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Ⅴ 平成21年度新規特別研究の事前説明
3.胚様体を用いた発生分化毒性学に最適化したマトリックスの開発

研究目的

ES細胞を用いて、種々の組織に分化誘導する研究が、世界中で活発に行われている。この分化誘導の過程は、発生の過程全てを代表するものでは無いが、毒性学の立場から発生分化に対する健康影響を検討する際には有力な研究手段になり得る。しかしながら、培養に用いられている市販の細胞外マトリックスは、上記目的に適しているとは云えず、不安定な培養条件下での実験となっている。本研究は、上記目的に最適化したマトリックスを開発することで、分化誘導の過程を再現性良く、精密に制御することを可能にし、毒性研究に有力な手段を提供することを目的にする。

研究予算

(単位:千円)
  H21 H22 H23
1) 神経組織等への分化のマトリックス創製 8,000 8,000 4,000
2)マトリックスの性能評価 4,000 4,000 8,000
合計 12,000 12,000 12,000
総額 36,000 千円

研究内容

現在、環境リスク研究センター健康リスク評価研究室の曽根秀子等によって、環境省プロジェクト「マルチプロファイリング技術による化学物質の胎生プログラミングに及ぼす影響評価手法の開発に関する研究」が行われている。彼らと共同研究を組むことで、EBから分化誘導に最適化したマトリックス創製を効率的に行う。

現在、胚様体から神経への分化誘導は、市販のオルニチン・ラミニン(LN)コート上で行うことになっているが、EBの接着が不安定で、EBからの細胞遊走も芳しくない。そこで、特許「基底膜の調製方法*1」、「基底膜標品の作製方法*2」の技術を準用して、擬似基底膜基質を、プラスチック培養皿上に作製する。具体的 には、強い細胞接着性を有する基底膜成分を分泌する細胞株を用いる。

神経細胞への形態変化を、網羅的、且つ、ハイスループットでスクリーニングするには、測定機器の細胞識別機能を活用できるのが良い。しかし、これまでのカルチャーインサート上のコラーゲン線維上に基底膜構造体を形成させる方法では、観察面が培養皿の底面から離れること、及び、試料自体の厚み等によって、細胞を自動識別できる機能が活用できない。そこで、プラスチック培養皿上に直接、擬似基底膜基質を作製する方法を開発する。

次年度は、上記細胞株に代わり、より神経組織特異的なマトリックスの形成を目指し、アストロサイト細胞株を用いることで、神経細胞のサブタイプや、神経以外のグリア細胞への分化の割合を制御する方法について検討する。

*1,持立克身:特許第3785532号,US Patent No. 7,399,634.
*2,持立克身:特許第4214287号.