魅力的な社会像とは?

vol.5-1 松橋 啓介 室長<前編>
2016.12.28

インタビュー対象

 5人目のインタビューは、環境政策研究室の松橋啓介室長にお話を伺います。
前編では、これまでの研究テーマや、2011~2015年度に実施していた「持続可能社会転換方策研究プログラム」の背景について聞いてみました。

インタビュー内容<前編>

最初に、これまでどのような研究テーマに取り組んでこられたんですか。

 難しい質問ですね。ここ5年間で言ったら、持続可能社会転換方策研究プログラム(以下、持続プログラム)の他に、環境都市システム研究プログラムのプロジェクトリーダーをやっていたので、これらのとりまとめにかける時間が長かったですね。それ以前はコンパクトシティに関する研究を長い間やってきました。

コンパクトシティってなんですか?

人がある程度集まって住んだほうが何かといいんじゃないかという都市計画の考え方です。環境面でいえば、交通からのCO2排出量も少ないし、家庭からのCO2排出量も少なくて良いだろうと考えられます。ほかにも、人が減ってきてるし、お年寄りが増えているので、効率的な町になったほうが行政サービスのお金も掛からないし、便利でいいといわれています。この研究は修士課程のときからやっています。

コンパクトシティから始まって、交通関係もされてたんですよね?

 交通研究を始めたのは、2001年から始まった若松伸司さん(当時国環研)が代表のPM2.5・DEP研究プロジェクトという大気汚染のプロジェクトで、自動車に関係する大気汚染物質の排出量推計を扱うことになったのが大きな理由の1つです。もう1つは近藤さん(地域環境研究センター)達と一緒に温暖化対策としての低公害車、低炭素型の乗り物など、交通の温暖化対策の話をしていたというのもありますね。

 当初は、今の社会環境システム研究センターではなく、地域環境研究グループというところに所属していました。

なるほど。そこからどのようにして今のような「社会がどうあるべきか」というテーマに至ったんでしょうか。

 2004年から2008年までは、西岡秀三さん(当時国環研)が代表の「脱温暖化2050」というプロジェクトで交通の低炭素化について検討しました。その成果を実際に世の中で使っていくと考えたときに、いろんな要素が関わってきます。そこで、温暖化だけじゃなくてより幅広い観点で見ていこうという考えになりましたね。

 低炭素社会のシナリオでも「ドラえもんの社会」(=人々が都市に集中して、活発に働き続けるという技術志向の社会)と、「サツキとメイの社会」(=人々がゆとりを求めて郊外に住まいを求めるという、ゆったりとした自然志向の社会)というのを提示していました。しかし、後者の社会をイメージすることが難しくて、あまり楽しくなさそうに見えるという意見もありました。目指すに値するものはなんだろうと考えて、今回持続のプログラムでは、「社会」、「個人」と「環境」の要素に着目しました。

 経済の発展が先に進んでほかのものがあとから付いていくのではなくて、安全・人権・人のつながり・社会関係資本などが良くなっていき、健康・生きがい・精神的にも安定が得られ、かつ環境面が良くなっていく社会—いろんな面を捉えて同時に達成している社会—を考えることで、技術志向・経済発展型ではないシナリオについても魅力的なものにしていくことを狙って取り組みました。

では持続のプログラムの話に入っていきたいと思うんですけども、この研究プログラムを実施するようになった背景はどのようなものですか。このプログラムの前に「中長期を対象とした持続可能な社会シナリオの構築に関する研究」が実施されていたんですよね。

 はい。2050年までを対象に、「この先、問題になりそうな環境問題と、その原因となる人間活動を整理しましょう」というテーマでワークショップを開きました。所内の人を40人集めてきて、10人1テーブルでグループディスカッションをして環境問題や人間活動を整理するという作業を朝から晩までかけてやりました。

 そのときは原澤さん(現理事、当時社会環境システム研究センター)が司会で、森口祐一さん(当時国環研)が全体ファシリテータ、僕が事務局でした。この取り組みは所内のいろいろな意見を集めることにもなりましたし、その後の研究プロジェクト、プログラムについていろいろテーマを決めていく上でも、いい機会だったかなと思います。ちなみに、人口が環境問題の原因になると指摘されましたが、当時は研究している人がいませんでした。そこで、コンパクトシティの話と人口推計の話をくっつけて研究したらいいのではと思って、それが都市のプログラムの一部につながっています。

そのワークショップで他にどういうものが出たか覚えてますか。

 残念ながらすごく目新しいものは出ませんでした。それでも、環境問題の全体像を確認する機会があまりないので、そういう意味では役に立ったかなと思います。また、原因となる人間活動が何かという部分について特に議論したことがなかったので、それは社会環境システム研究センターがいろいろ研究していくにあたっての、ベースになると思います。その中には国際的な動向とか技術の話もありました。価値観や欲求の変化によって、環境問題は大きく変わってくるということも整理できました。今後は、そういうところも追究したいなと思っています。

コラム:シナリオ作りの考え方~持続プログラムの場合~

シナリオ作りの定番としては、まず、社会を動かすドライビングフォース—社会を動かすもとになっているもの—を挙げていって、それらを影響が大きいもの、小さいものに分類して、同時に振れ幅が大きいもの、小さいものに分類してあげます。次に、影響が大きくて、なおかつ振れ幅も大きいものを取り出して、それらを、ドライビングフォースを左右する要因と考えます。さらに、要因ごとに異なる方向性を整理した上で束ねて、たとえば、グローバル化と技術発展、経済中心みたいな方向と、地域主義化、自然中心という方向との、2つの方向性に分かれたシナリオを示すことができます。これが定番の方法です。
しかし、そうやると、2つに分けたうちの経済発展ではないほうのものが、やっぱり魅力的に書けてないって思ったので、相反する方向を単純に対置して見る考えではなくて、何を目指して進むかを考えることにしました。今回、環境・経済・社会・個人の4つを挙げて、そのうち経済が中心に進む場合を1つのシナリオとして、ほかの3つが中心に進む場合を、もう1つのシナリオとしました。両方とも、何かを目指して進んでいる、発展していることを示したかったっていうことです。

後編へ

 第5回スタッフインタビューの前編では、松橋啓介室長に魅力的な社会像を考えていく土台について伺いました。

(聞き手:杦本友里(社会環境システム研究センター)、2016年12月5日インタビュー実施)
(撮影:成田正司(企画部広報室))