ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方

氷雪環境に適応した微細緑藻の種多様性と進化史の全地球規模での解明(平成 28年度)
Delineating the diversity and evolutionary history of snow-inhabiting green microalgae at the global scale

予算区分
CD 文科-科研費
研究課題コード
1618CD028
開始/終了年度
2016~2018年
キーワード(日本語)
氷雪藻,彩雪,分類学,分子系統
キーワード(英語)
snow algae, colored snow, taxonomy, molecular phylogeny

研究概要

氷雪性緑藻クロロモナスは世界各地の山岳地域や極域の残雪や氷河といった極限環境にのみ生息しており、地球温暖化が原因と考えられる近年の降雪量の減少や氷河の融解などの影響が憂慮されている。従って、本生物群の正確な種組成の解明は、分類学のみならず、多様性の保全という観点からも急務である。氷雪性クロロモナスの栄養細胞や接合子は残雪や氷河などの野外試料から頻繁に報告されているが、培養条件下で実験的に生活環を完結させることが難しく、また接合子の分子同定も困難なため、それらの実際の種の実体は不明である。本研究は第一に、課題代表者が本分類群で先駆的に実施している、栄養細胞の培養株の多面的比較解析による種分類法を、公的な微細藻類培養株保存施設が保有する北米・欧州・北極・南極産の未同定培養株、および課題代表者が確立した日本産の培養株に適用し、それらの正確な種を同定する。第二に、接合子サンプルの微細構造を把握した上で十分な情報量の分子データを得る方法を確立し、世界各地の接合子サンプルと正確な種同定を実施した培養株を分子データで結びつけることで、野外試料中の接合子の種の実体を解明する。以上のデータを基に、氷雪性クロロモナスの生活環(栄養細胞と接合子)をも含めた種の実体、多様性、分布および進化史を全地球規模で明らかにすることを目的とする。

研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:

全体計画

第一に、課題代表者が確立した培養株の多面的比較解析を、世界各地の雪サンプルから確立され、公的な微細藻類培養株保存施設で保存されている氷雪性クロロモナスの未同定培養株に適用し、それらの種を正確に同定する。これは同時に、培養株のみに基づく新たな種分類体系を大陸横断的に構築し、野外試料中の接合子の種の実体解明のリファレンスとなる培養株数を増大させることにもなる。第二に、高分解能の電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)レベルで形態の一致する接合子50個体からDNAを抽出して複数領域の塩基配列データを決定し、多面的な解析手法によって種を識別した培養株と分子データで結びつけることで、接合子の種の実体を明らかにする。更に、本研究計画で明らかになる接合子の微細構造レベルの形態データと詳細な系統関係に基づき、接合子にみられる形態形質の真の分類学的意義を考察する。以上のデータから、氷雪性クロロモナスの生活環(栄養細胞と接合子)をも含めた種の実体と分布、および進化史を全地球規模で解明する。また、本研究計画で正確な種同定を実施した培養株は分類学のみならず、地球温暖化で生息域の減少や消失が危惧される氷雪性クロロモナスを保全する上でも重要な資源となる。従って、当研究所の微生物系統保存施設を含む複数の公的な微細藻類培養株保存施設に解析済の培養株を寄託することで、恒久的な保存を確立する。

今年度の研究概要

日本を含む世界各地で氷雪性クロロモナスの野外試料の観察と採集を行う。FE-SEMを用いて野外試料中の接合子を観察し、FE-SEMレベルで形態の一致する、単一試料中の50細胞を単離してDNAを抽出し、複数DNA領域の塩基配列データを獲得可能な手法を確立する。また、野外試料中の栄養細胞の新規培養株の確立も試みる。公的な微細藻類培養株保存施設から北米・欧州・北極・南極産の未同定培養株を収集し、課題代表者が確立した日本産の新規培養株とともに、微細構造レベルの比較形態観察と複数遺伝子分子系統を実施する。

課題代表者

松崎 令