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セシウムと将来リスク

「どうする」ダム湖放射能汚染問題

 福島第1原子力発電所の原発事故により河川周辺の森林に大量の放射性物質が降り注ぎました。事故から6年半。少しずつとはいえ放射性物質は、川からダム湖へと流れ込み、ダム底にたまり続けています。
 国立環境研究所福島支部の林誠二・環境影響評価室長は、河川流域に降った放射性セシウムがどのように移動しているのかを野外調査しています。調査は事故直後に始めました。
 ダム湖の底にたまり続ける放射性物質はどうすればいいのか。
 この問題は、昨年9月25日に毎日新聞が1面など(注1)で取り上げました。
 この記事では、環境省の調査として、福島第1原発から50キロ圏内の10か所のダムで、底土の放射性物質が指定廃棄物の基準(1キログラム当たり8000ベクレル超)を超える高濃度になっていることを指摘。
 そのうえで、環境省は「ダムの水質は、人の健康に影響が出るレベルではないのだから、いまのままにしておく」との姿勢であるのに対して、住民からは「ダムの決壊など万が一のときはどうするのか」という不安の声があがっていると、記事では紹介しています。

 この記事では、林室長は取材を受けましたが、メディアとの接し方では頭を悩ませることもあったといいます。
 林室長に聞きました。

「万が一」にも目を向けるべき

ダム底に大量の放射性物質がたまっているのだから、どうにかして欲しいという声はあります。しかし、汚染された底土を取り除いたり、除染したりするのは、現時点ではしない方がいいというのが私の考えです。(取り除く作業に伴って底土が巻き上がるなどの)再汚染や経済的負担のリスクが圧倒的に大きいからです。影響の大きさを考えると現状のままにしておいた方がいいと思います。
 しかし、「何もしないでいい」とも思いません。ダム底を監視し、決壊などの将来のリスクも検証する必要はあると考えています。

 そうです。リスクの可能性は避けずにきちんと説明する必要はある。
 地震があった場合に、ダム底の泥があふれ出し危険だというのは説明する。実際、東日本大震災でダムがこわれて泥が出た例がありました。
 魚について、表層水の放射性物質の濃度が低くても、魚体に移行したときには濃度が基準値を越える状況を確認している。これらの点については、しっかりと研究する必要があると思います。

 冷静な反応が多かったです。ダム湖の高濃度セシウム問題は地元では原発事故後まもなくからよく知られているので、驚きはなかったようです。
 記事掲載後に、地域住民みなさんの会合で講演をした際、「なんでいまごろ騒いでいるんでしょうね」という風に言われました。自治体の人たちも「いまさら言ってどうするんだ」との反応でした。

 「安心したい」という声ですね。「リスクがあるなら、まずはダム底の除染対策を実施してほしい」という意見です。放射性物質はダムの底に閉じ込められていて、現在は科学的に安全だという説明をしても、「それだけでは安心できない」との意見は出ます。
 だからこそ、いまのままにしておく場合、対策をする場合それぞれのメリット、デメリットを説明し、そのうえで、「(ダム底の放射能汚染は)現時点では対策はしない方がいいが、将来のリスクは検証する」とていねいに話し合うことが肝心だと思います。

メディアに真意を伝えるむずかしさ

 取材をうけたときも、「当面は何もしない方がいいけれど、将来のリスクの検証はするべきだ」と説明しました。

 次のようなコメントでした。
「土や泥に吸着したセシウムが今後、環境次第で水に溶け出す恐れがある」
「将来、上流域に住民が戻った時、生活排水などによる水質変化でセシウムが溶け出しやすい環境になることは否定できない」
「巨大地震によってダムが決壊した場合や土砂でダムが満杯になった後はどうするのかという問題もある。将来世代にツケを回さないという視点で調査をしたい」

 説明したことの半分だけが掲載され、がっかりしました。センセーショナルな部分だけを使われました。
 将来のリスクに焦点をあてるのは記者の見解なので尊重しますが、私が何を言ったかというコメント部分は、事前に確認したいと要請すべきだったと思います。

 実は取材というのが、記事になる2ヶ月前でした。福島県内の放射能汚染について、国環研のニュースや環境省のデータなどがあるが、それだけではわかりにくいので、詳しく勉強させてほしいといわれてお話をしました。
 そのときは記事にするという話ではなかったのです。記事掲載の連絡が私に届いたのは掲載前日の深夜です。

 取材には1人であわないようにしようと思います。今回の場合、取材は1時間半でしたが、1人だと、熱心になるあまり、一部を強調しすぎるなど、偏った内容になったかもしれないという心配をしました。
 複数で取材を受けると、それぞれが説明するので、片方が仮に不正確だったりした場合、取材中に修正したり補ったりできる。話した内容の記録にもなります。
 そして記事掲載の確認です。連絡がなければこちらから問い合わせて、コメントの確認を求めるべきだったと思います。

 地元のメディアには普段から、「現時点は対策しない方がいいが、将来リスクは検証する」と説明し理解してもらっていると思います。
 ただ、普段交流のないメディアからの取材を受ける場合はどうすればいいでしょう。私の場合もそうでしたが、普通は、広報室が取材依頼を受けて、担当の研究者に連絡があります。その際に、簡単なインストラクションがあるといいかもしれません。「慣れていない人は1人では受けないようにする」「記事になるときは自分の発言、引用箇所を直接、確認させてもらう」などだけでも、取材を受ける側が心がければ、メディアとのコミュニケーション不足も避けられるのではないでしょうか。

放射能汚染 「世間から忘れられているのかも」という心配

 放射能汚染は深刻ですが、この3年ほどはメディアがあまり取材にこなくなりました。世間から忘れられているのではないか、という心配があります。
 ダム底汚染の調査はもう数年続いていて、目立った動きがあるわけではない。その意味ではなかなかニュースにならない。けれど、いつか取り上げる必要があると問題意識をメディアは持ち続けてほしい。

 座談会などで話し合う場を作っています。印象に残るのは、やはり汚染に対する不安、心配の声です。原発事故でどのような放射性物質が放出されたかについて、種類と量は調査でほぼ判明している。しかし、「これも絶対あるから、絶対測れ」「こっちの量が心配だから測れ」などの声が出てくる。
そのような不安の声はまず聴くしかない。同じことを何度も繰り返し説明して納得してもらうしかないです。
 昨年、あるイベントで避難生活を続けている年配の男性がいて、半泣きになりながら話されました。いかに避難生活が厳しいかという内容です。気づいたら2時間がたっていました。疑問に思っておられることの解決になれば、少しは役に立つかなと思いながら話をしました。いまのところできるとしたらそれぐらいしかないです。
 座談会なり懇話会なりで少人数に対して、話を聞かせてもらって、まず相談会のような形から入って、お話をするのが、(当方の言いたいことが)一番伝わるのかなと思います。(終)

注釈1・2

(注1)
昨年9月25日付毎日新聞は次の通り。
1面3面オピ面

この記事では、訂正おわびなどが3回掲載されました(上記の3面記事末尾に記載されています)。訂正多発という異例の事態となったことから毎日新聞は、自社の報道について検証する第三者委員会「開かれた新聞委員会」に見解を求め、その結果を11月17日付で掲載しています。

「開かれた新聞委員会」(2016年11月17日)はこちら

(注2)
林室長の公開シンポジウムの講演は「水環境における放射能汚染の現状と環境回復に向けた取組」のこちらをご覧ください。
この講演の新聞記事はこちらです。