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2015年11月2日

vol.1-1 藤田 壮 センター長<前編>
社会センターの役割・ビジョン:社会実装と知識のリーダーシップ

インタビュー対象

藤田 壮:社会環境システム研究センター センター長

スタッフインタビュー初回の今回は、
1.社会環境システム研究センターがどんな研究をやっているところなのか、
2.また藤田センター長の研究のご関心はどういったところにあるのか、
を伺ってみました。
前後編の2回に分けて、お届けします。

前編では、社会環境システム研究センターの役割や目指すもの(ビジョン)についてのインタビューした様子を紹介します。

インタビュー内容<前編>

社会環境システム研究センター(社会センター)はどんなことをやっているところですか?

(藤田)社会センターとしての役割は三つあると思っています。
一つ目は社会科学の専門家の集まりという特徴があります。実際に大気環境や水環境とか、物理科学的な事象、生物の事象がどの様であるかを解き明かすことは他の各センターがやっています。社会センターはその中で人間にどう影響を与えているかとか、人間がどうやって計画や政策に取り込むか、いわゆる社会科学的な部分を担うのだろうと思います。社会科学の専門家としての役割が一つあります。これは経済学とか、社会学とか、若干広い意味の社会学として、工学、土木計画、都市計画等の分野の方々が集まって社会科学的な視点で人間と物理科学・生物環境とのインタラクションを考えているのが、これが一つ目の特徴となります。

二つ目はそれを具体的に社会に実践していく役割になります。これは、社会センターの母体になる様な、幾つかのチームの時から実際に役割として議論されてきたミッションですが、実際に環境政策は水の研究だけで動かないし、大気の研究だけでも動かないわけです。社会に展開していくためには色んな環境を取りまとめて、社会の中で実現して行く必要があります。そのためには人とのコミュニケーションを取ったり、計画づくりの場に参加したり、あるいは実際にその環境政策をつくるということを我々が自治体と一緒にやり、行政と一緒にやる、そういう場に参加していく事自身が専門性になります。社会実践、社会実装というのが、二番目となります。

三つ目は、一つ目と二つ目を組み合わせて解決策を見出す役割です。これは多分ここ数年で、社会センターの役割として、あるいは研究所の役割として重要性がまして注目されてきた役割です。従来、環境研究というのは必ずしも問題を解決しなくても良かったともいえます。環境が悪化することに反対することや、環境が悪化している状況を観察することや、こういう事をするといけないと言えば良かったのです。一方で21世紀になってからは本当に社会自体が環境を何とかしたいと変質している状況にあります。このままの環境では都市の環境ももたないし、生物環境ももたないし、地球環境ももたないという事を社会の合意として認識される様になってきています。そうなると、いわゆる野党・与党でいうと野党として、ある種現状に対して評論するとか、現状に対して批判的な意見を述べると言う事ではなくて、どうすれば良いかを考える与党的な立場を環境研究全体が求められている状況があります。多様な環境問題をどの様に解決していくか、具体的解決策を考えるというのが研究所の新しい役割ですが、その中で実際に環境の対策を考えて、具体化していく事が社会センターに求められている三つ目の役割になります。

他のセンターと比べたら、社会との関わりが深い部分が特徴になってくるのでしょうか?

 各センターにもその様な人は勿論います。例えば生物と人のかかわりとか、地球科学と社会のかかわりを研究する方がいらっしゃいますが、社会センターはさらに総合的に環境と社会とのかかわりを研究戦略の主眼に置いていかないといけない役割がありますね。

実際に「社会実装」していく中で一番の課題はどういう点ですか?

 社会実装は国スケールで政策に活かしていくこともあれば、あるいは地域の政策に活かしていく事は、街づくりとか、具体的な環境事業などの、より具体的なスケールで具体化する形があります。一番難しいところは環境問題の解決という視点で持つ時間のスケールと、社会の関係者が通常関心を持つ時間スケールが必ずしも一致しないことだと思います。あるいは、時間スケールだけで無く、空間スケールもそうかもしれないですね。どうしても個人としての我々も含め、目先の事が大事でありますし、目に見える事が一番分かりやすく行動にしやすいけども、環境というと、たとえば地球の裏側の森林を心配しないといけないとか、50年後の未来を今心配をしないといけないというとことが本質となります。本来社会が持つべきで広い、長い視野というのを、短い事業とか政策に反映する論理構造とか方法論を確立することが難しい課題だと思いますね。

例えば3年間でこの事業をしたいが、3年間では環境は変わらない、みたいなことですか?

 その事もあるかも知れないけど、例えば30年後を考えるとこの場所はこういう風にすべきだ、というと将来の姿には皆さん納得するのですけど、30年後の為になる街づくりを今すぐにコストをかけて実現したいかというと皆さんやりたくないことが多いわけです。我々は、今幸せになりたいし、今快適になりたい。目で見える分かりやすい所に人間の行動は向かう傾向があります。従来の環境研究というのは環境を大事にしようとか、長い視点で考え、地球の事を考えて言って、あとは社会にお任せするという立場でいれば良かったですが、先ほど言った新しい環境研究の役割を求められる段階では、環境研究者、評論家や外部のオブザーバーであるかの様に環境はこうあるべきだと言う事を外側から言うだけでは役割を果たしきれないといえます。具体的に「こういう風に皆さんしましょう」と解決策を提案する為には、そうしたスコープ(見方)というか、関心というかを提供し、理論的なターゲットと実際の現実的なターゲットとが乖離していることを橋渡すことが環境研究の課題でもあり挑戦であるといえます。

社会センターのビジョンはありますか?
社会へどういうインパクトを与えたいか、具体的なことなどがあれば教えてください。

 我々の環境と社会のかかわりを考える研究者集団としては世界でも有数なスキルの集積を持っているといえます。先ず、我々の知恵や経験が、世界の学術界や研究界に対して、ある程度のリーダーシップを取っていく、研究世界の環境社会研究の中でのリーダー的な役割を果たしていきたいのが一つの目標といえます。その為には論文も必要ですし、色んな研究プロジェクトも必要になって来ます。


二つ目は研究を実践に移すうえで社会の中でのリーダーシップを発揮することを目指すことです。我々が社会とのかかわりという事を共有する研究機関であり、研究センターであるためには、論文を執筆すること、新しいモデルを作ることに加えて、それが社会で役立って、社会の環境の劣化を防ぐとか、環境の改善を助ける事ができたという事を実現していかないといけません。具体的な環境社会の実現に、非常に規模は小さくて良いけど、具体的に貢献していくという事が社会センターの目指すべきビジョンだと思いますね。

三つ目のビジョンは知識の再生産をめざすことです。先ほどの一つ目、二つ目が出来れば、相互にインタラクト(相互作用)していると言えます。社会実践を進めることで、我々は研究の理論とか、モデルがより高度化するかもしれません。今までは、モデルを作っていき、環境観測なんかをして来たけれども、それが正しいかは往々にして分からなさがあります。モデルというのは作れるけども、本当に2020年、2050年の将来我々の予測した事は正しいかは、もし我々のモデルで政策が動いて、実現していなければそれを検証できないわけです。先ほどの二番目の課題が実際に具体化できれば、我々のモデルは社会で検証されていって、社会に検査・精査されていく事になるので、そうすると我々自身の研究の内容が高度化していくのだろうと思います。人と知識を再生産していくという事で、そういう学術的貢献とか、社会の貢献という事になって人がどんどん集まって来て、大学と連携したり、海外と連携する事でそこに知恵が、知識がどんどん集まって、外にも発信していくし、知識が発信する事で人材が鍛えられて、あるいは教育されて、又旅立って行くというように、人材の循環生産みたいな場をめざすことが、三つ目として重要なビジョンとなりますね。

次期・中期計画に向けて一番の課題意識というか、これはクリアしたい、ということは?

 今の3点が主ですが、それに加えて、その中で我々は今次期・中期計画の議論をしていく中でやはり研究所から統合という事を強く求められています。別に我々だけが統合する必要は無いですけれど、環境自体が地球環境と地域環境、或は生物環境と化学物質環境など、そういったものを色々まとめて、組み合せた形で社会を変えていかないといけないとすると、その為には色んな概念を束ねて、それを組み合せる事によって解決策を生み出していく事が必要だと、研究所全体に言われていますけど、その中で我々は多分そこの全てを合せて進めるという統合と言う役割を担うという事は多分求められてくると思います。

これからのビジョンというのは、三つでいうと一つは学術貢献、一つは社会貢献、それから人材の育成ですが、いろんなセンターなり、外部の研究機関、教育機関と連携して実現していくだろうと思いますね。
あと、若い研究者がうちのセンターに、うちの研究所に来たいと思う様なものを次の5年で作っていきたいと願っています。若い研究者、若いいろいろな層、場合によってはリタイアされた方でもいいですし、中堅の研究者、博士を取ったばかりでも良いですし、取ろうと考えている研究者の方々が、いろんな学術の発見があって、いろんな社会参加ができて、そういう事を実現する為にも、多分こういう情報発信というのが大切となります。

いろんなアイデアを持った人が集まる様な場所にしたいと。

 そうですね。うちの研究所、社会センターもそうかもしれませんが、うちの研究所自身がそういうものを持っている割に、他から知られていないという事は、出し渋っているかも知れない。それはこの前国際助言会合(*1)でも言われてましたね。
その為にいろんな場所に出て行き環境教育の機会とか、環境情報発信の機会なんかに参加して行くのは大変ですけど、それは必要かもしれない。そういう事が我々の研究と離れたものではなく、お互いに研究の質を高めていったり、或いは新しい視点を発見する場になれる様にしないといけないだろうと思います。

*1:国際助言会合:海外の専門家を招いて、国立環境研究所の研究活動の現状や今後について、助言を求めるための会合。

後編へ続く・・・ 
(聞き手:杦本友里(社会環境システム研究センター)、2015年9月28日インタビュー実施)
(撮影:成田正司(企画部広報室))