国立研究開発法人 国立環境研究所
環境リスク・健康領域 Health and Environmental Risk Division
 

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リスクセンター四季報(2003-2006)より

Vol.2 No.1 (4)
海外出張報告
OECDテストガイドラインプログラム第16回ナショナルコーディネーター会合

生態リスク評価研究室主任研究員(当時) 菅谷 芳雄

5月26-28日パリOECD本部でテストガイドラインプログラムに関する第16回ナショナルコーディネーター会合(Working Group of the National Co-ordinators of the Test Guidelines Programme: WNT)が開催され,日本からは経済産業省,厚生労働省,環境省の行政担当者および専門家が出席しました。この会合は毎年この時期に行われるもので,OECDの定める化学物質のリスク評価のためのテストガイドライン1)やガイダンスドキュメント2)の制定や改定に関する全体的な方針が検討されます(図1)。

 第16回WNTでは生態影響試験に関する2つのドラフトガイドライン(201改定,221新規)が承認され,さらに別の2つ(208改定,223新規)は継続審議となりました。生態影響試験の統計分析に関するガイダンス文書については,意見の募集を延長するものの基本的にはWNTは承認の方向であることを合意しました。承認された2つのガイドラインは,昨年の本会合に提案されたものの毒性値の算出法についての不一致から承認が見送られたもので,昨年10月に両試験法に関する専門家会合が開かれそこでの論議をもとに内容が修正されたものです。

 承認されたテストガイドラインの重要なポイントは以下の通りです。

201:淡水藻類およびらん藻類成長阻害試験

 1981年に採択され,その後1984年に改定され今回は2度目の改定である。主な変更点は,


  • (1)緑藻類2種に加えてけい藻1種(Navicula pelliculosa)および2種のらん藻(シアノバクテリア,Anabaena flos-aquae, Synechococcus leopoliensis)を加えた。
  • (2)試験の妥当性クライテリアとして全期間および区間生長速度のバラツキ(CV値)の程度を定めた。
  • (3)毒性値を算出するための阻害率を生長速度から求める方法(平均速度法)を唯一科学的に正しい手法として選定した。ただし加盟国の一部で化学物質の規制法令にその他の手法が定められていることに配慮して収量(試験期間に増加した生物量)をもとに算出することも認めた。

 昨年のこの会合でミジンコ急性遊泳阻害試験(202)が改定されているので,最も基本的な水生生物急性3種の試験法が改められたことになる。これらに共通するのは試験最高濃度がそれまで1000mg/lであったものが一律100mg/lとなったことであり,現在使用されている毒性分類のためのクライテリアとの整合性がはかられたことになる。また試験困難物質の試験法を定めた2000年採択のガイダンス文書No.23との矛盾も,魚類急性毒性試験法(1992年改定)を除き解消されている。

221:ウキクサ成長阻害試験

 上記の201と同様の経過で毒性値の算出方法を巡って論議されまた合意に至った。新規試験法であるが各国で多くの実績のある手法である。事務局提案ドラフトの一部を修正して承認された。この会合での修正点は,平均生長速度および収量による毒性値が算出されるが,その2つの毒性値は比較すべきでないものであるとともに,科学的には生長速度を用いた毒性値が正しいことを強調した表現にした点だけであった。

 本試験法はOECDの高生産量化学物質の有害性初期評価のためのマニュアルでは,すでに水生植物への慢性影響評価のための標準的な方法である事が述べられている。これまで水生の藻類を用いた試験で得られた無影響濃度を慢性毒性値として用いてきたが,このウキクサの試験から算出された値が優先的に慢性毒性値として採用されることになろう。

 陸生植物の種子発芽生長試験(208改定)と同じく陸生植物の生長力試験(Vegitative Vigor test)(227新規)は継続審議になりましたが,このほか魚類胚を用いた急性毒性試験法とオオミジンコを用いた内分泌攪乱試験は,新たなガイドライン作成作業に着手することを決定しました。概要は以下のようです。

魚類を用いた急性毒性試験法(新規提案)

 ドイツの提案からされた本試験法は,感受性が最も高い時期ではないことや,魚種がゼブラフィッシュ(Danio rerio)であり本種以外の場合には適用が困難であることなどの問題はあるが,ガイドライン化を行う事で合意された。この手法はISO(国際標準化機構)の国際規格に環境水のバイオアッセイ法としても現在提案されている。OECDテストガイドラインは化学物質の毒性試験であるため,ISO提案のものとは異なるが,ISOとの緊密な連携が必要であろう。

オオミジンコを用いた内分泌攪乱試験(新規提案)

 日本の提案した試験法で,既存のテストガイドライン211(ミジンコ繁殖毒性試験)にエンドポイントを追加して内分泌攪乱の影響が評価できるようにした試験法であり,対象となる化学物質は限られた生理作用をもつ物質群となるものの高い関心が寄せられた。

「図1:OECDテストガイドライン決定プロセスの概要」フローを示す画像

 本会合ではこれまで紹介してきた事項以外にも数多くの議題が論議・報告がありました。また生態影響試験の中でも紹介できなかったものもあり,別の機会にゆずりたいと思います。

  • 1)テストガイドライン:このガイドラインに沿った試験法で得られたデータをOECD加盟国は相互に承認することになっている。
  • 2)ガイダンスドキュメント:テストガイドラインによる試験の詳細や資料,化学物質の影響評価手法等の統一的な見解などを解説した文書。
  • 3)Joint Meeting of the Chemicals Committee and the Working Party on Chemicals, Pesticides and Biotechnology

リスクセンター四季報 Vol.2 No.1 2004-07発行


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