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X 平成20年度新規特別研究の事前説明
1.九州北部地域における光化学越境大気汚染の実態解明のための前駆体観測とモデル解析

研究目的

わが国では全国的に光化学オゾン濃度が増加傾向にあり、光化学スモッグ注意報を発令した都府県の数、都市域における高濃度の発生頻度が増加している。2007年5月には、九州から西日本の広い範囲で高濃度の光化学オゾンが観測されて、大きな社会問題となった。この原因として、中国で排出されたオゾン前駆物質によって生成された光化学オゾンに起因する越境大気汚染の影響が大きいことが示唆されている。中国からの各種汚染ガス排出量は急激に増加しており(Ohara et al., 2007)、来年以降も春季に、2007年と同様な高濃度オゾンが発生する危険性が高く、また、わが国全体のオゾン汚染の悪化に関わってくる可能性も指摘されている。

この越境光化学オゾンのメカニズムを解明し、今後の影響予測を的確に行うためには、光化学オゾン前駆物質である非メタン炭化水素類と窒素酸化物の情報が欠かせない。しかし、これらの観測は技術的な問題などによって十分に行われていないのが実情である。一方、申請者らは環境技術推進費(H18〜19)において非メタン炭化水素類の成分別自動連続測定/解析システムの開発・実用化を行い、また、沖縄辺戸ステーションにおいてNOy観測の実績を積むなど、オゾン前駆物質の高頻度・高精度観測に向けた研究を進めてきた。 そこで、本研究ではこれらの観測とモデルの連携によって、(1)東アジアから九州北部への光化学オゾン前駆物質の輸送実態の解明、(2)九州北部地域に発生した光化学大気汚染エピソードの実態の解明、(3)大気汚染予測システムの検証と改良を目指す。

研究予算

(単位:千円)
  H20 H21 H22
サブテーマ1 10,000 5,000 3,500
サブテーマ2 5,000 10,000 11,500
サブテーマ3 5,000 5,000 5,000
合計 20,000 20,000 20,000
総額 60,000 千円

研究内容

本研究では、光化学オゾン前駆物質の系統的な観測とモデルの連携によって、光化学オゾンエピソードの実態解明を進める。そのために、以下の3つのサブテーマ研究((1) 光化学オゾン前駆物質の高精度測定システムの構築、(2) 福江島における通年および春季集中観測、(3) モデル解析等による実態解明と予報システムの検証・改良)を実施する。

サブテーマ1:光化学オゾン前駆物質の高精度測定システムの構築

(1) C2〜C10炭化水素測定システムの開発

既開発の非メタン炭化水素自動連続測定システム(C2〜C7対応)に、カラムスイッチング機能を付加して、測定対象をC2〜C10炭化水素に拡張する。これにより光化学オゾンに関与すると考えられる非メタン炭化水素類の大部分が測定可能になる。大気濃縮装置、ガスクロマトグラフ、水素ガス発生装置などの全ての動作を自動化すると共にインターネットを介したリモート制御を可能にする。H21年度以降のフィールド観測において実用化する。

(2) NOy測定システムの作製

既存のNOx計のインレットにモリブデンコンバータを付加し、全窒素酸化物(NOy)を測定できる装置を作製する。またインパクターを用いてガス状・粒子状別の観測を可能にする。

サブテーマ2:福江島における通年および春季集中観測

越境汚染による高濃度オゾンが観測されている長崎県福江島において光化学オゾン前駆物質の通年・集中観測を実施して、大気の光化学反応履歴を解析すると共に、東アジアから長距離輸送によってわが国に持ち込まれるオゾン前駆物質の実態を解明する。

(1) 非メタン炭化水素類の毎時間連続観測を通年実施して、光化学反応性の高いオレフィン類、芳香族類を含む20成分以上の炭化水素の日変動、季節変動データを得る。汚染イベント時の非メタン炭化水素組成を明らかにして、九州北部における大気質への影響を評価する。また、各成分ピーク比を基に、光化学反応履歴を解析すると共に、中国・韓国からの排出量が既知である化合物を基準として、主要炭化水素成分の排出量を試算し、排出インベントリと比較する。

(2) NOy計を福江島に設置し日変動、季節変動データを得る。毎年、4〜5月に集中観測を行い(H20年度は予備観測)、上記非メタン炭化水素類、NOyに加えエアロゾル質量分析計を導入し、高い時間分解能で粒子状の硝酸塩や有機物の観測を行い、光化学大気汚染エピソード時の前駆物質や粒子状物質の変動の詳細を明らかにする。

(3) 研究協力者(農環研米村氏、長崎県ほか)から、福江島周辺におけるオゾン、CO、SO2のデータを入手する。

サブテーマ3:モデル解析等による実態解明と予報システムの検証・改良

長崎県福江島で観測される非メタン炭化水素成分とNOyの通年連続観測データ、春季集中観測による粒子成分やオゾン・気象の鉛直分布、その他のデータ(ライダーによる人為起源粒子の鉛直分布、自治体測定局・EANET局・辺戸岬の汚染濃度データ、対流圏衛星観測データ等)を用いて、光化学越境大気汚染の実態解明のためのモデル解析ならびに平成20年春季に公開予定の大気汚染予報システムの検証・改良を行う。

(1) 光化学越境大気汚染の実態解明のためのモデル解析

光化学越境大気汚染に未解明な以下の点に関し、春季集中観測データとモデルを使用して、その実態解明を図る。

  • 粒子状物質の越境汚染の実態把握:粒子状物質の化学成分データの解析とモデル計算によって、光化学オゾンと同時に越境汚染していると考えられる粒子状物質、特に光化学2次粒子の実態を把握する。
  • 光化学大気汚染の鉛直構造の把握:オゾン・気象のゾンデ観測と人為起源粒子のライダー観測による鉛直分布データの解析とモデル計算によって、光化学大気汚染構造を把握する。

(2) 前駆物質排出インベントリの検証

越境大気汚染の原因となる中国と韓国におけるNOx、NMHC排出量の不確実性は非常に高い。とりわけ、NMHC成分の排出インベントリには問題・課題が多く、また、大陸からのアウトフロー中のNMHC成分に関する観測データも少ない。そこで、福江島におけるNMHC成分とNOy成分の連続測定データの解析とモデル計算により中国と韓国における前駆物質排出インベントリを検証し、その結果とモデルの感度解析によりインベントリの改良を試みる。

(3) 大気汚染予報システムによる集中観測支援

大気汚染予報システムの予報結果を使用して、福江島における集中観測を支援する。

(4) 大気汚染予報システムの検証・改良

観測データを使用して予報システムを検証するとともに、(1)と(2)の結果を踏まえてシステムを改良する。