COP26閉幕:「決定的な10年間」の最初のCOPで何が決まったのか?

執筆:亀山 康子(社会システム領域 領域長)
2021.11.18

英国グラスゴーで、10月31日に始まった国連気候変動枠組条約第26回締約国会議 (COP26) は11月13日に終了しました。
気候変動の悪影響を回避するのに必要な水準に至るためには、今から2030年までの10年間の取り組みが重要という意味で「決定的な10年間」、その最初のCOPという意味でCOP26が注目されていました。 何がどこまで決まったのか、概要を説明します。

COP26会場に置かれた地球
写真提供 気候変動適応センター 増冨祐司

この記事のポイント

  • 1.5℃目標に向かって世界が努力することが、COPの場で正式に合意されました。
  • 具体的な取り組みごとに、賛同する国や企業が集まって有志連合を形成する手段が活用されました。
  • 目標は定まりました。今後、この目標を達成するための動きをどれほど加速化できるかが焦点となります。 

COP26までの経緯

 2015年に採択されたパリ協定では、異常気象など気候変動による悪影響を最小限に抑えるために、産業革命前からの気温上昇幅を、2℃を十分下回る水準で維持することを目標とし、さらに1.5℃に抑える努力をすべきとしています。しかし、その後、2℃までの上昇を許容していると甚大な悪影響を免れないという意識が高まり、1.5℃を目指すべきだという声が高まりました。現在、すでに地球は1.1℃以上上昇してしまっているため、1.5℃目標を目指すためには2050年までに世界の二酸化炭素排出量を実質ゼロ(ネットゼロ、あるいはカーボンニュートラルとほぼ同義)にし、2030年までに2010年比で45%削減することが必要と言われています。2019年以降、2050年実質ゼロを宣言する国や自治体が増えましたが、条約の公式な文書の中には反映されていませんでした。

 今年(2021年)、米国でのバイデン政権発足を契機に、世界が動き出しました。4月には米国主催で気候サミットがオンラインで開催されました。6月にはG7サミット(主要7カ国首脳会議)のホスト国英国が、気候変動を最重要テーマとして掲げました。9月には、各国が見直した最新の2030年目標に基づき、世界全体の2030年排出量を条約事務局が計算し直しました。その結果、2.7℃までは抑制される可能性があるのですが、2℃1.5℃に抑えるためにはさらに減らさなくてはならないことが分かりました。このような経緯を経て、COP26では、どうやったら1.5℃に近づけられるかという点に関心が集まりました。
 

COP26の主な成果

(1) 1.5℃目標の公式文書への明記

 合意された内容のエッセンスをまとめた文書が「グラスゴー気候合意(Glasgow Climate Pact)」と名付けられました。その中で、特に重要だったのが1.5℃目標の位置づけです。2℃よりも1.5℃に抑えることが、気候変動の悪影響を回避するためには望ましいという点では、各国とも異論はありません 。しかし、これを正式な目標として認めることにより、2030年までに大幅な削減を実施することにも賛同しなくてはならなくなるため、様々な意見が生じることになります。これまでのCOPで、トランプ政権下の米国やサウジアラビアといった国々が、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の知見や1.5℃に言及することさえ反対してきたのもそのためです。

 今回もそのような懸念から、1年後までに2030年目標を再度見直すということに関しては「必要に応じて」という文言が入り、石炭火力発電や化石燃料への補助金の段階的廃止に関しても、当初の議長案より表現が弱められました。合意内容を弱める意見に譲歩をしてでも、1.5℃を目標として明記したことにこの文書の意義があるとして、合意に至りました。

(2) 資金に関する議論

 1.5℃を目指すとなると途上国も排出量を減らしていかなくてはなりません。そのためには、先進国から十分な支援が必要となります。つまり資金関連の議題は、目標達成のための条件としての意味を持ちます。2009年にコペンハーゲンで開催されたCOP15において、先進国から途上国への資金支援を2020年までに毎年1000億ドルまで増やす、という目標が掲げられたのですが、この目標が2020年までに未達成に終わったことが議題として取り上げられ、途上国から批判されました。先進国やその他の国は、2025年に向けてこの目標達成のためのさらなる努力を続けることが決まりました。2025年以降の資金目標に関する議論も始めることになりました。また、適応策(異常気象等への対応)を目的とした資金も2025年までに2019年比で倍増を目指すことになりました。

(3)パリ協定第6条のルール整備

 6条では、先進国から途上国への技術移転等の方法で、複数の国が協力して排出削減する制度が認められています。しかし、事業参加国の間で排出削減分を分配する際にダブルカウントが生じないかといった懸念が指摘されていました。また、京都議定書で認められていたクリーン開発メカニズム(CDM)で獲得された排出削減分をパリ協定の下でも活用したいと考える国がありますが、それによりかえって実際の排出量は増えてしまうという反対意見がありました。このような対立点が多く、これまで6条を実施に移すために必要な詳細ルールが決まっていなかったのですが、今回それがようやく合意されました。ダブルカウントとならないよう厳密に測定、報告することや、CDMの排出削減分は限定的にしか認めないといったルールを整備しました。

 日本は、独自に二国間クレジット制度(JCM)という制度を構築し、途上国の排出削減を支援してきたため、日本にとって重要なテーマでした。今後、日本の協力によって途上国で実現した排出削減枠の一部が日本の削減分としてカウントされる道が開けたことになります。

(4) 損失と損害への対応に関する議論

 気候変動に伴う豪雨や強風、干ばつ等による損失や損害が世界中で顕著になっています。これらの自然災害等による難民の数も増えています。特に途上国は先進国と比べると脆弱性が高く、これらの災害や社会不安を自力で克服できない場合があるため、パリ協定の下での基金創設などを求める途上国の声が強まっています。今回も途上国の求める実質的な制度や基金の構築には至りませんでしたが、対応方法について話し合いを続けていくことが合意されました。

(5) 各国のリーダーによる宣言、および多様な有志連合による声明

 COPでは例年、環境大臣などの閣僚級会合が2週目に開催されるのですが、今回はそれに加えて第1週目に首脳級会合が開催され、ジョンソン英首相やバイデン米大統領、日本からも岸田総理大臣が出席し、総勢130名を超える首脳によるスピーチが行われました。パリ協定が採択されたCOP21では首脳級会合が後半に置かれ、ここで最後の政治的な調整が行われましたが、今回は、直前にイタリアで開催されたG20から直接移動するというスケジュールの関係でCOP26開催直後に実施されたという事情がありました。この中で、いくつかの国は、新たな目標を掲げました。例えばインドは、「2070年までに実質ゼロを目指し、また2030年に再生可能エネルギー50%を目指す」と宣言しました。

 また、主に英国政府の主導で、自発的な宣言が会期中を通じて数多く公表されました。これまでのCOPでは、全ての国の合意を得ることが重視されてきたため、特定の国の意見を反映させづらいという課題がありましたが、今回の会合では、様々なテーマに対して、国だけでなく企業なども含めて有志連合を形成するスタイルが効果的でした。

 例えば、石炭火力発電所の全廃については、2017年に英国とカナダの主導で始まった「脱石炭火力連合」という国際連携が出発点でしたが、加盟国の増加を踏まえ、「先進国は2030年に廃止、途上国は2040年に廃止」「石炭火力の新設を行わない」などの声明が発出されました。自動車に関しては、「世界の全ての新車販売について、主要市場では2035年、世界全体では2040年までに電気自動車(EV)など二酸化炭素を排出しないゼロエミッション車とすることを目指す」という内容に20を超える国や企業が合意しました。森林に関しては、未だに世界全体では森林面積の減少が続いているため、「その減少傾向を2030年までに止め、回復に向かわせよう」という声明が出され、100か国以上が賛同しました。メタンガスを2030年までに2020年比で30%削減する「グローバル・メタン・プレッジ」を欧州連合と米国が中心になって呼び掛け、世界100か国以上が賛同しました。さらに、米国と中国が共同で声明を発表し、排出削減に向けて多様な部門において二国間で協力を進めることや、2025年までに2035年の削減目標を提示することを宣言しました。

 現在、各国の削減目標を足し合わせても1.5℃には不十分なのですが、これらの全ての自発的な声明が実現すれば、2℃を下回る可能性が見えてきました。

COP26の評価と今後の課題

 今回、英国政府が1年以上かけて周到に準備したことや、バイデン政権の誕生により、COP26は一定の成果を上げられたと評価できます。何よりも世界全体で1.5℃を目指すことが確認された点が重要です。しかし、すでに1℃以上気温が上昇してしまっている今の状態からこの目標を達成するには、社会システム変革を含めた大胆な対応を要します。今回の目標確認はようやくスタート地点に立ったところで、今後それに向けて全速力で走り出さなくてはならないのです。

 そのため、今後は民間企業や自治体の役割がますます重視されます。今回新たに取り入れられた「有志連合」の手段は、これらのステークホルダーにメッセージを送る上で効果的でした。有志連合の中には、目標達成に不可欠な国が参加していない場合もあるのですが、賛同する国や主要企業が声明を出すことで、他の企業や自治体は自らの行動を判断しやすくなります。国単位での排出削減目標の提示が一段落した今、求められるのは具体の政策の方向性を示すことです。自主的な取り組みを宣言する手段の活用は、今後もしばらく続くでしょう。
 
 また、会場の外では、多くの市民や若者が集まり、デモ行進が行われました。交渉の中でも、このような若者たちの声に言及し、本会合で1.5℃が目標とされなければ、子供や孫たちの世代に対して取り返しがつかないことになるという発言が多く聞かれました。今まで以上に将来世代への配慮が求められたCOPとなりました。


会場外のデモ行進
写真提供 気候変動適応センター 増冨祐司