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2009年6月9日

増える侵略外来種 多様性保全 人の活動が鍵

東京新聞 2009年6月9日 朝刊およびWeb版記事

画像:外来生物が引き起こす影響

 オオクチバス(ブラックバス)、カミツキガメ、アライグマ…。
もともとその地域にいなかったのに人間の活動で海外から入ってきた「外来種」が、急速に増えている。中には生態系や人の暮らしに悪さをする「侵略的外来生物」も。生物多様性保全のため来年十月、名古屋市で開かれる生物多様性条約第十回締約国会議(COP10)に向け、外来種(生物)問題は重要なテーマになっている。

 「日本は外来種大国」。国立環境研究所環境リスク研究センター・侵入生物研究チームリーダーの五箇公一さんはそう指摘する。

 経済のグローバル化が進み、食料や原材料の輸入が急拡大して人の交流も活発化。外来生物が新たにどんどん持ち込まれている。日本の野外に生息する外来生物は分かっているだけで二千種を超す。

◆歩くスズメバチ

写真:刺されると危険な火蟻

 シロツメクサやアメリカザリガニのように定着したものもあるが、要注意なのは沖縄や奄美大島に持ち込まれたマングースのように地域の自然環境に悪影響を与える侵略的外来生物だ。五箇さんが今後、国内への侵入を心配するのは南米産のヒアリ(ファイアー・アント)。北米、オーストラリア、マレーシア、中国、台湾にまで進出している。

 毒性が強く「歩くスズメバチ」といわれるほど。刺されると全身が赤く腫れ上がる。米国では年間約八万人が刺され、百人ぐらいがアレルギー症状で死亡する。五箇さんは「日本に侵入すると、原っぱでのお花見ができなくなる恐れがある」と警鐘を鳴らす。

◆クワガタ大好き

写真:国産ヒラタクワガタ、スマトラオオヒラタクワガタ、パラワンオオヒラタクワガタ

 日本人の特異的性質もある。「外来のいろいろな生きものを輸入し、飼育する文化がある。珍しい生きものを飼いたがる習性は世界一」という。

 その端的な事例がクワガタムシ。1999年に42種類の輸入が許されていたが、今は700種以上が輸入可能になっている。年間の輸入個体数は百万匹を超す。

日本産のヒラタクワガタは体長五~六センチだが、インドネシアのスマトラオオヒラタクワガタは八センチ、フィリピンのパラワンオオヒラタクワガタは10センチもある。「日本人は大きいクワガタムシを欲しがる。大量に輸入するので、日本固有のクワガタムシの存続が脅かされる」と五箇さん。捨てられた「外国産」が「国産」と交雑すれば形がよく商品価値の高い雑種が生まれ、侵略は加速する。

こうした侵略的外来生物をうまく管理し、生態系の被害を防ぐため、2005年に「外来生物法」が施行。生態系、人の健康、農林水産業に被害を及ぼすものを「特定外来生物」に指定し、飼育や栽培、保管、運搬、輸入などを原則禁止している。環境省外来生物対策室は「施行後、生きている動物の輸入は減っている」が「付着生物の封じ込めは難しい」と話す。

 特定外来生物は「悪者」のイメージだが、農業生産に役立っているものもある。セイヨウオオマルハナバチ。作物授粉に使われ、実の詰まった甘くておいしいトマトづくりに活躍する。許可を受けた生産者が、ハウスにネットを張って逃がさないようにして利用を続けている。

◆失われる固有性

 五箇さんは「外来生物を生み出すのは人間とその生活様式。世界のネットワーク化で国、地域の独自性や固有性が急速に失われ、侵略的外来種の拡大につながっている」と説明。「生物多様性をはぐくむ里山のような地域固有性、再利用や再生といった生活様式の維持が大切」と話す。

 国連が定めた「国際生物多様性の日」(五月二十二日)の今年のテーマは「侵略的外来種」。都内で開かれた記念シンポジウムでも「問題は外来種そのものでなく、人間活動。地球温暖化、森林破壊、水質汚染など環境問題は外来種と密接に関係している」と指摘。データベースの構築・活用など国際連携の大切さが強調された。

<記者のつぶやき>

 環境問題イコール二酸化炭素、のイメージが強い。侵略的外来生物や生物多様性は浸透度が低いが、重要なテーマだ。経済、暮らし、生態系への影響は大きい。来年のCOP10が、関心を高めるきっかけになるといい。

(東京新聞記者:栃尾敏氏)

担当研究者コメント

 侵略的外来生物(侵入生物)は、生物多様性を脅かす要因の一つですが、悪いのは外来生物自身ではなく、それを移送している人間です。人間活動により、自然環境が改変され、在来の生物が住みにくい環境が広がる中、今後ますます外来生物の侵入機会は増大すると考えられます。今、人間にとって、世界は狭く、地球は小さくなりつつあります。生態系や生物相だけでなく、社会、経済、文化までもが「外国産」の影響を受け、その歴史性と個性が失われ始めています。外来生物の問題を通して地域固有性の喪失と多様性の崩壊について考える機会が増えることを、一研究者として願っております。侵入生物データベースでは、今後も侵略的外来生物に関する最新情報を皆様に提供出来るよう、情報収集と更新に努めて参ります。

環境リスク研究センター
 主席研究員 五箇 公一

画像:東京新聞記事
この記事の掲載は東京新聞社の承諾を得たものです。東京新聞社に無断の転載はできませんのでご注意下さい。

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