(別表1) 中核研究プロジェクト
1.地球温暖化研究プログラム
(1)温室効果ガスの長期的濃度変動メカニズムとその地域特性の解明
アジア(シベリアも含む)−オセアニア地域での陸・海・空に展開した広い観測網による温室効果ガス(CO2、CH4、N2O、フッ素系温室効果ガス等々)や関連するトレーサー物質の時空間分布や、それらのフラックスの長期的変動を捉え、濃度変動を引き起こすメカニズムやその地域的な特性を検出する。具体的には、
1) 航空機、定期船舶を用いた温室効果ガス観測網を整備する。航空機では定期路線を用いたアジア、ヨーロッパへの航路上の二酸化炭素連続観測を安定的に継続し、採取された大気試料の分析を行う。民間船舶を用いた大気観測では日本−オセアニア、日本−北アメリカに加え、開始したアジア路線の観測を継続する。波照間、落石の観測ステーションではフロン等を含め酸素、炭素同位体比など高頻度観測を継続する。アジアや北域での新たな地上観測サイトの展開を検討する。
2) 観測網を利用しアジア−太平洋地域の温室効果ガスの分布変化を検出し、トレーサーとなり得る酸素や同位体等の緯度毎の経年変動等から、温室効果ガスのグローバルな収支変化と気象・気候とを関連づける。また、大気輸送モデルを用いて各地の観測データを解析し、発生源と観測値の関係を検討する。
3) 日本からニュージランドまでの西太平洋及び北太平洋における海洋の二酸化炭素分圧観測を継続する。日本や中国、シベリアの陸域生態系における二酸化炭素等の吸収量の観測及び収支推定の方法論の研究を行う。土壌有機炭素による温暖化フィードバックに対する応答性を数箇所の森林生態系で実験的に調査する。また、アジアの熱帯域での観測も継続する。
(2)衛星利用による二酸化炭素等の観測と全球炭素収支分布の推定
温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)の取得データから、二酸化炭素・メタン等のカラム濃度の全球分布を高精度に導出するためのデータ処理手法の開発を行う。また、データプロダクトの検証の準備研究を進める。さらに、衛星観測データと地上で取得される測定データとを併せて地域別炭素フラックスの推定を行うためのインバースモデルについて、定常運用化に向けた研究を進める。具体的には、
1) 短波長赤外波長域での測定に関して、巻雲やエアロゾルの存在する様々な大気条件下での取得データに対応するデータ処理手法の精緻化と高速化を行い、それらにより導出される二酸化炭素及びメタンカラム濃度値の誤差評価を行う。また、偏光観測データの利用手法の高度化を図る。
2) 衛星観測データを検証するための地上設置高分解能フーリエ変換分光器の測定精度を評価するため、大気パラメータの航空機による直接測定や地上設置機器等による同時観測データと比較する評価実験を実施する。また、衛星搭載センサーと類似仕様の地上モデルセンサーを用いて分光観測を行い、その導出結果の評価を行う。特に偏光データの利用手法と地表面気圧導出手法の妥当性の確認と評価を行う。
3) 二酸化炭素の空間分布を求めるフォワード計算及び二酸化炭素の地域別収支算出のためのインバース計算に必要な大気輸送モデルのテストと調整を完了する。また、濃度導出に必要な二酸化炭素及びメタンの地表面フラックスのデータセットを整備する。更に、全球の炭素収支分布を推定するインバースモデルシステムについて、地表面観測データを利用してのテストを行う。
(3)気候・影響・土地利用モデルの統合による地球温暖化リスクの評価
気候モデル、影響モデル、及び陸域生態・土地利用モデル各々の高度化と、極端現象及び不確実性を考慮したモデルの高度利用を行う。また、地球温暖化リスクの総合的な評価を行うため、モデルの統合利用並びに結合の作業を進めるとともに、モデルによる評価が困難な要素も含めたリスクの全体像の整理を行う。具体的には、
1) 気候モデルについて、モデルの改良ならびに次期モデル実験の準備をほぼ完了するとともに、予測の不確実性を考慮した確率的気候変化シナリオの開発を進める。また、極端現象の発生メカニズム及び土地利用変化・灌漑が気候に与える影響を調査する。
2) 影響モデルについて、影響評価の不確実性を明示的に表現するための手法の開発を進める。また、水資源及び農業影響モデルを高度化するとともに、気候モデルとの結合作業を進める。さらに、専門家やメディアとの意見交換等により地球温暖化リスクの全体像の整理を進める。
3) 陸域生態・土地利用モデルについて、陸域生態モデルの高度化及び土地利用変化モデルの開発を進めるとともに、IPCCの新しいシナリオ開発プロセスに対応して、次世代気候モデル実験の入力条件となる詳細な空間分布を持つ排出・土地利用変化シナリオの開発を行う。
(4)脱温暖化社会の実現に向けたビジョンの構築と対策の統合評価
京都議定書の削減目標達成のための環境政策の評価、2012年以降に開始される将来枠組みに関する諸制度の分析、脱温暖化社会(低炭素社会)の構築に向けたビジョン・シナリオの作成を行う。具体的には、
1) 低炭素社会を実現するための具体的な方策や対策を組み合わせた一連の施策群を収集し、誰がいつどこで何をすればよいかのヒントを与えるパッケージ集を作成する。また、目標達成にどの施策・施策パッケージを実施するのが適当かを提示するため、従来のバックキャストモデルを改良し、低炭素社会への道筋を検討する。さらにアジアの新興国・途上国や欧米の研究機関と協力して低炭素社会づくりの政策対話を推進する。
2) これまでの研究成果をふまえ、次期国際枠組みに関する具体的かつ詳細な制度提案をまとめるとともに、COP13バリ会合(2007年12月)以降本格化した次期枠組み交渉における、我が国の政策決定に資する情報を提供する。また、次期枠組みに関する第4回アジアワークショップ会合(ニューデリー)を開催し、アジア諸国にとってはいかなる国際制度が望ましいのか、を中心に議論する。同時に、アジア各国内の能力増強の具体的方策を検討する。
3) IPCC第4次評価報告書の成果をもとに、簡易気候モデルであるAIM/Climateのパラメータの調整、新たなモジュール(炭素循環フィードバック)の付加、分析対象年次の延長(IPCC新シナリオの想定に基づいて2300年まで)などの改良作業を行う。また、世界経済モデルの改良と、AIM/Climateとの連携を通じて、IPCCの第5次評価報告書に向けた新シナリオの開発に着手する。さらに、これまでに開発してきた国別モデルや世界技術選択モデルを対象に、データの更新や温暖化に関する既存の政策課題を評価することが可能となるようにモデルの改良を行い、わが国における温暖化対策の評価を行う。
2.循環型社会研究プログラム
(1)近未来の資源循環システムと政策・マネジメント手法の設計・評価
社会条件の変化に伴う近未来の物質フローの変化に関する予測、資源循環技術システムの設計と評価、それを実現するための国レベル、自治体レベルの政策・マネジメント手法の設計と評価について検討する。具体的には、
1) 近未来の物質フロー予測のベースとなる社会条件の変化シナリオを描き、物質フローとの因果関係に関するモデルを基に主要な循環資源についての近未来の物質フローの予測を行うとともに、有効な対策を挙げて天然資源消費等削減効果を予測するモデルづくりに着手する。
2) 鉱物系循環資源、バイオマス系循環資源、プラスチック系循環資源を対象に、近未来の資源循環技術システムを具体的に設計し、ライフサイクルアセスメント(LCA)の手法を用いて評価する。基礎となる投入・産出のデータは、1)の効果予測モデルに組み込む。
3) 国の個別リサイクル制度について、その効果を検証し課題を整理するとともに、制度から抜け落ちるフローへの対応を検討するために収集・回収の制度のあり方について、拡大生産者責任(EPR)の概念を踏まえて検討する。自治体レベルではベンチマーキング手法を活用した一般廃棄物処理のマネジメントツールを用いた地域実証研究に着手する。
(2)資源性・有害性をもつ物質の循環管理方策の立案と評価
資源性・有害性物質の利用・廃棄・循環過程におけるフローや各プロセスでの挙動、環境への排出、リスクの発生、資源価値を同定・定量化し、代替物利用やリサイクルなどの効果を資源性・有害性の面から評価し、それら物質の科学的見地からの管理原則について提示する。具体的には、
1) プラスチックリサイクル過程におけるプロセス挙動、環境排出量調査、リサイクルに関連するリスク低減対策技術について調査を行う。また、製品や廃棄物、環境媒体などにおける代替難燃剤の存在量調査を行う。異なる難燃剤使用に伴う製品間の有用性、有害性の得失評価に向けた基礎検討を行う。
2) 資源性・有害性を有する金属類について、国際物質循環も考慮してサブスタンスフローを精緻化するとともに、素材、製品中の含有情報を集積しつつ、リサイクル方法に応じた金属資源の回収可能性について指標化の方法論を検討する。
3) 時間軸と空間軸の異なるサイクルを持つプラスチック、金属、土石類等の再生資源について、それぞれの特性に適した環境安全管理方策を検討するため、個別の再生製品に関わるフローや有害物質に係る管理の現状調査を実施し、管理方策からみた類型化と課題整理を行う。それらの中で建設系再生製品については、性状や利用状況に応じた環境安全評価プログラムを設計し、これまでに確立、標準化した評価試験を適用し、環境安全管理方策の検討を踏まえた管理基準の考え方を示す。
(3)廃棄物系バイオマスのWin−Win型資源循環技術の開発
エネルギー循環利用技術及びマテリアル回収利用技術システム、動脈−静脈プロセス間連携/一体化資源循環システムの開発に関し、前年度までの研究結果、抽出された課題等を踏まえ、要素技術開発、システム構築及びプロセス設計等を進める。具体的には、
1) ガス化・改質技術に関して、生成ガスの成分組成制御に関する要素技術開発を引き続き行いつつ、当該プロセスのスケールアップのための速度論的検討を行う。また、生成ガスの供給先としての発電プロセスまたは化学原料合成プロセス等について、総合効率及び環境負荷低減効果等を指標とした検討を進める。バイオディーゼル燃料(BDF)製造技術開発については、前処理技術及びBDF超高速合成技術の省資源化・省エネルギー化に向けた最適化を行い、ベンチスケールの実証プラントを設計する。水素/メタン発酵システムについては、回収エネルギーの利用形態との連携を踏まえたガス化効率の向上を図ると同時に、モデル地域における発生バイオマスの特性に対応した水素発酵特性解析及び適用性評価を行う。また、脱離液処理における栄養塩類除去技術の効率化、システム化技術の確立を図る。
2) 乳酸発酵による食品廃棄物の循環技術システムの構築については、食品残さ原料の排出段階での劣化防止に対する技術適用のFSを行うとともに、発酵残さを豚や鶏等の飼料とするためのシステム評価を行い、ビジネスモデル構築に向けて必要な要件を検討する。また、液状廃棄物中のリンに対する吸着・鉄電解法等の分散・集中処理に対応した要素技術開発を進めると同時に、システム的な適用性について検討する。回収リンの活用方法に照らしたリン形態、純度などを評価し、回収技術の確立を図る。
3) 地域の需給特性に応じた類型ごとに動脈・静脈プロセス連携システムを設計する。そのための市町村単位のバイオマス賦存量データベース及び物質・エネルギーの需要ポテンシャルデータベースを整備する。システム設計においては、1)、2)で開発される次世代型の技術を導入したケースのシステムについても考慮し、まず関東エリアを対象とした評価を実施し、その後に全国を対象とした評価を行う。近未来の需給バランスの変化を想定したシナリオ分析については、近未来ビジョンに関する中核研究プロジェクトと連携して進める。
(4)国際資源循環を支える適正管理ネットワークと技術システムの構築
アジア地域における国際資源循環及び関連する国内資源循環について、物質フローと環境影響の把握を継続するとともに、前年度までに得られた研究成果や影響因子などを考慮しながら、各国における関連政策と必要な技術システムの調査を実施する。具体的には、
1) 国際資源循環及び関連する国内資源循環において特定の循環資源に関する物質フローの精緻化を継続するとともに、各国における関連政策が与える影響を検討する。また、中核研究プロジェクト2で開発される資源性・有害性の観点の評価手法を適用し、国際資源循環にかかる事例の評価を行うとともに、注意すべき問題点等の抽出と評価手法の改良を試みる。
2) アジア地域におけるE−waste(電気電子機器廃棄物)の資源循環過程からのPOPsなどの残留性有機汚染物質や、水銀などの無機汚染物質の発生状況について、土壌などの試料の採取・測定分析・毒性評価・モニタリング方法の検討を継続し、資源循環過程との関係の解釈を試みる。
3) 途上国に適した廃棄物管理システムについて、最適因子を考慮しながら準好気性埋立、多機能性覆土を含む既存技術導入の最適化を図るための検討をベンチスケールで実施する。自動モニタリング法を用いて、埋立地全体からの温室効果ガス排出量観測法を検討する。また、途上国に適した生活雑排水・し尿などの汚水処理の各種条件等に応じた処理機能解析による高度化、及びバイオマス廃棄物の性状に応じた機能解析による資源化技術の効率化を行う。バイオ・エコエンジニアリングの処理機能、温室効果ガス発生特性の解析・評価に基づく地域特性を踏まえた導入技術の確立及びバイオマス廃棄物性状に応じた発酵生成物の質的・量的変化特性の解析・評価を行う。
3.環境リスク研究プログラム
(1)化学物質曝露に関する複合的要因の総合解析による曝露評価
多数の化学物質や曝露に関する複合的な諸要因を総合的かつ効率的に考慮する曝露評価の確立を目指し、自然的な環境動態と曝露に関する複合的要因を階層的な時空間スケールにおいて把握するための曝露評価体系を提案する。具体的には、
1) GIS多媒体モデルや種々のモデルの階層的総合化を目標とし、地域から地球規模に至るモデル群の開発と関連するデータ整備、システム開発を行う。また、小児への曝露評価手法、水環境からの生物移行の定式化など曝露推定手法の蓄積を行う。これらを用い、複数物質による曝露状況を推定する。地域規模モデルに関してモデル開発から順次実際の曝露推定に進み、全国における曝露状況の多媒体推定結果を示す。また、小児への曝露評価手法及び水環境からの生物移行の新たな定式化を検討する。
2) 河川水や大気中成分について化学分析法とin vitroバイオアッセイを併用した環境モニタリングを実施し、このための手法開発と全国調査を行い、あわせて水生生物でのin vivoバイオアッセイによる曝露モニタリング手法の検討を行う。試料採取・調整法の検討と試行的モニタリングから全国モニタリングに移行し、測定結果を蓄積する。
3) 統計的手法の検討とともに、推定濃度とバイオアッセイ等を用いた環境測定結果を用いる曝露評価手法の検討を行う。
(2)感受性要因に注目した化学物質の健康影響評価
化学物質の高次生命機能の撹乱による、生殖、発生、免疫、神経行動、遺伝的安定性等生体恒常性維持機構に及ぼす影響の解明を通して、環境中に存在する化学物質に対する感受性を修飾する生体側の要因を明らかにし、さらに、感受性要因を考慮した化学物質の健康影響評価手法を提案する。具体的には、
1) VOCへのマウス嗅覚検知閾値を検討し、マウス系統間差検索による感受性の高いC3Hマウス系統を用いて嗅球における影響メカニズム解析を行う。免疫疾患モデルマウスを用いて、化学物質の低濃度域での影響メカニズムを検討する。低濃度トルエン曝露に対する感受性系統C3Hマウスでの免疫刺激による海馬記憶関連遺伝子の発現亢進メカニズムについて探索する。
2) 胎児、小児、高齢者等における感受性の時間的変動の程度を把握し、発達段階に応じた影響解明のため、平成20年度は、周生期曝露の成熟個体の脳の構造及び機能への影響を明らかにする。感受性マウスC3Hを用いて胎児期トルエン曝露の成熟個体のTh1/Th2バランスへの影響を解析する。腎形成におけるTCDD曝露の影響を量−反応関係から明らかにし、臨界期の解明をめざす。ロテノン投与による多動性障害のメカニズムを追求するとともに、新生児投与と生体投与との量−反応関係の違いを明らかにする。血管新生・形成を指標に妊娠期における仔動物の感受性を解析する手法を検討する。
3) 化学物質曝露に脆弱な集団の高感受性を呈する要因の解明のため、これまでの検証で、より低濃度で影響を示したフタル酸類に焦点を絞り、雌雄差、及び小児期曝露と成体期曝露の影響を比較し、感受性要因の重要度のランク付けを試みる。
(3)環境中におけるナノ粒子等の体内動態と健康影響評価
超微細構造を持つ粒子状物質や自動車排ガス由来の環境ナノ粒子の体内挙動と生体影響を調べることにより、既に研究が進んでいる通常の化学物質とは異なる、粒径や粒子の表面構造を加味した健康影響手法の確立を目指す。具体的には、
1) ディーゼル粒子除去装置を装着したディーゼルエンジンから排出される環境ナノ粒子の特性評価と吸入曝露装置の安定性試験を行い、実際に沿道で測定されている粒子状物質の健康影響評価手法を確立する。平成20年度よりマウスを用いて環境ナノ粒子の慢性吸入曝露実験を開始する。走行モードと排ガス組成の確認を行った後、動物をチャンバー内に導入し発ガンも含めた影響を評価する。
2) 小動物を用いた数ヶ月程度の環境ナノ粒子の吸入曝露実験を行い、ナノ粒子の肺組織透過性や細胞内への取込み機構を明らかにし、また、環境ナノ粒子が呼吸器の免疫・炎症応答に及ぼす影響、ならびに循環器や生殖器など、呼吸器以外の臓器の機能に及ぼす影響を明らかにする。カーボンナノチューブのシールド型吸入装置の設置が完了したことから、平成20年度よりカーボンナノチューブの吸入実験を開始する。
3) 培養細胞を用いてナノ構造をもつ繊維状粒子状物質の毒性評価を行うとともに、小動物を用いたナノファイバーの生体影響評価方法を確立する。溶融クリソタイル、溶融クロシドライトに加え、平成20年度は、アモサイトやアンソフィライトの毒性学的実験を行い、溶融処理したアスベストの細胞毒性と粒子の生物学的表面活性から溶融アスベストの結晶構造と毒性に関しての中間的なとりまとめを行う。
(4)生物多様性と生態系機能の視点に基づく環境影響評価手法の開発
自然生態系を対象として、生態系サービスの劣化を引き起こす(有用)個体群の再生産の阻害、生物多様性の減少、生態系機能の低下をエンドポイントとして、数理モデルを活用した概念的な手法から具体的な実例での評価も含めた、新たな生態影響評価手法の提案を目指す。具体的には、
1) 東京湾において野外調査を実施し、底棲魚介類及びベントス群集の質的及び量的変化を解析する。個体群の減少及び群集構造の変化に寄与してきた影響因子を検討し、作業仮説を立てて実験で検証する。これにより、影響因子の特定を目指す。兵庫県南西部のため池地域の調査を継続するとともに、これまで得られたデータをもとに、生物多様性や生態系機能の低下を引き起こす環境リスク因子を解析する。
2) 侵入生物の生態情報に基づき、侵入性を規定する要因解析を行い、侵入生物の1次スクリーニング手法の開発を検討する。また、侵入生物の定着・分布拡大の予測マップを、地図情報を活用して作成する。国際経済の動態を背景とした非意図的侵入生物における移送・拡大プロセスの解明を行う。カエルツボカビ等野生生物感染症に対して、宿主-寄生生物間の共種分化関係を明らかにし、感染症による被害リスクを進化生態学的側面から予測する。
3) 生態系影響評価の基礎になる形質ベース群集モデルを、湖沼や河川などの野外生態系に適用し、種の環境要求性やストレス耐性の違いによる群集の種構成変化から、生態系機能への影響を予測する解析方法を発展させる。そのため、物質循環機能に着目した生態系モデルによって、生態系機能に影響する機能形質を特定する。侵入種の生態リスク評価法として、メタ群集モデルの適用を検討する。
4.アジア自然共生研究プログラム
(1)アジアの大気環境評価手法の開発
東アジアを中心としたアジア地域について、国際共同研究による大気環境に関する科学的知見の集積と大気環境管理に必要なツールの確立を目指して、観測とモデルを組み合せ、大気環境評価手法の開発を行う。具体的には、
1) 越境大気汚染の実態を解明するために、沖縄辺戸岬ステーションを充実させ、多成分・連続観測を継続するとともに、長崎県福江島での地上観測を充実し、東シナ海上空での航空機観測を実施する。沖縄辺戸岬ステーションで取得された観測データを集積し、データベースの構築に向けた作業を開始する。
2) アジア地域の排出インベントリと領域大気質モデルを開発し、観測データを用いて検証し、広域大気汚染の空間分布、過去四半世紀における大気質の経年変化、越境大気汚染による日本へのインパクトを評価する研究を継続する。アジア地域の大気質変動を、地域外の影響も含めて評価するために、全球化学気候モデルを用いた解析を進める。大気質モデルと観測データを用いて、排出インベントリを検証・修正する手法の開発を継続する。
3) 前年度に観測を開始したモンゴル国内4地点の黄砂モニタリングステーションを含め、黄砂のモニタリングネットワークを更に整備し、データの取得、解析、及び観測データベースの整備を行う。
(2)東アジアの水・物質循環評価システムの開発
長江、黄河を中心とした東アジア地域の流域圏について、国際共同研究による水環境に関する科学的知見の集積と持続的な水環境管理に必要なツールの確立を目指し、観測とモデルを組み合せ、水・物質循環評価システムの開発を行う。具体的には、
1) 中国長江水利委員会との共同で南水北調の水源地である漢江で自動水質観測システムを設置し観測を行うと共に、最新の衛星データ、GIS、観測や調査データを基に、流域の水・物質循環情報データベースを更新していく。また、流域の気象・地形・土地被覆の条件や、人間生活、経済開発活動に伴う水環境の現状と意識に関する現地調査を行い、流域圏水・物質循環評価モデルのパラメータ化やシミュレーションすることによって、陸域から河川への環境負荷の量と質的変化を推定し、人間生活や南水北調などの流域開発活動の影響評価を進めていく。さらに、共同研究体制を強化するため、第三回日中流域水環境技術交流会を中国で開催する予定である。
2) 中国浙江海洋大学との共同で長江河口・沿岸における赤潮発生状況や沿岸域の漁獲量や浅海域の水質浄化機能の評価のためのデータを収集し、データベース化していく。また、水産庁が実施する東シナ海陸棚域調査に参加し、陸棚域で増殖する藻類群集の栄養塩取り込み動態の観測を行うと共に、鉛直乱流構造が藻類の鉛直分布に及ぼす影響を解明することを目的として、微細乱流構造プロファイラーによる現場での乱流観測を試みる。平成19年度より着手した東シナ海環境情報データベースの整理と並行して、長江起源の汚濁元素の東シナ海における輸送循環を評価するための水・熱・物質動態及び低次水界生態系モデルの構築とシミュレーションテストを行っていく。
3) アジアの資源経済の拠点都市を対象として、広域な環境制約下での都市スケールの技術・施策の効果を評価できる、水・物質・エネルギーの統合型環境アセスメントモデル(NIEC-Urbanモデル)の開発を進め、中国大連市と統合的環境フラックスの立地・移動特性を解析していく。また、産業化・都市化のステージの異なる資源循環の中核拠点都市として、大連市と武漢市と国内での川崎市における産官学連携研究を推進し、有機資源循環技術導入の政策シナリオの評価及び水資源の循環利用都市産業技術システム導入シナリオの評価研究を進め、さらに、中国研究機関と連携する複数の国際会議の開催により、国際的なベンチマーク構築に向けての情報発信を行っていく。
(3)流域生態系における環境影響評価手法の開発
東南アジア・日本を中心とした流域生態系における環境影響評価手法の開発を行い、メコン河流域に関連した国際プログラム間のネットワークを構築し、国際共同研究による流域の持続可能な発展に必要な科学的知見を提供する。主にメコン河の淡水魚類相の実態解明、流域の土砂堆積・河岸浸食等の環境動態の解明を行うこと等により、ダム建設等の生態系影響評価を実施する。具体的には、
1) メコン河流域上中流域(タイ北部、東北部)、メコンデルタを対象とした多時期衛星観測データを整備し、過去の河川地形変化に関する解析を行い、当該流域における河川環境の変化と人間活動との因果関係のモデリングを行う。さらに重点地域における詳細な植生図・土地利用図を作成するため現地調査を行う。
2) メコン河流域中流域の代表的生物の一つである魚類について、画像データベース及び耳石データベース等の作成・整備を行うと共に、GIS環境に対応する形で空間情報(土地利用、流域基盤、生物捕獲等)を整備する。
3) メコン河流域の水文・水質環境の情報データの取得とモデル化を引き続き行うと共に、タイ北部及びメコンデルタにおいて景観生態学的手法や河口域生態系への影響評価手法を開発する。また、マングローブ樹種の生態系機能をベトナム及び国内比較対照地(石垣島)での野外調査及び圃場での実験によって評価する。
