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環境変化に対する生物群集の応答と機能形質動態に関する数理生態学的研究(平成 24年度)
A theoretical ecological study on community responses and the dynamics of functional traits by environmental change

予算区分
CD 文科-科研費
研究課題コード
1115CD002
開始/終了年度
2011~2014年
キーワード(日本語)
群集生態学,機能形質,生態系機能,環境応答
キーワード(英語)
community ecology, functional traits, ecosystem function, response to environmental factors

研究概要

環境変化による生態系の変化を、生物群集を構成する種の機能形質(環境耐性や生態系の機能を担う種の特性)の変化として予測する数理モデルを開発し、人為的かく乱要因による生態系機能の変化を予測する理論的枠組みを提案することである。すなわち、環境変化によって種の相対的個体数(個体密度)が変化し、その結果、群集レベルにおける形質の種間平均や分散が変化する過程を、ロトカボルテラモデルなどの生態学モデルに量的遺伝モデルなどの形質進化モデルを取り入れた数理モデルによって記述し、群集の形質変化、ひいては生態系機能の変化や安定性に左右する要因(種数、種間相互作用の強さ、形質の分散やトレードオフなど)を明らかにする。さらに、得られた数理モデルを、実際の生物群集の時系列データ(霞ヶ浦プランクトン群集)に適用し、群集の変動をもたらした環境駆動因を推定する。

研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:応用科学研究

全体計画

種間相互作用を明示的に組み込んだ生物群集の動態を表す数理モデルを作成し、環境変化による構成種の機能形質の群集内分布の解析解を導出する。群集モデルとしては、類似限界モデル、資源競争モデル、多次元ロトカボルテラモデルなどの数理生態学モデルを元に構築し、形質動態の定式化には、進化量的遺伝学などの進化モデルの手法を応用する。より一般的な解析解を得るために、テプリッツ(Toeplitz)行列などの高等数学を応用した数学的解析も試みる。また、モデル生態系を使ったコンピュータ・シミュレーションによって解析解の正確性を検証するとともに、種間相互作用などの仮定に関して、解析解が得られない多くの場合について、数値解を算出し、種間相互作用と形質動態との関係性に関する一般則を抽出する。解析結果の実際の野外データへの応用例として、霞ヶ浦プランクトン群集の時系列データとミジンコ類の種形質データを群集内平均形質値の時系列データに変換し、環境要因との共変動を多変量解析によって解析する。
 先行研究において、研究代表者らは、形質の群集平均値の時間変化を、資源と消費者の動態を表現する資源競争モデル、多次元ロトカボルテラモデルなどの数理生態学モデルから解析的に解き、形質動態の近似式を計算した。この結果は、種間競争の強さが2種間で優劣関係がない(対称的競争)、栄養段階が単一であり、食うものと食われるもの関係を介在する食物網を形成しないという仮定に基づいていた。本研究ではこれらの仮定を除外することで解析結果の一般化を目指す。先行研究において、群集の平均形質値の変化に対する種間競争の影響を計算するために、競争行列(種内・種間競争係数を要素とする正方行列)が種内競争行列と各ニッチ軸ごとの種間競争行列に分解可能であると仮定した。これらの行列はすべて対称行列と仮定したが、さらに非対称行列の成分を加え、この成分の形質動態への影響を解析することにより、非対称な種間競争の群集内形質動態に与える影響を解析する。ただし解析解は特殊な場合しか導出できないと予想されるので、さらに、ランダム群集をモンテカルロシミュレーションで発生させ、群集行列の特性(食物網構造を特徴付けるパラメータ、種数、平均連鎖長、連鎖密度、相互作用強度など)が環境変化に対する群集の形質応答に与える影響を調べる。これによって、食物網のタイプによる、環境変化への安定性や抵抗性に関する一般則の導出を試みる。

今年度の研究概要

 平成24年度では、昨年度に引き続き、レプリケータ力学系の基本公式を応用し、群集が平衡状態にない状況での形質動態を計算しする。さらに、環境変動が群集構成種の個体数変動をもたらす状況での機能形質の動態や安定性を解析する。
 非平衡群集の形質動態モデルからは、次のような生態学的な問題へのアプローチが可能である。(1)生態遷移において、群集レベルの機能形質が変化するパターンに一般的特徴があるか、種間相互作用などの群集構造と関係するか、(2)種間競争の非対称性が高い資源消費型競争群集の場合(TilmanのR*法則が群集内の種構成を説明しうる群集の場合)、種のR*と機能形質とのトレードオフがどのように群集内形質動態に影響するかなどである。

外部との連携

吉野正史 国立大学法人広島大学理学研究科

備考

広島大学理学部吉野正史教授との共同研究

課題代表者

田中 嘉成