森田恒幸博士ご逝去を悼む

 当研究所社会環境システム研究領域長 森田恒幸博士は、昨9月4日午前1時、肝不全のため53歳の若さで急逝されました。私たちの驚きと悲しみは到底言葉で表すことのできるものではありません。まして、奥様、お嬢様のお悲しみはいかばかりかとお察し申し上げます。

 森田恒幸氏は、わが国の環境経済学の第一人者であり、最近は環境税の効果分析に精力的に取り組んでおられました。地球温暖化問題に長期的視座を与える「気候変動解析と環境政策立案のためのアジア太平洋統合モデル(AIM)」の開発は、広く知られた氏の代表的業績であり、当研究所の地球温暖化の影響評価と対策効果の研究プロジェクトのリーダーとして内外から高い評価を得てこられました。国際的にも著名であり、特に「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の有力メンバー(総括主執筆者)として、1995年に出された第二次報告書、2001年に出された第三次報告書で、世界の将来シナリオ作成と温暖化防止策の経済評価を担当しました。まさに今週のポツダムでの会合で作業に着手された第四次報告書では、世界の7人の1人としてのご活躍が嘱望されていました。

 また、これらに加え、生態系保全、環境アセスメントなどの広い分野で日本の環境政策学を主導されるとともに、環境省をはじめとする政策関連の委員会での環境税や経済的措置についての論争の旗頭であり、研究成果を環境政策に生かし大胆な提案で、環境政策に多大な貢献を続けてこられました。さらに、東京工業大学大学院社会理工学研究科教授を兼務され、後進の教育・育成に直接あたられるとともに、文部科学行政を通じた環境研究の推進にも貢献してこられました。

 こうした八面六臂のご活躍が並外れて激務であったことは想像に難くありません。にもかかわらず、いつも笑顔を絶やさず、何事にも前向きに取り組まれ、力強く周囲の人々をリードしてこられた氏のお人柄が、病魔を覆い隠していたとすれば、残念としかいいようがありません。

 残された私たちが、氏の築き上げてこられた貴重な知的財産を受け継ぎ、環境問題の解決に向けた研究に引き続き邁進することが、身を粉にして環境研究に尽くしてこられた氏のご供養となるものと信じます。

 森田恒幸氏のご冥福を衷心よりお祈り申し上げます。


所員を代表して 理事長 合志陽一