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Ⅴ 平成21年度新規特別研究の事前説明
1.日本における土壌炭素蓄積機構の定量的解明と温暖化影響の実験的評価

研究目的

地球温暖化防止のための温室効果ガス削減に対する国際的な取り組みが進められている中、土壌に蓄積する炭素は、地球規模の炭素循環に影響を与える側面から注目されている。温暖化によって土壌有機物の分解が促進される一方で、土壌炭素蓄積量を増加させることにより大気CO2の吸収源として温暖化の緩和効果も期待される。しかしながら、土壌中には分解特性の異なる様々な炭素が混在するため、その分解・蓄積メカニズムの解明は困難を極めており、温暖化に対する土壌炭素蓄積の将来予測は不確実性を伴っている。現在、気候変動や土地利用変化に伴う炭素蓄積量の長期的な変動の予測で用いられる炭素動態シミュレーションモデル(CENTURY, Roth-C等)は、欧米の土壌に合わせて作られた概念的なコンパートメントモデルであり、土壌の性質や気候条件の異なる日本の土壌では、既存モデルのコンパートメントに一致する画分毎の分解速度を定量化がなされていない。土壌中の現実の炭素の動態を正確に把握するためには、画分毎の炭素量と分解速度を実測し、仮想的コンパートメントと対応付けすることが必要である。そこで本研究では、分解過程によって物理的・化学的な特性が異なることを利用して土壌有機物を複数の分画に分け、放射性炭素同位体分析を基に各画分の分解速度を定量化することで、炭素蓄積・分解プロセスの解明に向けた基礎データを得ることを目的とする。また、X線回折やNMR分析から土壌有機物の分子構造を調べ、土壌における有機物の存在形態を明らかにする。さらに、室内土壌培養実験および野外で土壌加温実験を行い、温度上昇によって各画分の分解速度が変化するのか検討する。

研究予算

(単位:千円)
  H21 H22 H23
サブテーマ1 15,000 15,000 15,000
サブテーマ2 5,000 5,000 5,000
合計 20,000 20,000 20,000
総額 60,000 千円

研究内容

自然レベルの14Cが数百〜数千年スケールのトレーサーであるのに対して、1960年代の核実験に由来する14C(bomb 14C)は、数年〜十年スケールのトレーサーとして有効で、土壌炭素動態解析では易分解性の有機炭素の滞留時間の評価に対して有効である。日本の代表的な土壌を用いて、以下の研究を行う。

1)日本の土壌炭素蓄積機構の解明

比重や粒径など物理的な方法、アルカリ・酸処理など化学的な方法によって、土壌を分解率の異なる画分に分離する。これらの土壌分画毎に炭素量を求めるとともに、加速器質量分析計(AMS)による14C分析に基づき、分解速度(滞留時間)を定量的に評価する。加えて、X線回折およびNMRを用いて、土壌分画毎の分子構造を評価し、炭素蓄積における鉱物(Al, Fe等)の影響を検討し、土壌に蓄積する炭素の存在形態を明らかにする。

2)土壌有機物分解における温暖化影響の評価

採取した土壌の室内培養実験、野外での土壌加温実験による温暖化実験を行う。 以上の実験を実施することにより、土壌炭素の分解速度について日本で初めて実測データが求められる。この結果、火山灰を母材とする日本の土壌炭素分解・蓄積プロセスの解明につながり、炭素貯留の持続性を検討が可能となる。