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2015年7月14日

排出権取引の協力ゲーム:買い手に支配された国際許可証市場

本城慶多

論文情報

本城慶多 特別研究員

Cooperative Emissions Trading Game: International Permit Market Dominated by Buyers
排出権取引の協力ゲーム:買い手に支配された国際許可証市場

著者:本城慶多(Keita Honjo)
雑誌名:PLOS ONE(2015年6月受理,オンライン出版)

概要

排出権取引は,二酸化炭素(CO2)を排出する権利(許可証:Permit)の割当と取引を通じて,社会全体のCO2排出量を望ましい水準に調整する制度です.国家間の排出権取引は,京都議定書の削減目標を達成する手段のひとつとして認められており,日本もウクライナやチェコといった経済移行国から許可証を購入してきました.CO2排出にコストを付与することで排出削減につなげる排出権取引ですが,必ずしもうまく機能しているとは言えません.特に,国家間の取引において許可証の価格が低迷しており,排出削減に取り組むインセンティブを十分に提供できていません.許可証価格の下落は,京都議定書が抱える制度上の問題点に起因すると考えられています.  今回の研究では,協力ゲーム理論に基づいて国家間の交渉プロセスをモデリングし,許可証の価格が下落するメカニズムを調べました.協力ゲーム理論は,協力によって生じた利益の配分を決定する理論で,協力関係にあるメンバーの交渉力(Bargaining power)を測ることができます.許可証の取引を国家間の協力とみなして,各国の交渉力を数学的に評価したところ,買い手が売り手を上回る交渉力をもつことが分かりました.この結果は,買い手が交渉を通じて許可証の価格を抑制できることを意味します(図1).さらに,市場データを用いた分析から,京都議定書が買い手に有利な枠組みとなっていることが分かりました(図2).許可証の国際市場は買い手によって支配されており,価格の低迷は必然的な結果であると言えます.今回の研究で提唱したモデルはいくつもの強い仮定に基づく限定的なものですが,適切な制度設計なくして排出権取引は機能しないことを明確に示しています.

図1:許可証の取引価格の数式.許可証価格は買い手の支払意思額と供給側交渉力の積で表される.
図2:許可証市場における需要側交渉力.第1約束期間において日本は高い交渉力を発揮した.