国立研究開発法人 国立環境研究所
環境リスク・健康領域 Health and Environmental Risk Division
 

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リスクセンター四季報(2003-2006)より

Vol.3 No.1 (2)
特集 改正化審法1周年 改正法施行後ー周年を迎えた化審法の最新の動向

環境省環境保健部化学物質審査室室長補佐(当時) 木村 正伸

1. 化審法改正の経緯

 「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」は、PCBによる環境汚染問題を契機として昭和48年に制定された。同法に基づき、化学物質による環境汚染を通じた人の健康被害を防止するため、新たな工業用化学物質の有害性を事前に審査し、ポリ塩化ビフェニル(PCB)やトリクロロエチレンのように、環境中で分解しにくく(難分解性)、継続して摂取すると人への毒性(長期毒性)のある化学物質について、その有害性の程度に応じた製造・輸入などの規制を行ってきた。しかし、長い間、同法においては、環境中の動植物への影響の観点からの審査・規制は行ってこなかった。

 一方、欧米においては、人の健康への影響と並んで動植物への影響にも着目する審査・規制を行うことが主流となっており、平成14年1月には、OECDから我が国の化学物質管理政策に対し、「生態系保全を含むように規制の範囲を更に拡大すること」と勧告された。このような状況の下、関係審議会(産業構造審議会、厚生科学審議会、中央環境審議会)において今後の審査・規制制度の在り方についての審議が行われ、平成15年2月に、化学物質の生態影響に着目した審査・規制制度を導入するとともに、環境中への放出可能性を考慮した、一層効果的かつ効率的な措置等を講じることが必要であるとの結論が得られた。これを踏まえ、平成15年3月に化審法改正案を国会に提出し、平成15年5月に改正法が成立・公布され、平成16年4月から施行された。

2. 改正化審法改正の概要(図参照)

 今回の改正では、法律の目的に「動植物の生息若しくは生育に支障を及ぼすおそれがある化学物質による環境汚染の防止」が加えられた。そして、新規化学物質の届出に際して、生態毒性を新たに審査項目に加えることとし、具体的には、魚類、ミジンコ及び藻類に対する急性毒性試験の実施が求められることになった。

 これらの急性毒性試験の結果に基づく審査の結果、難分解性で動植物への毒性がある物質については、「第三種監視化学物質」に指定し、製造・輸入実績数量の届出を義務づけるとともに、指導・助言の対象とすることとした。これは、従来の「指定化学物質」(改正法により「第二種監視化学物質」に改称)に対する規制措置と同様の措置をとることとしたものである。

 その上で、[1]第三種監視化学物質の有害性に係る知見、及び[2]製造、輸入、使用等の状況からみて、その第三種監視化学物質による環境汚染により生活環境動植物(有用な動植物や身近な動植物のような、人の生活に密接な関係のある動植物など)の生息・生育に被害を生ずるおそれがあると見込まれる場合には、有害性調査を事業者に指示することとした。この場合の有害性調査とは、慢性毒性を確定するための試験であり、具体的には、水生生物である藻類、ミジンコ及び魚類並びに底生生物であるユスリカに対する慢性毒性試験と規定している。有害性調査の結果、生活環境動植物に対する慢性毒性が確定して、「リスクあり」と認められれば、「第二種特定化学物質」に指定し、製造・輸入予定数量及び実績の届出を義務づけ、必要な場合には製造・輸入数量の制限を行うこととなる。また、第二種特定化学物質による環境汚染を防止するための措置についての技術上の指針の公表や、第二種特定化学物質又はその使用製品に係る表示の義務付け等の管理措置を講ずることとなる(従来の、人の健康に対する被害のおそれの観点から指定された第二種特定化学物質と同様の規制措置である)。

 一方、難分解性かつ高蓄積性で高次捕食動物(鳥類や哺乳類のような食物連鎖の上位にある動物)への毒性がある物質は、「第一種特定化学物質」に指定し、製造・輸入を事実上禁止することとなる(従来のPCBのように難分解性かつ高蓄積性で人への長期毒性があることから指定された第一種特定化学物質と同様の規制措置である)。この高次捕食動物への毒性試験としては、哺乳類、鳥類の繁殖や発生等に係る慢性毒性試験と規定している。

 このほか、平成15年の化審法改正により、1)難分解性かつ高蓄積性であって毒性が不明な既存化学物質を「第一種監視化学物質」に指定し、製造・輸入実績数量の報告等を求める制度、2)中間物等の環境放出可能性が極めて低いと考えられる化学物質や、国内年間製造・輸入総量が10トン以下の低生産量化学物質についての審査の特例制度、3)事業者が入手した有害性情報の報告の義務付け等の新たな制度が導入された。

「図1:化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律の概要」の画像

3. 改正法施行状況

 改正化審法が施行された平成16年4月から平成17年3月までに、新規化学物質の製造・輸入の届出が431件(うち低生産量新規化学物質の申出が194件)あり、審査を行った。また、中間物等に係る確認を409件行った。

 また、化審法制定以来、平成17年3月までに、第一種特定化学物質としてPCB等13物質、第二種特定化学物質としてトリクロロエチレン等23物質、第一種監視化学物質として酸化水銀(∥)等22物質、第二種監視化学物質としてクロロホルム等842物質を指定し、製造・輸入等について必要な規制を行っている。

 さらに、平成17年4月1日には、難分解性かつ高蓄積性であって、人への長期毒性を有することが判明した2,2,2-トリクロロ-1,1-ビス(4-クロロフェニル)エタノール(別名ケルセン又はジコホル)及びヘキサクロロブタ-1,3-ジエンの2物質を第一種特定化学物質に指定した(これにより、第一種特定化学物質は15物質となった)。

4. 官民連携既存化学物質安全性情報
  収集・発信プログラム

 化審法が制定された昭和48年の時点で製造・輸入されていた、いわゆる「既存化学物質」は、同法に基づく事前審査の対象とならず、同法制定時の国会の附帯決議に基づき、国が安全性点検を行ってきた。また、OECDの高生産量化学物質点検プログラム(HPVプログラム)等による国際的な取組も進められているものの、対象とすべき既存化学物質の数は非常に多く、これまでに点検がなされた化学物質は国際的にも多くない。

 こうした状況を踏まえ、平成17年6月に、厚生労働省、経済産業省及び環境省の3省は、産業界と連携して、「官民連携既存化学物質安全性情報収集・発信プログラム」を開始することとした。

 本プログラムは、官民の連携により既存化学物質に関する安全性情報の収集を加速化し、広く国民に情報発信を行うことを目指すものである。

 具体的には、国内製造・輸入量が1,000トン以上の有機化学物質を優先情報収集対象物質リスト(約660物質)として公表し、そのうち国際的プログラムで情報収集予定の無い約160物質について、製造・輸入事業者等から自発的に安全性情報を収集するスポンサーを募集し、平成20年度(2008年度)までの4年間で安全性情報を収集する計画である。

 スポンサーは、OECDにおいて既存化学物質の有害性の初期評価に必要な情報として定められている項目(SIDS:Screening Information Data Set、物理化学的性状、環境運命、生態毒性、毒性についての基本的な項目)について情報収集する。そして、収集された情報については、国が信頼性評価を行った上で、インターネット等を通じて公表することにより、広く国民に発信する。

 なお、安全性情報の収集に当たっては「カテゴリーアプローチ」(類似の構造を持つ複数の化学物質を一つのグループ(カテゴリー)にまとめることにより、カテゴリー内の一部の物質の試験データから、カテゴリー内の試験データのない物質についても評価できることがあり、物質毎に評価するよりも必要な試験数を減らすことができる。)の手法も活用していくこととしている。

5. おわりに

今般の化審法の改正は、化学物質について人の健康だけでなく生態影響に基づく審査規制の導入という長年の課題が解決されたという点で、極めて意義深いものである。また、ほぼ同時期に、水生生物の保全に係る水質環境基準の設定、水産動植物に対する毒性に係る農薬登録保留基準など、生態影響に着目した化学物質管理の制度的枠組みの形成が急速に進んだところである。

 今後は、この枠組みを活用し、生態影響の観点から有害性評価やリスク評価を行い、未然防止の観点から対応していく必要がある。また、化学物質が多様な生態系に及ぼす影響に関する調査研究を進め、その手法の一層の高度化を図っていく必要がある。

 こうした状況の中で、化学物質の生態影響・リスク評価、及びこれを担う人材育成のニーズが高まっており、国立環境研究所化学物質環境リスク研究センターには、我が国における、生態影響をはじめとする化学物質リスク評価・管理のCenter of Excellenceとして、一層の発展を期待したい。

リスクセンター四季報 Vol.3 No.1 2005-06発行


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