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北極海底の大規模氷床削剥痕の形成年代決定とグローバルな気候変動との関連性の解明(平成 22年度)
Climate change

予算区分
CD 文科-科研費
研究課題コード
1010CD001
開始/終了年度
2010~2010年
キーワード(日本語)
気候変動,北極海,古海洋,完新世,地球温暖化
キーワード(英語)
climate change, Arctic Ocean, paleocean, Holocene, global warming

研究概要

氷床崩壊と低塩分化による海洋構造への影響解明は、近未来北極海温暖化による海氷減少、グリーンランド氷床の融解といった環境影響を予測する上でも重要な知見を提供する。本研究では、最新の古海洋復元プロキシーを駆使し、過去の急激な気候変動のあった時期の北極海環境変動の復元を行う。特に以下の2つに焦点を絞って研究を実施する。(1)海底削剥痕の年代決定、(2)古海洋復元代替指標の利用:最終間氷期(12.5 万年前)、最終退氷期(1.8 万年から1万年前)、完新世温暖期(中世温暖期など)の北極海環境を水温と海洋循環の観点から復元を目的とする。

研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:

全体計画

研究代表者の内田は、2008 年度みらい北極航海(MR08 航海)によりノースウインド海嶺において採取した堆積物コアの分析並びに周辺海域(1000×4000km の海域)で延べ700 時間にも及ぶ海底地形音波探査を行い、海底下1000m まで巨大氷床によると思われる海底地層に残された削剥痕を発見した。これらの巨大氷床は、最終氷河期に北米大陸からグリーンランドに渡り存在していた大陸氷床(厚さ2-3000m)に由来するものであると考えられる。これらの大陸氷床が、最終退氷期における急激な温暖化により崩壊し、北極海へもたらされたと考えられるがその規模や時期については不明である。また巨大氷床亜に埋め尽くされた北極海における海洋環境への影響については未解明である。本研究は、過去の自然レベルで起きた温暖化現象に伴う北極環境変動を復元する研究であり、近年の北極域における温暖化現象のみならず近未来の北極環境変動の予測を行う上でも重要な知見を提供するものといえる。特にMR08 航海の海底音波探査調査から得られた大陸氷床由来の大量の氷塊が深さ1000m まで満たしていたことを示唆する解析結果は、北極海海洋循環への多大な影響をもたらしたことが予想される。すなわち、氷塊融解による大量の淡水は、北極海に極度の低塩分化をもたらし、北極海の海洋構造(中深層水循環変動とフラム海峡を通じた深層大循環)に果たした影響は計り知れない。このような状況が、比較的気候が安定だったと言われる過去1万年間(完新世)の北極海洋環境の実態は未解明であり、本研究実施の意義は高いといえる。

今年度の研究概要

北極海は、海底に多くの大規模氷床削剥痕が残り、海底堆積物が攪乱されていることが、海底地形音波探査の解析結果から明らかとなっている。また同時に実施したピストンコアラ−により採取されたコアの年代測定の結果や採泥の際の状況から、北極海の海底堆積物の泥質の特徴が他の海域と大きく異なることがわかった。そこで本研究では、それらの経験に基づき、過去の温暖期の堆積物を採取するため、グラビティーコアラ−を用いる。過去の温暖期の北極海の環境を復元するため最新の古水温プロキシーであるTEX86 を利用する。     
(A) 試料採取
 本研究のための試料採取は、2010年度海洋研究開発機構調査船「みらい」により実施する(すでに本研究テーマでの研究課題は採択済み)。試料採取は、2008 年度に地形探査を実施したマカロフ海盆、チャクチ海陸棚斜面, ノースウインド海嶺において実施する。氷床による削剥痕を横切るようにトランセクトを設け、谷部、山部において4-5 本のグラビティーコアを採取する。2008 年に山部で実施したピストンコアの解析では、1m未満に最終退氷期の堆積層が存在することから、谷部の堆積物コアの削剥痕は、堆積有機物の放射性炭素年代異常として検出出来ることが期待される。削剥痕の年代決定のためには、数cm 毎に14C 年代測定を実施する。
(B) 分析と解析
1)氷床削痕形成時期の年代決定
 ノースウインド海嶺周辺には、特に東側斜面を中心に多数の氷塊削剥痕が見つかった。それは、水深1000m までに及んでおり、痕跡の明瞭の度合いから、様々な年代における記録であることが示唆された。本研究では、MR08-04 航海で得られた音波探査記録に基づき、それらの削剥痕の谷部、山部においてピストンコアを採取し、削剥が起きた年代を調べる。削剥年代の層準決定には、バルク有機炭素の放射性炭素年代測定を実施する。また正確な層準の年代決定には、浮遊性有孔虫化石を利用する。北極海では、浮遊性有孔虫の保存は著しく悪く、特に氷河期には算出しないことから、申請者が開発している新たな年代プロキシーを利用する。これは、海洋古細菌の細胞膜脂質の放射性炭素年代測定に基づくものである。                                                     
2)過去の温暖期(最終間氷期、氷床融解時期(退氷期—完新世前期))における北極海表層水温変動の解明
 本研究で利用する研究手法として、特に最近開発された古水温復元プロキシーである古細菌膜脂質由来のバイオマーカーを用いた古水温指標(TEX86)を最終間氷期以降の北極海堆積物に初めて応用する。中でもTEX86 は、2004 年に開発された新しい古水温指標であり、従来の古水温指標として用いられているハプト藻由来バイオマーカーアルケノンが検出されない海域で特に威力を発揮する。TEX86 水温は、非熱水性古細菌マリンクレンアーキオータの細胞膜脂質を構成するグリセロエーテル脂質分子(GDGTs)の組成比から計算されるTEX86 値にもとづいて試算される。本年度は、堆積コア試料中から非熱水性古細菌マリンクレンアーキオータの細胞膜脂質の抽出を開始する。

関連する研究課題
  • 0 : その他の研究活動

課題代表者

内田 昌男

  • 環境計測研究センター
    動態化学研究室
  • 主任研究員
  • 博士(農学)
  • 化学,地学,理学
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