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 頭髪標準試料は、頭髪中メチル水銀、総水銀及びその他の微量元素分析の際に、本試料を用いて分析値及び分析方法の正確さを評価することを目的として作製された環境標準試料である。本標準試料は1985年に当研究所で作製し、その後在庫切れとなったNIES No.5 頭髪の更新版としての意味合いも持つ。

 本標準試料は、NIES No.5 と同様、1980年に東京・つくば地域の3理容店にて収集した日本人男性の頭髪を原料としている。頭髪は非イオン性洗剤で洗浄後、液体窒素温度下でセラミック/テフロン製ディスクミルを用いて低温粉砕し、100ミクロンのふるいを通った部分を均一化して得られた約3 kgを1,000本のビンに小分けしたものである。

 メチル水銀、総水銀、カドミウム、銅、鉛、アンチモン、セレン、亜鉛の含量に関し保証値が、アルミニウム、銀、ヒ素、バリウム、カルシウム、コバルト、鉄、マグネシウム、マンガン、ナトリウム、イオウ、バナジウムについては参考値が与えられている。

1. 保証値および参考値

保証値

元素 含有量*1 (μg/g) 分析方法*2
メチル水銀(Hgとして) Hg 3.8±0.4 3,13,14,15
総水銀 総Hg 4.42±0.20 2,3,4,5,10
カドミウム Cd 0.23±0.03 1,8,9,10
Cu 15.3±1.3 1,5,7,8
Pb 4.6±0.4 1,8,10,12
アンチモン Sb 0.042±0.008 1,5,8,10
セレン Se 1.79±0.17 1,5,6,8,9,10,11
亜鉛 Zn 172±11 1,5,7,8,10
 含有量*1
 乾燥重量当たり。試料を85 ℃で4時間乾燥し、30分間デシケータ内で放冷後の重量減少分を水分含量として分析値を補正した。詳しくは取り扱い法を参照のこと。
 分析方法*2
1: 原子吸光法
2: 還元気化原子吸光法
3: 加熱気化-金アマルガム-原子吸光法
4: 還元気化原子蛍光法(CVAFS)
5: 中性子放射化分析法
6: 化学分離一放射化分析法
7: 誘導結合プラズマ発光法(ICP-AES)
8: 誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)
9: マイクロ波誘導窒素プラズマ質量分析法(MIP-MS)
10: 同位体希釈-ICP-MS
11: 同位体希釈-MIP-MS
12: 蛍光X線
13: 電子捕獲検出器付きガスクロマトグラフィー
14: ガスクロマトグラフ-CVAFS
15: 液体クロマトグラフ-ICP-MS検出器

参考値

元素 含有量*1 (μg/g)
アルミニウム Al 120
Ag 0.10
ヒ素 As 0.10
バリウム Ba 2.0
カルシウム Ca 820
コバルト Co 0.07
Fe 140
マグネシウム Mg 160
マンガン Mn 3.9
ナトリウム Na 61
イオウ(%) S 5.0
バナジウム V 0.27
 含有量*1
 乾燥重量当たり

2. 取り扱い法

  1. 本試料は、メチル水銀の分解を避けるために滅菌処理されていない。何らかの疾患の媒体となる可能性があるので取り扱いには注意すること。
  2. 使用の度ごとにビン内の試料をよく混和してから分析用試料を分けとること。
  3. 分析用の試料を秤量する際には、少なくとも30分室温放置してから行うこと。均質性の観点から一回の分析に要する重量は120 mg以上を推奨する。
  4. 本標準試料は約9 %の水分を含む。保証値、参考値とも乾燥重量当たりで与えられているので、分析の度ごとに試料の水分含量を測定して分析値を補正すること。試料(>100 mg)を85 ℃のオーブンで4時間加熱して、30分間シリカゲルデシケータで放冷した後の重量減少分を水分含量とする。加熱による試料中成分の蒸発、分解を避けるため、成分分析用試料とは別に、水分含量測定用試料を用いて測定すること。
  5. 本標準試料は微量ケイ酸塩物質を含有する。分析に際し、酸分解を必要とする場合は、完全分解のためにフッ化水素酸の添加が必須である。
  6. 保存方法について
    本試料はメチル水銀の分解を避けるために、必ず遮光して-20 ℃で保存すること。

3. 参考文献

1 New human hair certified reference material for methylmercury and trace elements
Frasenius J. Anal. Chem., 357:279-283(1997)
Jun Yoshinaga, Masatoshi Morita, Kensaku Okamoto
2 Mercury speciation by liquid chromatography coupled with on-line chemical vapour generation and atomic fluorescence spectrometric detection (LC-CVGAFS)
Talanta, 66:762-768(2005)
Emilia Bramanti, Cristina Lomonte, Massimo Onor, Roberto Zamboni, Alessandro D’Ulivo, Giorgio Raspi
3 Hair mercury levels, fish consumption, and cognitive development in preschool children from Granada, Spain
Environ. Res., 110:96-104(2010)
Carmen Freire, Rosa Ramos, Maria-Jose Lopez-Espinosa, Sergi Díez, Jesús Vioque, Ferrán Ballester, Mariana-Fátima Fernández

付録

 

NIES CRM No.13頭髪の水銀同位体比

頭髪中水銀同位体比はヒトへの水銀暴露源の推定に有用な情報である。NIES CRM No.13頭髪の水銀同位体比を追加情報として認証書に付記した。
均質性評価のため、瓶内・瓶間について水銀同位体比を分析し、分析精度内で均質であることを確認した(表1)。本標準物質は毛髪中水銀同位体分析における分析値の評価や精度を管理するためにも利用することができる。毛髪中の水銀同位体分析法や評価方法の詳細は、文献(A. Yamakawa et al., Accred. Qual. Assur. (2016) DOI 10.1007/s00769-016-1196-x.)を参照されたい。

付録 表1 NIES CRM No.13 頭髪の水銀同位体比
  δ199Hg δ200Hg δ201Hg δ202Hg δ204Hg Δ199Hg Δ200Hg Δ201Hg Δ204Hg
(n=11)
Mean 2.13 0.98 2.77 1.89 2.76 1.65 0.04 1.36 -0.04
2SD 0.07 0.08 0.10 0.10 0.16 0.06 0.04 0.07 0.11


頭髪中のMIF(Δ199HgおよびΔ201Hg)は摂取した魚介類の種類や量に応じて変化することから、暴露源の推定として利用されている。また、頭髪中のMDF(δ202Hg)は摂取した水生生物のMDFより約2 ‰高くなることから、体内動態のトレーサーとしての利用も期待されている(例えばYamakawa et al., 2016)。

<補足説明>
水銀同位体組成を表記する際、NIST SRM 3133と測定試料の同位体比を比較したズレを、千分率を用いたδ値(‰)として表す:
δ***Hg (‰) = ([((***Hg/198Hg))sample/(***Hg/198Hg)NIST SRM 3133] – 1) × 1000
***:水銀同位体の質量数199、200、201、202、204)

δ***Hgの測定値と理論値に差が生じる場合を質量非依存型同位体分別(Mass Independent Fractionation:MIF)と呼び、Δ値として表す:
Δ***Hg (‰) = δ***Hg − (β x δ202Hg)、
(β:理論上のδ202Hgに対する他の同位体の割合。δ199Hg/δ202Hg=0.252、
δ200Hg/δ202Hg=0.502、δ201Hg/δ202Hg=0.752、δ204Hg/δ202Hg=1.492
(Bergquist and Blum, 2007))。

<引用文献>
B. A. Bergquist, J. D. Blum : Science, 318, 417 (2007).
A. Yamakawa, A. Takeuchi, Y. Shibata, S. Berail, and O. F. X. Donard : Accred. Qual. Assur. (2016) DOI 10.1007/s00769-016-1196-x.

詳細の問い合わせ先:nies.crm@nies.go.jp