国立研究開発法人 国立環境研究所
環境リスク・健康領域 Health and Environmental Risk Division
 

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リスクセンター四季報(2003-2006)より

Vol.2 No.4 (3)
会議開催報告 生態毒性試験法セミナー(平成16年度)の開催

派遣研究員(当時) 杉山 佳世
研究調整官(当時) 山崎 邦彦

はじめに

 平成15年に化学物質審査規制法(化審法)が改正され、新たに環境中の動植物への影響にも着目することになりました。これを受けて平成16年4月からは環境動植物に対する影響にも着目した新規化学物質の審査や既存化学物質の点検が行われており、これに必要となる藻類、ミジンコ及び魚類を用いた急性毒性試験が広く実施されています。

 このような中で、平成17年1月13日、当センターと日本環境毒性学会の主催により、アイビーホール青学会館にて「生態毒性試験法セミナー(平成16年度)」を開催しました。当センターでは15年11月に「化審法に係る生態毒性試験関連セミナー」を開催し、改正化審法の概要に続き3種の生物を対象とする急性毒性試験の手順について紹介しています。今回のセミナーは、OECDにおける生態毒性試験法の検討の動向を紹介するとともに、試験法に関する疑問点や化審法の届出で実際に生じている問題などに答えることを目的として、環境省からの支援を受けて開催したものです。生態毒性試験を実施される試験機関の方々を中心に、化学系メーカー、研究所、行政機関、学生等、約170名のご参加をいただきました。

セミナーの概要

 現セミナーでは以下の内容について講演がなされました。

1 OECDにおける生態毒性関連テストガイドラインの検討状況について

国立環境研究所(当時) 菅谷芳雄

 当センターでは、生態影響試験法に関する研究及び各国の公定試験法の動向を常にフォローしてきました。その中で特に注目しているのはOECDの動向であり、また環境省からの依頼でOECDのテストガイドラインに関する会議に政府専門家として研究者を派遣し、可能な限り国内での研究成果をインプットしています。これらの実績を踏まえ、OECDにおける新しいテストガイドラインの採択状況や、平成16年5月に開催されたテストガイドラインプログラム第16回ナショナルコーディネーター会合(16thWNT)で合意されたテストガイドラインについて説明が行われました。また、テストガイドラインの入手方法も紹介されました。

2 試験困難物質を対象とする生態毒性試験について

(株)三菱化学安全科学研究所(当時) 斎藤穂高

 OECDでは、平成12年(2000年)9月に試験が困難な物質の水生生物に対する生態毒性試験に関するガイダンスドキュメントがまとめられました。これは、難水溶性物質、揮発性物質、分解性物質など、水生生物を対象とする生態毒性試験を行うことが困難な物質の取扱いについてまとめたもので、テストガイドラインとは異なり試験法そのものを規定したものではありませんが、その考え方はこれ以後のテストガイドラインの策定や改定に反映されており、試験困難物質の試験方法に関する国際的な合意文書となっています。ここでは、同ガイドラインに基づく試験困難物質の試験方法について、化学物質の特性と試験実施の困難性の関連、試験困難物質への対応方法、濃度維持がどこまで可能かなど、実際に試験をする上での課題に即した説明が行われました。

3 OECDテストガイドライン「藻類成長阻害試験」の改定の考え方について

国立環境研究所(当時) 菅谷芳雄

 化審法でも採用している藻類生長阻害試験については、OECDテストガイドラインの改定に向けて数年間にわたり議論がなされてきたものですが、毒性値算出のための反応変数(response variable)の採用方針について加盟国間で合意がみられたことにより、昨年5月のWNT会合で改定案がほぼまとまりました。今回の講演では、これまでの改定経過、改定理由、ドラフトからの変更点、現行の化審法テストガイドラインと異なる点、解析の方法について説明が行われました。また、事前に寄せられた生態毒性試験法に関連する質問のうち代表的なものについては、この場で考え方の説明が行われました。

4 OECD「生態毒性データの統計解析に関するガイダンスドキュメント」(案)の考え方について

国立環境研究所(当時) 立田晴記

 平成12年5月のWNT会合において生態毒性試験で用いられる統計解析手法に関するガイダンスドキュメントの策定が提案され、現在の試験法の下で参照できる実用的な文書の作成に向けて議論がなされてきました。今回は昨年5月のWNT会合に提出されたドラフトをもとに、OECDの生態毒性試験で行われている統計解析について、モデルの選び方、パラメトリック検定とノンパラメトリック検定の特徴の比較などについて説明が行われました。

5 IUCLIDを用いた試験結果のまとめ方について

国立環境研究所(当時) 菅谷芳雄

 OECDの高生産量(HPV)化学物質有害性評価プログラムでは、評価文書作成の際に根拠として参照する情報についてはEUが開発したプログラムIUCLID(International Uniform Chemical Database)を用いてRobust Study Summaryの形式でデータをまとめています。環境省が実施する既存化学物質点検等のための生態影響試験でもこの形式によるデータの提出を求めることとなったことを受け、これによる入力の方法について実例をもとに説明がなされました。

6 総合質問

司会:国立環境研究所(当時) 菅谷芳雄

 ここまでの講演に対する質疑・応答が行われました。3名の講師からは、事前にHPを通じて受け付けた質問への回答も盛り込んだ説明が行われました。


  • 難水溶性物質の試験方法や水溶解度の考え方
  • 着色性物質の藻類に対する毒性値の考え方
  • 毒性値算出の際の設定濃度、実測濃度の使用範囲について
  • 分散剤の使用について
  • 化審法テストガイドラインについて

など多数の質問があり、時間も20分ほど超過して白熱した議論が行われ、生態毒性に関する試験法や生態毒性全般への関心の高さが伺えました。


今後のセミナーの開催に向けて

 当センターでは、関係の学会等との協力により、今後もこのようなセミナーを開催し、生態毒性の試験法や評価法に関する国内外の動きをお伝えするとともに、関心を有する方々の間の情報交換の場を設けていきたいと考えています。今後のセミナーの開催についてご意見・ご提案等ございましたら、当センターまでお寄せ下さい。また、本セミナーのテキストを希望される方は、日本環境毒性学会事務局(http://www.intio.or.jp/jset、E-mail:jset@intio.or.jp)までお問い合わせください。

当日の様子を示す写真「満席となったセミナー会場」

リスクセンター四季報 Vol.2 No.4 2005-03発行

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