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アーカイブ集(Meiのひろば:海外報告便)


オランダ国旗イラスト

01. オランダ報告
  「ICCA-LRI ワークショップおよびOECD/IPCS ミーティング参加報告」

米元 純三

「アムステルダムの会場会議前」の様子の写真
アムステルダムの会場
会議前

 2008年6月16-17日にオランダ・アムステルダムで開催された国際化学工業協会協議会―長期研究イニシアティブワークショップ(INTERNATIONAL COUNCIL OF CHEMICAL ASSOCIATIONS LONG-RANGE RESEARCH INITIATIVE (ICCA-LRI))、「毒性試験、生物学的モニタリング、リスクアセスメントへの21世紀アプローチ(TWENTY-FIRST CENTURY APPROACHES TO TOXICITY TESTING, BIOMONITORING, AND RISK ASSESSMENT)」および6月19-20日にオランダ・ユトレヒトで開催されたOECD/IPCSのトキシコゲノミクスに関するアドバイザリーグループ拡大会議に参加した。


「運河のある風景」の写真
運河のある風景

 ICCA- LRIワークショップは、最近の生物学的モニタリングや毒性試験のための新しいツールの急速な発展が、リスクアセスメントの進化に重要な機会を提供しているとの認識に立って、リスクアセスメントの革新的なアプローチを進展させることを目的とし、新たな手法の研究、開発、応用、新たなツールにより生み出されたデータの伝達、データのヒト健康との関連への理解に重点を置いた。


「アムステルダムの街」の写真
アムステルダムの街

 全体会議のほか、ヒト生物学的モニタリング、新しいテクノロジー、リスクアセスメントの3つの分科会で討議が行われた。ヒト生物学的モニタリング分科会では、生物学的モニタリングデータの定性的・定量的理解のための新たなアプローチが紹介された。Biomonitoring Equivalent (BE)もその一つで、曝露濃度における許容濃度や参照値(reference dose)に相当する生体試料中の対象物質や代謝産物の濃度を表す。新しいテクノロジー分科会では、システムズバイオロジー(注1)の視野のもと、ゲノミクスを用いた毒性試験・スクリーニング法、ハイスループット(注2)毒性試験・スクリーニング法における新たな手法の応用について討議された。リスクアセスメント分科会では、これらのテクノロジーの進化のもと、リスクアセスメントが科学として公衆衛生のよりよい意思決定に向けてどのように改善されるべきかについて議論された。


「ユトレヒトの会場のホテル」の写真
ユトレヒトの会場のホテル

 引き続き開催されたOECD/IPCS の会議では、OECDのMolecular Screening Projectの先導プロジェクトである米国EPA、ToxCastTMProgram(注3)の進捗状況の報告、今後の方向性などについて議論された。 ToxCastTMProgram は、 computational chemistry(注4)、生物活性のプロファイリング、トキシコゲノミクス(注5)、などのデータを用いて、ハイスループットに化学物質の毒性を予測し、さらなる毒性を検討するための優先順位をつける手法開発のプログラムである。ToxCastTMProgramPhase I は、2007年4月に立ち上げられ、毒性情報の十分な農薬を中心とした320の化学物質について265のバイオアッセイ(注6)が行われた。たとえば細胞毒性のバイオアッセイでは、ヒト由来の細胞を中心とした13種の細胞を用い、14段階の濃度について1536穴のプレートでハイスループットスクリーニングを行っている。従来のハイスループットスクリーニングと異なり、様々な細胞種、多くの濃度レベルを用いることにより毒性や用量― 反応関係に関する多くの情報を一度に得ることが可能となっており、化学物質毒性スクリーニングの強力なツールと感じられた。


「ユトレヒトの会議休憩時間」の様子の写真
ユトレヒトの会議休憩時間

 2つの会議を通して、化学物質のmode of action(作用モード)、toxic pathway (毒性の作用経路)への理解、また、モデルを適用する過程の透明性が強調されていた。mode of actionとは、agent(作因)と細胞との相互作用に始まり、機能や解剖学的変化を通してがんや健康影響に至るkey event(重要事象)とプロセスを指す概念で、より詳細な分子レベルのメカニズムを表すmechanism of action(作用メカニズム)とは区別される。作用モードの理解は、動物を用いた試験結果のヒトにおける環境曝露との関連の評価、低用量域における用量 ―反応関係の洞察、感受性の高い集団およびライフステージの識別に有用であり、リスクアセスメント精緻化のための重要な要素である。

注1  システムズバイオロジー(systems biology) : システム生物学。複雑な生命現象の解明のため、生命を一つのシステムとしてとらえ、解析する学問分野。

注2  ハイスループット: 自動的に高速で多数の検体を調べること。

注3  ToxCastTMProgram http://www.epa.gov/ncct/toxcast/ (<EPA HP )

注4  computational chemistry 計算化学。化学の問題を計算によって取扱う化学の一分野。

注5  トキシコゲノミクス: トキシコロジー:toxicology(毒性学)とゲノミクス:genomics(ゲノム科学)を合成した造語。化学物質がヒトや生物に及ぼす毒性を遺伝子や蛋白質レベルで解析し、評価、それを未然に防止することを研究する分野。

注6  バイオアッセイ: 生物検定法、生物学的(毒性)試験。生物材料を用いて、生物学的応答から、生物作用を評価する方法。


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