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アーカイブ集(Meiのひろば:化学のひろば)


04. 魚介類を経由した曝露評価

櫻井 健郎


化学物質が人にいたる経路

 化学物質が人の健康に及ぼす影響のリスクを評価し、管理する上で、曝露評価は、毒性影響の評価と並んで、重要な過程です(*1)。ここでいう曝露とは、人が化学物質へ接触すること、およびその度合い、といった意味であり、何にどのようにしてどのくらい曝露されているかを調べることが曝露評価です。人は、生きていく上で外界からさまざまな物質を取り込んでおり、これが同時に人が化学物質へ曝露される経路となります。たとえば、呼吸、水を飲んだりものを食べたりすること、皮膚からの吸収が主な経路です。私たちは多数の化学物質に曝露されており、個々の化学物質の性質、使われ方、また、それぞれの人の住んでいる場所や、時間、生活習慣によって曝露の経路は異なってきます。


化学物質の摂取源としての魚介類

「日本における蛋白質摂取に占める食品群ごとの割合」を示した円グラフ
図1:日本における蛋白質摂取に占める
食品群ごとの割合(*2)

 化学物質のリスクを効率的に管理するためには、個々の化学物質がどこからやってきたのかを知ることが有効です。環境(大気、河川・湖・海、土壌、等)中に存在する、水溶性や揮発性がそれほど高くない化学物質の人への主な曝露経路は、動植物経由、つまり食べ物の摂取と考えられています。 統計資料(*2)によると、世界全体で食料としての蛋白質の供給量の6%弱を魚介類が占めており、魚介類が重要な蛋白源であることがわかります。蛋白源としての魚介類の寄与率はゼロから一番高いモルディブ共和国の二分の一程度まで国によって大きな差があります。日本では世界で三番目に高く、四分の一程度で、穀物や肉類と比べても高くなっており、世界の中で、食料としての水生生物に多くを依存している国といえます。したがって、日本特有の状況として、水生生物を経由した環境から人への化学物質の曝露を、しっかりと調べておく必要があります。また、水生生物やこれを捕食する動物(海棲哺乳類等)に依存した食生活を送る人々が世界中に生活していることから、水生生物を経由した化学物質への曝露の研究は国際貢献の観点からも重要です。


水生生物への化学物質の移行の研究

水底環境における水生生物イメージ挿絵

 水生生物内の化学物質濃度を周辺の環境中の濃度から推定するには、化学物質が水生生物へ移行する各経路について、さまざまな水域や環境条件に適用可能な形で、移行過程のモデル(注1)を構築する必要があります。河川、湖、海等での生息環境から水生生物への化学物質の移行の研究は、水に溶解した化学物質や餌中に含まれる化学物質が、どの程度水生生物に取り込まれるかの解明に重点をおいて進められてきました。一方、残留性(注2)の化学物質の多くは、水環境の中で底の泥や砂(底質)に存在する割合が高いと推定され、また、魚体中の化学物質量のうち底質に由来するものが大部分を占める場合があることが指摘されてきています。しかし、これら底質に含まれる残留性の化学物質が底質からどの程度水生生物に移行するか、十分に調べられていません。そこで私たちは、底質を敷きつめた水槽中で魚を飼育し、底質から魚への化学物質の移行を調べる実験を行い、その結果を基にモデル数式を理論的に検証するとともに、魚体内の濃度の変化を解析することで、さまざまな経路を通じた移行の速度などを規定するパラメーターの取得を進めています。これまでに、底生魚を用いた実験で、化学物質を含む底質あるいは懸濁粒子が存在することで、餌生物の捕食を介さずに魚体内の化学物質濃度が上昇することを確認し、また、底質から魚体内への移行のしやすさが、化学物質によってどの程度異なるのかなどを明らかにしつつあります。また、捕食による経路など各経路での移行についても同様に研究を進めています。底質中の化学物質が、その水域の生態系中の生物に移行する度合いを適切に予測することによって、水生生物を経由した人への化学物質の曝露評価をより確かなものにしたいと考えています。

注1  モデル : 現実の現象を記述し、理解するための試みとして、単純化・抽象化を行ったもの。

注2  残留性 : Meiのひろばインタビュー「POPsとは何でしょう?」参照


【参考資料】

*1  National Research Council: Risk assessment in the Federal Government: Managing the process. National Academy Press (1983)

*2  FAO(国際連合食糧農業機関)および厚生労働省実施の国民健康・栄養調査による。


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