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カナダ国旗カナダ報告
「第27回OECD-SIDS初期評価会合(SIAM27)参加報告」


菅谷 芳雄

はじめに

会場となったオタワで
もっとも由緒あるホテル
「アムステルダムの会場会議前」写真

 SIDS(■注1)初期評価会合(SIDS Initial Assessment Meeting)はOECD(■注2)が年2回開催している化学物質の初期評価のための会議で、OECD加盟国が分担して生産量の多い化学物質(HPVC(■注3))の評価を行うことを目的としている。今回はその27回目でカナダの首都オタワで2008年10月14日から3日間の日程で開催された。会合は初日・第2日で9つの単独物質および6つの物質カテゴリーについての初期評価を行い、最終日は本事業に関するいくつかの話題の発表と討論が行われた。ドイツ、オーストラリア、カナダ、韓国、デンマーク、アメリカ、フランス、イタリア、日本、オランダ、イギリス、スイス、スエーデンの加盟国代表と欧州委員会、BIAC(■注4)、およびOECD事務局から総勢約60名が参加した。


会合以前の準備と発表までのプロセス

 会合に先立つ準備のプロセスから紹介する。日本政府が担当を予定する物質はすでにOECD事務局に登録されている。それぞれ登録の時点から経済産業省、厚生労働省および環境省が共同して化学物質の有害性評価に必要な情報を収集または、もし既存情報では不足する場合は試験を実施する。十分な情報が揃ったところで評価書案を作成し、当該会合の3ヶ月前までに全評価文書(■注5)を提出する。それらは事務局および各国が査読し、コメントを提出する(会合1ヶ月前までに)。提案国はそのコメントに対する回答書と改訂(もし必要ならば)されたSIAP(初期評価報告書の要約)を再提出する(会合2週間前)。このように綿密にチェックされた上で会合に臨む。会合では評価文書全体の討論は行うが、会合としての最終合意はSIAPまでであり、残るSIAR(初期評価報告書)およびRSS(データ要約集。Dossierともいう)は合意された SIAPやコメント回答書で改訂を約束してあればそれも取り入れて提案国の責任で最終案を作成し再度OECD事務局に提出される。事務局は再提出された改訂文書を元に最終的な発表原稿を作成し、順次UNEP(■注6)より刊行されている。


本会合での審議

会議場:写真奥が議長および事務局、
両側に国,地域,団体の代表が並ぶ。
写真手前が日本代表
「アムステルダムの街」写真

 日本が提案国となった物質は合計3物質で、日本政府が単独で提案したSodium p-toluenesulfonate、ドイツ・EU・日本が共同して提案した N-cyclohexyl benzothiazole-2-sulphenamide、産業界の協力(■注7)で提案したレゾルシノール(1,3-Benzenediol)であった。それぞれ日本政府、ドイツ政府およびレゾルシノールコンソーシアム(■注8)が、会議への提案と質疑応答を行い、いずれの物質も修正の上合意された。 Sodium p-toluenesulfonateは、皮膚および眼刺激性が見られるもののその影響は高いpHによるものであることを明確にすること、沸点の推定値の修正と沸点に達するまでに分解してしまうことを明記するよう求められた。生態影響については変更なく合意された。
 レゾルシノールについては、感作性に関する修正意見とそれに対する反論が各国から出され討論は長時間に及んだ。そしてSIAPの表現があいまいな点を修正し、また削除することで合意した。N-cyclohexyl benzothiazole-2-sulphenamideは、分解してベンゾチアゾールを生成することから、日本が以前のSIAMに提案した物質と共通していたことから注目されたが、特に底生生物への影響が懸念されるため今後も調査を継続するよう勧告したSIAPを合意した。
 今回の会合でデンマークよりニッケルとその化合物の生態影響について提案され審議した。これは前回の会合で健康リスクを扱っておりそれに続くものであった。提出された要約文書(SIAP)でも16頁におよび、全体を(1)生態毒性データ、(2)生物利用可能性および(3)Eco-regionアプローチ(■注9)の3つの視点から考察していた。このニッケルに関してはEU諸国ではすでに論議を終了しているために、おもにそれ以外の国から修正意見が出された。結果としては、いくつかの要約的文章を挿入すること、およびRisk Characterization(■注10)の節を削除することで合意した。その他の物質についても、初日・第2日を使って討議し、また修正したSIAPの再提案を含め終了した。
 3日目の討論は、まずSIAMに提出されるSIAR(評価書)の曝露評価に用いる化学物質の用途様式の見直し、および 初期評価報告書のテンプレートをOECDとECHA(■注11)と共同で作成し、IUCLID(■注12)からデータを自動的に取り出すようなシステムをめざしていること、が紹介された。
 続いて、カナダおよびアメリカで行っている“Targeted Assessments(■注13)”の活動についてそれぞれの国から発表があり、本会合の目的である初期評価にその成果を利用することが可能であるとの事であった。さらに、評価対象物質の選定の際に行われるプライオリティセッティング(■注14)についてもそれぞれの国からの発表と、OECD事務局が統一的な見解をまとめ、または調整していくことを表明した。 最後に、次回のおよび次々回の会合予定について発表があった。


おわりに

会場のテラスから,国会議事堂方面
世界遺産リドー運河を
はさんで並んでいる。
「会場のテラスから,国会議事堂方面」写真

 日本に帰りまずメールを開いた。日本の登録物質についてであった。OECDのHPV化学物質の初期評価事業は、着々ととは行かないまでもゴールに向かって進んでいる。日本が分担すべき物質数は、国民総生産による比例配分でとなっているため尋常な数ではない。毎回相当数を提出しないとこの数には届きそうにない。日本政府はその責任を果たすために十分な数の専任者の配置を真剣に検討すべきである。





■注1  SIDS: Screening Information Data Set の略で、初期評価に必要な最小限の情報(SIDS Endpoint)

■注2  OECD: 経済協力開発機構Organization for Economical Co-operation and Developmentで現在の加盟国は30ヶ国。(http://www.oecd.org/home/)

■注3  HPVC: 高生産量化学物質(High Production Volume Chemicals)で、加盟国が年1000トン以上を生産している物質と指定したもの。

■注4  BIAC: 経済産業諮問委員会The Business and Industry Advisory Committee to the OECD

■注5  SIAR(初期評価報告書。SIDS Initial Assessment Report)とその要約であるSIAP(SIDS Initial Assessment Profile)およびデータ要約集RSS(Robust Study Summary)の3種類の評価書を作成して事務局に提出する。

■注6  UNEP: 国連環境計画、http://www.chem.unep.ch/irptc/sids/OECDSIDS/sidspub.html

■注7  化学物質の有害性評価事業を加速するため国際化学工業協会協議会(ICCA)の協力で評価文書を作成する枠組みで、日本の産業界も本事業に参加している。日本企業は、日本政府の登録リストから物質を選択しICCA物質として登録し、日本政府のピアレビューを経て評価文書をOECDに提出する。

■注8  レゾルシノールコンソーシアム: レゾルシノールを製造しているメーカーの共同体

■注9  Eco-regionアプローチ: EU 諸国で実施している生態系影響評価法。生物地理学的に設定した生態系区分(Eco-region)で、人為的かく乱の無い場合の生物群集と現実の生物群集を比較してかく乱の程度を把握する手法である。ニッケルの毒性値が水質により異なることから、生態系区分ごとに設定されている水質基準値(pH、水の硬度、塩類濃度など)に従って毒性値を補正した。

■注10  Risk Characterization: リスク評価の1つのステップで、有害性を曝露可能性から判断してどのような内容のリスクがあるか特定するもの。通常は予測無影響濃度よりも予測曝露濃度が高い場合、リスクありと判断する。    今回のこの節を削除したのはSIAMの目的は、有害性評価と曝露可能性評価に限定したものであるためであった。

■注11  ECHA: 欧州化学物質庁European Chemicals Agency(HPアドレスはhttp://echa.europa.eu/ まもなく本格稼働する予定)

■注12  IUCLID: International Uniform ChemicaL Information Database の略でECHAが作成している化学物質の諸データを管理するデータベースソフトウエアで、第5版が公開され利用できる。

■注13  Targeted Assessments: 化学物質の人の健康および生態系への影響の内、特に関心の高い限定した項目に着目して効率的に評価する手法。

■注14  プライオリティセッティング: 化学物質を無作為に調べるのでなく、影響(毒性)や製造量などから関心の高い物質を選定する、または順位づけすること。


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