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Ⅱ 政策対応型調査・研究の事後評価
2.化学物質環境リスクに関する調査・研究
−効率的な化学物質環境リスク管理のための高精度リスク評価手法等の開発に関する研究−

  • 更新日:2006年9月25日

1)研究の概要

化学物質環境リスクの適正管理を目指して、現行のリスク管理政策からの要請を受けた課題とリスク管理政策のさらなる展開を目指して解決すべき課題の2つの観点から曝露評価、健康リスク評価及び生態リスク評価について評価手法の高精度化を図るとともに、簡易なリスク評価手法の開発を行う。また、リスクコミュニケーションを支援する手法の開発を行う。曝露評価については、時・空間的変動を考慮した曝露評価や少ない情報に基づく曝露評価手法を開発する。健康リスク評価については、化学物質に対する高感受性集団に配慮した健康リスク管理手法や、複合曝露による健康リスク評価手法を開発するとともに、バイオアッセイ法の実用化に向けた研究を行う。生態リスク評価については、生態毒性試験法の開発と生物種別の毒性に基づく生態リスク評価手法の高度化を目指す。リスクコミュニケーションについては、情報加工・提供方法について研究する。

2)研究期間

平成13年度〜17年度(5年間)

3)平成17年度研究成果の概要

(1) 少ない情報による曝露評価手法の開発
  • 多媒体モデル(MuSEM)に関して、最新のPRTRデータに基づいた予測結果と実測結果を比較し、化学物質の物性と予測精度の関係を明らかにした。河川モデルを河道構造データベースと連携させ、全国の河川に対して予測計算が可能なシステムへとモデル改良を行った。ブートストラップ手法を用いて、不検出値を含むモニタリングデータセットから母集団の代表統計量の信頼区間を予測する手法を開発し、実際のモニタリングデータに適用して本手法の妥当性を検証した。
(2) 生物種別の毒性試験に基づく生態リスク評価手法の高度化
  • 既往の論文などから毒性試験結果の収集及び信頼性評価を行い、構造活性相関に用いるデータセットを作成した。さらにデータを補うため試験候補物資の選定をおこなった。収集したデータを基に、既存の構造活性相関式の適用性の検討、ニューラルネットワーク法による魚類の構造活性相関式の信頼性の向上が図られ、多変量解析手法による構造活性相関式の導出のためのパラメータが抽出された。魚類以外の生物群への拡大も行った。さらにこれらの検討は、構造の類似した化学物質を群として評価するカテゴリーアプローチに適用される.
  • 生態毒性試験法分野では、(1)ウキクサ生長阻害試験の標準試験手順のとりまとめと国内ラボ3機関のリングテストを実施、(2)着色性物質の藻類試験法の実施と化審法下での試験手順の検討、(3)土壌の生態影響試験法;ミミズの急性・繁殖試験およびトビムシ繁殖試験の有効性検討に着手した。
  • 生態毒性値用いて生物個体群への影響評価するために,ロジスティック型曲線に従って増殖する生物種の平均絶滅時間を拡散方程式から導かれる内的自然増加率,環境収容力および環境変動のパラメータを与えることで推定した.魚類2種(メダカ,ファットヘッドミノー)に対する化学物質の影響を推定したところ,急性毒性値(LC50)がさほど高くない化学物質でも,繁殖力を相応に下げる場合には種の絶滅リスクは大幅に上昇することが示された.
  • 試験に用いるメダカの感受性変動の機構を明らかにするため,突然変異系統(透明メダカ),ヒメダカおよび地理的変異メダカの化学物質感受性差について生化学的因子との関連を検討した.また地域個体群に関しては,形態的特性を多変量解析し地域間で形態分化が生じていることが示唆された.
  • ナノマテリアルの体内動態の研究では,40nmのナノビーズを卵に曝露すると卵内および卵黄へ,成魚に曝露すると肝臓への移行する事が確認された.
(3) リスク情報加工・提供方法の開発
  • 公開中の化学物質データベース(Webkis-plus)に関して、利用者数の増加や利用者からの要望に対応して、システムの増強や、カテゴリ分類・検索機能の追加、法制度に基づいた化学物質の分類機能の追加など、より使い易い表示システムへと改良した。
  • 農薬の出荷量データと各都道府県の土地利用情報をデータベース化し、単位農地面積当たりの出荷量などの推計結果を整備した。
  • 環境モニタリング結果やPRTRデータなどの地図上で表示できるGIS(地理情報システム)情報をインターネットを介して提供するシステムを構築した。
(4) 空間的・時間的変動を考慮した曝露評価手法の開発
  • PRTR対象物質のいくつかを対象に、大気及び河川濃度の空間分布の詳細推定を実施した。この結果により、大気では実測値を用いた曝露推定との検証、generic的アプローチに比較し分布を用いる手法の位置付けの検討、河川では生態曝露の分布推定を試みた。また、時間的変動の評価手法開発についてダイオキシン類及びPOPs農薬成分の経年的インベントリの作成を行い、体内動態モデルとの統合について予備的検討を行う。また、ダイオキシン類の人への曝露について、環境汚染を介した魚介類からの曝露に関する詳細解析を行った。
(5) 感受性要因の解明とそれを考慮した健康リスク管理手法の開発
  • インフォームドコンセントが得られた集団より採取したDNAを用いて、ヒ素メチル化酵素Cyt19のSNP解析を行い、国内における多型の状況を調べた。
  • In vivo変異原性から発がん性を予測する数理モデルを用いて解析した結果、第II相薬物代謝酵素の欠損による突然変異頻度上昇により、がん発症の時期が正常より早まることが予測された。
  • 環境中化学物質一般の,若年齢層に対するリスクを定量化するため,物性の異なる5つの仮想化学物質を想定した,体内動態予測法の検討を行った。体内分布はPBPKモデルを用いて予測計算を行い,また化学物質の曝露としては食品由来の摂取が最も寄与が大きいと判断し,食品の摂取量と脂質含量から曝露量を計算した。1歳から20歳までの物質の曝露量と,それに伴う体内濃度変化を予測した結果,若年層では体重当たりの摂取量が成人の約3-4倍,血液中の濃度は約2-3倍であることがわかった。
(6) 複合曝露による健康リスク評価手法の開発
  • 閾値のある毒性に関する複合曝露影響のリスク評価について、同一の作用機構を持つ複数の化学物質群として有機リン系農薬を例に検討した。US EPAの方法に準拠して評価を進めているところであるが、同時に、農薬の複合曝露評価の第一段階として、食品による経口曝露を想定し、農産物、食品などから検出される残留農薬を調べた。
(7) リスク管理へのバイオアッセイ手法の活用
  • 肺など幾つかの標的臓器では、化学物質を曝露した実験動物(マウスやゼブラフィッシュなど)のin vivo変異原性と発がん性の間によい相関性があることを見出した。In vivo変異原性の強さから発がん性の予測が可能であることが示された。
  • また、ディーゼル粒子等の大気汚染物質が経気道曝露による示すin vivo変異原性と、肺内への投与により示すin vivo変異原性はほぼ同様であることが明らかとなり、大気汚染物質の肺内への投与実験の結果をもとに、経気道曝露による影響の評価ができることが示唆された。
  • さらに、マウスにディーゼル排気を曝露することより、精巣の突然変異頻度が増加することを示した。

4)外部研究評価委員会の見解

  1. 研究グループの限られた人員による成果としてはかなりの成果を挙げたものと評価される。少ない情報による曝露影響評価手法の開発や、生態影響評価・毒性予測モデルの開発、健康リスク分野の興味ある成果、複合要因を含む現場実証、感受性要因の組み込みなどの試みは評価されるものである。
  2. 最終的に化学物質の環境リスクを予測・評価が可能となった場合に、一般市民に対するどのようなコミュニケーションを図り、また行政にどのような形で活かしていくのか、その観点を明確にしておく必要があり、このための戦略を練る検討体制を構築する必要があろう。
  3. 化学物質のリスクの管理は、継続的に検討を進めデータべースを確立し、それを如何に市民・行政と共有し、健康影響のみならず生態系のリスクの問題としても評価するものとなるであろう。このような体系を例えばPRTRなどとの関連で捉えることが可能となれば、化学物質の総合的な管理につながり、より一般化された情報の整理ができることとなろう。期待したい。

5)今後の展望等

第2期中期計画期間においては第1期中期計画期間の成果を活かしつつ、環境リスク研究プログラムとして、環境要因の包括的な曝露評価手法、高感受性期や恒常性機能のかく乱による影響を組み入れた健康影響評価、生物多様性や生態系機能の視点に基づく生態影響評価などより現実に則したリスク評価手法を構築することを目指した重点研究プロジェクトを実施する。化学物質のみならず、侵入種などの研究成果は環境リスクのコミュニケーションの基盤となるよう継続してデータべース化し、これを市民・行政と共有できるよう知的基盤として整備するとともに、調査・研究の各段階で関係者とのコミュニケーションをはかりつつ、社会的ニーズや環境リスクの受容レベルを意識した研究を実施していきたい。また、化学物質環境リスク評価オフィスを設け、環境リスク評価の着実な実施など化学物質の環境政策からの要請について引き続き対応することとしている。