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重点1 地球温暖化研究プログラム(平成 22年度)
Priority Programs 1 [Climate Change]

研究課題コード
0610SP001
開始/終了年度
2006~2010年
キーワード(日本語)
地球温暖化,気候変化,二酸化炭素,温室効果ガス,気候モデル,大気大循環モデル(GCM),脱温暖化社会,低炭素社会,シナリオ
キーワード(英語)
GLOBAL WARMING, CLIMATE CHANGE, CARBON DIOXIDE, GREENHOUSE GAS, CLIMATE MODEL, GLOBAL CIRCULATION MODEL (GCM), LOW CARBON SOCIETY, LOW CARBON SOCIETY, SCENARIO

研究概要

[目的]
本研究プログラムでは、人為起源の排出による温室効果ガスの大気中濃度の増加による地球温暖化とそれに伴う気候変化、その人類や地球の生態系に及ぼす影響について、その実態を把握し、その機構を理解し、将来の気候変化とその影響を予測する技術の高度化を図り、予測される気候変化とその影響を具体的にかつ不確実性を含めて定量的に示すと同時に、脱温暖化社会の実現に至る道筋を明らかにすることにより、地球温暖化問題の解決に資することを目的とする。
[目標]
温暖化とその影響に関するメカニズムの理解に基づいた、将来に起こり得る温暖化影響の予測のもとに、長期的な気候安定化目標及びそれに向けた世界及び日本の脱温暖化社会のあるべき姿を見通し、費用対効果、社会的受容性を踏まえ、その実現に至る道筋を明らかにすることを全体目標とし、以下のサブ目標を置く。
サブ目標1 温室効果ガス濃度予測の高度化や排出インベントリの検証のため、温室効果ガスのグローバルな長期的濃度変動のメカニズムや地域別収支、温暖化影響を解明する
サブ目標2 衛星観測により二酸化炭素及びメタンのカラム濃度のグローバルな時間・空間変動を把握し、二酸化炭素の収支変動を高精度で推定することにより、温室効果ガス削減戦略に貢献する
サブ目標3 極端現象を含む将来気候変化とその自然生態系・人間社会への影響を高精度で予測できる気候モデル・陸域炭素モデル・影響モデルの開発と統合利用を行い、多様な排出シナリオ下での全球を対象とした温暖化リスクを評価する
サブ目標4 脱温暖化社会の実現に至る道筋を明らかにするために、ビジョン・シナリオ作成、国際政策分析、対策の定量的評価の連携による温暖化対策を統合的に評価する
サブ目標5 IPCC等への参画を通じて国際貢献を図るとともに、アジア太平洋の発展途上国における人材育成と対策強化を支援するため、プログラムで開発した観測・評価手法等のノウハウを提供する

研究の性格

  • 主たるもの:-
  • 従たるもの:

全体計画

本プログラムは、4つの中核研究プロジェクトの他、いくつかの関連プロジェクト、並びに地球環境研究センターが知的研究基盤の整備事業の一環として行う地球温暖化関連のモニタリング、データベース、研究の総合化・支援に係る事業から構成される。
中核研究プロジェクトの研究課題は以下の通りである。
(1)温室効果ガスの長期的濃度変動メカニズムとその地域特性の解明
(2)衛星利用による二酸化炭素等の観測と全球炭素収支分布の推定
(3)気候・影響・土地利用モデルの統合による地球温暖化リスクの評価
(4)脱温暖化社会の実現に向けたビジョンの構築と対策の統合評価

22年度に実施する関連研究プロジェクトの研究課題は以下の通りである。
(1)過去の気候変化シグナルの検出とその要因推定
(2)太平洋小島嶼国に対する温暖化の影響評価
(3)温暖化に対するサンゴ礁の変化の検出とモニタリング
(4)日本における土壌炭素蓄積機構の定量的解明と温暖化影響の実験的評価
(5)統合評価モデルによる温暖化影響評価・適応政策に関する研究

重点研究プログラムにおけるその他の活動として、以下の地球環境研究センター事業を行なう。
1.地球温暖化に係る地球環境モニタリング
(1)大気・海洋モニタリング
(2)陸域モニタリング
2.地球温暖化に係る地球環境データベースの整備
3.GOSATデータ定常処理運用システム開発・運用
4.地球温暖化に係る地球環境研究の総合化・支援
(1)グローバルカーボンプロジェクト事業支援
(2)地球温暖化観測連携拠点事業支援
(3)温室効果ガスインベントリ策定事業支援

今年度の研究概要

(1)温室効果ガスの長期的濃度変動メカニズムとその地域特性の解明 
1)航空機、定期船舶、地上観測ステーションを用いた観測網を用い、温室効果ガス濃度の連続的な観測やボトルサンプリングを用いた酸素、同位体など高度な項目の分析を行う。JAL航空機を用いた観測では対流圏上部の経度分布と各地の空港上空で高度分布などを求める。定期航路を持つ民間船舶を用いたアジア航路、オセアニア航路、北米航路などの航路上での精密な観測を行い、東南アジア含む地域の温室効果ガスの発生源強度や、その太平洋上への拡散の様子などの地理的分布を把握する。波照間、落石の観測ステーション、また、中国やインドでの観測サイトでは、その地域特性を把握する。波照間、落石ステーションではフロン等を含め酸素、炭素同位体比など高頻度観測を継続し、アジア大陸からの影響や、グローバルな二酸化炭素収支などの推定を継続する。
2)日本からニュージランドまでの航路上の西太平洋地域及び日本—北米間の北太平洋における海洋の二酸化炭素分圧観測を継続する。日本やアジア各地の陸域生態系における二酸化炭素等の吸収量の観測及び収支推定と、気候変動影響についての研究を行う。またこれまで5箇所の日本の森林生態系に設置した土壌有機炭素による温暖化フィードバックに対するチャンバー実験を継続し、温度上昇に対する土壌有機物の分解の加速特性の地域分布と変動を調べる。
3)大気のCO2、CH4などの各地の観測とNIES結合モデルによりシミュレーションを行い、モデル内のフラックスの妥当性を検討し、かつ観測データの時空間変動についての解釈を行う。

(2)衛星利用による二酸化炭素等の観測と全球炭素収支分布の推定 
1)GOSATの短波長赤外波長域での実観測データを用いて、二酸化炭素・メタンのカラム量導出手法の確認と改良を行うとともに、導出値の誤差評価を行う。さらに、カラム濃度の全球分布データ作成手法改良のための研究を進める。
2)GOSAT観測データから導出される二酸化炭素とメタンのカラム量に関するプロダクト及びその導出誤差に直接関連する巻雲・エアロゾル情報についての検証・比較のため、地上設置の高分解能フーリエ変換分光器、スカイラジオメーター等による検証観測を行い、それらのデータ解析により検証データを作成する。得られた検証データを用いてGOSATデータプロダクトのデータ質の評価研究を行う。
3)GOSATからの二酸化炭素カラム量と地上観測データとを利用して全球の炭素収支分布を推定するインバースモデルシステムの実用化を計り、実観測データを用いて予備的な平成21年の炭素収支推定を行う。更にインバースモデルのためのデータ同化手法の研究開発を進める。

(3)気候・影響・土地利用モデルの統合による地球温暖化リスクの評価 
1)気候モデルについて、国内他機関と連携し、IPCC第5次評価報告書に向けた新しい気候変化予測実験を実施するとともに、その実験結果の初期的な解析を行う。また、予測の不確実性を定量化する手法の改良を行う。さらに、IPCCの新しいシナリオ開発プロセスに対応して、気候シナリオと社会経済シナリオを結びつける分析を開始する。
2)影響モデルについて、農業モデル・水文モデル・土地利用モデルの統合利用により、将来の水・土地制約が世界規模の食料供給に与える影響を分析するとともに、影響の不確実性定量化の手法を高度化し、水文および健康影響の不確実性を定量化する。また、専門家とメディアとの意見交換等を通じ、地球温暖化リスクの全体像の把握と伝達に関して検討する。さらに、世界規模の適応策のあり方についての検討を行う。
3)陸域生態・土地利用モデルについて、陸域生態モデル及び土地利用モデルの高度化を進めるとともに、IPCCの新シナリオに対応する、詳細な空間分布を持つ土地利用変化シナリオの開発に着手する。さらに、気候、水文、農業モデルとの連携を通じて、陸域生態系に対する温暖化影響を評価するとともに、土地利用分野における緩和・適応政策について検討を開始する。

(4)脱温暖化社会の実現に向けたビジョンの構築と対策の統合評価
1)日本、中国、インド、タイ、インドネシア、マレーシアなどのアジアを主な対象に、国レベルや地方レベルの低炭素社会シナリオ研究を続ける。具体的には、地域の実情を反映したビジョン・シナリオを作成し、実現に資する方策を提言する。その際、持続的発展の立場からも低炭素社会実現の必要性を分析し、低炭素社会への道づくりへの提言を行う。低炭素社会と持続的発展を考慮した中長期のビジョン・シナリオの構築手法を分析する。アジア主要国・地方のビジョン・シナリオ開発を進め、地域の特性に応じた対策や政策を地元の研究者・ステークホルダーとともに検討する。LCS-RNet(低炭素社会研究ネットワーク)等を通じながら世界の研究者と協力して低炭素社会への道筋を明確にする。
2)次期国際枠組みに関する交渉は、2009年末に開催されたCOP15で了承されたコペンハーゲン合意をふまえ、COP16に向けて継続することになった。この交渉の合意内容は、コペンハーゲン合意文書作成過程でもみられたように、米国や中国、欧州といった主なプレーヤー間の駆け引きに委ねられる。そこで、今年度は昨年度から継続して、これまで蓄積した制度提案に関する知識を交渉会議等にて発信しつつ、米国、欧州、新興国、ロシアの4大プレーヤーを取り上げ、それらの国の交渉におけるポジションや国内政策決定の分析を実施する。また、より長期的な視点からは、アジア太平洋地域における低炭素社会あるいは持続可能な発展に至るための道筋を検討するために、同地域の多様な国際協力機関の連携のあり方について検討する。
3)IPCC第五次評価報告書への入力を目的とした新シナリオ作成のために、世界経済モデルや世界技術選択モデルを用いて、長期排出シナリオの作成作業を行う。このほか、簡易気候モデル、影響モデルの成果も踏まえて、気候変動や温暖化影響とその社会・経済へのフィードバックについての長期シナリオを作成し、排出シナリオとを統合化した気候変動統合シナリオを作成する。また、国連事務局に提出されたわが国の2020年の排出削減目標である1990年比25%削減に向けた温暖化対策の実施の効果とその影響を、日本を対象とした技術選択モデルや経済モデルを用いて定量的に明らかにし、わが国の温暖化政策に貢献する。

課題代表者

笹野 泰弘