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Ⅰ 重点研究プログラム
3.環境リスク研究プログラム

研究の概要

化学物質の地域から地球までの空間規模を網羅する階層的GISモデルとして、POPsや水銀の地球規模モデル、日本全国の地域規模GISモデル、農薬類の時間変動を有する排出推定手法と流域規模モデルを完成した。化審法や水環境基準の予備検討などいくつかの政策課題や国際協調を通じた多くの場面で活用される成果となった。トルエンをVOCのモデル化合物として免疫過敏を引き起こす素因を検討し、病原体を感知するトール様受容体が高感受性を決める遺伝的素因の一つであり、免疫系と神経系に連携した過敏反応に関与していることを初めて示した。また、脳の性分化や骨形成・代謝の研究など、発達段階と臨界期の関係およびそのメカニズムの取りまとめを行った。ディーゼルエンジンから排出されるナノ粒子の挙動と成分を明らかにし、ナノ粒子を曝露した実験動物における肺の炎症、酸化的ストレス、心血管系への影響や発がん性について明らかにした。また、細胞毒性が極めて高いカーボンナノチューブについて、その細胞障害性と細胞膜との反応性を示した。野外調査に基づき生物多様性の減少や初期生活史の減耗要因を解明するとともに、多数のため池を有するモデル地域において生物多様性統合指標を開発した。群集レベルの形質の変化を予測するための形質動態モデルを作成し、生態系機能の評価法として提示した。また、外国産クワガタムシやセイヨウオオマルハナバチによる交雑リスクや寄生生物持ち込みリスクを明らかにし、カエルツボカビの起源がアジアにあることを示した。さらに、既存知見を活用した新たな影響評価手法の開発やリスク評価に必要な知的基盤の整備をすすめ、化学物質の評価および侵入生物に関する実践的な課題に対応した。

[外部研究評価委員会事前配付資料 (PDF 580KB)]

実施体制/研究の目的/研究予算/ 平成18〜22年度の実施概要とその成果/平成22年度の実施概要とその成果/ 目標・目的の達成度と自己評価/誌上発表及び口頭発表

外部研究評価委員会による年度評価/事後評価の平均評点

平均評点  4.2点(五段階評価;5点満点)

外部研究評価委員会の見解

[現状評価]

個別の研究課題については、行政ニーズに応えて的確に実施されている。また、20〜21年度に研究計画の見直しを行い、適切に研究を進捗させたことから、開始当初と比較して4つの中核プロジェクトが環境リスクという傘の下でまとまりをもって遂行されたと評価されるが、その成果がわが国や世界的な化学物質管理にどのように貢献しているかをもっと明確にして欲しかった。

[今後への期待、要望]

プログラムの中のそれぞれの研究が、どのようなリスク管理課題の解決を目指しているのか、リスク評価のどのような場面でどのように役立つことを目指しているのかについて、より具体的で明確な目的意識を持って研究が行われる必要があるように感じる。

対処方針

第2期中期計画期間の環境リスク研究プログラムでは、従来のリスク評価を精緻化し、さまざまな環境管理の目標に幅広く対応できる評価手法を提示することを目標として、評価対象を健康リスクと生態リスクに限定し、化学物質の空間、時間的な曝露分布の把握、高感受性、ぜい弱性要因の解明、および生物多様性、生態系機能といった諸事象の評価手法の提示に焦点を定めて中核プロジェクトを構成した。20〜21年度に研究計画を見直し、環境リスク評価の精緻化を目指した。環境リスク研究プログラムは、化学物質のみを対象としたブログラムではなく、化学物質、ナノ粒子、侵入生物、低酸素等の二次的要因までの広範囲な課題に対してリスク評価手法の提示を目標とした。そのため、その成果がわが国や世界的な化学物質管理にどのように貢献しているかを十分に説明するに至らなかったが、例えば化学物質のプロジェクトで作成された日本全国の地域規模GISモデルは、化審法や水環境基準の予備検討などの政策課題や曝露評価の国際協調を通じた場面で活用されており、また生態影響のプロジェクトではカエルツボカビの起源がアジアにあることを示すなど、それぞれの中核プロジェクトの課題でリスク管理に貢献してきた。化学物質の各種データベース、モデルツールの公開、セミナーの開催による関係者への情報提供も化学物質管理に対して一定の貢献があったと考えている。

第3期中期計画期間においては、プログラムではナノマテリアル等の形状と物性の影響評価法、生態影響として種個体群の存続可能性とその評価法、化学物質の曝露予測の高度化によって、化学物質の環境リスク管理に対して新たなリスクの評価軸を提案することを目指したい。

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