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Ⅰ 重点特別研究プロジェクトの事後評価
6.大気中微小粒子状物質(PM2.5)ディーゼル排気粒子(DEP)等の大気中粒子状物質の動態解明と影響評価プロジェクト

  • 更新日:2006年9月25日

1)研究の概要:

都市大気中におけるPM2.5やDEPを中心とした粒子状物質による大気汚染の動態解明と健康影響の評価のために以下の研究を重点的に行う。すなわち、ディーゼル自動車をはじめとする都市大気汚染の発生源の実態解明、測定方法とくに微小粒子の物理・化学的性状の測定方法の開発、排出後のガス・粒子の環境大気中での挙動の解明、動物曝露実験による閾値の推定等に関する研究等を実施する。これと共に、DEPに着目してフィールド調査を重視した測定方法の高度化を進めるとともに発生から人への曝露までを総合した評価モデルを構築し、発生源対策シナリオごとの健康影響低減効果の予測手法を構築する。

2)研究期間

平成13〜17年度

3)平成17年度研究成果の概要

(1) PM2.5・DEP発生源の把握と対策評価に関する研究
  • シャシーダイナモ試験と沿道又は都市大気中における継続的な観測により、ディーゼル車由来の微小粒子の排出特性、大気中における挙動を把握した。道路沿道では、粒径が20nm付近にピークを有する粒子が冬季に気温の低下に伴って急激に増加することを再確認するとともに、一般大気中では、このような粒子は、蒸発や凝集により消滅している可能性があること、夏季に光化学反応により生成した二次粒子と考えられる微小粒子の個数濃度が、昼間増加することを把握した。
(2) PM2.5・DEPの環境動態に関する研究
  • 風洞実験により、地域特性が異なる複数の沿道地域における大気汚染特性を把握した。
  • 風洞実験データを活用した、新しいタイプの沿道大気汚染モデルの開発を進めた。
  • これまでに実施したフィールド観測とモデル解析結果をもとに、都市域における粒子状物質の動態を総合的に把握した。
  • 全国の大気汚染データを解析し、SPM汚染の最近の特徴を明らかにした。
  • 都市大気汚染モデルの年間シミュレーションにより、関東地域における粒子状物質の動態を解析した。
  • 地方環境研究所との共同により都市大気汚染予報システムを構築し、試験運用を開始した。
  • 環境大気中の粒子状物質の動態に関する5年間の研究成果を取りまとめた。
(3) PM2.5・DEPの測定に関する研究
  • PM2.5連続測定器の並行試験:  PM2.5連続測定器の評価に,新たに1機種を追加した.夏季と冬季の試験の結果,大気湿度が測定値に与える影響は平成14年に試験した機種よりも小さかった.BCモニタリング装置の並行試験:  平成15年度に実施したカーボンモニタの並行稼働試験から抽出された課題を整理し,改良機器による性能試験を平成18年2月に実施した.
(4) PM2.5・DEPの疫学・曝露評価に関する研究
  • DEPへの曝露量推計モデルは大気環境での寄与を推計することを主な目的として、通勤通学による移動や移動先での曝露を重視したものになっており、推計精度に大きく影響を与える可能性があるパラメータについて、モデルの感度分析を進めた。
    削減対策シナリオ評価ツールの改良を踏まえ、ディーゼル規制およびロードプライシング導入の効果試算を行い、プライシングの条件を変更した場合の感度分析を行った。
(5) PM2.5・DEPの毒性・影響評価に関する研究
  • マウス骨髄細胞から樹状細胞へ分化させる実験系を確立し、樹状細胞を用いた毒性影響評価法について検討した結果、DEPやカーボンブラック等の粒子状物質は、樹状細胞の分化およびT細胞増殖刺激活性等の機能を促進する作用が示された。
  • 培養細胞を用いてDEPによる肺高血圧・肺障害影響のアッセイを行った。DEPは平滑筋細胞の増殖と線維芽細胞のコラーゲン産生を促進することにより血管を肥厚させる可能性が示された。また、DEPは上皮細胞の創傷治癒を阻害した。
  • ディーゼル排気(DE)の吸入曝露による感染性肺傷害への影響を検討した。3.0mg/m3, 1.0mg/m3, 0.3mg/m3のDE曝露(12時間)ではマウスの感染性肺傷害を増悪しなかった。
  • DEPの除粒子(0.3μm以上の粒子の除去)と全粒子(20nm-10μm)の1mg/3m3の3ヶ月間曝露を行なった結果、両曝露間の異常心電図の発現率と心拍数の変動に有意差が無く、粒子の大きさが影響に関与することが判明した。
  • 自動車排出ガスに起因する環境ナノ粒子影響評価のための曝露チャンバーを完成させて、ナノ粒子の発生のための運転条件の検討を行い、曝露を開始した。

4)外部研究評価委員会の見解

  1. 本研究プロジェクトは大気中微小粒子に関する今後の管理にかかわるニーズの高い課題である。従来より多く行われている大気中微粒子に関する研究もあり、新規性・独創性という面では見るべきものは少ないが、分野横断的な研究者の編成により焦点を絞り、着実な成果を挙げている。
  2. 大気質モデルの開発・曝露量評価モデルの開発・毒性評価研究・対策効果の評価に成果を得ており、影響評価から予報システムへの移行に向けた構想は評価出来る。
  3. 今後は、疫学調査等による対策効果の検証、リスク低減方策の提示なども含め、サブテーマ間の連携を一層深めることにより、プロジェクトの展開を図ることが期待される。本プロジェクトは、大気中粒子状物質の長距離輸送に対する国際研究、エアロゾル研究、自動車排ガス以外の発生源対応などとも連携できるテーマであり、国内外との協調を主導してもらいたい。

5)今後の展望等

本プロジェクトで得られた成果はメンバーの多くが関わる環境省主導の疫学調査や各種審議会・検討会を通じての環境政策への反映など、行政ニーズに対応する中でより一層活かしていきたい。また、平成18年度から開始される特別研究「都市大気環境中における微小粒子・二次生成物質の影響評価と予測」の中でサブテーマ間の連携を深め、本プロジェクト成果をさらに展開することを目指している。また、アジア自然共生研究プログラムの中核プロジェクト「アジアの大気環境評価手法の開発」が中心となって、国際共同研究を含め、大気中粒子状物質に関する研究を幅広く展開して行きたいと考えている。