記者発表 2009年7月13日

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「アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ」
第7回会合(WGIA7)について
(結果のお知らせ)

(環境省記者クラブ、筑波研究学園都市記者会 同時配付 )

平成21年7月13日(月)
環境省地球環境局地球温暖化対策課
  課  長: 徳田 博保(内線6770)
  課長補佐: 清丸 勝正(内線6768)
  係  長: 服部麻友子(内線6778)
独立行政法人国立環境研究所
地球環境研究センター副センター長:
  野尻 幸宏(029-850-2499)


国立環境研究所と共催で、7月7日(火)〜10日(金)に「アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ第7回会合(7th Workshop on Greenhouse Gas Inventories in Asia(WGIA7))」を韓国ソウルにて開催しました。WGIA7の成果は別紙のとおりです。

(別紙)

アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ(WGIA)
第7回会合の結果について

環境省
独立行政法人国立環境研究所

1.概要

7月7日(火)~10日(金)に韓国・ソウルのメイフィールド・ホテルにおいて、日本を含むメンバー国11カ国、2国際機関の総計100名の政府関係者、国際機関、研究者等の参加を得て、アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ(WGIA)第7回会合が開催された。

2.主催者

日本国環境省、韓国環境省、(独)国立環境研究所、韓国環境管理公社(Environmental Management Corporation)

3.目的

昨年7月の第6回会合は、「測定・報告・検証可能な温室効果ガス排出削減活動」に関する発展途上国の能力向上支援を柱のひとつとしてG8環境大臣会合が打ち出した「神戸イニシアティブ」の一環として開催された。第7回会合となる今回は、再び「神戸イニシアティブ」の一環として開催され、第6回会合の議論のフォローアップを行うとともに、WGIAの将来の活動計画について議論を行った。WGIA参加各国が気候変動枠組条約の下で作成を進めている国別報告書は完成間近となっており、その中で進めてきた温室効果ガスインベントリ作成の取組も、現在、多くの国で大きく進展している。「測定・報告・検証可能な温室効果ガス排出削減活動」推進のためにも必要な温室効果ガスインベントリ作成の取組をさらに発展させていくために、今後どのような活動をWGIAとして展開すべきか、という点が特に議論の焦点となった。

4.参加者

カンボジア
インドネシア

日本(環境省、(独)国立環境研究所、(独)森林総合研究所、(独)農業環境技術研究所、(独)農業・食品産業技術総合研究機構、(独)国際協力機構、龍谷大学、(財)地球環境戦略研究機関、国土交通省国土地理院、(株)数理計画、(株)三菱UFJリサーチ&コンサルティング)

ラオス
マレーシア
モンゴル
ミャンマー
フィリピン
韓国
タイ
ベトナム
        以上、WGIAメンバー国
UNFCCC(国連気候変動枠組条約事務局)
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)

5.ワークショップの成果

(1)総括

「測定・報告・検証可能な温室効果ガス排出削減活動」を推進するための重要なツールの一つが温室効果ガスインベントリ(以下、「インベントリ」)であることを再認識し、各国がよりよいインベントリを作成するための取組を継続すべきことに合意した。各国が現在作成中の国別報告書が完成した後もインベントリの改善を進めるためにはアジア諸国の協力が重要であることについて合意し、今後のWGIAの活動につきいくつかの具体的な提案を得た。

また、会議を通じてWGIAメンバー国の政府関係者及び研究者のネットワークのさらなる強化に成功した。

(2)不確実性評価について

第6回会合において各国が可能な範囲で不確実性評価を自主的に試行するよう推奨されたことを踏まえ、本会合ではその後の各国の取組について情報・経験の共有が図られた。いくつかの国では2006年IPCCガイドラインに従って不確実性評価の取組が実際に進められ、その結果が最新の国別報告書に反映される予定であることが報告された。各国とも不確実性評価の取組を今後も進めること、不確実性評価において直面した課題やその解決策につき、WGIAのネットワークを用いて情報共有を進めること、などが推奨された。

(3)時系列データ整備及び将来予測について

不確実性評価と同様、第6回会合の結論を踏まえて進められた各国の取組について、情報・経験の共有が図られた。1990年から2006年まで毎年のインベントリ作成を果たしたモンゴルなど、多くの国で実際に時系列データ整備が進められ、その結果が最新の国別報告書に反映される予定であることが報告された。今後もこの取組を継続・発展させることの重要性につき合意がなされ、各国が直面した課題やその解決策につき、WGIAのネットワークを用いて情報共有を進めることが推奨された。また、本会合においては、各国による時系列データ整備の支援の一環として、欠損データの補充のための各種テクニックに関する講義・実習が行われ、好評を博した。また、国立環境研究所のアジア太平洋地域統合評価モデル(AIM: Asia-Pacific Integrated Modeling)による将来予測について解説がなされ、同モデルが参加各国の強い関心を集めた。

(4)温室効果ガス排出量データ整備や緩和策への意識向上について

第6回会合の結論を踏まえ、WGIAと協力関係にある東南アジア地域における持続可能な温室効果ガスインベントリ管理システムに関するキャパシティー・ビルディングプロジェクトが作成を進めてきた「インベントリの重要性についての政策決定者向けの要約(SPM)」の構成案が紹介された。参加各国は、同構成案について改善提案を行うとともに、今後実際にそれを活用して、各国独自の政策決定者向け広報資料の作成に努めることに合意した。また、インベントリが緩和策の検討などさまざまな観点から有用であることについて、より広い関係者を対象として認知度を高めることの必要性が指摘された。そのために、例えば国別報告書の要約(Executive summary)にインベントリ情報の重要性等の記述を盛り込むなど、より積極的なアピールを行うべきとの合意を得た。

(5)WGIAにおける今後の活動について

WGIA参加各国が気候変動枠組条約の下で作成を進めている国別報告書は完成間近となっている。その中で進めてきたインベントリ作成の取組も、現在、多くの国で大きく進展しているが、引き続きインベントリ改善を不断にかつ効率的に進めることの必要性について参加各国が合意し、今後WGIAにおいて実施すべき活動について議論が行われ、いくつかの具体的な提案を得た。

既存の活動のさらなる発展・活用

過去の会合で示されてきたニーズを踏まえて、アジア諸国で国別報告書に使われている各種排出係数の情報を集約した排出係数データベース(WGIA-EFDB)と、アジア諸国におけるインベントリ作成者・関連専門家の名簿(Roster of regional experts)の整備を、WGIA事務局が進めていることが報告され、会議参加者に歓迎された。データベースについては、IPCCにより運営されている排出係数データベース(IPCC-EFDB)への貢献も視野に入れつつデータの拡充を図ることが推奨された。また、専門家名簿を活用してアジア諸国の専門家の情報・意見交換を促進することが推奨された。

インベントリの継続性を確保するため努力

インベントリ作成の継続性を維持するために、各国が資金を確保することの必要性が指摘された。この観点から、気候変動枠組条約の実施に関する補助機関第30回会合(SBI30)における合意に基づき、現在作成中の国別報告書の完成を待つことなく、次回国別報告書作成のための資金拠出をなるべく早期に地球環境ファシリティ(GEF)に申請することが強く推奨された。また、JICAなど、GEF以外からの資金・支援の確保についても可能性が示唆された。

データ収集の改善

インベントリ作成過程で多くの発展途上国がさまざまな形で直面してきた問題の一つである「データ収集の困難」を解決するための議論がなされた。各国の統計局など関連省庁・機関の積極的な関与を促すこと、また、2006年IPCCガイドラインに含まれている新たな知見(データ収集に関するガイダンス、各種排出係数に関する最新のデータ、など)を有効に活用することが重要であるとの合意が得られた。

WGIA参加国間の協力促進

第6回会合では、結論の一つとして、WGIA参加国間でのインベントリ品質チェックの取組が望まれるとの合意があった。これを踏まえて昨年10月に廃棄物セクターを対象として実施された、韓国と日本による二国間の「自発的なインベントリ相互チェック」について、本会合で韓国の参加者から発表があった。この取組はまずは試験的に行われたものだが、日韓の専門家同士による有意義な意見交換がなされ、結果として特に韓国のインベントリ改善に役立った、ということが報告された。会議参加者の多くがこの事例に強い関心を示し、今後、WGIA参加国間で同様の協力を促進していくことについて合意がなされた。

その他

インベントリをより積極的に緩和策検討に用いるための方策を考えるなど、インベントリの潜在的な有用性を顕在化するための取組を、今後進めるべきであることについて、会議参加者の多くから賛同が得られた。

(6)インベントリの各分野に特有な問題について(セクター別分科会)

エネルギー分科会

インベントリの算定に用いる各国の活動量データ、主にエネルギーバランス表、エネルギー統計に関して議論が行われた。各国のエネルギーバランス表作成は、バランス表に用いるデータ収集から年次作成が可能かどうか等、国によって作成の発達段階が異なり、各国の段階に応じた課題と改善の余地があることが示唆された。さらに、自国統計が不十分な場合に国際的なエネルギー統計が活用できること、また各国の公的統計整備が、インベントリ算定のみではなく大気汚染問題解決といったコベネフィットを生む可能性もあることが指摘された。

農業分科会

各国が現在作成中の国別報告書で使用している排出係数をテーマとし、国独自の排出係数の構築状況などについて発表と議論がおこなわれた。アジアの多くの国においては稲作からのメタンの排出係数が構築されていることなどが共有された。また、カテゴリーによっては、デフォルトや他国の排出係数を活用することも適切であることなどが言及された。今後のWGIAのテーマとして、稲作からのメタン排出だけではなく、農耕地土壌や家畜からの排出、インベントリ改良のためのツールを活用することなどにも焦点を当てることが言及された。

土地利用、土地利用変化及び林業(LULUCF)分科会

リモートセンシング及び地理情報システム(GIS)のデータを活用することが望ましいものの、そのために必要な人的資源が不足しているという問題点が指摘され、人材育成や各国内に存在する関連専門家との協働の必要性が認識された。また無料データの活用や、検証のための実地データ収集の促進が推奨された。必要なデータを得る上での障壁とそれらを克服する手段、関連データを収集する方法、農業分野との協働も含めた各国独自の国内制度の在り方について、更なる議論が必要との合意がなされた。

廃棄物分科会

韓国での食品廃棄物の埋め立て禁止政策・それに伴う温室効果ガス排出削減に関する紹介があり、合わせて日本からの情報提供をもとに廃棄物統計の重要性とデータ収集方法について意見交換が行われた。また廃水処理に伴う温室効果ガス排出について日本の事例をもとに経験の共有を行い、今後の継続的な情報交換を促進することについて合意が得られた。