国立研究開発法人 国立環境研究所
環境リスク・健康領域 Health and Environmental Risk Division
 

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リスクセンター四季報(2003-2006)より

Vol.4 No.1 (4)
環境中におけるナノ粒子等の体内動態と健康影響評価(中核研究プロジェクト3)

環境ナノ生体影響研究室長(当時) 平野 靖史郎

 最近欧米の科学誌において、nanotoxicologyという単語を良く目にします。日本語訳としてはナノ生体影響が適切でしょう。本中核プロジェクトは、環境リスク研究センターの環境ナノ生体影響研究室が中心となって、サイズや構造がナノスケールであるがゆえに、細胞や組織透過性が高くこれまでの粒子状物質とは異なる影響を与えるのではないかと危惧されているナノ粒子やナノマテリアルについて、呼吸器を中心とした生体影響と健康影響評価に関する研究を行うことを目的としています。また、繊維径がナノスケールであるがゆえに組織を透過し、胸膜中皮腫を起こすと考えられるアスベストの体内動態と生体影響、ならびに廃棄物として熱処理されたアスベストの毒性評価に関する研究を行う予定です。これらの研究において、超微細構造を持つ粒子状物質や環境ナノ粒子の体内挙動と生体影響を調べることにより、これまで調べられてきた有害化学物質とは異なる(化学物質としてだけでなく、物理的形状も含めた)健康影響手法を確立することを目的として、以下の3つのサブテーマから構成されています。また、各サブテーマの関係を図に示しました。

「感受性要因に注目した化学物質の健康影響」を示す概要図

サブテーマ1:環境ナノ粒子の生体影響に関する研究

 モード走行やアイドリング時におけるディーゼルエンジンから排出される環境ナノ粒子(粒径50 nm以下)を中心とした粒子状物質を小動物に吸入曝露させ呼吸器や循環器に及ぼす影響を細胞、組織、個体レベルで調べます。定常走行時に排出されるディーゼル粒子との成分分析を行い、大気粒子状物質中におけるナノ粒子の寄与を健康影響面から明らかにします。このサブテーマ研究は、平成17年6月に動物実験棟に併設して国立環境研内に開設されたナノ粒子健康影響実験棟を中心に行われています。また、環境省の受託研究である「自動車排出ガスに起因する環境ナノ粒子の生体影響調査委託業務」としても行われています。

サブテーマ2:ナノマテリアルの健康リスク評価に関する研究

 100 nm以下の超微細構造を持つカーボンナノチューブやフラーレンなどのナノマテリアル(manufactured nanoparticlesとも呼ばれる)の毒性評価を、細胞を用いたin vitro系、ならびに実験動物を用いたin vivo系の両者を用いて行います。カーボンナノチューブなどの繊維状ナノ粒子については、その発生方法の検討を行い、吸入曝露実験を行うことにより詳細に調べる予定です。これらの物質は、エンジンの燃焼過程において排出される元素状炭素粒子と生体影響に関しても類似点が多く、サブテーマ1と並行して行われる予定です。

サブテーマ3:アスベストの呼吸器内動態と毒性に関する研究

 平成17年6月の尼崎市クボタ旧神崎工場周辺住民におけるアスベスト健康被害の実態の報道により、繊維状粒子物質の健康影響の重要性をあらためて認識させられることとなりました。これから大量に廃棄物処理さるアスベストの多くは溶融処理されることになりますが、溶融条件と繊維の生物学的表面活性については必ずしも研究が進んでいません。また、アスベスト等の、超微細構造を持った繊維状粒子状物質は、組織透過性も高く、組織透過性に関連した健康影響を詳細に調べる必要があります。また、サブテーマ2における、カーボンナノチューブは、その形状がアスベストに類似していることから、アスベストとの毒性比較の重要性も指摘されているところです。ここでは、様々な条件下で溶融したアスベストを用いて、培養細胞を用いたin vitro実験、気管内投与などのin vivo実験を行い廃棄アスベストの総合的毒性評価を行います。また、アスベストをはじめとする生物学的に難分解性である繊維状粒子の体内動態と健康影響評価に関する研究を行う予定です。

リスクセンター四季報 Vol.4 No.1 2006-07発行


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