(別表1) 中核研究プロジェクト
1.地球温暖化研究プログラム
(1)温室効果ガスの長期的濃度変動メカニズムとその地域特性の解明
アジア(シベリアも含む)−オセアニア地域での陸・海・空に展開した広い観測網による温室効果ガス(CO2、CH4、N2O、フッ素系温室効果ガス等々)や関連するトレーサー物質の時空間分布や、それらのフラックスの長期的変動を捉え、濃度変動を引き起こすメカニズムやその地域的な特性を検出する。具体的には、
1) 航空機、定期船舶、地上観測ステーションを用いた観測網を用い、温室効果ガス濃度の連続的な観測やボトルサンプリングを用いた酸素、同位体など高度な項目の分析を行う。JAL航空機を用いた観測では対流圏上部の経度分布と各地の空港上空で高度分布などを求める。定期航路を持つ民間船舶を用いたアジア航路、オセアニア航路、北米航路などの航路上での精密な観測を行い、東南アジア含む地域の温室効果ガスの発生源強度や、その太平洋上への拡散の様子などの地理的分布を把握する。波照間、落石の観測ステーション、また、中国やインドでの観測サイトでは、その地域特性を把握する。波照間、落石ステーションではフロン等を含め酸素、炭素同位体比など高頻度観測を継続し、アジア大陸からの影響や、グローバルな二酸化炭素収支などの推定を継続する。
2) 日本からニュージランドまでの航路上の西太平洋地域及び日本―北米間の北太平洋における海洋の二酸化炭素分圧観測を継続する。日本やアジア各地の陸域生態系における二酸化炭素等の吸収量の観測及び収支推定と、気候変動影響についての研究を行う。またこれまで5箇所の日本の森林生態系に設置した土壌有機炭素による温暖化フィードバックに対するチャンバー実験を継続し、温度上昇に対する土壌有機物の分解の加速特性の地域分布と変動を調べる。
3) 大気のCO2、CH4などの各地の観測とNIES結合モデルによりシミュレーションを行い、モデル内のフラックスの妥当性を検討し、かつ観測データの時空間変動についての解釈を行う。
(2)衛星利用による二酸化炭素等の観測と全球炭素収支分布の推定
温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)の取得データから、二酸化炭素・メタン等のカラム量の全球分布を高精度に導出するためのデータ処理手法の開発と改良を行う。また、データプロダクトの検証研究を進める。さらに、衛星観測データと地上で取得される測定データとを併せて地域別炭素フラックスの推定を行うためのインバースモデルについて、実観測データを用いて研究を進める。具体的には、
1) GOSATの短波長赤外波長域での実観測データを用いて、二酸化炭素・メタンのカラム量導出手法の確認と改良を行うとともに、導出値の誤差評価を行う。さらに、カラム濃度の全球分布データ作成手法改良のための研究を進める。
2) GOSAT観測データから導出される二酸化炭素とメタンのカラム量に関するプロダクト及びその導出誤差に直接関連する巻雲・エアロゾル情報についての検証・比較のため、地上設置の高分解能フーリエ変換分光器、スカイラジオメーター等による検証観測を行い、それらのデータ解析により検証データを作成する。得られた検証データを用いてGOSATデータプロダクトのデータ質の評価研究を行う。
3) GOSATからの二酸化炭素カラム量と地上観測データとを利用して全球の炭素収支分布を推定するインバースモデルシステムの実用化を計り、実観測データを用いて予備的な平成21年の炭素収支推定を行う。更にインバースモデルのためのデータ同化手法の研究開発を進める。
(3)気候・影響・土地利用モデルの統合による地球温暖化リスクの評価
気候モデル、影響モデル及び陸域生態・土地利用モデル各々の高度化と、極端現象及び不確実性を考慮したモデルの高度利用を行う。また、地球温暖化リスクの総合的な評価を行うため、モデルの統合利用及び結合の作業を進めるとともに、モデルによる評価が困難な要素も含めたリスクの全体像の整理を行う。具体的には、
1) 気候モデルについて、国内他機関と連携し、IPCC第5次評価報告書に向けた新しい気候変化予測実験を実施するとともに、その実験結果の初期的な解析を行う。また、予測の不確実性を定量化する手法の改良を行う。さらに、IPCCの新しいシナリオ開発プロセスに対応して、気候シナリオと社会経済シナリオを結びつける分析を開始する。
2) 影響モデルについて、農業モデル・水文モデル・土地利用モデルの統合利用により、将来の水・土地制約が世界規模の食料供給に与える影響を分析するとともに、影響の不確実性定量化の手法を高度化し、水文および健康影響の不確実性を定量化する。また、専門家とメディアとの意見交換等を通じ、地球温暖化リスクの全体像の把握と伝達に関して検討する。さらに、世界規模の適応策のあり方についての検討を行う。
3) 陸域生態・土地利用モデルについて、陸域生態モデル及び土地利用モデルの高度化を進めるとともに、IPCCの新シナリオに対応する、詳細な空間分布を持つ土地利用変化シナリオの開発に着手する。さらに、気候、水文、農業モデルとの連携を通じて、陸域生態系に対する温暖化影響を評価するとともに、土地利用分野における緩和・適応政策について検討を開始する。
(4)脱温暖化社会の実現に向けたビジョンの構築と対策の統合評価
京都議定書の削減目標達成のための環境政策の評価、2012年以降に開始される将来枠組みに関する諸制度の分析、脱温暖化社会(低炭素社会)の構築に向けたビジョン・シナリオの作成を行う。具体的には、
1) 日本、中国、インド、タイ、インドネシア、マレーシアなどのアジアを主な対象に、国レベルや地方レベルの低炭素社会シナリオ研究を続ける。具体的には、地域の実情を反映したビジョン・シナリオを作成し、実現に資する方策を提言する。その際、持続的発展の立場からも低炭素社会実現の必要性を分析し、低炭素社会への道づくりへの提言を行う。
ア) 低炭素社会と持続的発展を考慮した中長期のビジョン・シナリオの構築手法を分析する。
イ) アジア主要国・地方のビジョン・シナリオ開発を進め、地域の特性に応じた対策や政策を地元の研究者・ステークホルダーとともに検討する。
ウ) LCS-RNet(低炭素社会研究ネットワーク)等を通じながら世界の研究者と協力して低炭素社会への道筋を明確にする。
2) 次期国際枠組みに関する交渉は、2009年末に開催されたCOP15で了承されたコペンハーゲン合意をふまえ、COP16に向けて継続することになった。この交渉の合意内容は、コペンハーゲン合意文書作成過程でもみられたように、米国や中国、欧州といった主なプレーヤー間の駆け引きに委ねられる。そこで、今年度は昨年度から継続して、これまで蓄積した制度提案に関する知識を交渉会議等にて発信しつつ、米国、欧州、新興国、ロシアの4大プレーヤーを取り上げ、それらの国の交渉におけるポジションや国内政策決定の分析を実施する。また、より長期的な視点からは、アジア太平洋地域における低炭素社会あるいは持続可能な発展に至るための道筋を検討するために、同地域の多様な国際協力機関の連携のあり方について検討する。
3) IPCC第五次評価報告書への入力を目的とした新シナリオ作成のために、世界経済モデルや世界技術選択モデルを用いて、長期排出シナリオの作成作業を行う。このほか、簡易気候モデル、影響モデルの成果も踏まえて、気候変動や温暖化影響とその社会・経済へのフィードバックについての長期シナリオを作成し、排出シナリオとを統合化した気候変動統合シナリオを作成する。また、国連事務局に提出されたわが国の2020年の排出削減目標である1990年比25%削減に向けた温暖化対策の実施の効果とその影響を、日本を対象とした技術選択モデルや経済モデルを用いて定量的に明らかにし、わが国の温暖化政策に貢献する。
2.循環型社会研究プログラム
(1)近未来の資源循環システムと政策・マネジメント手法の設計・評価
社会条件の変化に伴う近未来の物質フローの変化に関する予測、資源循環技術システムの設計と評価、それを実現するための国レベル、自治体レベルの政策・マネジメント手法の設計と評価について検討する。具体的には、
1) 異なる対策パッケージの典型例として昨年度構築した2つのビジョンが、想定されうる様々な近未来のシナリオのもとで、一定量の脱物質化(天然資源消費抑制)と環境負荷低減を達成できるように、またそれぞれのビジョン内で不整合がないようにこれを再構成する。特に、廃棄物対策に関わるビジョンを特定の事例を挙げながら詳細に検討する。また、こうしたビジョンの検討にあわせて、天然資源消費および環境負荷排出を推計するモデルの改善、対策コストの定量化等を行う。
2) 国レベルの廃棄物等の発生に係る統計情報と、需要側の統計情報の分解能の整合を図る手法を検討し、将来の継続的な循環型社会形成推進基本計画の進捗管理と@におけるビジョンのモデルによる検討に資するための情報基盤整備を行う。国レベルのビジョンを地域レベルに還元し、地域の類型化と類型毎の近未来の資源循環技術システムを提示する。
3) 制度研究について、引き続き制度調査、実態評価、個別施策対応といったボトムアップ型と、新たな政策理念等を検討するトップダウン型の研究を着実に行う。デポジット制度を含めた回収制度の知見をまとめるとともに、リデュース・リユース効果のケーススタディから、リデュース・リユース研究・施策の体系化を図る。また、3R政策における対象物選定の着眼点を整理し、具体的なデータを基に対象物のポジショニングを解析する。さらに、使用者責任や拡大生産者責任、排出者責任の考え方を統合し、国際循環の時代に合致した責任分担のあり方を整理する。自治体の一般廃棄物処理事業改善のためのベンチマーキング手法の活用については、これまでの研究成果を踏まえ、ベンチマーク指標の行政と住民による活用を含むマネジメント手法を提示する。
(2)資源性・有害性をもつ物質の循環管理方策の立案と評価
資源消費と有害化学物質リスクの最小化を目指した循環型社会構築と化学物質対策を連携するために、製品の循環・廃棄過程において高リスクが生じることのない物質管理・制御方策を社会的な取組・制度として統合化することを意識し、上流側への情報管理・情報開示や製造者責任等にかかる今後の法体系等の改正に資するよう、科学的見地からの成果と提言をまとめる。具体的には、
1) 有害化学物質のリスクについて、製品(家庭用電気電子製品やプラスチック製品等)ライフサイクルを通じて調査している過年度のケーススタディの成果から、臭素系難燃剤やVOC等に関し、リスク評価や管理に必要な化学的な定性、定量情報について包括的にとりまとめる。また、関連法制度等、物質管理方策の国内外の整備状況や各方策の要素・要件について体系的整理を行う。また、これらの研究調査成果を踏まえてさらに検討の必要な部分について抽出を行い、リスクを判断材料とした化学物質の包括的情報管理の基本モデルを提案する。
2) 資源価値の高い金属の優先度を評価し、その賦存量を、これまでの家庭用・産業用電気電子製品の調査分析を通じて、上流側(製品製造側)および下流側(廃棄物発生側)から多面的に把握する。さらに、その回収性(収集性、技術的回収性等)を定量的に評価することにより、希少資源の効率的なリサイクルのための基本方策を提案する。
3) 特に再生製品を対象とした物質管理研究として、建設資材系を例とした環境安全性評価管理フレームとそのガイドラインについて提示を行う。再生プラスチック製品の流通調査や品質管理手法調査を実試料分析とともに完了し、知見と課題をまとめる。
(3)廃棄物系バイオマスのWin−Win型資源循環技術の開発
「①エネルギー/マテリアル循環利用技術システムの開発と評価」、「A動脈-静脈プロセス間連携/一体化資源循環システムの開発と評価」の2つのサブテーマに関し、とくに検討を要する要素技術開発に加え、システム化に関する設計と解析を行う。具体的には、
1) 触媒/補助材料層の総合的性能の向上を図るため、その構成と回収ガス特性の関係を解析しつつ、最適なガス化および触媒低温改質プロセスの提示を行う。また、実用化と経済性を念頭においた廃棄物系バイオマス排出源の規模、分散状況、性状等を勘案したシステム最適設計を継続し、最終案を提示する。水素-メタン発酵システムについては、全体の汎用化システムの構築・設計に資するため、ガス回収と脱離液処理総合システムの性能評価および地域特性を踏まえた各種未利用バイオマスの発酵プロセスへの受け入れ基準・マニュアル作成を行う。また、回収リンを利用する側からみた要求品質と量について調査し、液状廃棄物中のリン濃度、処理対象規模にかなうリン回収技術の最適化を進めると同時に、費用対効果や適用性について検討する。
2) 廃棄物系バイオマスの特性にかなう規模の循環技術システム(地域循環圏)とその構築方法を提案する。システム全体での資源消費量、環境負荷排出量および事業収支等を評価項目とし、運用段階だけでなく構築段階についても時系列で考慮する。まず、地域循環圏の設計・構築方法の枠組を提案し、それに基づき茨城県における湿潤系バイオマス(食品廃棄物等)および関東圏における乾燥系バイオマス(木質系)を対象とした事例研究を実施する。地域循環圏の内容として、動脈−静脈連携や@での開発技術を組み合わせた複合処理も考慮する。これらの事例研究を通じて、地域循環圏の設計・構築手法を確立する。バイオディーゼル燃料(BDF)製造技術開発については、前年度得た固体触媒を用いた反応の最適条件を連続系へ展開し、最適な条件を確立してプロセス設計・評価を行う。また、次世代BDFを製造する技術開発を進め、原料品質に対応する最適製造プロセスを提案する。
(4)国際資源循環を支える適正管理ネットワークと技術システムの構築
アジア地域における国際資源循環及び関連する国内資源循環について、物質フローと環境影響の把握を継続するとともに、各国における関連政策と必要な技術システムについてまとめる。具体的には、
1) E-waste(廃電気電子機器)については、家電・パソコンに加えて携帯電話も対象として、中核研究プロジェクト2と連携を強め、レアメタルを含む物質ごとのサブスタンスフロー分析を継続する。有害性・資源性の観点から、各種リサイクル技術の類型化を進めるとともに、輸出入も含めて、アジア各国での適正管理のあり方を提示する。また、世界的な資源価格の変化を強く意識しながら、金属スクラップやプラスチックに関して海外輸出や国内リサイクルの課題を整理し、必要な政策提案を行う。
2) アジア途上国におけるE-wasteの循環・廃棄過程においてこれまで実施した作業環境曝露、環境排出等の調査事例について総合的にまとめる。ヒトへの曝露、環境排出について定量化を行い、対策技術の導入可能性やその効果について検証し、途上国への知見フィードバックのスキームを検討する。
3) アジアの都市における液状及び固形廃棄物の組成ごとのフローを統合的に捉える手法の提示を進めるとともに、ライシメータとテストセル実験により熱帯域における準好気性埋立の適用性の実証的な検討を進め、工学的ならびに社会的な排出源分別や中間処理技術の導入因子や制御因子を明らかにする。また、アジア諸国の汚水原単位、汚水処理状況等の調査を進めるとともに、人工湿地システム、浄化槽、傾斜土槽法等の処理技術の制約条件との適合性を評価し、処理機能解析・適用性評価および適正管理ネットワークシステムの提案を行う。
3.環境リスク研究プログラム
(1)化学物質曝露に関する複合的要因の総合解析による曝露評価
多数の化学物質や曝露に関する複合的な諸要因を総合的かつ効率的に考慮する曝露評価の確立を目指し、自然的な環境動態と曝露に関する複合的要因を階層的な時空間スケールにおいて把握するための曝露評価体系を提案する。具体的には、
1) 化学物質の時空間スケールにおける変動を考慮した曝露評価を可能にするため、ローカル、地域から地球規模に至る階層的なGIS多媒体モデル群の開発と関連するデータ整備、システム開発を行う。地球規模モデルについては、大気モデルとの統合による大気−多媒体結合モデルの開発を進め、Source−Receptor関係の解析により我が国への広域輸送による寄与を推定する手法を提示する。地域規模モデルについては、除草剤を中心にフィールド観測による検証を行う。流域規模のローカルモデルについて下水道モデルと水道取水関連データのモデル導入を進める。人への曝露評価に関しては、上記モデル結果と地域分布と流通を考慮した曝露評価の構築を進める。また、小児の特性を考慮した曝露パラメータ、水環境からの生物移行の定式化など曝露モデルの整備を進める。
2) 農薬類について、週程度の時間変動情報を含む排出推定手法の確立を目指し、除草剤を主な対象として、既存の統計、資料等に基づき、散布量の時空間変動を推定する手法の開発と検証を進める。また、除草剤以外の農薬及び一般化学物質の排出推定への拡張を検討する。
(2)感受性要因に注目した化学物質の健康影響評価
化学物質が生殖、発生、免疫、神経、行動、遺伝的安定性等の恒常性の維持機構を撹乱することにより生じる影響とそのメカニズムの解明を通して、環境中に存在する化学物質に対する感受性を修飾する生体内要因を明らかにし、これらの感受性要因を考慮した健康影響評価手法を提案する。具体的には、
1) トルエンに対して感受性の高い免疫過敏モデルマウスでマイクロアレイ解析により明らかになった変動遺伝子候補について蛋白発現や細胞、組織内での局在について解析し、トルエンに対する免疫過敏を決定する遺伝形質と免疫系と神経系のクロストークへの影響の実体を検証する。
2) 化学物質の脳・神経系への影響に対して感受性の高い時期の特定とそのメカニズム解明の研究で明らかとなった脳の性分化、神経変性、血管形成での遺伝子の変動について、蛋白分子・組織・行動レベルでの検討を行い、化学物質曝露と臨界期に関する影響評価指標の確立を目指す。
3) 感染要因と化学物質との複合的な影響を評価するため、新生仔期、乳仔期の自然免疫の成立過程をモデルとして検討し、化学物質曝露に鋭敏な時期や感染関連因子と化学物質曝露との影響の関連性の解析から、その感受性要因について検討する。
(3)環境中におけるナノ粒子等の体内動態と健康影響評価
超微細構造を持つ粒子状物質や自動車排ガス由来の環境ナノ粒子の体内挙動と生体影響を調べることにより、既に研究が進んでいる通常の化学物質とは異なる、粒径や粒子の表面構造を加味した健康影響手法の確立を目指す。具体的には、
1) ディーゼル粒子除去装置を装着したディーゼルエンジンから排出される環境ナノ粒子の特性評価と吸入曝露装置の安定性試験を行い、実際に沿道で測定されている粒子状物質の健康影響評価手法を確立する。平成20年度より開始したマウスを用いた環境ナノ粒子の慢性吸入曝露実験結果の解析を行う。吸入チャンバー内のガス成分や超微小粒子成分と発ガン性との関連性について評価する。小動物を用いた環境ナノ粒子の長期吸入曝露実験において、呼吸器の免疫・炎症応答に及ぼす影響、並びに循環器や生殖器など、呼吸器以外の臓器の機能に及ぼす影響についても併せて評価する。
2) カーボンナノチューブのシールド型吸入装置を用いてカーボンナノチューブの小動物を用いた吸入実験を実施し、カーボンナノチューブの吸入毒性評価を行う。また、気管支上皮細胞を用いたナノマテリアルの毒性評価を行うとともに、ナノ粒子の細胞への取込み機構を明らかにする。
3) 培養細胞を用いてナノ構造をもつ繊維状粒子状物質の毒性評価を行うとともに、小動物を用いたナノファイバーの生体影響評価方法を確立する。溶融クリソタイル、クロシドライト、アモサイトやアンソフィライトの毒性学的実験結果の確認を行い、溶融処理したアスベストの細胞毒性と粒子の生物学的表面活性を指標として溶融アスベストの結晶構造と生体影響との関係を解析する。
(4)生物多様性と生態系機能の視点に基づく環境影響評価手法の開発
自然生態系を対象として、生態系サービスの劣化を引き起こす(有用)個体群の再生産の阻害、生物多様性の減少、生態系機能の低下をエンドポイントとして、数理モデルを活用した概念的な手法から具体的な実例での評価も含めた、新たな生態影響評価手法の提案を目指す。具体的には、
1) 東京湾における底棲魚介類を対象としたフィールド調査、室内実験及びモデル解析の諸結果に基づき、特に増殖阻害の観点で環境リスク因子を特定し、生態影響評価結果を示す。兵庫県南西部のため池地域の野外調査で得られたデータ、空中写真から判別した土地被覆やアオコの発生有無のデータをもとに、生物多様性の減少と生態系機能の低下を引き起こす環境リスク因子を特定し、生物多様性を評価する手法を示す。
2) アルゼンチンアリやカワヒバリガイ等の付着性侵入生物の分布拡大メカニズムについて、生態学的・遺伝学的観点から解明し、これまでに得られた情報をもとに防除・影響緩和の手法を検討するとともに、防除に係るコストおよびリスクを検証する。カエルツボカビの日本起源説を裏付けるため世界各地のカエルツボカビ遺伝情報および両生類の感受性データを集積し、カエルツボカビの世界的分布拡大プロセスを解明する。蓄積された情報をもとに非意図的付着性侵入生物である外来アリ類、付着性二枚貝類および野生生物感染症の検疫手法および防除指針を提示する。
3) 機能形質に着目した群集生態学モデルに基づいて、種の環境要求性やストレス耐性の違いによる種構成の変化から、生態系機能への影響を予測する解析方法を発展させる。生態系機能に影響する機能形質を、物質循環機能に着目した生態系モデルによって特定した上で、霞ヶ浦長期モニタリングデータに対する時系列解析を行い、生態系機能の変化をもたらした環境要因の相対的な重要性を推定する。
4.アジア自然共生研究プログラム
(1)アジアの大気環境評価手法の開発
東アジアを中心としたアジア地域について、国際共同研究による大気環境に関する科学的知見の集積と大気環境管理に必要なツールの確立を目指して、観測とモデルを組み合せ、大気環境評価手法の開発を行う。具体的には、
1) 沖縄辺戸岬ステーション、長崎福江観測所での多成分・連続観測を実施する。これまで蓄積した観測データを用いて、越境輸送される汚染物質の空間分布、経年変動、組成変化などを分析し、越境大気汚染の実態をまとめる。同時に観測データベースを完成させる。
2) 排出インベントリ、化学輸送モデル、地上・衛星観測データを使用して、東アジア地域における広域大気汚染の空間分布、過去四半世紀における大気質の経年変化、越境大気汚染による日本へのインパクト、対流圏オゾンのソース・リセプター関係を評価する研究をとりまとめる。
3) 北東アジア地域に構築した黄砂モニタリングステーション(20地点)における観測機器の精度管理を実行し、データを取得、解析し、観測データベースを整備するとともに、リアルタイムで黄砂飛来情報を提供する。観測データと化学輸送モデルを用いて、黄砂の発生、輸送、沈着の定量的評価および、輸送過程における大気汚染との相互作用に関する研究を行い、成果をとりまとめる。
(2)東アジアの水・物質循環評価システムの開発
長江、黄河を中心とした東アジア地域の流域圏について、国際共同研究による水環境に関する科学的知見の集積と持続的な水環境管理に必要なツールの確立を目指し、観測とモデルを組み合せ、水・物質循環評価システムの開発を行う。具体的には、
1) 南水北調の水源地である漢江に設置した自動水質観測システムによって収集されつつある水質データを基にモデルの検証を行い、南水北調が流域生態系の炭素、窒素など物質の循環量や、河川の流量および水質に与える影響を推定する。また、長江全流域の地形図、水系図、傾斜図などのGISデータの作成、既存の流域の気象・土地被覆の条件、水文・水質観測データ等を収集により、流域圏水・物質循環情報データベースを拡張する。さらに、これらの検証に必要なデータ取得のための水質観測と現地調査を、長江水利委員会や中国科学院と共同で、長江中下流や河口域において行う。汚濁負荷構造、現実的な負荷削減対策手法等についての情報整理と現地調査を行うと共に、中国の農業面源に係る農業政策構造変化、水質汚濁負荷構造、現実的な負荷削減対策手法等についての情報整理と現地調査を行う。これに加えて、産業連関分析モデルを用いて、長江流域の各産業から排出される汚濁負荷の推計を行い、社会経済活動による影響評価をする。
2) 環境劣化指標種である渦鞭毛藻の出現および群集維持機構の解明を目指し、乱流微細構造プロファイラおよび硝酸濃度プロファイラを同期させた観測を新たに実施し、陸棚域における藻類の鉛直分布と水塊構造の関係を究明する。また上記の補足実験として、@)安定同位体比を用いた硝酸塩起源の評価、A)大型藻類培養槽を用いた増殖特性の検討を行う。これらの研究に基づいて昨年度までに構築した東シナ海の流動・低次水界生態系モデルに構築・改良を加え、渦鞭毛藻の鉛直分布の再現精度の向上を目指すとともに、それを応用して長江デルタの都市化に伴う陸域からの汚濁負荷量の変化と東シナ海における藻類種変化の関連性について数値シミュレーションで検討する。
3) 日中両国環境省間での「環境にやさしい都市」連携への研究情報発信を進め、川崎市と瀋陽市における評価システムの検証と実用的な技術政策シミュレーションを行う。国内都市については、川崎市における都市街区観測実験の検証、川崎市及び国内エコタウン都市の環境技術のLCAインベントリの蓄積を進めることに加え、街区スケールのエネルギー制御システム技術(UCPS)の実証開発を完了する。アジアの都市については、中国科学院応用生態研究所・遼寧省環境科学研究所、瀋陽市環境保護局、日中友好環境保全センターとの連携の具体化を行い、環境技術・政策の環境影響及び経済影響の政策効果分析シミュレーションモデルの開発を進める。また、瀋陽における環境都市評価システムをプロトタイプとして、JICA循環経済プロジェクトと連携し、蘇州市、山東省への展開を進めると共に、国連環境計画エコタウンプロジェクト及びIGESと連携して東南アジア都市への研究展開フレームを構築する。
(3)流域生態系における環境影響評価手法の開発
東南アジア・日本を中心とした流域生態系における環境影響評価手法の開発を行い、メコン河流域に関連した国際プログラム間のネットワークを構築し、国際共同研究による流域の持続可能な発展に必要な科学的知見を提供する。主にメコン河の淡水魚類相の実態解明、流域の土砂堆積・河岸浸食等の環境動態の解明を行うこと等により、ダム建設等の生態系影響評価を実施する。具体的には、
1) メコン河流域上中流域(タイ北部、東北部)、メコンデルタを対象とした多時期衛星観測データを整備し、過去の河川地形変化に関する解析を行い、当該流域における河川環境の変化と人間活動との因果関係のモデリングを行う。さらに重点地域における詳細な植生図・土地利用図を作成するため現地調査と衛星観測を実施し,詳細な植生図・土地利用図を作成する。それらの詳細な環境情報図をネットワーク上で公開する。
2) 種の多様性が極めて高い淡水魚類について、耳石の微量元素分析を通じてメコン河流域での回遊生態の解明を行う。さらにGIS環境に対応する形で土地利用、流域基盤、魚類採取等の空間情報を整備し解析を行う。メコン河流域の水文・水質データの取得とモデル化を引き続き行うと共に、北部・中部及びメコンデルタにおいて景観生態学的手法や河口域生態系への影響評価手法を開発する。また、マングローブ樹種の生態系機能をベトナム及び国内比較対照地での野外調査と圃場での実験によって評価する。
3) メコン河流域の国際共同研究ネットワークを利用し、流域の持続可能な発展に必要な情報を提供するワークショップを開催し研究成果の普及に努める。
