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U 基盤的な調査・研究の年度評価
2.水土壌圏環境研究

1)研究の概要

水環境保全及び流域の水土壌環境を適正に管理するため、閉鎖性の高い水域の富栄養化に起因する湖沼の有機汚濁機構を明らかにする研究や東京湾で夏期に観測される底層の貧酸素化の機構解明を目的とした研究を実施した。流域における環境修復・改善技術開発のため、省エネルギー型水・炭素循環処理技術を改良し実証実験を実施した。地下に漏出した有機溶剤を浄化する技術の有効性と安全性を評価す研究を開始した。また、長期的な影響が懸念される事象について、例えば、森林生態系における窒素飽和現象や、陸域から海洋へ運ばれる硅素の減少による海洋生態系への影響が指摘されている課題について、モニタリングを中心とした調査研究を継続している。

2)外部研究評価委員会による年度評価の平均評点

4.0 点

3)外部研究評価委員会の見解

[現状評価]

水土壌圏環境の研究に関して、基盤的で、かつ社会的に着目すべき研究項目を取り上げ、複数のコンセプト毎に連携させながら研究を進めることで、例えば生物群集の長期間モニタリング、微生物群集の年間遷移などの興味深く、新規性のある成果を挙げている面も見られる。環境基準の見直しのベースとなるような科学的知見の集積を含め、環境行政との連携も保ちながらその存在価値を示しており、高く評価できる。また、流域という言葉でうまくまとめながら多様な研究を実施しようとしており、環境修復技術にも取り組んでいる点は評価できる。

少数のスタッフで多岐にわたる研究が行われており、各研究者への負担が過大になり過ぎないかとの懸念が感じられる一方で、国環研ならではのテーマが少ないように見受けられる。また、流域としての統合という中期計画への方向性がわかりにくいという印象を受けた。

[今後への期待、要望]

今後、国土設計に携わる、土壌、地下水などに関してもっと根本的な研究課題の設定が出来ないかを検討し、国環研ならではの研究を進めて頂きたい。この一例として、EPAのEMAPのような将来の水環境の在り方、可能性を示すような国としての水環境の将来像を見据えるような研究の実施も期待したい。同時に、研究テーマ間で互いに連携・リンクができるようなテーマの設定が望まれる。また、他機関との連携を含め、国環研として主導的に研究分野の開拓を行うような努力も行っていって欲しい。また、個々の研究者からのボトムアップによる研究シードの汲み上げや、トップダウン型研究とボトムアップ研究とを上手く組み合わせた若手の意欲を引き出すような仕組みづくりにも期待したい。また、水質汚濁に関しては、有機、無機に関する複合的な研究も重要であり、組織的な研究の推進を検討して頂きたい。

4)対処方針

当研究所ならではの研究課題として、水質汚濁に係る環境基準及び土壌の汚染に係る環境基準の在り方やその適用に関する検討を国環研の重要な役割の一つであるとの認識の下に実施中であり、評価頂いたが、今後さらに、ご指摘の水環境の将来像を見据えるような課題を視野に入れつつ、環境省を初めとする行政側との連携をとり研究を展開させていきたい。流域としての統合、あるいは、互いに連携・リンク可能なテーマ設定の例として、今年度から、流域スケールでの炭素、窒素動態と生態系への影響という観点で、筑波山を対象とした森林生態系における炭素、窒素動態、及び、霞ヶ浦を対象とした有機物の循環と微生物生態系との相互作用、さらに、それぞれの研究課題においてデータの相互利用を含めた連携を開始している。また、今年度から、国環研が主導的立場で自治体の環境研究所等との連携をとった課題を開始しており、ここでは海域モニタリングデータの解析を目的としている。これまでも、所内外の競争的資金の提案では、トップダウン型研究の形を取りつつ、若手研究者の成果をコアとした総合的研究というボトムアップによる研究シードの汲み上げにより、若手の意欲を引き出すよう研究設計の段階から研究環境整備も含め組織的な取組を進めてきたが、今後も一層の充実を図りたい。水質汚濁機構の解明では、有機、無機に関する複合的な研究が必須であり、当ユニット外の研究者も含む所内の多くの研究者が参画する今年度開始の特別研究では、この観点に基づく研究を開始している。

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