COP24(気候変動枠組条約第24回締約国会議)では何が決まった?

執筆:亀山 康子(副センター長)
2018.12.28

今月(12月2~15日)ポーランドのカトヴィツェという町で、COP24はじめ気候変動に関する一連の会合が開催されました。今回は、ここで話し合われたことを紹介します。

今回のキーワードは「パリ協定」です。2015年にCOP21で合意されて以来、その動向が注目されてきました。COP24で何が動いたのでしょうか。

このTOPICのポイント

 COP24で話し合われたのは大きく3点。

① パリ協定を実施するために必要な細則(実施方針)、② COP23で設立されたタラノア対話(*1)の総括、③ 途上国への資金的支援

  • ① 100ページ超の細則が決まり、2020年以降、パリ協定の下で各国が気候変動に対処していくことになりました。
  • ② 2℃あるいは1.5℃目標(*2)を目指すのであれば、2030年近辺の排出量目標をより厳しいものに修正していくこととする決意が必要でしたが、そのような合意には至りませんでした。
  • ③ COP21決定を踏まえ、2025年に向けた途上国への資金的支援の総額目標に関する交渉を2020年から始めることになりました。

*1)タラノア対話とは: COP24に向けて、COP23後に開始された対話。パリ協定の下各国が提出した排出量目標の水準の不十分性や、目標引き上げの必要性を議論するのが目的。各国の政府はもちろんのこと、科学者や自治体、環境保護団体など様々な主体がウェブサイトを通じて情報提供しました。

*2)2℃目標、1.5℃目標とは: 世界の平均気温の温度上昇を産業革命前と比べて2℃より十分に低く抑える。あるいは、1.5℃未満に抑えようという目標のこと。気候変動による悪影響が人類にとって深刻とならずに済む水準として設定されました。

COP24までの経緯

 気候変動枠組条約が1992年に採択されて以来、気候変動(あるいは地球温暖化)に対する認識と理解は深まりつつあります。2015年にはCOP21にてパリ協定が採択され、2020年以降、すべての国が、定期的に温室効果ガス排出量目標を設定し、その達成に向けて対策を講じていくことが合意されました。翌年(2016年)、COP22直前にパリ協定は発効しましたが、協定を実施するために必要な詳細ルール(実施指針)が決まっていなかったため、2018年までの完成を目指して作業を進めることになりました。

また、COP21でパリ協定と並行して合意されたCOP決定(*3)では、世界の排出量の傾向について2018年に評価し、各国がすでにパリ協定の下で提出済みの2030年近辺の排出量目標の水準の妥当性について検討することになっていました。その検討の一助とするとするため、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)に対して、長期目標として1.5℃を実現した場合の気候変動影響と、目標に至るために必要な排出経路に関する特別報告書を公表するよう求めていました。

以上の経緯から、COP24は、パリ協定実施に必要な詳細ルールを規定し、次のステップに移るための節目として認識されていました。

*3)COP決定とは: 締約国会議(COP)での決定のこと。気候変動枠組条約やパリ協定は、いわゆる「条約」なので国際法として扱われますが、COP決定は会議での決定なので国際法ではなく、法体系の中では1ランク低く位置づけられることになります。ただし、COP決定も全締約国間での合意であることには変わりなく、最大限尊重する姿勢が求められます。

パリ協定の詳細ルール

 パリ協定では、例えば排出量目標について定期的に報告することが求められていますが、具体的にどのような情報を報告する必要があるのかといった詳細が未定でした。そこで、そのようなルールが必要な項目を条文ごとにグループ化し、COP22以降、各グループ内で話し合ってきました。
  • 緩和(排出量目標の設定や報告などの方法に関するもの;4条)
  • 協力的アプローチ(国家間の排出量取引制度など、市場メカニズム利用に関すること;6条)
  • 適応(異常気象など気候変動影響に対応するための計画づくり;7条)
  • 資金(先進国が報告する内容など;9条)、技術移転(技術メカニズムの評価方法;10条)
  • 透明性枠組み(隔年で提出が求められている報告書の様式や提出期限;13条)
  • グローバルストックテイク(GST、パリ協定の下で2023年以降、5年ごとに実施されることになる見直しの方法;14条)
  • 遵守(遵守委員会の運用;15条)

全部合わせると100ページを超える詳細な実施指針で、COP24の最後まで詳細が議論されましたが、最終的には一部を除いて合意され、無事、パリ協定が2020年から動き出せることになりました。

議論のポイントはいくつかあります。

一つは、先進国と途上国との間の差異化です。パリ協定以前は、先進国と途上国という2つのグループに分け、先進国グループに対してより厳密な義務を課してきました。しかし、途上国グループの中には、経済水準が先進国に近い国も増えてきたため、そのような2分論は止めるべきだという強い主張が先進国側からあり、パリ協定では義務を先進国用、途上国用と分けず、すべての国が同じルールに従うことになりました。しかし、これは多くの途上国の不満の種となりました。COP24でも、報告する内容や手続きについて、先進国用と途上国用に分けるべきだという主張が一部の途上国からありました。しかし、一旦分けてしまうと、今途上国である国が発展しても、途上国用のルールに従い続けることになりかねないため、結果としては、すべての国が同じルールに従いつつ、途上国は、より緩やかな適用を認められることになりました。

もう一つ、最後までもめたのは協力的アプローチ(6条)でした。これは、排出量取引制度など、排出削減した一部を取引可能な排出枠として認め、国際的に取引することで、世界全体でより費用効率的に削減を可能とする方法なのですが、排出削減分を複数の国で同時に自国の削減分としてカウントしてしまうおそれがあり、厳密なルール作りが必要でした。しかし、今まで急速に進んでいたアマゾンの熱帯林伐採を食い止めることで、「排出枠」を大量に獲得できるような文章を望んだブラジルとそれに反対する国の意見が合わず、来年のCOP25での合意を目指して交渉を継続することになりました。

タラノア対話の帰結

 一年前のCOP23ではフィジーが議長国だったため、COP24に向けた対話を開始するにあたり、フィジー語で「包摂的、参加型、透明な対話プロセス」を意味する「タラノア」が対話の名称となりました。2018年1月からタラノア対話が始まり、各国政府のみならず、さまざまな非国家主体(科学者、自治体、産業団体、環境保護団体等)がウェブ上にインプットしていきました。COP24が始まるまでに、合計で473ものインプットが集まりました。これらのインプットを踏まえ、COP24では政治的なフェーズに移り、COP23、24両議長による共同声明として「タラノア行動宣言」が出されました。

 これに関連して、COP24の2ヶ月前に公表されたIPCCの1.5℃目標に関する特別報告書をCOPとしてどう受け止めるのかという話もありました。タラノア対話にしろ1.5℃特別報告書にしろ、そこから発せられる意味はほぼ等しく、今各国がすでに提示している2030年近辺目標だけでは、2℃目標達成に不十分であること、また、2℃と1.5℃とを比べると、1.5℃まで抑えた方が気候変動による悪影響はさらに軽微で済むのだから、1.5℃を目指す最大限の努力をすべき、ということです。つまり、すべての国が、すでに提示している排出量目標をさらに厳しいものとするよう努めていくべきという政治的なメッセージを打ち出すことが、COP24参加者に求められました。

 欧州諸国や島国をはじめとする国々が、さらなる排出削減を求めるメッセージを求めたのに対して、産油国である米国やロシア、サウジアラビア、クウェートは、強く反対しました。具体的には、IPCC1.5℃特別報告書を「歓迎」するのか、それとも単に「テイクノート(言及)」するのかといった言葉の使い方で何時間も揉めることになりました。結果、タラノア対話の結果については単に「テイクノート」し、各国が今後の目標を検討する際にはタラノア対話を「考慮」するようにという弱い表現に留まりました。1.5℃特別報告書に関しても、内容に対する歓迎の表現はなく、来年の補助機関会合で引き続き議論を続けることになりました。

資金的支援

パリ協定より過去をさかのぼること2009年のCOP15では、途上国への資金的支援の総額として、「2020年までに1000億ドル/年」という目標が設定されました。これは、緩和策と適応策両方への支援を含み、また、官民の資金を合わせた金額となっています。COP24では、先進国からの支援金額が順調に増加しており、2020年において先進国全体で上記目標を達成する見込みであることが確認されました。

他方で、2020年以降の資金の目標については、2025年の目標を設定して交渉を始めることがCOP21決定で決まっていましたが、いつからその交渉を始めるのかが決まっていませんでした。途上国は、できるだけ早くこの交渉を始めるべきだと主張していました。結果、2025年に向けて、「1000億ドル/年」以上の総額の目標に関する交渉を2020年から始めることになりました。資金に関する交渉は、先進国としてはできるだけ避けたいものですが、パリ協定の詳細ルール等において先進国側の主張を実現させていくためには、ある程度の譲歩が避けられない議題であり、今回もそのような経緯での合意となりました。

今後の見通し

 パリ協定採択以降、産業界や自治体などのいわゆる非国家主体の参加が増加しています。COP24では、7000人ほどの非国家主体関係者がサイドイベントを開催し、交流に努めました。上記のとおり、200近くの数に及ぶ国と国との間の交渉は、時間がかかり、2週間交渉しても得られる成果は小さな一歩に過ぎません。

むしろ、脱炭素関連技術を新たなビジネスとする産業界や、気候変動対策を地域振興のツールとしようとする自治体が、国家間合意を上回る取り組みに着手しつつあります。COP24を終え、パリ協定関連の交渉は一段落し、政治的な方面での勢いは下がってしまうかもしれませんが、非国家主体の取り組みは今後さらに勢いを増していきそうです。今後の気候変動対策の全体像を把握するためには、単にCOP等の交渉だけを追うのではなく、産業界や自治体の主な取り組みも並行してみていく必要があるでしょう。