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アジアの森林土壌有機炭素放出の温暖化影響とフィードバック効果に関する包括的研究(平成 29年度)
A Comprehensive Study on Response and Feedback of Asian Forest Soil Carbon Flux to Global Warming

予算区分
BA 環境-推進費(委託費) 2-1705
研究課題コード
1720BA001
開始/終了年度
2017~2020年
キーワード(日本語)
土壌有機炭素,チャンバーネットワーク,温暖化操作実験,環境DNA,放射性炭素(14C)
キーワード(英語)
soil organic carbon,chamber network,soil warming experiment,environmental DNA,radio carbon (14C)

研究概要

世界気候研究計画(WCRP)に設けられた結合モデル開発作業部会(WGCM)が策定した、第5期結合モデル相互比較計画(CMIP5)では、地球温暖化に伴う土壌呼吸の正のフィードバック効果により、熱帯と中緯度における陸域のCO2吸収能は低下すると予測されている。一方で、モデルの長期予測を検証できる実測データはほとんど無いというのが現状である。最近のNature誌に発表された論文では、世界49地点の温暖化操作実験のデータに基づいて、地球規模の土壌有機炭素の将来予測を行った。2℃の長期目標に沿った場合、2050年の時点で全陸域土壌表層10cmの有機炭素は最大105 Gt失われると推定された。しかしながら、ここで用いられた観測データは、西ヨーロッパを除く、ユーラシア大陸やアジア太平洋地域では、2ヶ所の観測データしか無かった。したがって、温暖化や攪乱などの環境変動下における生態系の応答予測のため、特にアジア地域を中心とした広域的なデータ集積を早急に開始する必要性がある。
本研究内容としては、(1)国立環境研究所が開発・推進している世界最大規模のチャンバー観測ネットワークを用いて、北海道の最北端(北緯45°)から赤道付近のマレーシアまでの広域トランセクトに沿って、代表的な森林生態系における土壌呼吸の連続測定を実施する。それによって、気候変動や攪乱が、各森林生態系の炭素循環に与える影響を定量的に把握する。(2)一部のサイトにおいて赤外線ヒーターを用いた温暖化操作実験を行い、土壌有機炭素分解の温暖化に対する反応を定量的に評価する。(3) 環境DNA法を用いて、気候帯や温暖化処理の有無が土壌微生物相やその動態に及ぼす影響を把握し、温暖化効果の長期維持メカニズムを解明する。(4) 土壌放射性炭素(14C)の分析から、土壌の画分毎の有機炭素の蓄積歴及び長期的な温暖化環境下での分解メカニズムを解明する。(5)多地点の長期観測データと土壌有機炭素分解に関する詳細な情報を基に、複数の既存土壌呼吸モデルの比較解析を行い、気候変動や攪乱に対する陸域炭素循環の応答、フィードバック効果の将来予測精度向上に役立てる。

研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:技術開発・評価

全体計画

(1) モンスーンアジア広域トランセクトにおける土壌有機炭素分解に関する統合的データセットの構築
世界的にも観測データの不足しているアジア域において、日本の最北端(北緯45°)から北海道(3サイト)・本州(4サイト)・九州(1サイト)・台湾(2サイト)・中国(2サイト)及び赤道付近のマレーシア(5サイト)まで、多様な森林生態系(東アジア及び東南アジア地域における代表的な冷温帯林・温帯林・亜熱帯林及び熱帯多雨林)を網羅する広域トランセクトを設け、統一的なプロトコル、すなわち、大型マルチ自動開閉チャンバーネットワークをベースに、土壌有機炭素動態の地域差及び生態系による差を明らかにする。また、構築されたデータセットから、各森林生態系において土壌CO2/CH4 放出に影響する環境(温度・土壌水分など)及び生物因子(植生タイプ・バイオマスなど)を分析し、その生態系に特徴的な土壌有機炭素の密度や蓄積歴、土壌微生物相及び土壌呼吸変動に関する現象を解明する(すべてのサブテーマが共同貢献できる)。
(2) 異なる森林生態系における温暖化影響の解明
サブテーマ1では、上述の日本国内5つの代表的な森林生態系(北海道北部の冷温帯針広混交林・東北地方のミズナラ林・関東地方のアカマツ林・西日本のアラカシ林・九州地方のコジイ林)及び中国南部の2つの代表的な亜熱帯林(哀牢山亜熱帯常緑広葉樹林及び麗江亜高山針葉樹林)を対象に、温暖化操作実験を主導する。また、サブテーマ2の測定を組み合わせることで、森林土壌有機炭素放出の温暖化に対する反応の地域特性と変動要因を定量的に評価することが可能となる。
(3) 撹乱・エルニーニョ・土地利用変化などの非定常的プロセスの影響評価
サブテーマ2では、国内2箇所(苫小牧・天塩)の長期観測から、自然的撹乱(苫小牧:台風)と人為的撹乱(天塩:伐採)後の植生回復(育林)過程における生態系炭素循環の変動を評価する。また、海外(台湾とマレーシア)における観測により、アジア亜熱帯林と熱帯多雨林の炭素循環における短期的な気候変動(エルニーニョなど)や土地利用変化の影響評価を行う(測定データをサブテーマ1と共同で解析行う)。
(4) 土壌有機炭素放出における温暖化効果の長期維持に係わるメカニズムの解明
サブテーマ3では、温暖化操作実験サイトにおいて土壌サンプリングを行い、土壌から抽出した微生物由来のDNAについて、次世代シーケンサーを用いた塩基配列の解読を行うことで、土壌微生物の組成を把握し、温暖化が及ぼす影響を評価する。同様に、RNAを対象とした解析からは、土壌微生物の活性とその変化を評価する。土壌有機物の分解に強く寄与する土壌微生物相に着目する事で、土壌有機炭素放出における温暖化効果の長期維持メカニズムを解明する。
(5) 放射性炭素(14C)を用いた各森林生態系における有機炭素の蓄積及び分解のタイムスケールの評価
サブテーマ4では、土壌有機物の14Cを分析することで、異なる地域(国)での土壌有機炭素の分解性や蓄積プロファイルを明らかにする。特に、サブテーマ1との連携で、温暖化操作実験サイトにおける土壌の14C分析結果から有機炭素分解のタイムスケールを評価する。また、土壌から放出されるCO2の14C同位体比を分析することで、温暖化によってどのようなタイムスケールで代謝回転している有機炭素の分解が優先的に促進されているかを評価し、湿潤なモンスーンアジアの森林における土壌有機炭素放出に対する温暖化効果の長期持続メカニズムを解明する。
(6) 生態系モデルの温暖化応答メカニズムの強化と将来予測
上述した長期観測データに加えて、温暖化操作実験、土壌有機炭素・窒素、微生物相及び14Cの分析を適用して得られる多面的な実観測データに基づいて、複数の土壌呼吸モデルを検証・改良し、土壌有機物分解の温暖化応答とフィードバック効果を高精度に再現する。
(7) アジア域での研究支援体制の強化
海外における研究体制の維持にあたっては、現地研究者のキャパシティ・ビルディングを行い、日本のアジア地域におけるイニシアティブを発揮し、将来的なデータ集積の効率化に貢献する。
(8) 環境政策への貢献
上述した観測データやモデル結果に基づいて、今後の森林生態系の保全や気候変動適応策、MRV、REDD++などの環境政策を策定する上での基礎的なデータを提供する。

今年度の研究概要

H29年度では、すべてのサブテーマは本課題の代表(国立環境研究所)を中心として開発・推進しているチャンバーネットワークを研究プラットフォームとして活用し、北海道の最北端から赤道付近のマレーシアまでの広域トランセクトに沿って、モンスーンアジアの代表的な冷温帯林・温帯林・亜熱帯林及び熱帯多雨林における土壌有機炭素分解の時間・空間的変動に関するオリジナルデータの取得・解析を早急に開始する。また、アドバイザリーボード会合を通して、サブテーマ間の個別結果を比較分析(交換)した上で、次年度の研究体制を確立する。さらに、海外サイト(マレーシア・中国・台湾3カ国)の共同研究者を日本に招聘し、フィールドの測定技術及び観測データの解析方法などについてのキャパシティ・ビルディングを行う。

外部との連携

北海道大学
広島大学
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

課題代表者

梁 乃申

  • 地球環境研究センター
    炭素循環研究室
  • 主任研究員
  • 学術博士
  • 林学
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担当者