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2019年4月26日

vol.8-2 中村省吾 研究員(福島支部)<後編>
中山間地域の持続可能性:新しい価値観を考える

前編に引き続き中村省吾研究員(福島支部 地域環境創生研究室)にお話しを聞いていきます。今行っている研究活動や、その根底にある価値観についてお話しいただきました。

中村さんインタビュー後編トップ画像

中山間地域の持続可能性:新しい価値観を考える

前編では、中村さんは農村計画学という分野から地域の課題にアプローチしていることや、異なるアプローチの研究者と共通の課題の取り組む中での発見をお話しいただきました。

前編「“地域に貢献したい”:農村計画学のアプローチから」はこちら:http://www.nies.go.jp/social/interview08a_nakamura.html

後編では、中村さんが所属している地域環境創生研究室が取り組んでいる福島県新地町や三島町で地域に密着した研究活動に関連したお話しを聞きました。

現在の主な研究内容はどのようなものですか?

当初はフィールドが新地町だけだったので、新地町での調査研究にかなり時間を割いてたんですけど、2016年の夏ぐらいから福島県の西側の奥会津地域にある三島町という自治体と連携したプロジェクトも立ち上がりまして、最近は新地町と三島町で50%ずつくらいの時間配分になっています。三島町とは2017年の8月に連携協定も締結してオフィシャルな関係もできたので、町の色々な取り組みを支援しています。

三島町ではまずアンケート調査をいくつか実施して、集めた情報を分析して町にお返しし、それをもとに今後の進め方について話し合うといった双方向のやり取りを重視しながらやっていこうと思っています。

それはどういったアンケート調査ですか。

森林や木質バイオマスに関する調査です。木質バイオマスというのは、樹木を伐採したときに出てくる枝などの林地残材や、製材工場で出る端材などのことで、それらを薪やペレット、チップに加工することでエネルギー源としての活用が注目されています。三島町は総面積の9割ぐらいが森林で、只見川のダム開発が盛んだった1950年頃は8,000人近くの人口があったのですが、現在は1,600人ぐらいで、これからも減少していくと予想されています。そんな中で、三島町の町長さんは、「都会と同じことやってもしょうがないので、三島が持っている地域の資源を何とか生かしてうまく町づくりをしたい」と考えています。では何があるかと考えると、「やっぱり森や山だろう」ということで、とても熱心に、我々も一緒に議論させてもらっています。その際、町の人がどのように木材を使っているか、例えば薪を使ってるか、という調査自体が今まで行われていなかったので、「まず1回、現状把握しましょうか」というのが今の段階です。

 もう一つは、これは三島町だけの問題ではありませんが、山を所有している人たちが、自分たちの山の境界を把握できていないという問題があります。管理も面倒くさいから相続をしたくないとか、そういう問題が今、日本のあちこちであります。そういった問題についても意識調査をしてみましょうという話もあります。

新地町についても三島町についても、どれぐらいのスパンで展望を考えていますか。

中村さんインタビュー後編2

新地町と私たちとの関わりは、元々は、環境未来都市の取り組みを支援するところから始まり、その一環として「相馬港のLNG基地に供給される液化天然ガスを活用して、再建予定のJR新地駅周辺で地域エネルギーシステムを構築できないか」という課題に対して、シミュレーション結果の提供や、『くらしアシストシステム』(*3)を入れて、「家庭の消費エネルギーを見える化しましょう」といった調査研究を進めてきました。その後、私たちが提供した知見も踏まえながら検討が進みまして、2018年には新地町と民間事業者と共同で「新地スマートエナジー」という地域エネルギー会社が設立されました。まちづくりには設備や建物を整備するハード面と、人材育成や意識醸成といったソフト面がありますが、ハード面の方は具体的な事業として新地スマートエナジー社が主に担われると思いますので、NIESは人的支援などのソフト面を中心とした取り組みを進めています。今年度で駅周辺の再開発がひと段落しますが、次の展開の検討も始まっていますので、あと数年は通うことになりそうです。

「くらしアシストシステム」も、どちらかと言うとエネルギーの見える化のほうにフォーカスしていましたが、元々地域で色々な情報を共有してもらうために作ったシステムなので、これらの機能をうまくまちづくりに取り入れられないか、相談しているところです。

*3)くらしアシストシステム:各家庭の電力消費量の見える化を通じた省エネの取り組みの推進と、地域の様々なくらしの情報の共有を目的として開発された独自のシステム。2014年から町内約80世帯を対象に実証試験が続けられています。初期は各家庭に専用のタブレットを配布し、利用してもらっていましたが、今はそれ以外のシステムからも情報を見られるようになりました。

※新地町での研究については過去の環境儀でも紹介されています。http://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/60/02-03.html

あのタブレットの情報は、役場の人も見られるんですか。何かに活用されたりしてるんでしょうか。

今はスマートフォンでも見れるようになっていますが、まだ具体的な活用にまでは至ってないのが現状です。我々と役場の今後の課題ですね。そういった状況はありますが、あと2~3年ぐらいで取り組んでいくんだろうなと思っています。

 三島のほうは、今の中長期計画内(2016~2020年度)でひと段落するぐらいのスパンでやっていこうというところです。今は情報を集めている段階ですが、今後は補助事業も活用しながら何らかの木質バイオマスのエネルギーシステムを入れていこうという流れにできれば…と町役場とも議論しています。まずは5年を目安にやってみようかというところですね。

一方で、町としてはずっと続いていくからこそ、その限られた期間であっても、それがいかに存続できるかが大事なのかなと思いますが、どうでしょうか?

中村さんインタビュー後編3

経済的に成り立つかとかいうところがやっぱり大事になってきます。新地町では多くの関係者の努力の甲斐あって、うまく成り立つような仕組みができつつあります。三島町のほうはなかなか難しくて、木質バイオマスを使ったしくみを経済的に成り立たせるのは相当難しいだろうというのが一般的な評価になっています。日本の林業は1960年代の燃料革命や外国産材の輸入増加によって国産材の価格が下がってしまい、一気に衰退してしまいました。今では山から木を出すだけで赤字になってしまう場合も多く、そういう中で「木を使いましょう」と言っても、「いや、山から木を出せもしないのに」となってしまう訳です。

産業として成り立たせることが難しいんですね。

もちろん現場では色々工夫して頑張っておられますが、なかなか厳しいのが現状です。経済的な価値観だけではなかなか動かせないので、そこに例えば環境とか防災とかいった別の価値観を入れ込んで、「経済的にはちょっと赤字かもしれないけど、防災や環境面ではこれくらいプラスなんだからまぁいい話じゃないか」という方向に持っていくのが大事だというところは、自治体の方もかなり共感されています。ただ、そこに適当な価値観をあてはめてもあまり意味がなく、納得もしてもらえません。じゃあ、何があるんだろうというところを科学的な知見も提供しながらみんなで議論し、それがうまく見つけられれば、民間を行政が支援しながら森林整備を進めるしくみが作りやすくなると思います。

価値観をつくるのはすごく難しいイメージです。

難しいですよね。森林とか農地には多面的な機能があるという話がありまして、例えば水田は、お米を作る以外にも、雨が降ったときに水を貯めるダムの役割があると言われており、「トータルで見ると、農業以外にもこんなに多様な価値があるんだよ」ということになります。

生態系サービスの話も同様で、そういったグローバルな議論にうまく乗っかって、それを「日本だと、奥会津だとこうだよね」と応用していく。実際はそう簡単な話ではないんですが、そういったいう視点も参考になると思います。

最後に今後やっていきたいことや考えていきたいことは何でしょうか。

なかなか難しい質問ですね。僕自身の元々の問題意識は町側、都市側よりも中山間地域側にあって、その中山間地域の課題に対してこれまでいろいろなアプローチを考えてきました。その材料というか、素材というか、(問題へのアプローチとしての)道具が、環境研に来て増えたので、それらも使って、もっと中山間地域がうまく持続できるような提案ができるような研究をしていきたいとは思っています。ただ一方で、中山間地域の持続可能性みたいな話って、環境負荷の面から見るとあまり好ましくない面もあるんです。いわゆる「コンパクトシティ」とも関連しますが、「(中山間地域からは)撤退するべき」みたいな議論にもしっかり向き合わないといけないと思います。

「不便なら移住すればいいのでは?」とかですか?

そうなんです。結構ドライに「何で彼らはあんな所にいつまでも住んでるんですか」みたいな話を伺うこともありました(笑)。「うん、確かに」と思わざるを得ないところもあるんですけど、個人的には、でも住み続けたい人がいるのであれば、そこをうまく支援できるような仕組みを考えるのもわれわれの一つの役目なのではないかとも思うので、自分の立ち位置としては持っておきたいと考えています。コンパクトシティとか撤退論については否定しませんし、それが世の流れかもしれません。ただ、それはそれとして、そうじゃない立ち位置も大事にした研究をしていきたいですね。

「暮らしの機能」だけではなくて、「住まいの価値観」みたいなものもありますよね。

そうなんですよね。それが今の、例えば70代80代の年代の人たちだけが持っている価値観なのか、実は下の世代にも受け継がれてて、そこは維持されていくのかというのも個人的には気になっています。一時期、限界集落や限界自治体といった言葉が流行りましたが、これからの10年20年がそれらがどれくらい現実化するのかの瀬戸際と思いますので、現場の声をしっかり聞きながらどういった研究支援ができるかを考えていきたいです。

中村さんはいろんな価値観を考える過程に立たれるのかなという印象です。

そうですね。最初に言った混住化のときもそうですけど、日本の歴史の中で、この100年ぐらいで価値観がものすごく揺れているので、どこかに収束していく話ではないと思います。まぁ面白い時代ですよね、そういう意味でも。今は都市住民の農村回帰というか、「農村に住みたい若者が増えています」といった話も聞きますよね。昔であれば、基本的に農村から都会に人が出ていくというのが、それこそ明治時代から戦後にかけてずっとあった話なんですけど、その価値観が揺れ始めたというのも非常に興味深いと思います。

最後に

中山間地域の住まいに関する新しい価値観を作っていくことは簡単ではないかもしれません。それでも、自分なりの立ち位置を大事にしながらこれからも研究活動を進めていって、いつかまたその後の話を伺ってみたいです。

(聞き手:杦本友里 社会環境システム研究センター)
(撮影:成田正司 企画部広報室)