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VI 中核研究プロジェクト
研究課題名 資源性・有害性をもつ物質の循環管理方策の立案と評価

実施体制

代表者:
循環型社会・廃棄物研究センター 物質管理研究室 室長  野馬 幸生
分担者:
【循環型社会・廃棄物研究センター】
廃棄物試験評価研究室 貴田 晶子(室長)、山本貴士(主任研究員)、鈴木 剛(NIESポスドクフェロー)、高橋史武*)(NIESポスドクフェロー)
物質管理研究室 滝上英孝(主任研究員)、肴倉宏史(研究員)、渡部 真文(研究員)、梶原夏子(NIESポスドクフェロー)、小瀬知洋(NIESポスドクフェロー)、白波瀬朋子(NIESアシスタントフェロー)、石川 紫*)(日本学術振興会特別研究員)
国際資源循環研究室 村上進亮(研究員)*)
循環技術システム研究室 田崎智宏(主任研究員)

※所属・役職は年度終了時点のもの。また、*)印は過去に所属していた研究者を示す。

研究の目的と実施概要

(プロジェクト全体)

使用製品、廃棄物の資源価値に関する定性、定量的な情報については十分に得られる状況にない一方で、有害性管理についても、潜在リスクに対して未対応、あるいは、過剰対応であるというアンバランスな点が指摘される。資源を有効利用しつつ、化学物質のトータルリスクを最小にする社会システムの形成を視野に、本中核PJでは、廃棄物の適正管理及び、使用済み製品・資源の循環的利用が有害性と資源性(有用性)の両面を見据えた新たな物質管理手法の下に行われることを目指し、国民の安全、安心への要求に応え、循環型社会形成への取り組みに資する適切な情報を提供することを目的とする。なお、プログラムの中では、廃棄物、製品に関する一次データを獲得する要としての役割が期待されており、他の中核PJで取り扱う国内の物質フロー予測(PJ1)や資源循環技術システムの開発(PJ3)及び、国際物質循環(PJ4)の研究推進に資する情報支援、知見反映を見込む。

材料・製品等の廃棄・循環的利用に伴い、資源性物質を定量、回収し、有害物質リスクを低減するための管理手法を、ケーススタディを踏まえて構築し、生産・消費過程も含めた「持続可能な物質管理」という概念の具現化を図る。

(サブテーマ1)プラスチックリサイクル・廃棄過程における化学物質管理方策の検討

プラスチックリサイクル・廃棄過程における化学物質管理方策の検討のため、臭素系、有機リン系難燃剤等のプラスチック添加剤の分析法を開発するとともに、挙動評価に有用な物性値が実験的に得られた。製品、再生製品を構成する部材中の化学物質情報を明らかにするため、臭素系難燃剤を対象とした分析を実施し、製品中含有レベル、再生製品への混入レベルを把握した。製品使用時における化学物質の室内負荷に関し、難燃剤等を対象に、一般家庭や事業所の室内空気、ハウスダストの分析を行うことによって実態を明らかにし、モデルルームにおける製品負荷試験を行うことによって放散速度、排出係数といった曝露リスク算定に有用なパラメータを求めることができた。家電及び廃プラスチックリサイクル施設(破砕、圧縮・梱包、RPF製造施設等)における調査を実施し、有害化学物質(添加剤、VOC、樹脂分解物、有機ハロゲン化合物等)のモニタリングを行って、作業環境の安全性、プロセスにおける制御性の評価や環境排出量を算定できた。

(サブテーマ2)資源性・有害性を有する金属類のリサイクル・廃棄過程の管理方策の検討

製品、素材、廃棄物等複合素材中の有害性・資源性金属の試験法として、部品・素材の解体と個別分析による全含有量の積み上げ方式に加え、基板等資源回収される部品等の回収後残渣の不適正処理に伴う影響(潜在的な水系汚染等)を推定するための試験系(溶出試験及び燃焼試験)を加えた手法を確立した。パソコンをケーススタディとして、40種の金属量を把握し、解体段階における素材及び部品の回収性を評価した。多種・多量の部品を含む基板について燃焼実験によるマスバランスにより得た金属量の代表値は、積み上げ方式による値とほぼ一致した結果を得た。廃パソコンの金属量に流通フローを組合せて、資源性・有害性金属(銅、鉛、貴金属類4元素)の潜在回収可能量及び国内・国外移動量を求めた。国際的管理対象物質である水銀のサブスタンスフローを整備した。水銀の大気排出インベントリーでは、文献レビュー、各種廃棄物の燃焼実験、フィールド調査により、排出源別の排出係数を精緻化し、日本からの年間排出量を推定した。

(サブテーマ3)再生製品の環境安全品質管理手法の確立

建設系再生製品に関する評価方法と許容基準について、欧州建設製品指令や欧州各国の評価フレームなどのレビューの結果を踏まえ、本研究における環境安全評価試験フレーム案を提示した。欧州規格の特性評価試験をわが国の再生製品に適用するための試験条件を検討し、試験精度への影響要因を明らかにした。環境最大溶出可能量試験については公募による精度調査から十分な精度を持つ試験法であることが確認され、廃棄物学会標準規格の原案として提出した。環境曝露試験では、中性化条件や浸漬式乾湿サイクル条件で溶出が大きく促進されることを見いだした。評価試験データを入力情報とする発生源理論モデルと土壌地下水環境への移動モデルを設計・試作し、長期的な放出と地盤環境中での移動を予測する手法を開発した。

研究予算

(実績額、単位:百万円)
  平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 累計
運営交付金 50.0 61.0        
受託費 31.3 30.1        
廃棄物科学研究費 19.9 14.1        
科学研究費 1.5 1.5        
寄付金   0.3        
助成金            
総 額 102.7 107.0        

今後の研究展望

高リスクが生じることのない物質管理・制御方策を社会的な取組・制度へ還元し、統合化することを意識して、製品中に含有される化学物質モニタリング、製品使用過程や廃棄・リサイクル過程における化学物質の挙動把握など、この2年間は、製品のライフサイクル全般の調査を網羅的に行ってきた。中期計画後半においても、循環・廃棄過程に軸足を置きつつ、上流側への情報管理・情報開示等、包括的な管理方策を提案できるよう、ケーススタディとして行っている個別研究の成果を総括し、より適切な物質管理・制御方策の基本モデルを構築していきたい。

(サブテーマ1)プラスチックリサイクル・廃棄過程や製品、再生製品の使用過程における化学物質の有害性管理にあたり、効率的なリスク削減を目指す観点から、リスクを受ける対象(一般公衆、作業者)とリスクの種類(化学物質種、化学物質を含有する製品性状、曝露形態・曝露シナリオ)について、研究マトリクスを整理する必要がある。現在、研究対象場を広げ、多くの物質で調査を実施し、全体を俯瞰するマトリクスを描いているところである。従来から対象としていた難燃剤やPOPs物質に加えて、VOCや樹脂から生成する有機窒素化合物を対象に広げてデータ集積を進めているのはその一環であり、国内外でも新規性の高い試みである。中期計画後半では、高リスクのフィールド(施設、プロセスあるいは再生品を意味する)や広範にリスクを及ぼす可能性のあるフィールドについて同定を行い、制御に向けた検討を進める必要がある。リサイクルの化学的な安全安心の保障に向けた裏づけを得る上で、トータルリスク削減を目指すことは大きな命題であるが、リスク全てを完全に網羅できないため、評価が非常に難しい面がある。前述の俯瞰的なアプローチとともに、異なる製品間やリサイクル手法の間で相対的なリスク評価の事例を一層蓄積する必要がある。

(サブテーマ2)廃製品中の資源性・有害性金属の存在量について、現在実施している実験的手法に加えて、上流側から推定する手法を加える予定である。製品フローの把握は難しいが、今後は注目される部品として基板を取り上げ、詳細なフロー調査を行うこととしている。その観点から、製品中に含まれる基板量(割合)を推定すること、時系列的な基板中金属濃度の把握を重点的に行う予定である。製品の資源性評価指標については、様々な視点の追加を試みることとしている。水銀については、国際的なアクションプログラムの中で、輸出制限の可能性があり、循環が不可能な物質として最終保管を考えねばならない状況にあるので、その技術的検討に取り組むこととしている。

(サブテーマ3)建設系再生製品の土壌地下水影響に焦点を絞って研究を進めてきたが、発じんや揮発などの大気系リスクや繰り返し利用による劣化影響など、さらに注目すべき事象を精査し、文献調査や実験的検討を踏まえ、評価試験法の開発に着手する必要がある。土壌地下水系の試験評価プログラムでは、再生製品の数を増やすともに、挙動モデルに基づく評価の有効性を実証するために長期的なフィールド模擬実験を行う必要がある。曝露試験系については試験法の一般環境に対する促進性の定量的解明を進める必要があり、変質(風化)の要因とその進行メカニズムを中心に理論と実験の両面から検討を重ねる。試験法の規格化、精度評価に関しては本研究の進捗とともに廃棄物学会規格制定の枠組みが整備されたことから、開発した試験規格について精度評価を順次行い、科学的根拠を重視した学会規格として規格化を着実に進めるとともに、再生製品の判断材料として活用されるよう、上述の課題とともに、多様な再生製品の収集と試験結果のデータベース化を進める必要がある。