
海底質標準試料は、底質中有機スズおよび元素組成分析の精度管理に利用されるべく作製された環境標準試料である。
1.保証値および参考値
表1に本標準試料の総スズ含量およびトリブチルスズ含量の保証値を示した。
保証値は国立環境研究所と国内の試験研究機関との共同分析を通じ、少なくとも3つの原理の異なる分析法によって得られた分析値を基にしている。
トリフェニルスズ含量については、参考値として示してある。今後のデータの蓄積により、より信頼性の高い値にする予定である。
表1 総スズおよびトリブチルスズ含量の保証値およびトリフェニルスズ含量の参考値
| --- |
単 位 |
保証値*1 |
分析方法*2 |
| トリブチルスズ |
mgTBT/kg |
0.19±0.03 |
a,b,c,d |
| トータルスズ |
mgSn/kg |
10.7±1.4 |
e,f,g,h,i |
| --- |
単 位 |
参考値*3 |
| トリフェニルスズ |
mgTPT/kg |
0.008 |
保証値*1、参考値*3
保証値、参考値はすべて乾燥重量当たりの値である。分析前に試料の水分含量を測定し、分析値を補正すること。乾燥法は本文中に指定した方法を用いること
分析方法*2
| a: |
GCECD: 電子捕獲検出ガスクロマトグラフィー |
b: |
GCFPD: 炎光光度検出ガスクロマトグラフィー |
| c: |
GCMS: ガスクロマトグラフィー/質量分析法 |
d: |
HPLC-ICP-MS: 高度液体クロマトグラフィーICP-MS |
| e: |
ICP-MS: 誘導結合プラズマ質量分析法 |
f: |
ID-ICP-MS: 同位体希釈ICP-MS |
| g: |
ETAAS: 電気加熱炉原子吸光法 |
h: |
HGAAS: 水素化物発生原子吸光法 |
| i: |
INAA: 中性子放射化分析法 |
|
表2にあげた21元素については、国立環境研究所において、複数の分析者が異なる分析法により共同分析を行い、少なくとも2つの原理の異なる分析法によって得られた分析値を基にしている。
表2 21元素含量の参考値
| 元素 |
単位 |
参考値*3 |
元素 |
単位 |
参考値*3 |
元素 |
単位 |
参考値*3 |
| Na |
% |
3.25 |
V |
mg/kg |
134 |
Zn |
mg/kg |
738 |
| Mg |
% |
1.46 |
Cr |
mg/kg |
201 |
Rb |
mg/kg |
69 |
| Al |
% |
7.22 |
Mn |
mg/kg |
837 |
Sr |
mg/kg |
126 |
| Si |
% |
24.2 |
Fe |
% |
4.31 |
Cd |
mg/kg |
3.0 |
| K |
% |
1.56 |
Co |
mg/kg |
16.6 |
Ba |
mg/kg |
254 |
| Ca |
% |
1.06 |
Ni |
mg/kg |
57.6 |
Hg |
mg/kg |
1.16 |
| Ti |
% |
0.34 |
Cu |
mg/kg |
104 |
Pb |
mg/kg |
101 |
参考値*3
参考値はすべて乾燥重量当たりの値である。分析前に試料の水分含量を測定し、分析値を補正すること。
乾燥法は本文中に指定した方法を用いること。
2.取り扱い法
(1)試料の乾燥方法
本標準試料は、開封時に測定したところ約6%の水分を含む。
本標準試料の保証値、参考値はすべて乾燥重量当たりで示してある。
したがって試料の水分含量を測定し、分析値を補正する必要がある。
乾燥方法は以下の方法を指定する。
ただし、以下の方法で乾燥した場合、成分によっては分解・蒸発などにより損失がありうる。
原則として、成分分析用と水分含量測定用とは別の試料を用いること。
1.冷凍庫からパックを取り出し、30分以上室温におく。
2.パックのまわりについた水滴を十分ぬぐう。
3.試料約1gをあらかじめ十分乾燥させた容器に精確に秤量(mgまで)する。
4.110℃のオーブンで4時間加熱する。
5.30分間室温のシリカゲルデシケータ中で放冷した後、再度秤量して、重量減少分を水分とする。
開封後、時間をおいてから使用する場合(有機スズ分析の場合は保存性が確認されていないので推奨できない)、水分含量が変化する可能性があるので、あらためて水分含量の測定をすること。
(2)取り扱い上の注意
1.本標準試料を秤量する場合は、室温に30分以上置いてから行うこと。
2.均一性の観点から、一回の分析に要する重量は、有機スズ分析の場合1g以上、元素の場合300mg以上を推奨する。
3.本標準試料の総スズの保証値およびその他の元素の参考値はすべて全分解を前提にしている。
したがって分析に先立ち、試料の分解を必要とする分析法を用いる場合には、適切な分解法を採用する必要がある。
酸分解の場合、硝酸・過塩素酸・フッ化水素酸による全分解が推奨される。
底質などに含まれる一部の元素について(Cr,Snなど)は、酸分解で回収できない場合があることが知られている。
この場合、アルカリ溶融が有効である。分解法の詳細については適宜文献を参照のこと。
4.本標準試料は有機スズ化合物の分解を防ぐために滅菌処理されていない。
本標準試料を許可無く国外に持ち出さないこと。
(3)保存法
本標準試料の長期保存性を確保するために、真空パックの使用、脱酸素剤の使用、-20℃での遮光保存を行っている。
本標準試料のトリブチルスズ、トリフェニルスズ含量を、GC/MSで3年の間隔を置いて測定した結果は、測定誤差の範囲内で一致していた。
より長期の保存性を調査するため今後も定期的に有機スズ含量を中心に分析を継続するが、保存性に疑問が生じた際には利用者に速やかに知らせるものとする。
本標準試料は未開封、開封済みにかかわらず、必ず-20℃で遮光して保存すること。
一度開封した場合は、できる限り密封した状態で保存すること。 ただし開封後の試料の長期保存性については確認されていない。
3.作製法と均一性
(1)原料および作製法
本標準試料の原料として用いたのは、1989年9月に東京湾中央部(東京灯標から133゚, 3.1マイル)、水深23mよりエクマンバージ型採泥器を用いて表層から約30cmを採取した約100kgの底質である。
採取した底質は、ブフナー漏斗により水分を濾別した後、風乾し、アルミナボールミル(7リットル容)により粉砕した。 粉砕した底質のうち、100μmのナイロンふるいを通過した部分のみ(22.4kg)を集め、V型混合器で均一になるように混合した。
混合した底質粉末は、1パック30gずつポリエチレン製バックに入れ、さらにラミネートパックに脱酸素剤とともに二重に真空封入し、-20℃で遮光保存している。
(2)均一性
作製した700パックからランダムに3パックを選び、各パックから3試料、約300mgずつをサブサンプリングして、硝酸・過塩素酸・フッ化水素酸分解した後ICP-AESにより元素含量(Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Mn、Fe、Cu、Zn、Sr)を測定した。
どの元素についても測定値のパック内標準偏差はICP-AESの分析誤差範囲内にあり、また分散分析の結果、どの元素についてもパック間誤差は有意ではなかった。
これらの結果から、本標準試料は実用上十分均一であると考えられる。
4.参考文献
| 1 |
Element Concentrations in NIES Candidate Marine Sediment Certified Reference Material. Reference Values for Major and trace Elements |
| Anal. Sci., 12: 993-995(1996) |
| Jun Yoshinaga, Atsushi Tanaka, Takejiro Takamatsu, Masatoshi Morita, Kensaku Okamoto |
| 2 |
Determination of total tin in sediment reference materials by isotope dilution inductively coupled plasma mass spectrometry after alkali fusion |
| Analyst, 124: 257-261(1999) |
| Jun Yoshinaga, Atsuko Nakama, Kyoko Tanaka |
| 3 |
Integrative assessment of organotin contamination in a southern European estuarine system (Ria de Aveiro, NW Portugal): Tracking temporal trends in order to evaluate the effectiveness of the EU ban |
| Mar. Pollut. Bull., 54: 1645-1653(2007) |
| Ana Sousa, Chiho Matsudaira, Shin Takahashi, Shinsuke Tanabe, Carlos Barroso |
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