記者発表 2010年11月1日

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エコドライブの二酸化炭素排出量削減効果は交通流全体に波及する

平成22年11月1日(月)
独立行政法人国立環境研究所
社会環境システム研究領域 交通・都市環境研究室
主 任 研 究 員: 松橋 啓介 (029-850-2511)
NIESポスドクフェロー: 加藤 秀樹 (029-850-2516)

筑波研究学園都市記者会配付

エコドライブは、単独でみた場合には二酸化炭素(以下、CO2)排出量の削減効果があるものの、全体としては交通の流れを乱すためCO2排出量が増えるとの懸念がありました。独立行政法人国立環境研究所の研究グループは、エコドライブによる二酸化炭素排出量の削減効果を交通流シミュレーションによって評価し、エコドライブを意図しない周辺車両にも削減効果が波及することで、より大きな削減効果を生むことを明らかにしました。

1.概要

独立行政法人国立環境研究所の研究グループは、エコドライブによる交通流全体としてのCO2排出量の削減効果を、周辺車両への影響を考慮した交通流シミュレーションによって検討し、その効果を明らかにしました。

その結果、規制速度で走行すると信号停止が少なくなるように信号制御(系統制御)されている区間では、最高速度を規制速度以下に抑えるエコドライブの効果が大きく得られることが分かりました。また、エコドライブを行う車両が先頭となる車群が形成されることにより、エコドライブ実施車両以外にもエコドライブ効果が波及することが明らかとなりました。たとえば、エコドライブ実施車両の割合を40%とすると、その波及効果により単体による効果のおよそ2倍のCO2排出量削減効果が期待できる場合があります。

ただし、信号制御が連動していない区間や、信号の数が多く混雑している市街地などにおいては、エコドライブによる削減効果が小さくなり、ゆっくり加速のエコドライブを行うと逆効果となる場合もありました。

この研究成果は、土木計画学研究・論文集第27巻(土木学会)に掲載されます。

2.背景

京都議定書の第一約束期間(2008年〜2012年)も後半にさしかかり、即効性のある運輸部門の温暖化対策として、エコドライブの普及が注目されています。エコドライブを実践した場合、10〜20%程度の燃料消費量削減効果が得られるといわれています。しかし、一般ドライバーからは、「到着が遅くなる」、「抜かれるのが怖い」あるいは「渋滞の原因や他のドライバーの迷惑になる」といった懸念から、「エコドライブの実施を躊躇してしまう」との意見も聴かれます。

そこで、交通の流れへの影響を考慮した場合のエコドライブの効果を明らかにすることを目的として、交通流シミュレーションを用いた評価を行いました。

3.交通流シミュレーション

交通流シミュレーションには、PTV-VISION社のマイクロシミュレーションソフトVISSIM5.1を使用しました。得られた全車両の一秒ごとの速度、加速度を元にして小型乗用車を想定した場合のCO2排出量を推計しました。

数パターンの信号間隔(250、500、1000m)と制御方法(系統制御、一部系統制御)の道路区間を対象とした分析を行いました。エコドライブ実施率の影響をみる分析では、実施率を0、20、40、60、80、100%と20%刻みで設定し、交通量別の影響をみる分析では、交通量を1車線あたり1時間に150、300、450、600、750台の5種類を設定しました。

エコドライブとしては、最高速度を規制速度以下に抑える、早めにゆっくりと減速する、ゆっくりと加速するなどの組合せを想定しました。

4.エコドライブの効果

上記のシミュレーションの結果として、次の4点が明らかとなりました。

(1) 系統制御されている場合に大きな効果が得られます
規制速度で走行した場合に信号停止がないように信号制御(系統制御)されている区間では、最高速度を規制速度以下に抑えるエコドライブの効果が大きく得られます。エコドライブ実施率0%の場合にも系統制御区間の方が系統制御されていない区間より排出係数が小さいのですが、エコドライブ実施率が高い場合には一台あたりの排出係数はさらに小さく(削減率も高く)なります(図1)。

(2) エコドライブを実施しない他の車両にも効果が波及します
エコドライブを行う車両が先頭となる車群が形成され、エコドライブ実施車両以外にもエコドライブ効果が波及します。系統制御の場合の削減効果の線は上に凸の(より効果がある)形になっており、たとえばエコドライブ実施率を40%とすると、その波及効果により、単体による効果のおよそ2倍の CO2排出量削減効果が期待できる場合があります(図1)。

図1.2008年のHFC-23排出量分布の最適見積もり

図1 エコドライブ実施率の影響

(信号間隔:500m、交通量600 台)

なお、最高速度を抑制するエコドライブを行うと、区間の平均速度はやや低下します。一般的には、速度が低下すると CO2排出係数が増加すると言われていますが、この場合には、速度の変化が抑えられる効果が大きく、 CO2排出係数は減少します。

ただし、信号制御が連動していない区間や、信号の数が多く混雑している市街地などにおいては、エコドライブの効果自体が小さくなり、ゆっくり加速のエコドライブを行うと逆効果となる場合もありました。

(3) 市街地ではエコドライブ効果が小さくなります
信号間隔が狭く(信号の数が多く)かつ交通量が飽和状態に近い市街地ではエコ ドライブ効果が小さくなります。また、系統制御でない場合に、その傾向が強くなります(図2)。

図1.2008年のHFC-23排出量分布の最適見積もり

図2 信号間隔・制御方法・交通量別のエコドライブ効果

(画像をクリックすると拡大表示されます。)

(4) 交通量が多い場合のゆっくり加速は、逆効果となることがあります
図2の右下に示す一部非系統制御の信号間隔250mの場合、交通量が増えていくに従い、「エコ車2」の一台あたり CO2排出係数が増加し、ゆっくり加速は逆効果となっています。ゆっくり加速により、一回の青信号の時間で通過できる車両の数が減少し、渋滞が生じやすくなることを反映しています。なお、この場合を除いて、「エコ車」(ゆっくり減速)と「エコ車2」(ゆっくり減速+ゆっくり加速)の排出係数にはほとんど違いがありません。

5.展望

つくば市内の2つの道路区間における信号間隔と制御方法を再現した交通流シミュレーションでも同様の結果を得ました。面的な道路ネットワークでの分析が今後の課題です。

6.問い合わせ先

独立行政法人国立環境研究所
社会環境システム研究領域 交通・都市環境研究室
NIESポスドクフェロー: 加藤 秀樹 (029-850-2516) kato.hideki@nies.go.jp