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Ⅴ 平成19年度新規特別研究の事前説明
2.エピジェネティクス作用を包括したトキシコゲノミクスによる環境化学物質の影響評価法開発のための研究

  • 更新日:2007年7月23日

1)研究の概要

種々の環境化学物質について、胎児期曝露の影響が成長後に現れるなどの後発影響や、経世代影響の存在が疑われているが、そのメカニズムや曝露と影響の因果関係は多くの場合不明である。最近、基本的な生命現象として、また後発・経世代影響のメカニズムとして、「エピジェネティクス作用」による遺伝子機能の修飾の重要性が明らかにされつつある。本研究では、環境化学物質のエピジェネティクス作用について、標的となる曝露時期臓器および遺伝子を実験動物で明らかにし、またその後発・経世代影響への関与を明らかにする。さらにヒトへの応用のため、影響のメカニズムとその動物種差について検討し、環境化学物質のエピジェネティクス作用を評価するための科学的基盤を明らかにする。

2)研究期間

平成19〜22年度(4年間)

3)外部評価委員会の見解

1.研究内容

近年、注目されている大変重要なテーマであり、国環研としても今後、様々な環境化学物質のリスク評価等に必要な研究と考えられる。エピジェネティクスの毒性学・環境毒性学への応用は発展途上であり、ハードルは高いものの、化学物質のリスク評価に新たなツールを提供しうる可能性がある点で期待できる。ただ、具体的な内容として、ヒ素とダイオキシンを単なるモデル物質として取り上げるのではなく、研究対象となる化学物質を再考するとともに、その化学物質を対象として取り上げる目的を明確にすべきである。また、これまでの研究との継続性についても考慮すべきである。

2.研究の進め方、組み立て

DNAメチル化情報等既存のデータを積極的に活用するなど、これまでの研究成果を十分に加味して計画する必要があり、研究の遂行には他省庁研究所等との連携を強くすることが望まれる。また、評価法開発の明確なストラテジーを組んでおくことも必要である。一方、無機ヒ素に限らず、多くの環境汚染物質の影響は、実験動物や人間の場合、栄養状態・健康状態に大きく左右されるので、投与する物質の種類や実験動物の種だけでなく、実験条件や飼料条件にも配慮が必要である。また、研究終了時には、本当にエピジェネティックスを介しているかどうかについて、データによって明確に示せるようにする必要がある。

4)対処方針

1.研究内容の見解に対する回答

対象とする化学物質として、まず無機ヒ素を選んだ点に関しては、環境汚染物質の中で最もエピジェネティクス作用が疑われる結果が報告されているのが無機ヒ素であるという理由からである。その無機ヒ素のエピジェネティクス作用に関しては、はじめはin vitro実験系で報告されており、その後マウスの実験で、例えば胎児期に母親経由で無機ヒ素に曝露された仔が1年半から2年を経てガンになり、その時点で発ガンに関連する遺伝子のプロモーター部分にエピジェネティックな修飾があることが検出され、無機ヒ素による発ガンにエピジェネティクス作用が関与することが示唆されている。しかし、はじめにエピジェネティクスによる変化がおこり、その結果としてガンになるのか、という点について、因果関係が示されていない。上記の例をはじめ無機ヒ素による発ガンモデルの作成とエピジェネティクス作用の関与を最も先駆的に行っているのが、米国NIEHSのDr Waalksのグループである。Dr Waalksと連絡をとり、発ガンが起こる以前でのエピジェネティクス修飾については調べられていないことを確認している。そこで私たちは、最も確立された実験系であると考えられるDr Waalksらの胎児期曝露の実験系を用いて、これまで調べられていない臓器やガンができる以前の時点でのエピジェネティクス作用についてまず検討する計画である。それによって、ヒ素のエピジェネティクス作用の有無や、その結果として起こる健康影響の有無を確認し、また新たな作用を明らかにしたいと考えている。

無機ヒ素汚染による健康被害は世界各国で深刻な問題となっており、その中心が慢性中毒による発ガンの問題である。このことから、無機ヒ素はモデル物質としてというよりは、実際の環境被害の影響経路を明らかにするための研究と考えている。

ダイオキシンについては、エピジェネティクス作用への関与の報告はあるものの、まだほとんど明らかにされていない。従ってダイオキシンについては、ご指摘のようにモデル物質としての意味合いがあるが、これまで環境研ではダイオキシンの健康影響やメカニズム研究の蓄積があることから、これまでに明らかにしてきた影響や遺伝子発現変化にエピジェネティクスが関与するかについて検討を行いたいと考えている。ダイオキシンのエピジェネティクス作用を探る上では、これまでの蓄積を活かすことによって優位性を示せるものと考えており、この研究は、まさに継続性の観点から計画している。

2.研究の進め方、組み立ての見解に対する回答

ご助言の通り、有効な既存のデータについては積極的に活用するよう心がけたい。また他との連携についても、国内外の研究者と情報交換や連携を進めるよう心がけたい。今年度はまず、6月に開催される第1回日本エピジェネティクス研究会などの場を活用して、情報収集や情報交換を行いたい。

評価手法のストラテジーについては、エピジェネティクス作用があるとわかった場合、検出指標(ある特定の遺伝子のプロモーター領域でのDNAメチル化等)を明らかにし、影響評価に役立てるような方向を考えていきたい。

実験条件、飼育条件等のご指摘については、まず上述のDr Waalksらの実験系、すなわち正常マウスの通常食飼育のマウスについて研究を行う計画である。その後今回の研究で何らかのエピジェネティクス作用を検出できた場合には、その臓器や遺伝子に的を絞って、栄養状態やその他の因子の影響を検討することが可能となると考える。

またご指摘をいただいた影響とエピジェネティクス作用との因果関係を明らかにするという点は、まさに本研究が目指しているところであり、エピジェネティクス修飾と遺伝子発現や影響の関係を明らかにするようがんばりたいと考えている。

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