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Ⅰ 重点研究プログラム
研究課題名 アジア自然共生研究プログラム

実施体制

代表者:
アジア自然共生研究グループ グループ長  中根英昭
分担者:
副グループ長 村上正吾
主席研究員 清水英幸、矢ヶ崎泰海(NIESポスドクフェロー)、許振柱(JSPSフェロー)
アジア広域大気研究室 高見昭憲(室長)、佐藤圭(主任研究員)、清水厚(主任研究員)、畠山史郎*)
広域大気モデリング研究室 大原利眞(室長)、菅田誠治(主任研究員)、谷本浩志(主任研究員)、永島達也(研究員)、長谷川就一(NIESフェロー)、 黒川純一(NIESフェロー)、早崎将光(NIESポスドクフェロー)、森野悠(NIESポスドクフェロー)、(Hezhong Tian(JSPSフェロー)、稲吉繁一*)、片山学*)
アジア水環境研究室 王勤学(室長)、水落元之(主任研究員)、越川海(主任研究員)、岡寺智大(研究員)、東博紀(研究員)、樋渡武彦(NIESフェロー)、大場真(NIESフェロー)、劉晨(NIESポスドクフェロー)、呉通華(NIESポスドクフェロー)
環境技術評価システム研究室 藤田壮(室長)、徐開欽(主任研究員)、中山忠暢(主任研究員)、 橋本禅(NIES特別研究員)、Geng Yong(NIESフェロー)、濱野裕之(NIESフェロー)
流域生態系研究室 野原精一(室長)、亀山哲(主任研究員)、福島路生(主任研究員)、 井上智美(研究員)、島崎彦人(NIESポスドクフェロー)
地球環境研究センター 甲斐沼美紀子(室長)、白井知子(研究員)、小熊宏之(主任研究員)
社会環境研究システム研究領域 一ノ瀬俊明(主任研究員)
化学環境研究領域 横内陽子(室長)
大気圏環境研究領域 杉本伸夫(室長;兼任)、日暮明子(主任研究員)、松井一郎(主任研究員)、 猪俣敏(主任研究員)、村野健太郎*)
水土壌環境研究領域 木幡邦男(領域長)、珠坪一晃(主任研究員)、今井章雄(室長)、 牧秀明(主任研究員)、林誠二(室長)
生物圏環境研究領域 広木幹也(主任研究員)、矢部徹(研究員)
環境研究基盤技術ラボラトリー 西川雅高(室長;兼任)

※所属・役職は年度終了時点のもの。また、*)印は過去に所属していた研究者を示す。

研究の目的と今年度の実施概要

[プログラムの背景及び目的]

我が国と密接な関係にあるアジア地域では、急速な経済発展に伴って大気、水環境の悪化及び生態系破壊が深刻化しており、それが直接的あるいは間接的に我が国に影響を及ぼしている。従って、我が国を含むアジアの持続可能な発展に向けた戦略的な政策が緊急に必要であるが、そのためには科学的知見を集積し、政策提言の基盤にすることが必要である。我が国及びアジア各国の政策や持続可能な発展に向けた努力が効果的に働くためには、我が国及びアジア各国が、科学的知見について共通の認識及び環境管理の共通の基盤を持つことが重要である。このような科学的な基盤の形成に貢献するために、本プログラムでは、アジアの大気環境、水環境及び生態系についての実態把握・解析、環境政策の解析等の科学的知見の集積、データベースや数値モデル等の研究ツール、環境管理ツールの開発、技術・政策シナリオの構築等を行うことを目的とする。

本研究プログラムは、持続可能な社会の実現に当たっての当面の目標である、

i. 脱温暖化社会の実現
ii. 循環型社会の実現
iii. 自然共生型社会の実現
iv. 安全・安心で質の高い社会の実現
(平成18年3月、中央環境審議会答申「環境研究・環境技術開発の推進戦略について」より)

の「iii. 自然共生型社会の実現」のための環境研究にアジアにおいて貢献するものである。

[今年度の実施概要]

本プログラムでは、(1)アジアの大気環境評価手法の開発、(2)東アジアの水・物質循環評価システムの開発、(3)流域生態系における環境影響評価手法の開発の3つの「中核プロジェクト(PJ)」を中心とした研究によって、科学的知見の集積、環境管理のツールの開発を通じて政策提言のための科学的基盤を創り、そのために必要な研究協力ネットワークを強化することを目的とする。このプログラムの研究目的については、運営交付金及び競争的資金、委託費等を中心とした研究を通して、さらに、中核プロジェクトを横断する研究、奨励研究等のプログラム関連基盤研究、関連プロジェクト等によって支えられて実現する計画である。

中核研究プロジェクトの実施概要は以下の通りである。

(1)中核プロジェクト1(PJ1);アジアの大気環境評価手法の開発

我が国と密接な関係にあるアジア地域では、急速な経済発展に伴って大気汚染が深刻化しており、それが越境汚染として我が国に影響を及ぼしている。従って、我が国を含むアジアの持続可能な発展に向けた戦略的な政策が緊急に必要であるが、そのためには科学的知見を集積し、政策提言の基盤にすることが必要である。また、我が国及びアジア各国の政策や持続可能な発展に向けた努力が効果的に働くためには、我が国及びアジア各国が、科学的知見について共通の認識及び大気環境管理の共通の基盤を持つことが重要である。このような科学的な基盤の形成に貢献するために、本プロジェクトでは、アジアの大気環境についての実態把握と将来予測等の科学的知見の集積、データベースや数値モデル等の研究ツールの開発を行うことを目的とする。

平成19年度には、大気汚染物質と黄砂の地上観測、航空機観測、ライダーネットワーク観測等を国際的・国内的な連携のもとで実施するとともに、モデルと排出インベントリの精緻化を進めることにより、広域大気汚染と越境大気汚染の両面から科学的知見の蓄積とツール開発を、以下の3つのサブテーマにおいて推進した。

1) アジアの広域越境大気汚染の実態解明

沖縄・辺戸ステーションを整備し測定機器を拡充して通年観測を実施した。また、平成19年春に中国環境科学院と共同で中国渤海湾にある長島での集中観測を行い、辺戸ステーション、福江島の観測と同期して気塊の移流経路に沿った観測を行った。この結果などを用いて気塊の移流距離に応じて、硫黄化合物や有機化合物の酸化が進行していく過程を定量的に解析した。辺戸ステーションにおいて蓄積された観測データをもとに、硝酸塩の変質過程に関して定量的に解明した。

2) アジアの大気環境評価と将来予測

アジア地域の排出インベントリと化学輸送モデルを用いて、過去四半世紀の大気質の経年変動を計算し、既存の観測データを用いて検証するとともに、対流圏オゾン・酸性沈着量の空間分布や越境大気汚染による日本へのインパクトの経年変動・年々変動を評価する研究を、前年度から継続して進めた。これらの研究成果は、国際的な「大気汚染の半球規模輸送に関するタスクフォース(TFHTAP)」の中間報告書や環境省検討会の報告書に取り込まれた。

3) 黄砂の実態解明と予測手法の開発

JICAの協力のもと、モンゴルにおいて4局のネットワーク観測網を完成させた。モンゴルNAMHEM(モンゴル国気象水文研究所)との共同研究を開始し、モニタリング観測結果がリアルタイムで入手可能となった結果、北東アジア地域におけるモンゴル3局、韓国1局、日本10局のライダー観測網によって、発生源から日本に長距離輸送される黄砂を3次元的に把握することが可能となった。そして、これらの観測データをモデルに同化させる技術手法を開発し、輸送モデル(CFORS)の精緻化を進めた。また、黄砂と都市大気汚染の混合状態を把握するための化学判定手法として炭素安定同位体比を利用する方法を検討した。

(2)中核プロジェクト2(PJ2);東アジアの水・物質循環評価システムの開発

東アジア地域の流域圏では、急速な経済発展に伴う水質汚濁負荷の増大によって、陸域、沿岸域・海域の汚染が深刻化すると共に、流域圏に支えられかつ流域圏に負荷を及ぼしている都市におけるエネルギー・水資源制約及び水質の問題が深刻化している。これらの問題は、中国のみならず、我が国及び東アジア各国に直接的、間接的に影響を及ぼす。このため、持続可能な水環境管理に向けた科学的基盤の確立が緊急の課題になっている。本プロジェクトでは東アジア地域の流域圏及び拠点都市における水環境に関する科学的知見の集積と持続的な水環境管理に必要なツールの確立を目的とする。そのために、1)流域圏における水・物質循環観測・評価システムの構築、2)長江起源水が東シナ海の海洋環境・生態系に及ぼす影響の解明、3)拠点都市における技術・政策インベントリとその評価システムの構築、の具体的な目標を実現するために研究を推進する。平成19年度には、各サブテーマにおいて以下の成果が得られた。

1) 流域圏における水・物質循環観測・評価システムの構築

衛星データ、GIS、観測データおよび現地調査等に基づく、長江、淮河流域等、特に南水北調の水源である漢江流域における水・物質循環情報データベースの構築を継続し、気象、地形、土地利用のデータのほかに、水文、水質および人間生活や社会経済的なインベントリデータを収集し入力した。また、気象・地形・土地被覆などの自然条件と人間活動の相互関係について検討し、水・物質循環を評価できるモデルの統合化を行った。モデルの検証や適用を含めた共同研究体制を確立するために、長江水利委員会と共同で漢江流域において栄養塩の自動観測システムを設置した。さらに、共同研究体制を強化するため、H19年5月に第二回日中流域水環境技術交流会を日本で開催した。

2) 長江起源水が東シナ海の海洋環境・生態系に及ぼす影響の解明

浅海域の水質浄化機能の定量的評価のため、長江河口域及び沿岸域の漁獲量の経年変化、埋め立て面積等のデータ収集を行った。また、沿岸域の富栄養化等の実態理解のため、浙江海洋大学等との共同調査の可能性の検討を行うとともに、長期・中期・短期スケールでの研究課題を設定し、その実行工程に関する詳細な議論を進めた。さらに、初夏の東シナ海陸棚域における航海調査を本年度も継続し、長江起源水により輸送される栄養塩類の藻類群集による取り込み過程及びその行方に関する検討を行った。最後に、東シナ海における栄養塩の輸送過程を評価するための海洋流動・低次生態系モデルに必要な環境情報データを入手、整理し、データベース化した。

3) 拠点都市における技術・政策インベントリとその評価システムの構築

統合型陸域生態系モデル(NICE)モデルを基に、都市スケールの水・物質・エネルギー解析の鉛直一次元建築・都市・土壌連携モデルのプロトタイプを構築し、シミュレーションのテストを行った。また、循環形成の産業システムの環境フラックス分析の方法論を開発することにより、都市と産業を包括する環境技術・政策・ビジネスのインベントリを定量的に評価し、さらに、共同研究を推進している大連理工大学環境計画研究所等との連携を活用して、都市の上下水道、河川、沿岸域、および地下水位水質分布、降水量、都市排熱、気温等の都市環境のデータを統合的なGISデータとして入手・整備するとともに、拠点都市を対象として、陸域統合型モデルに新たに都市モデルを結合した水・物質・エネルギー統合型モデルを構築するためのフレームワークを作成した。中国大連市・遼寧省(H19年5月)、中国武漢市・湖北省(H19年12月)、国連環境計画、川崎市(H20 年1月)と連携する産官学連携の国際専門家ワークショップ・フォーラムを開催するとともに、中国環境科学院および日中友好環境センターと循環経済研究についてのワークショップ(H20年2月)を開催し、共同研究のフレームを構築した。また、EMECS国際会議準備会合をH19年11月に開催した。

(3)流域生態系における環境影響評価手法の開発

メコン河はインドシナ半島を流れるアジア最大の国際河川であるため、近代以降、水、エネルギーおよび生物の天然資源の原産地として国際的に開発への強い興味が持たれ続けてきた。我が国は、天然資源・農水産物・繊維製品等の多くを、メコン河流域を含む東アジア地域に依存して来ている。その流域において都市化・工業化・農薬及び肥料を多用する農業の近代化やダム建設によって自然が急速に失われつつあり、農業・産業・生活による水資源の枯渇と水質悪化や水生生物等の生物多様性の減少が危惧されている。メコン河流域において持続可能な自然と共生する社会を実現するために、東南アジア・日本を中心とした流域生態系における環境影響評価手法の開発を行い、国際プログラム間のネットワークを構築し、国際共同研究によって、流域の発展に必要な科学的知見を提供することが本研究の目的である。そのために、主に国際河川・メコン河の淡水魚類相の実態解明、流域の環境動態の解明を行うこと等により、ダム建設等の生態系影響評価を実施する。本研究は、我が国と関係の深いメコン河流域の持続可能な発展の科学的基盤形成に寄与すると共に、GEMS/Waterプログラムとの連携の下で、生物・水資源及び国際河川生態系に関わる地球観測にアジアからの貢献することを目指す。そのために、1)流域生態系及び高解像度土地被覆データベースの構築、2)人間活動による生物多様性・生態系影響評価モデルの開発、3)持続可能な流域生態系管理を実現する手法開発、の具体的な目標を実現するために研究を推進する。平成19年度には、各サブテーマにおいて以下の成果が得られた。

1) 流域生態系及び高解像度土地被覆データベースの構築

メコン河流域全体を網羅した自然環境(地質、土壌、植生、気候、水文など)および人文社会(行政界、人口、交通網、産業統計など)に関する空間データを整備するとともに、各要因の類似性に基づいた地域の類型化を行った。さらに類型地域ごとに、人為による環境影響の特性を整理、検討し、現地調査やモデルシミュレーションで得られた知見を一般化した。

2) 人間活動による生物多様性・生態系影響評価モデルの開発

北タイ地域のメコン河本流および支流における河岸・河床地形、流速、水質、魚類相の現地調査を実施し、硝酸濃度が高くタイ支流からの流入と地形変化によりpHや濁度が変動することを明らかにした。定期採水委託により水質のモニタリングを開始した。タイ、ウボンラチャタニ大学と連携し、メコン河支流ムン川の魚類相調査、水質調査、魚類の耳石解析を開始した。同大学との間で委託契約を結び、魚類採集をともなう定期モニタリングを行っている。 多岐にわたる海外現地調査活動を通し、モデルシミュレーションに資する一次データ取得を始め、継続的なデータサンプル輸入体制・研究組織間のネットワーク等を構築した。

3) 持続可能な流域生態系管理を実現する手法開発

日本、タイの環境NGO等とメコン河流域住民との環境影響評価に関するヒアリングを行い問題点の抽出を行った。メコン河上流の中国国内で環境ジャーナリスト、研究者による現地視察を行った。

研究予算

(実績額、単位:百万円)
  平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 累計
運営交付金 155 158        
受託費 268 330        
科学研究費 18 11        
寄付金 0 0        
助成金 0 0        
総 額 441 499