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自動車排出粒子標準試料は、大気浮遊粒子状物質の化学分析を行う際に、本試料を用いて分析値および分析方法の正確さが評価できることを目的として作製された環境標準試料である。
本標準試料は高速道路トンネル内の静電集塵器に捕集された物質から調製した天然物試料であり、元素組成は自動車排出粒子の典型的なものと考えられる。
自動車排出粒子標準試料は元素含有量に関する標準試料であり、現時点では、16元素に対して保証値(Certified value)および14元素に対して参考値(Reference value)が定められている。
1.保証値および参考値
自動車排出粒子標準試料の保証値は、表に示した分析方法による8〜18個の分析値に基づいて決定されており、各元素に対して少なくとも3種類の原理が異なった分析方法が用いられている。
保証値の範囲は、すべての分析値の標準偏差の2倍および各分析方法ごとの平均値の95%信頼限界を含む範囲として決定されており、測定誤差および分析方法間の偏りを含む。
保証値
| 元 素(少量成分) |
含有量*1 (wt.%) |
分析方法*2 |
| カルシウム |
Ca |
0.53±0.02 |
a,c,e |
| アルミニウム |
Al |
0.33±0.02 |
a,c,e,g |
| ナトリウム |
Na |
0.192±0.008 |
a,b,c,e |
| カリウム |
K |
0.115±0.008 |
a,b,c,e |
| 亜鉛 |
Zn |
0.104±0.005 |
a,c,d,e |
| マグネシウム |
Mg |
0.101±0.005 |
a,c,e |
| 元 素(微量成分) |
含有量*1 (μg/g) |
分析方法*2 |
| 鉛 |
Pb |
219±9 |
a,c,d |
| ストロンチウム |
Sr |
89±3 |
a,c,e |
| 銅 |
Cu |
67±3 |
a,c,d,e |
| クロム |
Cr |
25.5±1.5 |
a,c,e |
| ニッケル |
Ni |
18.5±1.5 |
a,c,d,e |
| バナジウム |
V |
17±2 |
a,c,e,f |
| アンチモン |
Sb |
6.0±0.4 |
a,c,e |
| コバルト |
Co |
3.3±0.3 |
a,c,e,f |
| ヒ素 |
As |
2.6±0.2 |
a,c,e |
| カドミウム |
Cd |
1.1±0.1 |
a,c,d,e |
含有量*1
"as received" 重量当たり。試料取り扱い法を参照すること
分析方法*2
| a: |
原子吸光分析法 |
b: |
炎光光度分析法 |
| c: |
誘導結合プラズマ発光分析法 |
d: |
同位体希釈質量分析法 |
| e: |
中性子放射化分析法 |
f: |
吸光光度法 |
| g: |
蛍光光度法 |
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参考値
| 元 素 |
含有量*1 (μg/g) |
元 素 |
含有量*1 (μg/g) |
| リン |
P |
510 |
スカンジウム |
Sc |
0.55 |
| 臭素 |
Br |
56 |
トリウム |
Th |
0.35 |
| モリブデン |
Mo |
6.4 |
セシウム |
Cs |
0.24 |
| ルビジウム |
Rb |
4.6 |
銀 |
Ag |
0.20 |
| セリウム |
Ce |
3.1 |
サマリウム |
Sm |
0.20 |
| セレン |
Se |
1.3 |
ユウロピウム |
Eu |
0.05 |
| ランタン |
La |
1.2 |
ルテチウム |
Lu |
0.02 |
含有量*1
"as received" 重量当たり
2.取り扱い法
(1)試料の採取量
秤量前に試料ビンを約1分間良く振って、試料を十分混合すること。
1回の分析に少なくとも300mgの試料をとること。
更に細かな試料が必要な場合には、メノウ乳鉢に移して粉砕すること。
本試料は、静電気によりガラス器具やテフロン器具に付着しやすいので取り扱いに注意すること。
(2)分析値の表示法
分析値を表すベースとして、受け取ったままの状態"as received"での重量を用い、試料を乾燥せずにそのまま分析に用いること。
熱重量分析や国立環境研究所でのデータから"as received"ベースで十分再現性の良い分析値が得られることが示されている。
使用後は内ぶたをきつく締めて、試料ビンはシリカゲルデシケータ中に保存すること。
(3)試料の溶解法
表に示した保証値と参考値は、この標準試料を全分解した時の分析値に基づいて決定されている。
本試料はケイ酸物質を含むので、原子吸光法などのように試料の溶解を必要とする分析方法では、硝酸/過塩素酸/フッ化水素酸などの混酸を用いて試料を完全に溶解すること。
本試料は分解が極めて難しい試料であり、完全分解のためには過塩素酸を使って200℃付近で加熱することが必要である。
また、分解液が澄んだ黄色になった後にフッ化水素酸を加えると、後の処理が容易である。
但し、過塩素酸を使った加熱操作にはくれぐれも注意すること。
3.調製法と均質性
本標準試料の調製には、高速道路トンネルの排気装置の静電集塵器から集めた試料(約7kg)を用いた。
ここでは静電集塵器が可動式の布フィルターの間に置かれており、道路起源(舗装材、タイヤなど)の物質は最初のフィルターでカットされて、集塵器に捕集された物質は自動車排出物質がほとんどと予想された。
採取したサンプルは真っ黒で微細な粉末で容易に舞い上がり、またガソリンの刺激臭があるため、大量の試料を取り扱う場合には特に健康と爆発の危険性に注意し、出来る限り湿式での調製を行うこととした。
標準試料の調製にあたっては、均質かつ取り扱い易い試料を作るため様々な方法を検討したが、最終的にエタノールを加えてペースト化し、乾燥して顆粒とする方法を採用した。
試料に35%エタノールを加えてペーストを作り、全量を混合、風乾した後、通風乾燥器中で60℃で5日間乾燥し、ポリエチレン袋中で細かな粉末とした後、2mmのふるいを通し混合してビン詰めをした。
この段階で均質性のテストを行ったところ、均質性が十分でない元素があったので、試料の再混合を行った。
ビン詰めした試料を30Lのポリエチレン容器に戻し、アルミナボールを入れてボールミル装置上で回転させて約2時間混合した。
均質化した試料は、酸洗浄したガラスビン約1,000本に7gずつ充填した。
「自動車排出粒子」標準試料の均質性を調べるため、6本のビンをランダムに選び各ビンから5試料をとって、酸分解−原子吸光法および誘導結合プラズマ発光分析法により元素含有量を求め、そのばらつきから試料の均質性を推定した。
分散分析の結果、Al、Ca、Cd、Co、Cr、Cu、K、Mg、Na、Ni、P、Sr、V、Znについてはビン間のばらつきに有意の差はみられず、均質であると考えられる。
しかし、Fe、Mn、Tiについてはビン間のばらつきがまだ有意であった。
4.参考文献
| 1 |
A New Certified Reference Material, Vehicle Exhaust Particulates |
| Anal. Sci., 3: 191-192(1987) |
| Kensaku Okamoto |
| 2 |
Comparison between urban Toronto PM and selected materials: aerosol characterization using laser ablation/ionization mass spectrometry (LAMS) |
| Environ. Pollut., 120: 125-135(2002) |
| S. Owega, G. J. Evans, R. E. Jervis, J. Tsai, M. Fila, P. V. Tan |
| 3 |
Ultrasound assisted pseudo-digestion of street dust samples prior to determination by atomic absorption spectrometry |
| Talanta, 66: 882-888(2005) |
| Adil Elik |
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