国立研究開発法人 国立環境研究所
環境リスク・健康領域 Health and Environmental Risk Division
 

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リスクセンター四季報(2003-2006)より

Vol.2 No.3 (4)
学術集会紹介 第33回日本環境変異原学会

 エームス試験や染色体異常試験などの遺伝毒性試験は国際的に最も多用されている化学物質の有害性試験法であり、「化学物質審査規制法」の下の審査でも重要な位置を占めている。わが国における遺伝毒性試験の開発と公定試験法の作成は、標記学会のコミュニティーが中心に進めてきたものであり、当リスクセンターにとっても重要な研究集会である。平成16年度の年会は日本実験動物実験代替法学会と合同で11月30日から12月2日にわたり、長崎市において開催された。

 本年会では、新しい試験法の開発や試験法の評価が長年議論され、遺伝毒性試験法が有害性同定(Hazard Identification)に大きく貢献することが明確にされてきた。その一方、変異原試験の結果から如何に発がんリスクを評価するかが、近年の大きな話題の一つになっている。本年は、レギュラトリー・サイエンスに関するシンポジウムとして「発がん性と遺伝毒性の閾値-リスクアセスメントにおける問題点」が開催された。遺伝毒性を示す発がん物質の毒性には閾値がないことはこれまで一般的に受け入れられている考え方であるが、閾値の存在を示唆する知見も得られつつある中で、発がん性のリスク評価を今後どのように進めるかが議論された。具体的な結論を得るには大きい課題であったが、シンポジスト各位からは試験管内試験や動物実験の具体的なデータが示され、興味ある議論が行われた。

 海外からの招待講演の中では、Health CanadaCarole Yauk博士による「Tandem Repeat DNA: application in germline mutation analysis」が興味深かった。ゲノムDNA上には、Tandem Repeatと呼ばれる比較的短いDNA配列が繰り返し並んでいる配列が存在し、この配列には比較的突然変異が起こりやすく、体内で発生した突然変異を検出するに良いDNA配列であることが従来から知られていた。博士は雄マウスをカナダ国内の都市大気中で飼育すると、その子孫のマウスでTandem Repeatの突然変異頻度が上昇することを見出した。この現象はもともと野生のカモメで観察されていたが、実験動物で観察されたことに大きな意味がある。この観察は、都市大気中の化学物質の影響により発生した突然変異が次世代に遺伝することを示唆するが、原因物質の同定も含め、より詳細な検討が今後必要と思われた。

 大会最終日、能美健彦会長(国立医薬品食品衛生研究所)は会長講演を「変異原のヒトゲノムに対するリスク評価という社会的要請に応える真の意味での基礎研究の展開が、これからの環境変異原研究に求められている」と締めくくった。本学会のこれからの方向性を示唆する講演であった。

健康リスク評価研究室(当時) 青木康展

リスクセンター四季報 Vol.2 No.3 2005-01発行


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