国立環境研究所◎地域環境研究センター ホームページ

 中村泰男のページ

氏 名
 中村泰男(なかむら やすお)
所 属
 海洋環境研究室
職 名
 室長
電子メールアドレス
 yasuo
専門分野
 海洋生態学
学 位
 理学博士

 プロフィール
 1979年3月 東京大学大学院理学系研究科博士課程(化学)2年中退。同年4月国立公害研究所(現国立環境研究所)海洋環境研究室に採用される。1984年理学博士。現在に至る。

 研究内容の説明

ハマハマ通信 こちら
  1. 基本方針:内湾域の生物と環境の関わりを研究。海域の保全に寄与することを目指します。

  2. 研究のフィールド:瀬戸内海・播磨灘(1984〜2001)、有明海・前の海(2002〜2006)、米国東海岸バザーズ湾(1996)、有明海・白川干潟(2002〜)、東京湾(2000〜)

  3. 論文中に登場する主な生き物:
    a) 植物プランクトン(シャトネラ、ギムノジニウム、珪藻類、微小藍藻)、b) 小形動物プランクトン(従属栄養性渦鞭毛藻、有鐘繊毛虫、ワムシ)、c) 中型動物プランクトン(夜光虫、オタマボヤ、かいあし類)、d) ユウレイクラゲ(はなたれ)、e) 底生生物(オカメブンブク、アサリ、サルボウ、ハイガイ、ハマグリ)
  

 研究のあらまし
赤潮の発生・消滅機構(1979〜1995, 2002〜2005)
  1. 栄養塩類(窒素、リン)と赤潮発生の関係:現場調査と室内実験にもとづき、播磨灘では栄養塩が赤潮生物(シャトネラ)の成長を律速していることを示しました1-3。したがって、海域への栄養塩負荷の削減は赤潮の軽減につながると考えられました。

  2. 赤潮の消滅と捕食者の関係:原生動物(従属栄養性渦鞭毛藻や有鐘繊毛虫)による赤潮生物の捕食が赤潮(シャトネラ、ギムノジニウム)の消滅に重要な働きをしていることを現場調査と培養実験から明らかにしました4-7

  3. 赤潮生物の生活史:赤潮生物は一年中海水中で生活しているわけではなく、かなりの期間は底泥中で「休眠胞子(シスト)」として存在しています。室内実験により、シャトネラのシスト形成に成功し、その形成条件を明らかにしました8,9。さらに、シストは(実験結果から予想されるとおり)赤潮の終末期に暗い海水中(15m以深)で形成されることを示しました9

「捕食食物連鎖」と「微生物食物連鎖」の相互作用(1989〜2005)
 海洋プランクトン生態系に関する伝統的なイメージでは、大きな植物プランクトン(~10μm)は比較的大きな動物プランクトン(~100μm)に食べられ(=捕食食物連鎖)、小さな植物プランクトンやバクテリア(~1μm)は小さな動物プランクトン(~10μm)に食べられる(=微生物食物連鎖)とされてきました。しかし現実の海(夏の播磨灘;初冬の有明海)では、小さな動物プランクトン(従属栄養性渦鞭毛藻や有鐘繊毛虫)が自分と同じくらいのサイズの大型植物プランクトン(赤潮プランクトンなど)を積極的に捕食し6, 7, 10、大きな動物プランクトン(オタマボヤなど)が小さな植物プランクトン(微小藍藻など)やバクテリアを活発に捕食することがしばしば起きます11-14。こうした結果にもとづき、教科書的なイメージではプランクトン生態系の構造をきちんと捉えきれないことを示しました15

有機物の水柱 -- 底泥結合
 植物プランクトンにより生産された水中の有機物が、「どの程度海底に供給され、底泥中のバクテリアや底生生物に利用されているのか」を考える研究。
  1. 底層水の貧酸素化過程(1999〜2000、2007〜) 珪藻ブルームによる底泥への有機物供給の増大が、底泥での酸素消費(バクテリアによる分解)の増加に直結しているのかを研究。夏の播磨灘(水深〜20m)ではブルームに伴い底泥への有機物供給量は急増します。しかし、供給される有機物の殆どが生きた珪藻であるため分解を受けにくく、短いタイムスケール(〜1〜5日)での酸素消費速度速度の上昇は認められませんでした16。この研究を発展させ、東京湾での底泥酸素消費に関する研究を牧主任研究員の主導でおこなっています。

  2. 二枚貝による内湾域の水質浄化(2001〜2006)二枚貝は海水中の植物プランクトンなどの粒子を濾し取り、餌として利用しています。その結果、濾し取られた水は粒子を含まない「透き通った」水として海水中に放出されます。これが二枚貝による海水の浄化です。有明海の泥底に多量に棲息するサルボウ(赤貝缶詰の原料)の浄化機能を室内飼育実験で研究し、その温度・塩分、貝のサイズ依存性を明らかにしました。そして、これらの結果とサルボウの現存量データ(佐賀県有明水産振興センター)から、サルボウ群集は有明海浄化に重要な役割を果たしていることを示しました17。また、アサリについては濾過効率の粒子サイズ依存性を調べ、1μm程度の微小藍藻さえも濾過捕食できることを示しました18
現在の興味(2005〜)
 内湾域の環境を健全に保つには「水質の改善」とともに「その海域を特徴づける生物の保全」が重要であると(おそまきながら)考えました。こうした立場からの研究の手始めとして、ハイガイ(有明海特産種)とサルボウ(近縁の汎在種)の間で摂餌や成長がどの程度違うのかを検討しましたが、あまり大きな差は認められませんでした19。現在(2006〜)は、有明海やかつての東京湾を代表する二枚貝であったハマグリ(Meretrix lusoria)に着目し、なぜハマグリ資源は有明で減少し、東京湾では殆ど絶滅してしまったのかを研究しています。

 なお、最新の情報については、ハマハマ通信 を参照。


引用文献
  1. Y. Nakamura, J. Oceanogr. Soc. Japan, 41,381 (1985)
  2. Y. Nakamura et al., J. Oceanogr. Soc. Japan, 44, 113 (1988)
  3. Y. Nakamura et al., J. Oceanogr. Soc. Japan, 45, 116 (1989)
  4. Y. Nakamura et al., Mar. Ecol. Prog. Ser., 82, 275 (1992)
  5. Y. Nakamura et al., Aquat. Microb. Ecol., 9, 157 (1995)
  6. Y. Nakamura et al., Mar. Ecol. Prog. Ser., 125, 269 (1995)
  7. Y. Nakamura et al., Aquat. Microb. Ecol., 10, 131 (1996)
  8. Y. Nakamura et al., J. Oceanogr. Soc. Japan, 46, 35 (1990)
  9. Y. Nakamura et al., Mar. Ecol. Prog. Ser., 78, 273 (1992)
  10. Y. Nakamura, A. Hirata, Aquat. Microb. Ecol., 44, 45 (2006)
  11. Y. Nakamura et al., Mar. Ecol. Prog. Ser., 96, 117 (1993)
  12. Y. Nakamura et al., J. Plankton Res., 19, 113 (1997)
  13. Y. Nakamura et al., J. Plankton Res., 19, 1275 (1997)
  14. Y. Nakamura, Hydrobiologia 385, 183 (1997)
  15. 中村泰男、日本プランクトン学会報、46, 70 (1999)(総説)
  16. Y. Nakamura, Est. Coast. Shelf Sci., 56, 213 (2003)
  17. Y. Nakamura, Fish. Sci., 71, 875 (2005)
  18. Y. Nakamura, J. Exp. Mar. Biol. Ecol., 266, 181 (2001)
  19. Y. Nakamura, Y. Shinotsuka, Fish. Sci., 73, 889 (2007)
<引用していないが、怪しい生き物を扱った論文>
  1. Y. Nakamura, J. Plankton Res., 20, 1711 (1998) 夜光虫の飼育実験。成長速度と餌濃度の関係。
  2. Y. Nakamura, J. Plankton Res., 20, 2213 (1998) 播磨灘での夜光虫。植物プランクトンへの捕食圧
  3. Y. Nakamura, J. T. Turner, J. Plankton Res., 19, 1275 (1997) オイソナ(カイアシ類の半端者)と微生物食物連鎖
  4. Kinoshita et al., Plankton Biol. Ecol., 47,43 (2000) 播磨灘のユウレイクラゲ(はなたれ)。動物プランクトンへの捕食圧。
  5. Nakamura, J. Mar. Biol. Assoc. UK., 81, 289 (2001) 播磨灘のオカメブンブク(泥ウニ)成長と産卵時期

生き物事典
やこうちゅう(夜光虫)
海水浴場などに漂うどぎつい赤/ピンクの筋状の赤潮が夜光虫。水風船(ヨーヨー)状の巨大単細胞生物(0.5ミリ)だが、「身」の部分は風船のゴムの部分のみ。何故かは判らないが発光する。夜、船が夜光虫の赤潮を突っ切ると船べりが青白く光って幻想的。昼と夜でこれだけ印象の違う生物も珍しい。

おたまぼや(オタマ)
おたまじゃくしの格好をした原索動物。体長1ミリ。紙風船状の袋(ハウス)の中で生活。投網状のフィルターを風船内に展開している。尻尾を震わせることで紙風船の穴から海水を風船内に取り入れ、海水中の微小植物プランクトンやバクテリアをフィルターで捕まえて活発に食べる。成長は極めて速やかで1日に体重が5倍になる。体重30kgの子供が米粒と小麦粒だけを食べ、2日以内に名大関小錦八十吉(KONISHIKI)に変身するくらいの勢いである。

ゆうれいくらげ(ハナタレ)
瀬戸内海の漁師はハナタレと呼ぶ。ミズクラゲ(普通のクラゲ)より大きく、鉢の大きさが40センチくらいになる。カタクチイワシなどの稚魚や大型の動物プランクトンを食べているようだが、彼らの周りにはエボダイの子供が群れている。食用にならないが、これを網カゴに入れて海底に転がしておくと大型のカワハギが入るという。ただし筆者は試したことはない。

おかめぶんぶく(オカメ)
内海の泥底に埋もれて生活しているウニの一種。食用にならず。ウニ一族の象徴である「アリストテレスの提灯」を捨てたことで、一族の長老から疎まれているらしい。それでも彼らは黙々と、今日も瀬戸内海の泥を(餌として)体内にせっせと取り込んでいる。

はまぐり(ハマハマ)
「はまぐり」は一種類でない。日本の内海に古来から生息しているMeretrix lusoria (和名:ハマグリ)は高級で、つくばのスーパーでは殆ど見かけない。中国産のハマグリ(M. petechialis:シナハマグリ)が比較的安く売られているが、このほかに鹿島灘などで取れる外洋性のハマグリ(M.lamarckii:チョウセンハマグリ)も店頭で見かける。三種は形がとてもよく似ていて形態では区別しにくく、ハマグリとシナハマグリはプロでも間違えるらしい。筆者はプロでないので、仕方なしにDNA塩基配列で判別している。なお、一般名称としての「はまぐり」とM. lusoria の和名としてのハマグリを区別するため、符丁としてM. lusoria を「ハマハマ」と呼んでいる。(ちなみに、M.petechialis はシナハマ、M.lamarckii はチョーハマ)。そして、筆者はハマハマの復活を目指している。




独立行政法人国立環境研究所

〒305-8506 茨城県つくば市小野川16-2
TEL:029-850-2314
FAX:029-851-4732 e-mail:www@nies.go.jp
Copyright(C) National Institute for Environmental Studies. All Rights Reserved.