• ひろばHOME
  • アーカイブ集(Meiのひろば)
  • ひろば案内

アーカイブ集(Meiのひろば:健康のひろば)


02. 生活環境中の電磁場の健康リスク

黒河 佳香


 われわれの身のまわりは電磁場であふれています。もっとも身近な電磁場はわれわれの目が感知する可視光線です。また地球の磁気は、向きの変わらない電磁場のひとつ、静磁場です。ほとんどの電磁場はたえまなくその向きを変えて振動しており、その1秒間の振動数をヘルツで表すきまりになっています。可視光線はわれわれ生物が太古のむかしから適応してうまく役立たせている安全な電磁場ですが、現在のところ、われわれが自らの手で生活環境中に作り出している2種類の電磁場について、その過剰な曝露(注1)がわれわれの健康に悪影響をあたえるリスクが議論されています。1つは電力供給にともなって発生する50/60ヘルツの超低周波電磁場、1つは携帯電話から発生する数ギガヘルツ(数十億ヘルツ)の電波です。


「生体局所に与える電磁場の2つの物理効果(誘導電流の発生と温度の上昇)を示した図」

 これらの電磁場がわれわれの体に作用するメカニズムとして、2つのものが明確になっています。1つは体の中に誘導電流を発生させる作用で、この電流が大きくなると神経や筋肉などを異常に刺激する効果をあらわします。もう一つは体の一部を暖める作用で、やはりこの作用が強いと生体の損傷や機能変化につながります。物理的にみて、超低周波電磁場では前者の作用がおもになり、携帯電話の電波では後者がおもになります。ただし、これまでに数多くの実験計測やシミュレーション、計算が試みられて、いずれの効果も生体に悪影響をおよぼす大きさではないことがほぼ確実となっています。問題になるのは、このいずれでもない、われわれには未知の(第3の)作用があるかもしれないという可能性です。


 生体にあたえうる悪影響としてもっとも重大なものは発ガン性でしょうが、この発ガン性をふくめて、第3の作用をさぐるべく、おびただしい数の実験研究がこれまでに試みられてきました。しかし現在のところ、これは確からしい、とみなせる作用は発見されていません。いっぽう、ヒトを対象とした数多くの疫学研究がこれまでにおこなわれ、さまざまな疾病と電磁場曝露との関連性が調べられてきました。このなかで、小児白血病と超低周波電磁場への曝露との関連がしばしば指摘され、この関連性は、現在ではじゅうぶんな再現性をもつ結果であるとされています。こうした疫学研究の結果は、明瞭な陽性所見の認められない実験研究とは対照的なものとなっています。


 このように疫学研究と実験研究で示す結果が異なっている状況をふまえて、超低周波電磁場の発ガン性について、国際ガン研究機関(IARC)は「あるかもしれない(Possible)」というカテゴリーに分類し、世界保健機関(WHO)は「弱い状況証拠」であると判定しています。携帯電話の電波の発ガン性についても超低周波電磁場と似たような状況にはありますが、現在でもさだかでない部分が多く、世界のいくつかの研究機関において検証作業がいまだに続けられています。(*1, 2)

注1  曝露 : 化学物質や物理的刺激(健康に有害な要因)などに生体がさらされることをいいます。


【参考資料】

*1  <WHOファクトシートNo.322(2007.6)「電磁界と公衆衛生:超低周波の電界及び磁界への曝露」より  ・・・・2002年、IARCは超低周波(ELF)磁界を「ヒトに対して発がん性があるかもしれない」と分類したモノグラフを公表しました。この分類は、ヒトにおける発がん性の証拠が限定的であり、実験動物における発がん性の証拠が十分ではない因子を表すのに用いられます(ELF磁界以外の例としては、コーヒーや溶接蒸気が含まれます)。・・・・
・http://www.who.int/peh-emf/publications/facts/fs322_ELF_fields_jp_final.pdf(PDF.530KB)
(<WHO世界保健機関/EMF/Fact sheets:Japanese)

*2  <WHOファクトシートNo.304(2006.5)「電磁界と公衆衛生:基地局及び無線技術」より  ・・・・基地局及び無線ネットワークからの無線周波(RF)電磁界への曝露による健康影響は予想されないものの、WHOは依然として、携帯電話からのより高いRF曝露による何らかの健康影響があるかどうかを決定するための研究を推進している。・・・・
・http://www.who.int/peh-emf/publications/facts/bs_fs_304_japanese.pdf(PDF.520KB)
(<WHO世界保健機関/EMF/Fact sheets:Japanese)
・http://www.who.int/peh-emf/en/
(<WHO世界保健機関/EMF)


ページ
Top