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Ⅰ 重点研究プログラム
研究課題名 環境リスク研究プログラム

実施体制

代表者:
環境リスク研究センター センター長、白石寛明
分担者:
【環境リスク研究センター】
副センター長 米元純三
曝露評価研究室 鈴木規之(室長)、桜井健郎(主任研究員)、今泉圭隆(研究員)、小林淳(NIESポスドクフェロー)、Puzyn Tomasz(JSPSフェロー)
健康リスク評価研究室 米元純三(副センター長、室長兼務)、西村典子、松本理、曽根秀子(主任研究員)、河原純子(NIES特別研究員)、天沼喜美子(NIESフェロー)、永野麗子、今西哲(NIESポスドクフェロー)
生態リスク評価研究室 田中嘉成(室長)、菅谷芳雄、立田晴記(主任研究員)、中嶋美冬(NIESポスドクフェロー)、真野浩之(NIESポスドクフェロー)
環境曝露計測研究室 白石不二雄(室長)、鑪迫典久(主任研究員)、中島大介(主任研究員)、鎌田亮、平井滋恵、小田重人(NIESポスドクフェロー)
高感受性影響研究室 藤巻秀和(室長)、石堂正美、黒河佳香、山元昭二、塚原伸治(主任研究員)、Tin-Tin-Win-Shwe(JSPSフェロー)、北条理恵子、鈴木純子(NIESポスドクフェロー)
環境ナノ生体影響研究室 平野 靖史郎(室長)、鈴木明、古山昭子(主任研究員)、菅野さな枝 、藤谷雄二、種田晋二(NIESポスドクフェロー)、李春梅(JSPSフェロー)
生態系影響評価研究室 高村典子(室長)、西川潮(研究員)、赤坂宗光(NIESポスドクフェロー)、松崎慎一郎*)(学術振興会DC1)
主席研究員 後藤純雄*)
主席研究員 堀口敏宏、児玉圭太(JSPSフェロー)
主席研究員 五箇公一、今藤夏子*)、国武陽子、堂囿いくみ(NIESポスドクフェロー)、 郡麻里(NIESポスドクフェロー)
研究調整主幹 山崎邦彦、松崎加奈恵、長尾明子(NIESフェロー)、樋田竜男(NIESポスドクフェロー)
【環境健康研究領域】
領域長 高野裕久
生体影響評価研究室 井上健一郎(主任研究員)、柳澤利枝(研究員)、藤谷雄二(NIESポスドクフェロー)

※所属・役職は年度終了時点のもの。また、*)印は過去に所属していた研究者を示す。

研究の目的と今年度の実施概要

環境リスク研究プログラムは、環境中の化学物質に起因するリスクのほか、侵入生物、遺伝子組み換え生物、生態系の攪乱等多様な環境リスクを対象としており、分野が広範囲に及ぶことから、分野ごとの専門性を重視した課題構成をとっている点が特徴である。化学物質による環境リスクについても、人の健康に対するリスクと環境中の生物に対する生態リスクの双方を視野に入れる必要があり、また人の健康に対するリスクに着目してもさまざまな環境媒体から種々の経路を経由した曝露を考慮する必要がある。このため、さまざまな環境要因が人の健康と生態系の双方に及ぼすリスクを的確に管理していくことを究極の目標としているが、今期においては、近未来の環境施策上のニーズを視野に入れ、リスク評価手法の改善に向けた研究を進めることに重点を置いている。4つの中核プロジェクトを実施するとともに、その他の活動として[環境政策における活用を視野に入れた基盤的な調査研究」、「知的基盤の整備」およびリスク評価にかかわる環境省受託による調査・研究を実施した。

中核プロジェクト

中核研究プロジェクト4課題は、曝露評価、健康リスク評価、生態リスク評価のそれぞれの分野で、環境施策上のニーズを視野に入れて研究開発が必要な課題を同定し、この5年間でそれぞれの手法の確立を図ることを目的としている。基本的には独立した4課題が併走する形をとっているが、プログラム全体としては、今期のプロジェクトの中で可能な範囲で各々が研究対象とするリスクの評価を試みる必要があると考えられるので、これを前提としてプロジェクトを進めた。

中核PJ1「化学物質曝露に関する複合的要因の総合解析による曝露評価」

化学物質の包括的把握と的確な管理の可能性を化学物質の曝露の面から考える上では、多数の物質による多重的な曝露、一つの物質がもたらす影響の多面性、環境を経由した人あるいは生態系への曝露、関連する自然的、時間的、また社会的な因子などを考慮した評価・解析が課題である。これらに関する諸課題のうち、特に化学物質の複合的な曝露状況を把握することと、小児期など高感受性時期での特異的な曝露や食物連鎖から流通経路までを含む物質フローの理解に基づく曝露解析の検討をまず取り組むべき課題として取り上げた。このために、本プロジェクトでは(1)地域GIS詳細モデルおよび地球規模など複数の空間規模階層を持つ動態モデル群の総合的構築、(2)バイオアッセイと包括的測定の総合による環境曝露の監視手法の検討と曝露評価への適用、(3)モデル推定、観測データ、曝露の時間的変動や社会的要因などの検討と総合解析による曝露評価手法と基盤の構築と整備、の3つの課題を設定して検討を行う。

本年度は、課題(1)については、地域GIS多媒体モデルの開発を行い、流域動態の再現性を確認した。全球多媒体動態モデルの開発とPCB等で検証を進めた。小児の曝露特性に関する検討及び東京湾のPCB、PFOS等の観測と室内移行実験を行った。

課題(2)については、環境水および環境大気のin vitro試験のための濃縮・分画法を確立し、全国多数の環境水・大気試料への適用性の検討を開始した。また、各種in vivo水生生物試験法を用いWET概念等での包括的影響把握の検討を実施した。課題(3)については、モニタリングデータの統計解析手法の開発および曝露の総合解析の考察を行った。

中核PJ2 「感受性要因に注目した化学物質の健康影響評価」

神経・免疫系における高感受性集団への化学物質の影響評価を行うために、動物モデルの開発を試みた。遺伝的背景の異なる4種類のマウスを用いて低濃度トルエン曝露の影響を神経系(海馬、嗅球)、免疫系(肺、脾臓、血漿など)で種々の指標を用いて検索したところ、抗原刺激により活性化した状態で低濃度のトルエンの曝露に対して感受性が高まる系統の存在することが明らかとなった。発達段階での影響の違いについて脳形成、免疫・感染防御系、腎臓や骨形成での核内受容体遺伝子発現、神経変性行動モデル、血管新生・形成を指標に、それぞれの実験系を確立し、トルエン、TCDD、農薬類の影響による臨界期解明を行っている。また、アトピー性皮膚炎様病態モデルを用いてのダニ抗原、化学物質の複合影響についての有用性の検討、スクリーニング検証をおこなった。

中核PJ3「環境中におけるナノ粒子等の体内動態と健康影響評価」

環境ナノ粒子の生体影響に関する研究では、モード走行時におけるディーゼルエンジンから排出するナノ粒子の挙動と成分分析に関して明らかにし、ナノ粒子を暴露した実験動物における肺の炎症、酸化的ストレス、心血管系への影響に関して明らかにしつつある。 ナノマテリアルの健康リスク評価に関する研究では、カーボンナノチューブの細胞毒性は極めて高く、その細胞障害性と細胞膜との反応性に関して研究を進めた。また、ナノファイバーの吸入暴露装置の開発を行った。アスベストの呼吸器内動態と毒性に関する研究では、400度から100度単位で1000度近くまで熱処理したクリソタイルとクロシドライトに加えて、アモサイトに関しても研究を進めた。マクロファージ、肺胞上皮細胞、中皮細胞に対する細胞毒性試験を実施し、加熱により水和しなくなったアスベストは繊維構造が残っていても細胞毒性が低下することを明らかにした。

中核PJ4「生物多様性と生態系機能の視点に基づく環境影響評価手法の開発」

PJ4では(有用)個体群の再生産の阻害や生物多様性と生態系機能の低下をエンドポイントとして、数理モデルを活用した概念的な生態影響評価手法を提示するとともに、実際に上記のエンドポイントが懸念される地域において、野外調査を実施しリスク要因の解明と影響評価を行うことにより、具体的な生態影響評価の事例を示すことを目的としている。野外調査では、東京湾およびため池群を対象とし、生態系サービスの低下を引き起こす有用底生魚介類と生物多様性の基盤となる水生植物種の多様度への阻害因子の解明に取り組んだ。侵入種の生態リスク評価に関しては、在来種と外来種の交雑実態をヒラタクワガタやオオマルハナバチで評価した。さらに、国内におけるカエルツボカビの侵入・分布実態を調べた。生物群集の環境応答を機能形質の変化として予測するモデルを完成させ、淡水生態系を想定し、生態系機能(物質循環)を促進する上で重要な機能形質を推測した。東京湾のシャコの個体群動態モデルを完成させた。

その他の活動

その他の活動として、「環境政策における活用を視野に入れた基盤的な調査研究」及び「知的基盤の整備」を進めるとともに、リスク評価に関する実践的取り組みとして、化学物質の環境リスク初期評価のとりまとめ、化学物質審査規制法への技術的支援などを受託調査研究(請負業務)として実施した。

「環境政策における活用を視野に入れた基盤的な調査研究」

環境施策への活用を視野にいれ、既存知見の活用のための基盤整備および新たなリスク評価手法の開発を目指して、中期計画(別表3)に記載の以下の7課題を実施した。

(1)化学物質リスク総合解析手法と基盤の開発

化学物質の実測調査結果・モデル予測結果や気象情報・社会基盤情報など多岐に渡る形式を有するデータを効率的に蓄積するためのデータベースの基礎設計を実施し、実際のデータを蓄積しつつデータベース設計の改良を進めた。海水中の残留化学物質実測結果やG-CIEMSによるモデル予測結果の一部をデータベースへ蓄積した。また、曝露評価全般に必要となる社会基盤情報として人口密度等のメッシュデータをデータベースへ蓄積した。必要な情報(平均値などの基礎統計情報やヒストグラム)を表示する機能と、様々な形式のデータの解析に必要となる地理区分変換機能を構築した。魚介類経由での曝露評価を実施するためフローに沿ったWebインターフェイスの開発を進めている。

(2)化学物質環境調査による曝露評価の高度化に関する研究

化学物質(トルエン)曝露量評価の手法開発として、羊水中当該物質の代謝物濃度の測定を行った。まず、ヒトにおいてトルエンの職業曝露等の指標に用いられている代表的な代謝物である馬尿酸をLC/MSMSによって定量する方法を確立した。初年度と同様に、妊娠ラットにトルエンを鼻部曝露(90分間/日×5日間)し、最終日の曝露終了約20分後に各胎仔ごとに全羊水を採取した。トルエンの曝露濃度をコントロール、0.09ppm、0.9ppm、9ppmおよび90ppmとしたが、測定の結果、羊水中の馬尿酸量は曝露濃度には依存していなかった。トルエンの他の代謝物であるo-クレゾールおよびm/p-クレゾールについて、胎仔1匹分の羊水からクレゾールを検出する試みを進めている。

(3)化学物質管理のための生態影響試験法および生態リスク評価法の検討

有害化学物質の藻類、ミジンコ、メダカの毒性データから、生態系への影響を食物連鎖による生態系機能への影響として評価する生態系数理モデルの開発を開始した。数理モデルの結果を実験的に検証する方法を検討するため、アクアリウム生態系を作成した。土壌生物を用いた生態影響試験法としてOECD化学物質テストガイドライン207(ミミズ急性毒性試験;以下TG207)と222(ミミズ繁殖試験:以下TG222)の標準試験手順の検討、トビムシ繁殖試験に関する検討を継続した。甲殻類の内分泌撹乱に関する試験法のリード・ラボラトリーとしてバリデーションリングテストの最終報告書を作成しOECDに報告した。魚類胚毒性試験など国際的な検討において国内データとコメントの取りまとめを実施した。

(4)定量的構造活性相関による生態毒性予測手法の開発

魚類致死毒性および甲殻類遊泳阻害についての構造活性相関モデルについて、部分構造フラグメントの取扱方法、分類ルールの改善、および他の要修正点について検討をすすめ「KATE(KAshinhou Tool for Ecotoxicity)」モデルとしてインターネット上で一般に公開した。スタンドアロン版の開発を継続し、Web版と同等の機能をもつ部分構造の解析ソフトを作成し、「KATE」モデルの移植を開始した。藻類成長阻害に関するモデルの構築を進めた。

(5)発がん性評価と予測のための手法の開発

Ames 試験で強い変異原性が確認されている新規化学物質について、変異原検出用のトランスジェニック動物を用いて、in vivoでの変異原性の検出を試みた。トランスジェニックマウス を用いた3、6-Dinitrobenzo[e]pyrene(3、6-DNBeP)の変異原性試験と、河川水中で検出されたアゾ色素由来の化合物であるPBTA-6のトランスジェニックゼブラフィッシュを用いた変異原性の検出を実施した。

(6)インフォマティックス手法を活用した化学物質の影響評価と類型化手法の開発

初年度作成した大量データ取得システム(ChemToxGen)を用いて生殖・発生毒性を有する化学物質の構造、毒性、遺伝子発現に関するデータベースの整備・構築を行った。大量データから特徴ある遺伝子発現や影響情報を抽出するため、毒性の種類ごとに、データを峻別するしくみや影響の類型化を数値的に比較できるような仕組みを化学物質の類型化システム(pCEC) に格納し、pCECを充実させた。肝毒性が報告されている102物質に関して遺伝子発現情報と毒性影響と疾患との関連性の解析を数理工学的に行った。

(7)化学物質の環境リスク評価のための基盤整備

化学物質の環境リスク初期評価における生態リスク評価手法の見直しについて検討を行うとともに、環境リスクの評価と管理の接点としての環境基準の体系の検証として、騒音環境基準の体系の整理、基準改定に係る課題の抽出に着手した。地域における化学物質環境リスクの管理及びコミュニケーションの場で、環境リスク及びリスク評価に関する理解を広めるため、地方自治体の環境担当部局及び環境研究機関を主たる対象として、リスク評価の方法等をわかりやすく解説するためのガイドブック(仮称)の作成に着手した。

「知的基盤の整備」

知的基盤の整備については、より社会生活に身近な情報基盤として活用できるよう充実を図った。研究の成果が基準等の策定にどのように貢献したかなど活用についての情報を発信するためリスク村「Meiのひろば」を開設するとともに、知的基盤の整備として中期計画(別表5)に記載される以下の3課題を実施した。

(1)化学物質データベースの構築と提供

化学物質データベースシステムのオラクルへの移行およびセキュリティ対策を実施した。法制度、リスク評価、曝露情報などのカテゴリーより検索が可能とした。PRTRデータ、モニタリングデータの整備を進めた。また、各種規制値のデータの更新を行い、農薬データベース、生態毒性データベースとの統合を行った。

(2)生態系評価・管理のための流域詳細情報の整備

兵庫県南西部(加東市、加西市、小野市、三木市、加古川市、明石市、神戸市、加古郡稲美町)を対象に、2007年夏季に撮影した空中写真をGIS情報として利用できるよう、画像補正などの整備を実施した。1990年代に調査した水生植物の分布情報の借用(約110地点)のデータを兵庫県立人と自然の博物館から借用し、当業務のGIS情報として利用できるよう整備をおこなった。調査対象域に管轄する地域が含まれる4土地改良区より収集した資料をもとに、調査対象域の各ため池におけるダムの補給水源の有無を整理した。関係市町から資料を収集し、環境調査対象である99池の集水域において、下水道の整備の有無と整備年をデータベース化した。

(3)侵入生物データベースの管理

環境省指定の特定外来生物および要注意外来生物のうち、本データベースに未登録の種について優先的にコンテンツを整備した。その他、在来種に影響を与える可能性のあるものおよび侵略的になると思われる種について優先的に生態学的特長や分布情報を収集し、それらの特徴から生息可能地域の推定を進めた。特記すべき進展は、アルゼンチンアリの侵入危険地域予測については港湾の種類など新たなパラメータを加えることで、静岡、千葉の港湾など、より詳細な危険地域を網羅することが可能となった。

「リスク評価の実施」

中期計画において「環境リスク評価の実施等の実践的な課題に対応する」とした化学物質の環境リスク評価に関しては、環境省からの受託課題として化学物質環境リスク評価オフィスにおいて進めている。同オフィスにおける主な受託課題と成果は以下のとおり。

・化学物質環境リスク評価検討調査【受託課題(請負)】  
平成19年度までにとりまとめが行われたリスク評価結果については、「化学物質の環境リスク初期評価(第6次とりまとめ)」として、平成20年2月に環境省より公表された。

・水生生物への影響が懸念される有害物質情報収集等調査【受託課題(請負)】  
水生生物の保全のための水質管理のあり方の検討として、有識者より構成される懇談会を運営しながら、水生生物保全環境基準を巡る論点等として整理された課題、対象物質の選定方法等について検討している。また、水生生物保全環境基準の設定を支援するため、化学物質の水生生物に対する有害性評価のための情報収集、毒性情報の整理等を進めている。

研究予算

(実績額、単位:百万円)
  平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 累計
運営交付金 371 429        
原子力試験研究費 2 0        
地球環境研究総合推進費 52 0        
地球環境保全等試験研究費 11 0        
農林水産省 47 41        
環境保全調査等委託費 72 82        
環境保全調査等請負 302 203        
環境技術開発等推進費 27 50        
民間受託費 54 44        
科学研究費 34 40        
寄付金 7 9        
助成金 0 3        
総 額 979 901        

(外部資金は必要に応じて細分化。次年度以降は空欄)