
| 《研究課題コ−ド》 1115AA031 |
| 《課題名》 | |
| 化学物質等の生態リスク評価・管理手法に関する研究 Studies on the ecological risk assessment and management of pollutant chemicals |
|
| 《区分名》 | |
| 《担当者》 | |
| ○田中嘉成(環境リスク研究センター),堀口敏宏,鑪迫典久,多田満,横溝裕行,林岳彦,児玉圭太,真野浩行,岡知宏,李政勲,日引聡 | |
| 《キ−ワ−ド》 | |
| 生態リスク,生態毒性学,生物多様性,貧酸素水塊,最適管理 ecological risk assessment, ecotoxicology, biodiversity, hypoxia, optimal management |
|
| 《目的》 | |
| 化学物質の合理的な管理のためには、曝露評価、人健康および生態リスク評価、管理コストと便益の分析に基づく最適管理法の統合が望まれる。本研究は、これらの中で特に生態リスク評価法と最適管理法をデータに基づく数理的手法によって高精度化し、さらに統合化を試みる。化学物質の生態影響評価の分野では、生態系の「何」を守るべきか、その影響評価のためにどのような解析手法が有効か明確に示されていない。本研究では、従来の生態毒性試験法や毒性データ解析法に生態学の理論的手法を大幅に導入することによって、生態リスク評価における知的イノベーションを目指す。そのために、生物個体群の存続可能性や、種間相互作用を介する生態系のサービス機能などの新たな評価尺度を採用し、従来のPEC/PNEC比(環境中曝露予測濃度と無影響濃度との比率)による単純化されたリスク評価手法を生態学的視点から再考する。 自然生態系では、化学物質は個体群への影響を介して生物群集の構造(種構成)を変化させ、最終的には生態系機能にインパクトを与えると考えられている。一方、化学物質の生物群集レベルの影響は、科学的な知見が最も乏しい分野と見做されている。本研究では、第2期中期計画における重点プロジェクト(環境リスク研究プログラムPJ4)を引き継ぎ、物質循環機能に着目した生態影響評価法の研究開発を行う。解析手法の適用事例として、東京湾の底棲魚介類を対象に、野外モニタリングと室内実験の結果を統合した個体群変動シミュレーションを実行し、富栄養化に付随する貧酸素水塊等による個体群・群集レベルの影響を評価する。 さらに、化学物質等の管理法を合理化するため、排出削減のコストと生態リスク評価における不確実性(推定誤差)を考慮に入れた最適管理法の理論的研究を行う。不確かな情報から最善の管理法を導出する解析手法として「情報ギャップ理論」を採用し、生態系モデルに基づく化学物質の最適管理の問題に適用する。室内実験・野外調査データ、予測モデルおよび管理理論を総合化し地域レベルの環境問題に適用する事例として、有機汚濁による貧酸素水塊形成モデルと底棲魚介類の生活史モデルを統合することによって、東京湾における貧酸素水塊の生態系影響評価を行い、生態系の最適管理法の提言を行う。 最終目標として、(1)化学物質等に対する環境基準値策定に於ける科学的根拠を提供すること、(2)生態毒性試験法および生態リスク評価手法の改良と提案をおこない、内分泌かく乱物質を含む影響評価の困難な化学物質のリスク評価・管理施策に貢献すること、(3)試験生物への毒性影響と生態系保全との関連に関する科学的な解釈を明確化することなどによって、環境政策を学術面からバックアップすることを目指す。 全体の研究は、作用のレベルに応じて2課題に区分し、さらに管理手法に関する1課題を加えて3課題から構成される。各課題は個別の研究テーマを年次計画に従って行うが、データや解析手法の点で相互に連携し、最終的に統合化された研究成果を目指す。 研究内容: 課題(1)個体群レベルにおける化学物質の生態リスクに関する研究 化学物質の生態リスクを、生物個体群の存続可能性への影響として評価するための解析手法を開発する。特に、内分泌かく乱物質など、他の化学物質とのリスク比較が困難な物質を取り上げ、ミジンコの繁殖阻害や性比かく乱作用を組み込んだ毒性反応モデルから個体群増殖率や存続可能性への影響を推定する。個体群レベル効果に基づく生態リスク評価の利点は、多様なリスク要因を単一の尺度で定量的に表すことができることである。本研究ではさらに、シャコやマコガレイなどの有用底棲魚介類の減少要因として、化学物質以外に有機汚濁による貧酸素水塊、乱獲などの多要因に着目し、個体群モデルによる相対リスクの推定を試みる。 課題(2)群集・生態系レベルにおける化学物質の生態リスクに関する研究 種間相互作用を介する化学物質の生態影響を、藻類-ミジンコ-魚から構成される3栄養段階生態系モデルをベースにして、生態系機能の変化もしくは上位捕食者の絶滅リスクとして評価する解析手法を確立する。得られた生態リスク評価手法を既存の有害性情報に適用するとともに、数理モデルに基づく生態リスク評価手法の有効性をアクアリウム実験生態系によって検証する。地域レベルでの実環境中で観測される、生態リスク要因(化学物質汚染、貧酸素水塊、気候変動など)の相対的な重要性を明らかにする。事例研究として、東京湾および霞ヶ浦で観察された底棲魚介類群集および動植物プランクトン群集のかく乱因子を特定し、その有効な対策法を提言する。 課題(3)生態リスクの最適管理手法に関する研究 数理モデルと計算機シミュレーションによって、化学物質の最適管理手法を導出する。管理コストと様々な不確実性を考慮した費用対効果分析によって、社会経済分析の高度化を図る。データの不完全性を考慮した最適管理手法を、オペレーションズ・リサーチなどの数理的手法によって開発する。 また、課題(1)と連携し、底棲魚介類群集に対する貧酸素水塊の影響評価を基に、汚濁負荷量と貧酸素水塊形成の関係性、魚介類の経済価値評価を連動させ、情報ギャップ理論等の意思決定モデルによる最適管理シナリオの選定を試みる。さらに、課題(2)と連携して、生態系モデルを化学物質管理に適用する方を、種間相互作用(食うものと食われるものの関係など)や生態毒性に関する情報の不確実性によってどう変更させるべきかを理論的に示し、課題(1)よび(2)に関連する諸研究が、化学物質等の管理にどう生かすべきかの道筋を示すことを試みる。 |
|
| 《内容及び成果》 | |
| 群集レベル生態リスク評価のために、藻類-ミジンコ−魚類を想定した3種系生態リスク評価モデルを作成した。この3種系生態リスク評価モデルの目的は、化学物質の環境中における時間的(季節的)曝露変動や生物蓄積性、生分解性、藻類・ミジンコ・魚類を中心とした各種の生態毒性情報、評価対象となる生物種の野外における生態学的情報など、個別に研究されてきた分野の知見を数理モデルで統合化し、従来の生態リスク評価法を理論的に整理したうえで、最も合理的な生態リスク評価法を提案することにある。数理モデルは、3種間の捕食‐被食関係を組み込んだロトカ・ボルテラ方程式を基本にし、化学物質が各種の個体群増加を阻害する影響に加え、種間相互作用によって上位種に波及していく間接効果も評価する。最終的には、最上位種である魚(メダカ)の年あたり個体群増加率の低下分を生態リスクの指標とする。メダカの個体群には、齢構成と体サイズの動態を組み込み、野外調査で明らかになっている生活史パターン(繁殖、個体成長の年間スケジュール)が反映できるようにするとともに、化学物質の成長阻害毒性による慢性影響も評価できるようにした。メダカに関しては化学物質の体内濃度の動態をモデル化し、化学物質の生分解性や蓄積性の違いによる排出速度の違いが、環境暴露濃度の経時的変化による慢性的な毒性反応に与える影響がリスク評価に反映されるようにした。 東京湾におけるマクロベントス(比較的大型の底棲無脊椎動物)群集と水質・底質の時空間的関係についての解析を行い、貧酸素水塊がマクロベントスの空間分布および加入時期に影響を及ぼすことを明らかにした。得られた成果を論文としてまとめ、Marine Environmental Research誌に投稿し、受理された。また、貧酸素水塊がマクロベントスを通じて底棲魚介類群集に与える影響を調べるため、東京湾の底棲生物の食物網解析を進めている。 化学物質の管理のために、環境基準値(化学物質の環境中濃度の上限値)を超えない化学物質の排出量を設定する際、様々な不確実性がつきまとう。例えば、排水中濃度を低減させるためには設備投資や化学物質の使用量の削減が必要になるが、そのコストの大きさに不確実性がある。また、排出量を規制した場合の環境中濃度は正確に予測する事は難しい。さらに、化学物質の環境中濃度に対する影響を受ける生物の割合にも不確実性が伴う。現在は理論的根拠が明確でないままに環境基準値が決定されている。そこで、大きな不確実性の下で意思決定を行う場合に有用な情報ギャップ理論を用いて化学物質の排水基準値を設定するための理論を構築した。情報ギャップ理論は、不確実性を確率分布で記述する必要がなく、最も大きな不確実性のもとで、政策として受け入れる事のできる全コストの最大値を上回らない排水基準値を導きだすことができる。全コストは、排出量を削減するために必要な資金として算定されるコストと、影響を受ける種の割合に比例すると仮定した貨幣価値に換算した生物多様性減少コストの総和とした。 事例研究として、群馬県粕川において亜鉛の排水濃度を下げるために対策が必要な事業所を合理的に選定する予備的解析を行った。今後は、より詳細な解析を行い、大阪府石津川、群馬県碓氷川でも同様に事例研究に取り組む。 |
|
| 《期間》 平成23〜平成27年度(2011〜2015年度) | |
| 《備考》 | |