(別表2) 研究プログラムにおける研究活動及び研究の推進方向
ア.地球温暖化研究プログラム
温室効果ガスの自然起源の吸収・排出源の変動メカニズムの解明と将来の吸収能力の変化予測の高精度化を行うとともに、国際的な温暖化対策の推進に関し、地球規模のリスク管理戦略の構築、脱温暖化社会の実現に向けての各国の政策オプション、国際協調のあり方などの諸問題の解決を目指して、科学的な知見の集積・提供を図る。
① 衛星ならびに地上、船舶、航空機などのプラットフォームを用いた全球及び東アジア域を中心とした大気環境・温室効果ガスの観測の継続を図りつつ、これらの観測の総合的な解析のためにデータの統合化やモデルの改良などに着手する。また、分析、観測技術の高度化を行うことによって観測対象地域での放射収支関連物質の分布・循環の実態とその長期的変動機構を明らかにする研究を進める。
② 将来の気候変動およびその影響についてメカニズムの理解を深め不確実性を評価するための予測実験の解析を進めるとともに、気候変動を含む地球規模問題をリスク管理の観点から評価するためのフレーミングの検討とモデルの構築に着手する。
③ アジア主要国における低炭素社会実現に向けた施策を評価する統合評価モデルの開発を開始するとともに、世界の温室効果ガス排出経路について世界モデルを用いて分析し、中国等途上国の参加を促進する方策を検討する。アジア主要国の統合モデルによる各国削減シナリオ、世界モデルを用いた温室効果ガス排出シナリオをそれぞれ明らかにするとともに、COP17等にて想定されるCOP決定等の合意内容を定性的に評価することをアウトプットとする。
イ.循環型社会研究プログラム
日本とアジアの近隣諸国にまたがる国際的な資源循環、アジアの開発途上国の廃棄物適正管理、国内の地域特性を活かした資源循環という三つの地域区分に着目して、廃棄物の適正管理を資源の有効利用や地球温暖化対策との協調のもとで行うための科学的・技術的知見が求められる課題に取り組み、国内外の循環型社会構築を支援する。平成23年度には以下の目標を達成する。
① 資源性・有害性物質の適正管理に資するマテリアルフロー・サプライチェーン及び環境影響にかかる基本情報の取得を行う。また、関連したESM(環境上適正な管理)の概念をレビューし、必要な考え方を整理する。
② 準好気性埋立技術におけるガスと浸出水の挙動の定式化を進める。アジアの都市の集合住宅等から排出される液状廃棄物の性状、処理の現状調査を行う。アジア共通の普遍性と地域に応じた特異性を考慮した,廃棄物発生量、環境負荷、コスト等の調査を進め、データ集積を図る。
③ 地域特性を活かした地域づくりの事例を広く国内外にわたって調査するとともに、地域の潜在的な循環資源の存在量、これらを利用できる既存産業の規模や施設立地状況等のデータ収集を行い、地域循環圏形成の主な課題と可能性の基本情報を整理する。
ウ.化学物質評価・管理イノベーション研究プログラム
化学物質等の生態リスクに関する研究を進めて、種個体群の存続可能性や生態系機能等の観点から、評価の対象となっている生物への影響と生態系保全の関係について整理し、生態影響試験の標準化と体系化を行い、新たな生態リスク評価手法を提示する。また、ナノマテリアルの毒性評価手法の開発と安全性に関する研究を進めて、人の体内や環境中でのナノマテリアルの物理化学的性状や挙動、形状と毒性の関係を明らかにし、UNEP、OECD、ISO等の国際機関の動向を踏まえつつ、新しい考え方に基づく化学物質のリスク評価手法を提示する。同時に、多様な影響や特性を持つ多数の化学物質に対する効果的かつ効率的な管理のため、リスク要因の時空間特性の解明など評価手法の高度化に関する研究を行うとともに、これに対応する管理戦略の研究、科学的知見の確からしさに対応するリスク管理戦略の研究などを進め、科学的不確実性の高い段階での対策手法の最適な選択など社会における合意可能性も含めた化学物質等の環境リスクの管理のための戦略を示すための研究を実施する。
① 化学物質の生態影響の試験法と化学物質の生態影響を評価するための数理モデルに関する研究に着手する。
② ナノ粒子の分散性、表面電荷に着目したナノマテリアル試験方法を確立するために、安定に分散したエアロゾルや懸濁液の作製方法に関して研究を進め、生態毒性試験法及び培養細胞や哺乳動物を用いた試験法の検討を開始する。
③ 化学物質による環境リスクの最適な管理法を導出する理論的枠組みを提示ために、化学物質の動態や曝露特性の評価手法の高度化を進め、これをもとに国際的な観点から化学物質の管理戦略を整理する。
エ.東アジア広域環境研究プログラム
第二期中期計画におけるアジア自然共生研究プログラムの蓄積をもとに、東アジアにおける代表的な広域環境問題である大気・海洋汚染を対象とし、観測とモデルを統合することにより、これらの問題の発生メカニズムを解明する。汚染発生に関わる空間スケールの重層性を考慮したマルチスケールモデルを構築し、大気から海洋と陸域への物質負荷も考慮して、環境負荷と広域環境応答の関係を定量的に評価する。更に、「環境都市システムプログラム」や社会環境システム研究分野と連携して削減シナリオの提示及びその影響評価シミュレーションを実施し、東アジアの広域環境問題の解決に資する。
① 観測とモデルを統合して、半球/東アジア/日本のマルチスケール大気汚染の実態と変動を把握し、越境大気汚染による国内での影響を評価するために、東アジアの広域大気汚染を対象にしたガス状・粒子状物質の新規観測を検討・開始するとともに、全球・領域化学輸送モデルや排出インベントリーの開発などに着手する。また、越境大気汚染による国内への影響評価研究に着手する。
② 東アジアにおける汚濁負荷等の陸域人間活動が、水及び大気を介して東シナ海・日本近海の海洋環境に及ぼす影響を解明するために、数値モデルと現地調査とに基づく長江流域負荷の推計、数値モデルと航海観測・培養実験に基づく東シナ海環境への影響把握に着手する。
③ 東アジアの大気汚染・水質汚濁負荷の将来・削減シナリオに対する大気・海洋環境への影響を予測・評価するために、「環境都市システムプログラム」や社会環境システム研究分野と連携して、シナリオの検討を開始する。
オ.生物多様性研究プログラム
リモートセンシングデータ及び分子遺伝学的な情報の活用により、広域的な生物多様性の状況を効率的に観測する手法の開発にとりくむ。また、観測データにもとづいて生物多様性の状況および保全策の効果を総合的に評価する指標の開発を行う。更に、これらの成果を活用しつつ、気候変動および侵略的外来生物の影響等、具体的な問題の解決に取り組む。
① 国内の景観・物理環境に関する地理情報をリモートセンシング画像・植生図・土地利用図等からリストアップし、生物分布解析に必要な情報を収集するとともに、統一した基準で景観基盤情報の整備を開始する。
② 生物種間の遺伝子塩基配列変異を探索・収集し、それらの情報から種を判別する手法を開発する。生物定量標本・環境DNAからの特定遺伝子塩基配列の変異別決定数をもとに生物種の生息量を定量評価する手法の有効性を検討する。
③ 生物の空間分布推定モデルを構築するために既存データの整理を行う。デジタル化が未完了の情報については、優先順位付けをしたうえでデジタル化作業を行う。利用可能なデータから、生物多様性の状況の空間分布を図化する手法の検討を行う。
④ 日本国内の土地利用パターンの変化に関するシナリオを構築するため、戦後以降から現在までの土地利用変化パターンや、現在の人口データと土地利用パターンとの関係の分析を開始する。
⑤ 特定外来生物の分布実態および生態影響を明らかにし、有効な防除管理ユニットを設定するとともに、防除手法の開発を進める。鳥インフルエンザおよびカエルツボカビの分布拡大プロセスおよび宿主−病原体の共種分化関係を調査する。
⑥ 遺伝子組換えセイヨウアブラナの生育密度が高い地域において訪花昆虫を調査するとともに、昆虫の付着花粉から除草剤耐性遺伝子を検出する方法を確立する。非GMセイヨウアブラナ種子の除草剤耐性保持率から、調査地におけるセイヨウアブラナ同士の交雑率を算出する。
⑦ 陸域の温暖化影響について、チベット高原で標高に伴う植物種の侵入と消失、優占種と指標種の個体群動態の変化を観測し、物理的要因の影響を統合的に評価する。また、温暖化に伴う植物多様性変化の診断手法の開発に着手する。海域の温暖化影響について日本全国規模でサンゴ群集構造と水温との関係を明らかにして、温暖化影響の指標種を確定する。
カ.流域圏生態系研究プログラム
流域圏生態系の水・物質循環に着目し、生態系機能の健全性を定量評価するための手法開発を行う。新規性の高い測定法やモデル解析を駆使して長期・戦略的モニタリングを行うことで、生態系機能・生態系サービスと様々な環境因子とのリンケージ (連動関係)を定量的に評価する。ここでの評価に基づき、メコン河等の広域な流域圏における生態系と生物多様性を戦略的に保全し、生態系機能・生態系サービスを維持するための施策に資する研究を行う。
① 筑波山や東北大学演習林等を対象に、森林生態系における物質動態に関するモニタリングを開始し、人工林荒廃と窒素飽和現象の関連性を評価するとともに、そのメカニズムについて検討を行う。
② 霞ケ浦等の湖沼を対象にフィールド調査と室内実験等を開始して、湖水柱と底泥での物質循環と微生物(藻類、バクテリア等)活動の連動関係を検討する。
③ 谷津干潟等の沿岸域を対象に、野外調査、操作実験や室内実験を実施して、一次生産者の変化や侵入種による優占現象が干潟の生態系機能に及ぼす影響について検討する。
④ メコン河流域の下流4カ国において重点研究サイト(ダム貯水池)を選定し、地域ごとに定期的な水および底泥のサンプリングを行うための研究基盤を整備するとともに、実験室(日本)にてこれらサンプルを効率的に処理するためのシステムを整備する。
⑤ すでに取得してある回遊魚の耳石サンプルをLA-ICP-MSで分析し、そのデータから回遊経路の推定を行う。また上述のダム貯水池から新たに得られる耳石サンプルの分析も進める。
⑥ 沿岸域(干潟等)における底生生物の種多様性・生態系機能のデータベース整備を始め、広域スケールの生物多様性の評価を開始する。
キ.環境都市システム研究プログラム
都市の社会・経済と環境特性に応じた、環境負荷の増大と自然環境劣化の克服に向けての将来ターゲットを設計して、そこへ到達する実効的な、地域と都市・地区の環境技術と政策のシステムを描く計画手法と評価体系の研究開発を進める。具体的には、水、エネルギー、資源循環を制御する環境イノベーション技術・施策の研究開発とともに、関連する社会制度システムの定式化を進めて、国内外で展開可能な環境都市マネジメントの技術・施策パッケージとして形成する。そのうえで都市や地区の経済、環境特性に応じて技術・施策をカスタマイズして適用する「環境ソリューション」システムの研究開発を進める。
① 低炭素社会や地域循環圏の形成等の都市・地域の将来シナリオのコベネフィット型の目標群と、その達成にむけた環境技術と施策を操作変数とする定量的な環境計画とその評価システムに関する内外の事例を調査検討するともに、都市、地域の特性に応じた環境都市とモデル地区を計画、効果を算定する基本的な枠組みを構築する。
② 国内とアジアの実在のモデル都市、モデル地区において技術・施策の社会実装の研究を進めることによって、空間的にまとまった単位で複合的な環境問題を解決する技術・施策(環境都市ソリューションシステム)のあり方について専門家の意見も集約しつつ、基本的な枠組みを構築する作業に着手する。
③ 都市・地域環境施策や街区等の都市・地域の拠点開発事業など、国内外の環境都市実現の社会実装プロセスを設計に必要となる要因について調査分析するとともに、アジアへの展開のガイドラインの構築に向け、低炭素都市やコベネフィット都市、地域循環圏等の政策実現に貢献するための要因を明らかにする。
④ 都市・地域空間に関する将来の土地利用転換や基盤整備の分析手法に関する内外の事例を調査するとともに、低炭素やコベネフィットなどの社会環境ターゲットに応じたマルチスケールの地域・都市・地区の計画などの都市環境施策への反映方法を検討する。
ク.小児・次世代環境保健プログラム
エコチル調査から得られると考えられる環境因子と健康との関連性に関する多くの知見に加えて、健康影響メカニズムを解明することにより疫学知見に生物学的妥当性を与え、また莫大な数に上る環境汚染物質や健康影響の中から疫学研究で検討すべき対象物質や影響指標を提案するなど、これを相補・補完する実験的研究をあわせて推進することも必須となっている。
① 様々な要因を考慮した環境汚染物質の曝露評価モデルの開発及びヒト試料中化学物質の多成分一斉分析法の開発により、疫学研究に適用可能な総合的な曝露評価システムの確立を目指す。
② 小児の成長・発達を考慮した疫学的健康影響評価手法及び生物統計手法の高度化に着手する。
③ 環境化学物質の胎児期・幼児期曝露が主要な生体機能に及ぼす影響と、影響に伴うエピジェネティックな変化、エピジェネティック変化の生体影響への寄与と誘導機序の解明を目指す。
④ 小児・次世代を主対象に、環境汚染物質の免疫・アレルギー疾患への影響を疾患モデル動物及び細胞を用いて解明することを目指す。
ケ.持続可能社会転換方策研究プログラム
持続可能社会とその将来シナリオの視点から、環境問題の現状分析を踏まえ、問題の引き金となるドライビングフォースに着目し、社会・経済の姿をシナリオアプローチにより分析するとともに、社会・経済を重視したモデル化を行い、持続可能な社会を構築するに当たって必要となる対策や社会・経済のあり方を定量的に検討する。また、持続可能なライフスタイルと消費への転換の視点から、作成した将来シナリオをもとに、個人や世帯が取組むべき対策・活動を消費の面から調査分析、モデル化を行うことにより、環境的に持続可能な社会の実現方策について提示する。
① 将来分析の基礎となるドライビングフォースとしての社会・経済の姿を的確にとらえるために、シナリオアプローチ分析手法の事例調査を通じて基本的な枠組みを構築する。さらに、各シナリオにおいて生じうる様々な環境問題について、専門家や関係主体の意向を集約、検討し、持続可能な社会を構築するに当たって必要となる対策や社会・経済のあり方を明示的に表現する方法について検討する作業に着手する。
② ライフスタイル変化の要因の分析、ライフスタイルに関する定性的、定量的なシナリオの内外の事例を広範囲に調査・分析するとともに、持続可能なライフスタイルのあり方について基本的枠組みついて整理する。
コ.先端環境計測研究プログラム
1)POPsを含む環境中、生体中に存在する膨大な数の化学物質の監視、解析のための、多次元分離技術による網羅的分析手法の開発と体系化、2)気候変動など環境の状態やその変化、環境中の物質動態、更には水銀その他の汚染物質の発生源や環境動態などを把握、追跡、評価するための新たな環境トレーサーを用いた環境動態解析法の開発と体系化、3)気候変動や植生変化など全球的環境監視強化にむけた次世代環境観測衛星センサーに必要な計測手法並びにデータ解析手法の開発、の3つの主要な課題に取り組み、様々な環境研究を支える先端的な環境計測手法の研究開発を推進する。
① 網羅的分析手法の開発においては、GCxGC-MS/MSなどによる環境試料中のダイオキシン、PCBなどのPOPs類の一斉定量を可能にするため、媒体毎に試料の採取法、前処理の省略や最少化や分析条件について検討する。また、主に環境試料中のハロゲン系化合物の選択的かつ網羅的に検出する方法の開発に着手する。
② 環境トレーサーを用いた環境動態解析法の開発の一環として、様々な環境試料(鉱物、魚等)の前処理法と同位体比測定用誘導結合プラズマ質量分析装置(MC-ICP-MS)を用いた水銀同位体精密分析条件の確立を進める。また、エアロゾル中のブラックカーボンの分離・精製などの試料前処理法確立や加速器質量分析計(AMS)を用いた放射性炭素(14C)測定の高感度化を進める。更に、地上モニタリングステーションで観測している自然起源VOCの変動を自然生態系トレーサーとして活用するために、それらの季節変動、日々間変動を把握する。また複数のフロロフロロカーボンの同時高感度定量法を確立と日本海において実測定を行う。
③ 次世代衛星搭載センサーの提案を目標として、国際宇宙ステーションへの搭載を提案中の植生ライダー(樹冠高度と植生指数を測定)の検討を進めるとともに、2015年打ち上げ予定のEarthCARE衛星に搭載されるライダー(ATLID)のエアロゾルの解析手法及びマルチスペクトルイメージャー(MSI)との複合解析手法の開発に着手する。ハイパースペクトルセンサのデータ解析手法の研究として、特に水域での利用に重点をおき、大気及び水面反射の影響の軽減手法の検討や藻場、サンゴ礁等の沿岸生態系の分光特徴やその測定方法に関する調査等を実施する。
