1980年を1とすると3倍程度になっている。が、同時にGDPは4–5倍になっている。穀物の値段の相対変化と、一人当たりのGDPの相対変化を同時に示して比較している。
  • 穀物のすべてが食用ではない。トウモロコシ(Maize)はほとんど飼料用。トウモロコシの値段は上がっているが牛肉の値段は上がっていない。経営者が努力をしているため(原料の値上がりを転嫁しない)。穀物の価格は乱高下しているが、食料の値段はそれほど変わっていない(cf 牛丼の値段は昔も今も変わらない)。

  • トウモロコシ(Maize)の価格が乱高下しているときに、同じように銅と石油の価格が乱高下している。銅・石油・トウモロコシともに、リーマンショックで下がってまた上がる。
  • BRICsが経済発展をし始めたのは1990年以降。その需要増が原因であれば、その後も穀物価格は高騰し続けるはず。が、2000年に最安値を記録している = 穀物と資源の乱高下の理由は金融。「過度に金融に依存した結果」ととらえたほうがいい。

  • 市場規模が小さい農産物、オイルパームなどは先物市場がなく、相対取引などをやっているために価格は比較的安定している。
  • トウモロコシ(Maize)は乱高下している。トウモロコシ価格が変動する理由については、いろいろと報道される。「干ばつが起きた」、「アジアで人口が爆発しているから需要が増加した」など。一方、銅の場合は「中国の需要」、油の場合は「開発途上国の中国やインドで自動車の利用が増えた」といった理由が報道される。トウモロコシ・銅・石油の価格が同時に動いているのに、それぞれの変動理由が異なるのはおかしい(実際は金融が支配しているはず)。

  • アメリカ、トウモロコシの値段が低迷していたが、その値段を上げるためにバイオエタノールを作る政策を行った。
  • バイオエタノール政策(ガソリンの1割にバイオエタノールを混ぜなくてはいけないという規制)、財政に負担をかけているので、将来的にはやめるはず。いまやるとトウモロコシ価格は暴落する。
  • そもそもバイオエタノール政策をやったのは政治的な理由。農民の保護と農民票の獲得。
  • 5000万トン程度を輸出し、1億5000万トン程度をエタノールに利用している(左下スライド)。

  • アフリカの問題。インド、バングラディシュ、パキスタンの狭い面積で11億人程度が食べている。今後、アフリカの人口が20億人程度になっても、十分土地があるので食べていけるはず。
  • アフリカのいくつかの国(南アフリカ、ナイジェリア)では経済成長が始まり、出生率も下がり始めている。
  • アフリカを含めた世界で、次の数十年で食料危機に遭遇する可能性はないだろう。もしあるとしたら、人口爆発の起こった過去にあったはず。人類の科学技術の力で、それを乗り越えてきた。

逼迫する世界食糧市場にどう対応するか (株)資源・食糧問題研究所 代表 柴田明夫

  • 食料危機 = 食料価格の水準が上がっていくこと。それによって世界的に食料にアクセスできない人々がふえていくということ。
  • 2012年2月、OECD-FAOのレポート:2008年の第一の危機に続く、2011年前半の第二の危機。きっかけはアメリカの干ばつの影響だが、全体的に世界の食料需給に逼迫傾向がある。
  • 2007–2008年、投機マネーによって食料価格が上昇。70年代までは投機マネーはコモディティーファンドであったが、近年は食料需給が変わったことによって、投機マネーが入ってきている。

  • 異常気象:ヨーロッパ、ロシア・ウクライナ・カザフスタンは干ばつで小麦の減産。ウクライナは2012年8月に禁輸決定。2012年8月にエルニーニョが発表され、西豪州・東豪州も小麦が減産に。アルゼンチンは多雨、ブラジルは乾燥傾向。

  • アメリカの干ばつの影響。トウモロコシ価格が上がってきているため、今年はトウモロコシの大増産となる見込みだった(農家がたくさん作ろうとする)が、干ばつのために収量が落ちた。

  • 大豆、トウモロコシは配合飼料として使われる。小麦と米は国家貿易品目のため国が管理。今年の価格改定により、小麦の値段は上がるだろう。

  • 過去60年間の小麦・トウモロコシ・原油の価格推移。2000年代に入って価格が一斉に上がってきている。投機マネーが入ってきたこと、需給の構図が大きく変わってきたことが原因。
  • これまではアメリカ・カナダ・豪州が生産輸出国で、日本と韓国、台湾が輸入国だった。情報は非常に透明性があって、日々、どのぐらいの価格になり、投機マネーがどのぐらい入っているのかが一目瞭然、在庫がどのぐらいあるのかも分かっていた。投機マネーの入る余地もあまりなかった。
  • しかし2000年代に入って、供給サイドにブラジル、アルゼンチンが入り、需要サイドに中国などが入ってきた。情報が見えてこない国が巨大プレイヤーとなり、投機マネーが介入する余地が出てきた。30年間は、先進国同士の取引だったので、商慣習も大体決まっていたが、新しいプレイヤーが入ってきて、新しい価格水準を模索する段階に入った。どのレベルで価格水準が落ち着くのか、移行期間が何年で落ち着くのかがよく見えてこない。
  • 中国黒竜江省のコメ生産。単収が高く、13–15トン/ヘクタールを目指しているらしい。密植もやっているらしい。価格も上がっている。が、供給が追いつかない。

  • 食料だけでなく、石炭、鉄鉱石、銅地金、天然ゴムなどの資源も、2000年代に入って、それまで30年ほど安定していたものが一斉に上方にシフトした。
  • 原油や銅地金は先物マーケットがあるために投機マネーが入ることも考えられるが、一般炭や原料炭、鉄鉱石は、それまでは先進国の鉄鋼メーカーと生産国の資源メジャーとの交渉によって決まっていたため、投機マネーが入る余地はなかった。
  • 鉄鉱石の場合、これまでは先進国が4億トンを輸入していたが、中国が6億トンほど輸入するようになり、中国の影響が大きい。中小企業が勝手に原料を購入し、リアルタイムで鉄鉱石の値段が決まっていく。

  • 穀物の価格が上がった結果、価格変動のリスクが高まる。特に上ぶれリスクが大きい。世界中で農業開発ブームが起きる。農産物の商品化、灌漑設備や大型機械の導入、農薬や肥料の大量投入、遺伝子組み換え作物などの品種改良。
  • アメリカの農家、サイロの機能を拡張して、安値では売らず、高値になるまで待っている。サイロに入りきらない穀物の投げ売り→価格暴落がなくなる。
  • 中国は大豆やトウモロコシの輸入を拡張。

  • 世界の穀物生産消費量と期末在庫率。消費の伸びに着目。消費はここ10年間増加し続けている。2012年はアメリカの干ばつの影響で少し下がった。生産は、天候の影響を受けながら、増減を繰り返している。生産が消費を下回る場合には、在庫が取り崩されて、投機マネーが介在する余地が出てくる。
  • 通常はレーショニングが起こる。つまり、価格が上がれば増産されて、消費が減る。90年代までは需給が均衡していた。今は、価格は歴史的な高値にもかかわらず、需要が減らない。需要の中身は肉の需要。世界食料生産消費の4割は家畜のえさ。

  • 国際穀物市場は薄いマーケットと言われる。生産量に対して貿易に供される量が少ない。このため生産輸出国の増減産の影響が、国際マーケットには増幅して現れ、価格の大幅な変動となる。大豆・小麦・トウモロコシは国際市況商品であり、投機マネーがまさしく介在する余地がある。
  • 穀物の生産量は23億トン。そのうち貿易で流通しているのは3億トン。全体のうち、8分の1程度が流通しているにすぎない。輸出国(米国・南米・豪州)、輸入国(中国・日本)は特定の国に偏る。

  • 今年(2012年)のアメリカのトウモロコシ・大豆は干ばつ減産。80年代と現在とを比べると、戦略のシフトがみられる。80年代までは冷戦構造が残っていたので、アメリカは世界のパン籠の役割をして、食料不足国には食料を供給する。そうでないと共産化してしまう恐れがあるため。冷戦構造が崩れると、低在庫戦略をとりだす。アメリカ・カナダ・豪州が大きな輸出国で日本などが輸入国。透明性があり、低在庫戦略でもよかった。
  • しかし2000年代に入り、国際穀物市場のプレイヤーが増えて、低在庫戦略でも厳しい状況。輸出は、昔は生産の2割だったが今は1割程度しかない。

  • 今年は、1956年以来の大干ばつといわれる。「米国農務省需給報告」で、前年比でどれぐらい減産になったのかを見ると、12〜13%減産となっている。
  • しかし、過去にはもっと大変な干ばつがあった。1988年の大干ばつのときには、20〜30%の減産になった。それと比べると、今年は少ない。しかし、市場規模が1988年の時よりも1.5倍や2倍近くにふくれあがっており、ちょっとした需給バランスの崩れが、マーケットに大きく影響を与える。

  • アメリカの農家の売上とコスト、ネットの利益だけを取り出すと、この10年間で倍、つまり純農業所得は2倍になった。農地価格はエーカー当たり1030ドル(2000年)が2350ドル(2010年)と倍になった。2002年のアメリカの農業法のときは、農産物価格は低迷しており、あらゆるところにアメリカの補助金がくっついていたが、価格が上がれば差額を補填する必要がなくなる。生じた利益でサイロを造り、もう安値では売らない、高くなるまで待つ。
  • アメリカで困っているのは畜産農家。原料コストが上がり、価格が上がらない。

  • パナマ運河の改良工事が終わったが、パナマサイドが値下げをしないため運賃は変わらない。

  • 人口爆発といわれた1950〜1960年代は、年率3%ぐらい、今は1%強ぐらいで伸びている。伸び率は減っているが絶対量は増えている。
  • 働き手として見た場合、成長率は労働人口の伸び率と生産性の上昇率を合わせたものだから、経済成長を押し上げる途上国にとっては好ましい。消費者の口として見た場合、優良な資源の枯渇の問題、あるいは温暖化や水不足、資源争奪、価格水準の上昇は、大きな問題となる。
  • マルサスの人口論によると、人口は幾何級数的に増えるが、食料生産はリニアで直線的にしか増えないので問題が生じる。

  • 食料供給が需要に追いつかなくなる問題の根源は、食肉の需要。

  • 食料問題に与える中国の影響は大きい。2010年に日本を抜くまで、年間10%程度の成長を続ける。リーマンショック以降も、7–8%程度の成長を続ける。

  • 中国の人口の半分は都市に住む。
  • 食用油はパームオイルやヒマワリの種、ごま油、菜種、大豆など。ハルピンのスーパーマーケットでは、5リッターの大豆油の容器が並んで売られている。

  • 中国では食肉需要も増えて、年間消費量が20kgから50kgまで伸びた。牛乳の需要も増えている。

  • 中国の小麦・トウモロコシ・大豆ともに需要が増加している。食糧基地は黒竜江省・吉林省・遼寧省の東北3省に大体集約されている。
  • 生産量と貿易量で見てみると、大豆よりもトウモロコシを優先しようとしている模様。大豆は6000万トンを超える輸入。国内生産は1300万程度。トウモロコシは2億トンの生産消費レベル。国内での生産量が増えている。

  • 連作障害などは気にせずに、農薬・肥料の大量投入。とにかく生産量を増やそうとしている。三江平原、国営新華農場のトウモロコシ畑、密植などによっても大変増えている。

  • 食料需給について:需要が増える点では川島さんと意見が一致。供給量が増えないのではと思う。遺伝子組み換えは単収をあげるのではなく安定させるための技術。

  • 三大穀物 = 高い単収・栽培のしやすさ・味覚・加工性・味・貯蔵性の特性がゆえに作物間競争を勝ち抜いた。しかし特定の作物への依存、特にアメリカのトウモロコシへの依存は、食料多様性の喪失、供給経路の単純化につながる、危険な構図。

  • 1996年が遺伝子組み換え技術の元年。大豆・綿花が植えつけられて、ずっと拡大傾向にある。

食料問題に関する主要な論点と見解 セミナーにおける質疑応答と総合討論から

「食料危機」とは何か?—問題の構造、将来の見通し、社会への伝わり方について

川島氏のコメント

  • 食料が手に入らなくなるという意味での危機は、日本についてはもちろん起きない。世界についても、サブサハラのごく一部の人たち現在8億人のうち、8割〜9割の人は起きないだろう。サブサハラに住む1割〜2割の人については今でもかなり危ない状態にある。全世界の1億〜2億人というオーダーの人は、食料価格の変動によって自分たちの食料が手に入らななくなるという事態はあり得る。
  • トウモロコシの価格は、近年の一番高いところ、今年2012年7月のIMFの統計で、1トン当たり333ドルだが、現在の私たちの収入からすると、食生活はこれによって何の影響も受けていない。危機といっても、今年(2012年)の夏のレベルが想定される最大の食料危機だったという言い方もできる。
  • 1960年から現在までの50年間で30億人から70億人、山でいうと3合目から7合目まで上がったが、次の2012年から2050年までの間に9合目までしかいかない。食料危機を「人口が増えるけれども食料生産が追いつかないで値段が高騰する」と考えると、起きるのであれば過去に起きたのであり、これから起きることはない。心配しなくてはいけないのは次の20〜30年だということは柴田先生と意見が一致するが、それは過去の20〜30年よりも楽なもの。
  • 食料価格の乱高下、先進国に住んでいれば非常に安全。私たちは、高度何千メートルを飛んでいるが、エジプトなんかだとGDPが3000ドルレベルだと、やはり商品がすごく影響を受ける。もっと最貧国、サブサハラの特に貧しい1億人から2億人にとっては、ほとんどが食費だったのに、その食費が倍になってしまえば、本当に食べることができなくなる人たちがでてくる。
  • 飢餓人口の1〜2億人、貧しい人たちにとって、価格の乱高下は大きな問題。しかしそれは日本や先進国の食料の安全保障とは異なる問題。貧しい人たちがいるのも、食料が足りないだけでなく、きちっとした政府がないこと、そこで紛争が起きていることが問題。
  • 鳥も100万頭レベルで飼育するようになったので、鳥インフルエンザのような問題も起きた。リスクがあることは確かだが、鳥インフルエンザのあった後、あれで日本の私たちがもう2度とケンタッキーを食べられなくなったということはない。そこで研究開発が進み、次の段階に来る。リスクがゼロというわけではないが、科学技術で対応が可能なはず。
  • 農水省のホームページでは、世界の食料事情に関して、危機を煽るかのような内容が語られている(http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h21_h/trend/part1/chap1/c1_01.html)。それによると、人口が爆発的に増え、途上国で需要が増えるているため、いつまでも日本が安心して世界から食料を輸入できることはない。これを何とかするために、食料自給率を上げなければいけない、戸別所得補償政策で1兆円くらいのお金なら掛けてもいいのではないですか、という論理体系。レスター・ブラウンは1990年代の著書で「21世紀が食料危機の時代」と書いていた。先進国ではそのようなことは起こらない。

柴田氏のコメント

  • 食料危機とは、先進国において物が買えないという話ではなく、限りなく価格が上がっていくというリスク。価格が上がると、途上国の貧しい国は購買力がないので飢えの問題へつながる。
  • 日本において食料を調達できないということは多分ないだろう。しかし、日本をはじめ先進国においては価格のステージが上がっていくという危機がある。途上国は購買力が足りないため、という格好で、食料が手に入らないという危機が世界全体に起こっている。その結果、人口70億のうちの7人に一人、10億近くがやはり栄養不足となっている。生産された食料を強制的に世界中で分配してしまうと、値段が下がって、翌年の生産は大減産、また同じことが起こってしまう。
  • ミクロで見た場合は、食料問題は起こっていて、非常に複雑な問題。今後、途上国ほど経済成長のスピードが速く、先進国に追いついてくるので、国家間の格差は縮まってくる。すると、国内での格差が広がる。中国は人の動きを抑制しているが、東南アジアでは都市の貧困層は増えてきている。例えばインドネシアの食料庁も、社会安定のために、いかに安定的に供給するかが最大の課題になっている。
  • 工業生産的な手法が農業分野に、農業の領域、自然の領域に入ってきていることのリスクは、やはり考えた方がいい。だから、圃場の密植、工業畜産のような家畜生産も、やはり一種の「密植」ととらえられる。密植すれば、鳥インフルエンザのような大きなリスクも生じる可能性がある。

参加者のコメント

  • 食料価格が上昇しなければ投資が増えないのは確かだが、価格の乱高下はインフラへの投資を抑制し、投資を下げてしまう。そうすると、インフラが非常に脆弱になってしまう。途上国ではインフラ投資の不足が懸念され、その上に気候変動はさらに脆弱さを増やすので、将来の食料危機は慢性的な不足ではなく、一時的な局所的な食料危機となるのではないか。金融によって先物相場が市場を安定化させるかどうかは、一次系で考えればそうだが、二次系であれば振動が発生するため、懸念材料である。
  • 現状の飢餓人口あるいは貧困といわれる人たちがいるのは事実で、市場にアクセスできない、市場に入っていけない人たちがいる。市場に取り残された人たちがいる状況で、価格が安過ぎる、あるいは需給がバランスしているとしても、アクセスできない人たちが参入してきたときに需要は満たされるのか。脆弱なインフラのもとで価格の乱高下が起こった時に、安定的に食糧にアクセスできない問題は生じるのではないか。
  • 飢えていることと栄養状態が悪いことは同じではない。例えば、ウガンダの現状を見てきた人によれば、食料は足りていて、飢えてはいない、しかし非常に腹が出ていて栄養不良の状態だったらしい。『絶対貧困』という本によれば、スラム街ではカロリーは足りているけれども、それは油によって補っていて、野菜も取らないし、非常に栄養バランスがおかしくなっているという指摘がある。マクロな平均値ではなく、買えない人たちが買えるようになってきたらどうなるのか、もうちょっとミクロな情報からの食料危機について検討する必要があるのでは。
  • 世界で気候変動政策が取り入れられた場合には、(バイオマスエネルギーの大規模利用があれば)食料価格の見通しも変わるのではないか。教育水準が思ったように上がらない場合、人口が100億人を超える可能性もあるのではないか。
  • 食料価格が上がることに対して、先進国は大丈夫だけれども、途上国は大丈夫ではない、ということをどうとらえるか。それを「食料危機」と呼ぶかどうか、定義の問題でもあるのでは。また、社会への伝わり方、社会での受け取り方が、「危ない」か「安全」かと分かれているのは、まだ不確実性が大きいと伝わっている、とも解釈できるのでは。
  • 食料問題は需給の問題ではなく、市場とガバナンスの問題ではないか。しかし、ガバナンスに関するデータは探してもなかなか見付からない。

食料の需要・供給・価格について—人口、食文化、経済活動、投機マネーなど

川島氏のコメント

  • 食料価格が、私たちがとても買えないくらいまで乱高下してしまうようになると、それが危機だということは柴田先生と同じ考え。ただ、供給と需要に大きな変化が起きているのではない。需要は確かに途上国が入ってきたことにより増えた。しかし途上国は物を作り出している。食料についてはインドが典型。インドは人口が増えて一人当たりの食料消費量も伸びた(ただし、肉はそれほど伸びていない)。その結果インドは大量に消費するようになった。ところが、順調に経済成長したので単収も順調に上がり、20世紀には足りないときもあったが、21世紀になってからは輸出もしている。
  • 食料は生産過剰気味なので、価格が上がらない。もし本当になくなっていけば、価格がどんどん上がっていくはず。需要が足りなければ、もう少し高くても買うという人が出てきて、天井知らずで上がっていく。そうすると農業は作ればもうかる産業になり、それがインセンティブになって農地を増やしていく。ところが、現状では増やしてみても生産過剰になると値段が下がってしまう。だから、インセンティブも働かない。
  • 世界ですごい勢いで農民の数が減っている。それを担保しているのは化学肥料や機械。規模を拡大することは良いことのように見えるが、今まで20人で耕していたものを一人で耕せばいいということになり、19人は都市へ出ていかなくてはいけない。農村の文化の崩壊などが、世界で起きている。世界中で若者は農業をやっていてももうからないので出ていく。
  • 都市へ行って働くようになると、必死で子どもを教育しようとする。5人も6人もつくっていられないので、子どもが減り出す。科学技術が発達しているので、農村人口が減っても農業生産は落ちない。
  • アフリカは人口が増加する見通しなので、アフリカの食文化は重要。アフリカは、アフリカ固有の自分たちの文化と食生活をリスペクトしている。一部の遊牧民は肉や牛乳が好きだが、遊牧民はそんなに多くない。基本的には農耕民なので、爆発的なアメリカ型にではなく、肉の消費量としてはタイ型か、日本型ぐらいか。
  • 人口増が150億というのは1970年ぐらいには信じられていたシナリオだが、150億人になることはない。最大の原因は、女性がなかなか結婚したがらない、結婚しても3人も4人も子どもを産みたがらない、専業主婦になるのを嫌がるという傾向。
  • 価格の乱高下と飢餓人口の問題は、リンクしている。アメリカ共和党、前のブッシュの政権は、すべてを市場に任せて、価格の乱高下がおこってしまった。これにより、世界の途上国の政治が極めて脆弱になる。ジャスミン革命を起こしたのはこれが原因だというのはアメリカのインテリの中ではもう普通に語られていること。先進国に住んでいればマーガリンの値段がちょっと上がったくらいだが、チュニジアとかエジプトだと、庶民の食料価格が2倍になる。このような価格の変動は、抑えなければいけないという論調になってきている。
  • 干ばつなどの影響で穀物生産量が落ちると、禁輸措置が取られることがある。しかしその場合、国内価格が下がってしまう。すると国内の農民が文句を言い出す。時間がたつと、禁輸は解かれる。

柴田氏のコメント

  • 過去の価格帯は先進国の市場での取引だった。それが新興国などが入ってくると昔の商慣習が成り立たなくなってきて、新しい市場水準に見合った価格のレベルはどこかと模索する動きになっている。
  • 供給の見通しとして、面積が多少増えて単収がそんなに上昇しないだろう。先進国の場合は、収穫逓減で肥料・農薬の効きが悪くなってきていて、単収が伸びなくなっている。途上国の場合は、商品化・装置化・化学化・機械化をやっていけば増える余地はあるが、そのためには価格が上がらないと進まない。価格が上がれば一方で栄養不足人口も増えてしまう。
  • 金融市場と金融商品、例えば株式の時価総額などは20兆ドル弱、国債のマーケットは100兆ドル以上。それに対して資源の先物市場は、原油で2兆ドル、穀物は1兆ドル程度。規模が全然違うので、投機マネーが入ると、プールにゾウが飛び込んだ感じになる。一方で、投機マネーも市場に入れば出ていくのが難しい。結局、限度を考えて抜け出しやすいような規模で入ってくる。
  • 例えば投資会社が入ってきて価格が上がる。上がったときに、これは思惑どおり安値で買って高値で売り抜けられれば、今度は価格が下がる。結局、マーケットでは投機が成功すれば、それは中立要因だと言われることもある。しかし問題は、投資会社が上がると思って買っていたら下がってしまう場合。すぐに損切りをしなければいけない。下がったところで売りを入れると、乱高下になる。投機が失敗すればマーケットの非常なかく乱要因となる。フリードマンは「そういう失敗をするファンドマネジャーはいずれ淘汰され市場からいなくなるので問題ないだろう」と言っているが、実際はそうとも限らないのでは。

参加者のコメント

  • 穀物の国際価格は1トン当たり300ドル程度。1ヘクタール当たり5トン取れたとして1ヘクタール当たり10万円くらいの収入になる。例えば新しく農地を増やして売ったとしても10万円にしかならない。今1トンのところを2トンにして倍になったとしても、結局増えるのは300ドル程度でしかない。単収の伸びしろに見合う投資のインセンティブがあるのかどうかというと、厳しいのでは。伸びしろを生かそうとすると穀物価格が上がらざるを得ないのでは。

エネルギー/気候変動政策との関係—バイオエタノール、石油、シェールガスなど

川島氏のコメント

  • オバマのグリーンニューディールが失敗だったというのがアメリカのほとんどの定説。アメリカは中東に石油を依存しているという事態を変えたいために、エネルギーの安全保障も含めてエタノールから造るといっていたが、シェールガスが出ると、10年後にはアメリカはほとんど自給すると言い出している。
  • オバマは、エネルギー政策については今度(2012年大統領選において)もアイオワの農民にいろいろな約束をしている。急に変えることはできないが、なぜ高いガソリンを買わせているんだという意見が随分出てきているので、途中からバイオエタノール政策は変わっていくだろう。現在1割(E10)だが、これを上げることはなく、義務付けを少しずつ下げる政策に移るだろう。
  • バイオエタノール政策を拡大するならば、トウモロコシの価格は上がるだろう。しかしアメリカにはトウモロコシの価格が上がって喜ぶ農民だけでなく、これに反対する養豚業者や牛肉業者がいる。さらに、ハンバーガーの値段が高くなると嫌だという一般消費者がいる。このポリティカルバランスを考えると、全部エタノールにするなど、むやみに変更することはあり得ないだろう。政治は、極めて微妙なテクニック。

柴田氏のコメント

  • 原油価格も食料価格も、2007年、2008年で高騰したときには、投機マネーによる一時的な現象と見ていたが、リーマンショックを経て、需要の構図が大きく変わり、新しい均衡点・水準への移行が起こりつつある、ということが分かってきた。これは世界の資源の省エネ・効率化等を促すと同時に、シェール革命などを促すような動き。
  • 「シェール革命」とは、シェールガスが原油価格を下落させ、エタノール工場の採算を悪化させる、というシナリオ。果たしてそうなるかというと、そうはならないのではないか。原油とガスでは用途が違う。原油の用途は圧倒的に輸送用の燃料、ガソリン、軽油、ジェットなど。しかしガスは発電用。だから、ガスが普及するには10年ぐらいはかかるだろう。
  • あまねくアメリカのガス、シェールガス革命が世界中で起こるかというと、そう簡単ではない。ガス産業が成熟化し、パイプラインが縦横無尽に敷かれているのは、アメリカならではのこと。例えば中国はアメリカ以上にガスがあると言われているが、産業化されるまでにはすごく時間がかかるだろう。今はシェールガスが生産過剰になってしまい、皆やめてオイルを生産、ガスからオイルへの重点シフトが起こる。オイルが生産されれば、原油価格を今度こそ引き下げるだろうといわれている。シェールオイルの限界生産コストで70ドルから80ドル。だから、いわゆるシェール革命があったから原油が下がるのではなく、原油が高止まりした水準に順応してきているので革命が起こっているという話で、順番が逆。

まとめ 食料問題の理解と不確実要素

セミナーを通して得られた共通理解

食料の需要・供給・価格の現状、世界で生じている問題、また将来の見通しの大筋に関しては、講演者のお二人、また参加者の間で、共通理解が得られたと思われる。主要な点は以下の通り。

  • 2000年以降、食料価格が上昇している。それまでは先進国の間の取引で決まっていた市場に、途上国が入ることによって、価格の水準が変わってきた。穀物価格はここ30年で3倍になった。また、バイオエタノール政策などが入ってくると、競合する穀物の価格上昇に影響を与える。
  • さらに市場に投機マネーが入ることによって、食料価格が大きく乱高下する。食料に関わる市場の規模は大きくはないので、投機マネーの影響を受けやすい。
  • 食料価格が大きく変化することは、途上国の貧しい人々にとっては大きな問題。収入における食費の割合が大きい場合、食料価格が上がると、食料を買えなくなる事態が起こる。ジャスミン革命などの大きな騒乱につながることもあり得る。
  • 現在でも、途上国の貧しい人々を中心に栄養不足、飢餓に苦しむ人々がいる。ただし、この人々が餓えている原因としては、食料供給が足りていないという問題だけでなく、紛争状態にある、政府のサポートが不十分である、などの「ガバナンスの問題」も大きい。
  • 一方で、先進国にとっては、現状の食料価格の変動は、それほど大きなインパクトはない。先進国にとってはまだまだ食料価格、特に穀物価格は十分に安い。
  • 少なくとも2050年くらいまでは、人口増加は続きそうである。しかし、途上国が経済発展をとげると、少子化傾向になるはずだ。過去に比べて、これから先は人口増加の割合は鈍くなりそうである。

見解が分かれるポイント

将来起こりえる問題の見通しやそれによるリスクの大きさに関しては、参加者の間で見解が分かれている点があった。

  • 途上国の経済発展に伴い人口の増加率が鈍り、将来の増加率もさらに下がると考えられること、利用可能な世界の農地面積や、特に途上国において単収増加の余地があることから、今後、これまでより深刻な食料の問題は生じないであろう、というのが一つの見解である。食料生産や経済活動よりも気候変動政策が優先され、穀物価格がさらに上昇する可能性も低い。現在、途上国の台頭や投機マネーの影響により、食料価格が乱高下しているが、じきにある水準で安定するだろう。食料が手に入らないで困る人々は、全世界のうちのごくわずか、1–2億人の人たちで、これはガバナンスの問題によるところが大きい。
  • 一方で、食料価格の水準が新たなステージに入っていること、価格が乱高下することなどによって生じるリスクについて、様々な指摘がなされた。人口増加のペースが鈍っているものの、人口増加は2050年頃までは続く可能性が高い。現在起こっている食料価格の変化や大きな変動が、特に途上国に対して与える影響、それによって生じる問題は、非常に複雑であり、不明な点が多い。不確実性の大きい重要な要素として、食料価格の乱高下によってインフラへの投資が抑制されることや、発展途上国において現在市場にアクセスできない人たちが市場に入ることによる食料需要の変化、圃場の密植や工業畜産による鳥インフルエンザのような感染症リスクの増大、さらには気候変動が食料供給に与える影響などが挙げられた。

コミュニケーション上の注意点

議論の内容そのものについての認識の一致、不一致のほかに、議論の印象がどう伝わるかというコミュニケーション上の問題として見た際に、以下の注意点が浮かび上がった。

  • 「食料危機」という言葉の使い方が人によって異なる。このため、「先進国で飢餓が起こる心配は無い」というような意味での「食料危機の心配は無い」という発言と、「途上国の飢餓の増大や、それが間接的に世界に及ぼす影響をはじめとして、様々なリスクがある」というような意味での「食料危機の心配がある」という発言が、実際には概ね同じ認識に基づいていたとしても、大きな見解の相違に聞こえることがある。
  • 不確実性についての考え方が人によって異なる。将来は不確実であるが、蓋然性の高い方向性を見通して、可能性の低いリスクは見切ろうとする態度と、可能性が低くても発現した際の影響が大きなリスクにはできるだけ備えたほうがよいという態度があり得る。概ね同じ認識に基づいていたとしても、このような不確実性に対する態度の違いにより、将来の見通しの語り方には大きな違いが生じることがある。