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 日本の食事標準試料は、日本人の食事や食品試料中の微量元素分析の精度管理や分析機器の校正に使われることを目的として、放射線医学総合研究所(NIRS)と国立環境研究所(NIES)において共同研究開発された環境標準物質であり、現在、国立環境研究所が管理、分譲している。

1.原料および作製法

 日本国内23都道府県から、性別(男11人、女18人)、年齢(21~73歳)が偏らないように選んだ29世帯の日常の食事を材料として本標準試料を作製した。

 1997年11月~1998年1月および1998年3~5月の2回、この期間の連続する3日間にとった食事はすべて1食分ずつ各家庭で冷凍保存し(陰膳法)、冷凍状態のまま茨城県つくば市の国立環境研究所に集められた。

 集めた試料は凍結乾燥後、標準試料用の原料として、生産開始まで冷蔵室内に保存管理した。 以降の、粉砕、ふるい、均質化、ビン詰めの標準試料生産工程は ISO Guide 34 に準拠して行われた。

 原料(50kg)を高純度アルミナボールミルで約500gずつ60分間の粉砕処理後、ナイロン製ふるい(250μm)により篩分操作し、ふるい下(22kg)をV型ブレンダーによって3時間均質混合した。 その試料を、酸洗浄した1,110本の褐色ビンに約18gずつ詰め、Co-60 照射(2.5Mrad)による滅菌処理を施した。

2.均質性

 調製した1,110本のビンから無作為に6本を抽出し、各ビンから500mgずつ4サブサンプルをとり(4サブサンプル×6ビン=24試料)、HNO3/HClO4/HFによる酸分解を行い、ICP発光分析法で元素含量を測定し各ビンの均質性を評価した。 定量したすべての元素(Na, Mg, P, K, Ca, Mn, Zn, Fe)含量について有意なビン間誤差は認められなかった。 ただし、ビン内誤差が認められたFe は、認証値の対象外とした。

3.認証値および参考値

 認証値は、少なくとも3種類の原理が異なった分析方法で分析された元素のみを対象とし、NIES および NIRS を含めた20研究機関による分析結果を ISO Guide 35 に則して決定された(表1)。 なお、推定される不確かさの範囲は95%信頼区間である。

 室間誤差は小さかったがビン内での不均質が疑われる元素(Fe)、生産工程での汚染が疑わしい元素(Pb)、2種類以下の分析方法による分析結果しか得られなかった元素等の中から、12元素について参考値を与えた(表2)。 認証値および参考値はすべて乾燥重量あたりである。

表1 認証値

元素 単位 認証値 分析方法*1
Ca % 0.125±0.004 AAS,ICP,ICPMS,IDICPMS,INAA,PIXE
K % 0.550±0.015 AAS,FES,ICP,ICPMS,INAA,PGA,PIXE
Na % 1.00±0.04 AAS,FES,ICP,ICPMS,INAA,PGA
As mg/kg 0.60±0.04 AAS,ICPMS,INAA
Ba mg/kg 1.1±0.1 ICP,ICPMS,INAA
Cd mg/kg 0.069±0.009 AAS,ICPMS,IDICPMS,INAA
Cu mg/kg 2.8±0.1 AAS,ICP,ICPMS,IDICPMS,PIXE
Mg mg/kg 576±12 AAS,ICP,ICPMS
Mn mg/kg 8.9±0.2 AAS,ICP,ICPMS,INAA,PIXE
Se mg/kg 0.25±0.02 AAS,INAA,IDGCMS
Sn mg/kg 1.6±0.1 AAS,ICPMS,IDICPMS,INAA
Sr mg/kg 4.9±0.2 AAS,ICP,ICPMS,IDICPMS,INAA,RNAA
Zn mg/kg 20.9±0.9 AAS,ICP,ICPMS,IDICPMS,INAA
U mg/kg 0.0029±0.0004 ICPMS,INAA,RNAA

分析方法 *1

AAS: 原子吸光分析法
FES: 炎光光度分析法
ICP: プラズマ発光分析法
ICPMS ICP質量分析法
IDICPMS: 同位体希釈 ICPMS
INAA: 機器中性子放射化分析法
RNAA 放射化学中性子放射化分析法
PGA: 中性子即発γ線分析法
PIXE 粒子線励起X線分光法
IDGCMS: 同位体希釈ガスクロマトグラフ質量分析法

表2 参考値

元素 単位 参考値 元素 単位 参考値
Br mg/kg 24 Mo mg/kg 0.43
Cl % 1.5 Ni mg/kg 0.39
Co mg/kg 0.022 P % 0.26
Cs mg/kg 0.020 Pb mg/kg 0.62
Fe mg/kg 18 Rb mg/kg 4.7
I mg/kg 1.9 Th mg/kg 0.002

4.保管および分析上の注意

 (1) 本試料は必ず密栓状態で4℃ 以下の冷暗所保存をすること。 開封後も同様の条件下で保存すること。

 (2) 分析用の試料を分取する際は、ビンごと室温にまでもどし、ビン内の試料を混和するため軽く振ってから行うこと。

 (3) 本試料の認証値、参考値はすべて乾燥重量当たりで決定されている。 したがって元素濃度の定量の際には水分含量の測定を行い、補正をする必要がある。 乾燥方法は、凍結乾燥あるいは室温での真空乾燥(どちらも24時間)が推奨される。 乾燥前後の重量減を水分含量とする。 加熱による乾燥は、水分以外の低沸点成分の揮発によって、水分を過剰評価する可能性があるので避けるべきである。

 なお国立環境研究所において測定した水分含量は 0.6% であった。 ただしこの値は保存期間、保存環境により変動するので、必ず毎分析時に推奨した方法で水分含量を測定して分析値を補正すること。

 (4) 水分含量は、成分分析用試料とは別に水分含量測定用試料を用いて測定すること。

 (5) 均質性の観点から本試料の分析には1回あたり必ず500mg以上用いること。

5.有効期限

 本標準試料の認証値の有効期限は、上記保管条件が守られることを前提として、2025年7月とする。 有効期限内に含有量の変化が認められた元素については、国立環境研究所ホームページ等を通じて案内する。

  • 国立環境研究所ホームページ

6.参考文献

1 Certified Reference Material for Analytical Quality Assurance of Minor and Trace Elements in Food and Related Matrixes Based on a typical Japanese Diet: Interlaboratory Study
J. AOAC Int., 84: 1202-1208(2001)
Jun Yoshinaga, Masatoshi Morita, Masae Yukawa, Kunio Shiraishi, Hisao Kawamura

分析協力機関

 「日本の食事」環境標準試料の認証値および参考値は、次の分析参加機関の分析値を基に決定された。

University of Massachusetts、Bhabha Atomic Research Centre、 International Atomic Energy Agency、(株)島津製作所、社団法人日本アイソトープ協会、武蔵工業大学、北海道環境科学研究センター、セイコーインスツルメンツ(株)、千葉工業大学、鹿児島大学理学部、岩手医科大学、食品総合研究所、京都大学原子炉実験所、甲南大学、東京都立産業技術研究所、Beltsville Human Nutrition Research Center、東北農業試験場、日本原子力研究所、放射線医学総合研究所、国立環境研究所